逆襲のクロト   作:皐月莢

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ボアズ攻防戦 後編

 〈109〉

 

 プラント最高評議会の会議室にて、ボアズ要塞に行われた核攻撃とそれをフリーダムが阻止したという事実に直面し、怒りに満ちた目で絶叫するパトリックの姿を、クルーゼは仮面の奥で嘲笑っていた。

 

「直ちに防衛線を張れ、クルーゼ! 私もヤキン・ドゥーエに上がる!」

 

 既にアスラン・ザラやイザーク・ジュールを中心とした大規模な部隊が大挙してプラントから出撃し、ボアズ要塞の救援に向かっている。パトリックも自らヤキン・ドゥーエ要塞に入り、前線で指揮を執るつもりなのだろう。

 

「ラクス・クライン共め……小賢しいことを! ジェネシスを使うぞ!」 

 

 パトリックの脳内では、ラクス・クラインを神輿としたクライン派がわざと地球連合軍にニュートロンジャマー・キャンセラーの技術を流出させ、自ら核攻撃を阻止するという自作自演でプラント国内の求心力を取り戻し、自分の政権を簒奪しようとしているらしい。

 自分達コーディネイターを新人類だと自称している割に、何から何まで的外れなパトリックの推測にクルーゼは思わず吹き出しそうになるのを堪えた。

 もっとも、奪取に失敗した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()り、厳重な情報封鎖をしていた筈の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()り、パトリック・ザラという男は自分の言動を正当化する為に事実を捻じ曲げる男なので、今更驚くことでもないのだが。

 プラントを立ち上げた立役者の一人とはいえ、このような男をいつまでも持て囃すプラント最高評議会も新人類だと自称する割に、あまりにも愚かな連中だとクルーゼは内心苦笑する。

 

(──とはいえ、これは悪手だろう?)

 

 一方で、ボアズ要塞に対する地球連合軍の核攻撃を阻止するという、キラの行動がもたらすだろう結果にクルーゼは思考を向けた。

 地球連合軍がザフトが保持している唯一の地上基地、カーペンタリア基地を陥落させる前に最終作戦へと踏み切ったのは、間違いなくニュートロンジャマ-・キャンセラーのデータ入手に伴い復活した核兵器の威力をアテにしたものだろう。

 その核兵器による攻撃が失敗した以上、ヤキン・ドゥーエ要塞やプラントからの援軍、そしてジェネシスが解禁されることを考慮すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 ジェネシスの存在を知らず、所詮プラントの上流階級に過ぎないラクス・クラインの影響を受けているとはいえ、意図的にザフトを勝たせようとするのがキラの目的であれば、(クロト)の奮闘も報われないだろうと僅かに落胆しながら、クルーゼはパトリックと共にヤキン・ドゥーエ要塞に向かうシャトルに乗り込んだ。

 

 

 

『キラ……!?』

『あぁっ!?』

『はぁ?』

 

 ボアズ要塞まであと僅かというところで、無数に発射されたMk5核弾道ミサイルがたった一機のモビルスーツに全弾迎撃されるという信じ難い光景に、クロトは呆然となった。

 当然、クロト以上に事情の分からないオルガ、シャニらの衝撃はそれ以上で、戸惑いを隠し切れずに目の前に現れたキラに視線を向ける。

 間一髪で核攻撃を免れた要塞内部からは、ボアズ要塞守備隊の予備兵力と思われるモビルスーツが慌てた様に次々と出撃を始めた。

 しかしステラは自身に向かって来るモビルスーツ群を両肩の高エネルギー長射程インパルス砲(アグニ)で薙ぎ払うと、狂った様な声でキラに絶叫する。

 

『あははははは!! 遂に本性を現しましたね!!』

 

 キラが核攻撃を阻止したことに対する憤怒と、クロトへの決定的な裏切りを見せたことに対する歓喜──ステラはスラスターを全開で吹かせた。

 上下左右に展開した4基の飛行砲台(ガンバレル)によるオールレンジ攻撃──キラはM.E.T.E.O.R(ミーティア)の推力を生かして後方に加速しながら避けると、直後に対艦ミサイルで応戦──ステラは前方に突撃しながら両手のビームライフルで迎撃する。

 その爆炎を切り裂き、迫り来るキラのビームソード──ステラは急上昇して斬撃を避けると、その根元をビームで撃ち抜いた。

 

『くっ……!』

 

 損傷したビームソードをパージし、胴体に接続したM.E.T.E.O.R(ミーティア)の各所からビームを放つキラ──ビーム偏向装甲(ゲシュマイディッヒ・パンツァー)を前方に展開して突撃するステラ──友軍から離れ、敵の大部隊に包囲されるという絶望的な状況だったが、ステラには不安も焦燥もなかった。

 側面後方から現れたゲイツの小隊が放つ一斉射撃──しかしそれらは破砕球(ミョルニル)と高分子ワイヤーの盾に阻まれる──唯一ストライクに追随していたレイダーの的確な援護。

 そして襲い来るゲイツを引き付けながら次々に撃破し、撤退ルートを確保しようとしているレイダーの動きを確認すると、ステラは更に機体を加速させた。

 4基の飛行砲台(ガンバレル)、両肩の高エネルギー長射程インパルス砲(アグニ)、腰の88mmレールガン(エクツァーン)を駆使し、後退しながらビームを放つフリーダムの動きを牽制し、攻撃する。

 数コンマ1秒単位で繰り広げられる壮絶な読み合いと攻防──飛行砲台(ガンバレル)の一つがビームを受けて吹き飛び、その代償にステラはもう片方のビームソードを破壊した。

 誰も割り込めない、誰も止められない──周囲に破壊と混沌をもたらす二人の戦いの余波を受け、陣形が乱れたボアズ要塞防衛隊の左翼は地球連合軍の猛攻で大きく崩され、戦局は混迷を極めていく。

 

 〈110〉

 

『──ナチュラル共の野蛮な核など、ただの一発として我らの頭上に落とさせてはならない! 血のバレンタインの折、核で報復しなかった我々の思いを、ナチュラル共は再び裏切ったのだ! もはや奴等を許すことは出来ない! 今こそその力を示せ! 奴等に思い知らせてやるのだ! この世界の新たな担い手が誰かということを!』

 

 広域通信で放たれた、今やプラントの実質的なNo.2であるエザリア・ジュールの檄が戦場に響き渡る。

 戦いの火蓋が切られてから数時間──ボアズ要塞を巡る攻防戦は更に激しさを増していた。

 第一次核攻撃を阻止したフリーダムをストライクネロが抑えている内に、地球連合軍は第二次核攻撃を行おうとしたのだが、ヤキン・ドゥーエ要塞から出撃したアスランを中心とする新手のモビルスーツ部隊が立ち塞がったのである。

 下手に核攻撃を強行すれば、ボアズ要塞防衛部隊の左翼を大きく押し込んだ状態で敵味方の入り混ざった乱戦に突入した第八艦隊をも巻き込む形となる。

 司令官であるデュエイン・ハルバートン准将だけならともかく、今回発動したエルビス作戦において事実上の最高責任者であるムルタ・アズラエルをも危険に晒す核攻撃を強行しようとする者はおらず、地球連合軍とザフトの戦いは互いの機動兵器と機動兵器をぶつけ合うという従来のものに回帰していた。

 

『お前達は何だ! お前達は何の為に戦っている!?』

『殺されるよりは殺す方がマシってな。……つまらねーことを聞くんじゃねーよ!!』

 

 アスランは周囲のストライクダガーから放たれるビーム砲を対ビームシールドで防ぎ、時折撃ち返しながらスラスターを全開で吹かせ、猛烈な速度でカラミティに突撃する。

 紆余曲折あったが、ようやくキラも分かってくれた──地球連合軍は悪であり、それと戦う自分は正義なのだと確信しながら。

 その尖兵であるカラミティも悪だとアスランは断罪して光刃(ラケルタ)で斬り掛かるが、オルガはその攻撃を衝角砲(ケーファー・ツヴァイ)の先端で捌くと、胸部に搭載された複列位相エネルギー砲(スキュラ)を発射する。

 咄嗟に対ビームシールドを突き出す──その一部を融解させながらも防ぎ切ったアスランから距離を取りつつ、オルガは面白い獲物を見付けたとばかりに通信を飛ばした。

 

『お前がたった今殺したパイロット。──ザフトに家族を殺されて、故郷で一人帰りを待つ病気の妹がいたら、どうするよ?』

『いい加減なことを言うな!!』

『そういうこともあるだろーがって言ってるんだよ! 世界の新たな担い手様には難しい話だったかぁ!?』

 

 もちろん、オルガはアスランの攻撃で爆散したパイロットがどういう人間なのか知らないし、そもそもその言葉に煽り以上の意味は無い。

 単にオルガはアスランの言動に自らを人体改造した科学者達と同じく、自分達は絶対的な正義なのだと信じて疑わない匂いを敏感に嗅ぎ取り、それを痛烈に皮肉ったのである。

 激高するアスラン──核の力で立て続けに放たれる攻撃をオルガは防ぎ、時折反撃しながら戦闘を続行する。

 

 

 

『うらぁあああ!!』

『なんなんだこの力は!? この俺が直撃を受けている……!?』

 

 思わぬ方向から飛来した誘導プラズマ砲(フレスベルグ)を避け切れず、機体を覆っていた追加武装装甲(アサルトシュラウド)を咄嗟にパージしたことで回避に成功したイザークは叫んだ。

 ビームならビーム偏向装甲(ゲシュマイディッヒ・パンツァー)による防御、実弾なら回避か迎撃。

 一度でも判断を誤れば機体の制御を大きく乱し、集中攻撃されかねない絶望的な状況をむしろ楽しむかのように、シャニはジュール隊に包囲されるという状況で一歩も引かず暴れていた。

 

『下がれイザーク!』

 

 大型ビームライフルと350mmガンランチャーを連結させ、ディアッカはジンを重刎首鎌(ニーズヘグ)で両断したフォビドゥンに向けて砲撃を放つ。

 サブジェネレーターを連結させ、威力を底上げすると共に対装甲散弾砲による広域制圧モード、長射程狙撃ライフルによる高威力精密狙撃モード。

 その2つを切り替えて放つバスターの攻撃をシャニは正確に見切っており、今回はビーム偏向装甲(ゲシュマイディッヒ・パンツァー)で防御すると、捻じ曲げられた長射程狙撃ライフルの一撃はシグーディープアームズを掠めた。

 

『ははっ!』

『くっそー! どうして攻撃が見切られる!?』

 

 もちろんシャニもバスターの砲撃モードを完全に見切っている訳ではなかったが、その完璧な見切りを可能にしているのは周囲の状況把握に起因するものだった。

 その性質上、フォビドゥンの周囲に友軍が存在する状況では対装甲散弾砲は使えず、射線上に友軍が存在する状況では長射程狙撃ライフルは使えない。

 大気圏内での飛行能力を有し、その気になればこの場で二番手の機動力を誇るデュエルであろうと容易に振り切れるフォビドゥンが敢えて単独でジュール隊と戦闘を続けているのは、バスターの選択肢を制限するためだったのである。

 

『分かったぞ!! 俺ごと撃て、ディアッカ!!』

『上等だ。──返り討ちにしてやるよ!!』

 

 その状況を打開出来るのは、対装甲散弾砲ならばPS装甲で受けられる上に、フォビドゥンの保有するビーム偏向装甲(ゲシュマイディッヒ・パンツァー)に有効なビームサーベルを保有するデュエルしかいない。イザークはビームサーベルを抜くと、不敵に重刎首鎌(ニーズヘグ)を構えたシャニに突撃した。

 

 

 

 M.E.T.E.O.R(ミーティア)の推進機を高エネルギー長射程インパルス砲(アグニ)で貫くと同時に、全てのバッテリーを消費したAQM/E-XD01(デストロイストライカー)はその大部分がパージされる。

 そして一部のスラスターと二振りの9.1m対艦刀、88mmレールガン(エクツァーン)だけを残したストライクネロの基本装備であるAQM/E-M1B(ネロストライカー)が露わになり、ストライクネロ本体に搭載されたバッテリーからの電力供給を受けて再起動──同様に推進機を喪い、機能停止したM.E.T.E.O.R(ミーティア)をパージしたフリーダムと対峙する。

 

『くそッ……!』

 

 絶え間なくビームを放ち、強力な推進力を誇るM.E.T.E.O.R(ミーティア)こそ破壊したものの、本体には傷一つ無いフリーダムを見たステラは対峙する少女の技量が自分の一歩も二歩も上を行っているという事実に歯噛みした。

 一見すると互角の様に映るが、友軍である地球連合軍からの攻撃には晒されず、ザフトからの攻撃はレイダーが防いでいたステラとは異なり、キラは両軍からの攻撃に晒されながら戦っていたのである。

 努力で負けているとは思えない。執念で負けているとは思えない。

 負けているのは戦いの才能──全てを奪われた対価として唯一得た力さえ、圧倒的な才能の前には敵わないということらしい。

 

『忌々しい。その力で先輩を誑かしたって訳ですね?』

『……!』

 

 思わず絶句したキラの反応を感じ取り、ステラは少しだけ愉快になった。

 ヘリオポリスの襲撃──奪われたG兵器──執拗に追撃するザフトの精鋭部隊──深刻な戦力不足に直面したクロトはストライクを操縦出来る彼女を利用しようと接近し、その中で少女の毒牙に掛かってしまったのだろう。

 薄汚い連中に命を握られ、自由も未来もない消耗品として扱われる日々──全てを諦めたオルガ・サブナックやシャニ・アンドラスとは異なり、クロト・ブエルは世界に対する深い憎悪に満ちていたが故に、少女の甘い毒に侵されてしまったのだ。

 誰よりも自由で、誰よりも輝かしい未来があって、誰よりも強大な少女の力──クロトにとって彼女という存在はあまりにも眩しかったのだろう。

 ()()()()()()()

 

『私は貴女を──貴女という存在を許せないッ!』

 

 ステラが二丁拳銃で放つビームの雨嵐──それをキラは躱し、対ビームシールドで防ぎ、シールドの隙間を狙って放たれたビームを光刃(ラケルタ)で斬り払う。

 

『私は……それでも私は! 力だけが……私の全てじゃない!』

『それが誰に解るっていうんですか!?』

 

 まさに力の権化だと体現するような絶技をステラに見せ付けながら、自らに投げ掛けられた言葉を真っ向から否定する少女に、ステラはますます激高する。

 不規則に付けた緩急──時折ビームに混ぜて放つ88mmレールガン(エクツァーン)──その全てを見切って放たれた電磁レールガン(クスィフィア)をシールドで打ち払い、両手で背中の対艦刀を抜いて急速接近──光刃(ラケルタ)を抜き、正面から迎え撃とうとするフリーダムに斬り掛かろうとして──。

 

『止めろ!』

 

 ストライクネロがAQM/E-XD01(デストロイストライカー)、フリーダムがM.E.T.E.O.R(ミーティア)をパージしたことでようやく追い付くことに成功したクロトは強引に二人の間へ割り込んだ。

 クロトの乱入にあっさりと攻撃を中止するキラ──完全な実体剣ということもあり、攻撃を中断出来なかったステラの一撃をクロトは右腕のシールドで受け止める。

 

『何をするんですか!?』

 

 フリーダムを操る少女がその気なら、光刃(ラケルタ)で両断されていただろう致命的な隙を少女に晒したクロトと、その信頼に応えて剣を納めた少女の姿を目の当たりにし、ステラは思わず叫んだ。

 

『例の大量破壊兵器が発動する!』

『そんな! 早すぎる!!』

 

 いつの間にか、潮が引く様に撤退を始めたザフト──戸惑う地球連合軍。

 目の前に地球連合軍の攻撃で陥落するかもしれない友軍の基地があり、それを指先一つで阻止出来る兵器が手元にある。

 そして地球連合軍が行った核攻撃への報復──更に第二次核攻撃を阻止するという絶好の大義名分を手に入れた状況で、全てのナチュラルを滅ぼす野望を秘めていたパトリックがその魅力に抗える筈もなかった。

 本体内部で大規模な核分裂反応を発生させ、その際に生じるγ線をコヒーレント波に変換。そのレーザー光を一次反射ミラーに照射して焦点を調整し、二次反射ミラーでエネルギーを集中させ、目標に向けて発射するガンマ線レーザー砲が起動する。

 

『今すぐ射線から離れろ!』

 

 不可視の光線──しかしその光線に内包された莫大なエネルギーによって射線上に存在するデブリが蒸発した光で構成された、淡く輝く光の矢が地球連合軍の艦隊を貫いた。

 




というわけで、残念ながらジェネシスは発射されました。

???「何がナチュラルの野蛮な核だ! あそこからでも地球を撃てる奴等のこのとんでもない兵器の方が遙かに野蛮じゃないか!」

これ以上レスバを続けさせたら収拾が付かなくなるので、物理で繰り広げられるヒロイン争いを物理で阻止するクロトくんでした。



PS やっとフルメカニクスレイダーを買えましたが、案の定積んでいます。そしてキラちゃんものの長編ってホントないですね……皆も書こう。
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