〈117〉
両手足にビームソードを展開し、加速装置ジェネシスαが行うレーザー照射で超加速して迫り来るリジェネレイトを、オルガはカラミティを急上昇させて回避する。
同時にオルガは背後から
『ちっ!』
『見本を見せてやるぜ!』
シャニはフォビドゥンの
『ははっ!』
咄嗟に
本来であれば致命的な一撃を浴びせたシャニは勝ち誇るが、小馬鹿にしたような声がコクピットに響き渡った。
『無駄なことを……! 死んだ奴は俺のコレクションになる! お前達もその一つになるのだっ!!』
『何を言ってんのかわかんねーよ!』
量子通信を用いて飛来する腕部ユニット──装着し、再度新品の腕部から放たれたビーム砲をシャニは急降下して避ける。
武器と電力の供給のみを行うストライカーパックとは異なり、
『コクピットを狙え、シャニ!』
『命令すんな!』
シャニはオルガと連携して
テスタメントは真一文字に振るった
『うぜぇんだよストライク!!』
『ストライクとは違うんだよ、ストライクとは!』
まともな近距離武装を持たないカラミティは勿論、フォビドゥンの格闘性能は決して高くない。
強襲攻撃を得意とするリジェネレイト、核動力のストライクというコンセプト故に高性能なテスタメントに対して、あまり相性が良いとは言えなかった。そんな二機を相手に前衛として立ち回らなければならないシャニは恨めしそうに愚痴る。
『やっぱ
『アイツは面倒くせーからいいんだよ』
オルガとシャニは数の優位を捨て、先程から何処か精細を欠いていたステラをジェネシス攻略に向かわせていた。
ステラが素直にクロト達と共闘するとは思えなかったが、ドミニオンの
『ぐっ……! ザフトを舐めるな!!』
そんなオルガ達の能天気な言動に、テスタメントのパイロットであるハイネ・ヴェステンフルスは激昂した。
ホーキンス隊に所属する赤服として最新鋭の核機動モビルスーツを受領し、同じくリジェネレイトを受領したアッシュ・グレイと共にジェネシスαの防衛を任された自分達に対して、ナチュラル二人で十分とは馬鹿にしているにも程がある。
ハイネはテスタメントのスラスターを吹かせてカラミティに突撃しようとしたが、何故か機体が
『何だ……?』
ハイネの脳裏には機体トラブルの可能性が浮かんだが、計器を見ても特に異常は見当たらなかった。そもそも制御不能に陥る程の機体トラブルが発生したなら核エンジンが停止する筈なのだが、エンジンは今も正常に稼働している。
『……
コネクターの状態を示すモニターに、何故か
『お前達の悪運は尽きたぞ!! この虫ケラどもが!』
ハイネの意思に反し、テスタメントは警戒を強めながら距離を詰めようとしたフォビドゥンにビームを連射する。これはリジェネレイトのもう一つの特性である、プラグを通じて接続先のモビルスーツの制御権を奪取する能力によるものだ。
もちろんリジェネレイトがそうした能力を保有していることはハイネも把握していたが、まさか味方であるテスタメントにその力を行使するとは思っていなかったのだった。
アッシュが特務隊の最有力候補と噂されるだけの優れた能力を持ちながらこれまで特務隊に任命されなかったのは、こうした危険思想を問題視されていたからだったのである。
『グレイ隊長! これはいったい!?』
『イチイチ騒ぐなよ。俺以外の人間は、俺に殺される為だけに存在しているんだからな!!』
『ふざけ──』
直後にテスタメントの制御権を完全に奪われたのか、ハイネの叫び声が突然途絶えた。そして声の断絶と同時に、リジェネレイトはテスタメントの背中で蠢いていた四肢を翼の様に展開する。
『なんだありゃあ……!?』
『うげぇ……』
例えるなら、人に寄生した巨大な蛾。
その実態は核エンジンを二基備え、他の核機体モビルスーツを遥かに凌ぐ機動力と火力を有すると共に、予備パーツが存在する限り再生し続ける大型モビルスーツが二人の前に姿を現した。
遂に最終防衛線を突破したナタル率いるドミニオンは、ジェネシスの本体を視界に捉える地点まで迫っていた。
ドミニオンの直衛を担当しているストライクダガー隊、そして正体不明の大型モビルスーツと対峙しているオルガ達も健在──今が最大の好機である。
「
ドミニオンに搭載された二門の陽電子砲が火を噴いた。
発射ごとに陽電子チェンバーを補充する必要があるため、連射が利かないのが唯一の欠点である筈の強大な一撃を、ジェネシスの分厚い外部装甲は容易く弾いた。
「何っ……!?」
ドミニオンの最大火力が全く通用しないという異常事態に絶句するナタルとCICのクルーに対して、後ろ手に縛られた形で艦長席に拘束されたアズラエルは狂ったように叫んだ。
「アレ自体が巨大なPS装甲に守られているんだ……!」
軍事技術に造詣深いアズラエルの推察は当たっていた。
PS装甲は通常、ビーム兵器の様に瞬間的な高エネルギーを与える兵器は無効化出来ず、そのまま破壊されてしまう。しかしPS装甲は装甲面積に応じて許容可能なエネルギー量が増すため、ジェネシスの全面を覆う程の広大なPS装甲は、絶大な威力を誇る陽電子砲の耐性を獲得するまでに至っていたのである。
「推力最大! 回頭60! ドミニオンは中央のミラーブロック攻撃に向かう!」
ドミニオンの直衛を行うだけで精一杯のストライクダガー隊に、ザフトの厳重な防衛網を掻い潜ってMk5核弾頭ミサイルをジェネシスに命中させられる技量などない。ならば、ジェネシスの照準用ミラーブロックを攻撃して照準を狂わせるのが最善策である。
「すまない、皆の命をくれ!」
未来無き者達が命懸けで戦っているというのに、この期に及んで泣き言を言う権利など自分にはない。左舷に被弾したドミニオン全体が大きく揺れる中、ナタルはただ一人真正面を見据えた。
〈118〉
ヤキン・ドゥーエ要塞が自爆すると共に、大西洋連邦の首都を照準に設定されたジェネシス第3射が行われるまでの猶予まで、残り1200秒を切っていた。
けたたましい警告音が響き渡り、あちこちで自爆シークエンスの進行を示す様に激しい震動が起こっており、一部では崩落も発生し始めている。
『……よし』
ジェネシスを建造する資材を持ち込む際に用いていたのだろう、外部に繋がる搬入用ハッチを集中射撃で破壊し、キラはジェネシス内部に侵入していた。
キラはモビルスーツが一機通れる程度の狭いシャフトにフリーダムを進め、より奥へと侵入していく。既にフリーダムの自爆装置はセットしており、ジェネシス第3射が放たれる10秒前に核分裂炉が暴走して核爆発する手筈になっている。
後悔は尽きなかったが、引き返すつもりはなかった。
メンデルの最深部で見た自分の兄姉だったかもしれないものの姿を思い出せば、少なくとも10数年間は人間として生きられたのだから、幸せだったと思うべきなのだ。
自己犠牲に酔う訳ではなかったが、多くの犠牲を払って造られた自分が多くの命を救うために命を擲つことは、きっと正しいことなのだろうとキラは考える。
外では激しい戦闘が繰り広げられている方向から脱出しようと考える者はいなかったのか、それともジェネシスの巻き添えになることを恐れたからか、キラはザフト兵と鉢合わせることなくジェネシスの中枢部に到着した。
──まるでプラネタリウムだ。
だだっ広い灰色の円錐──たった一発で地球を死の星に変える大量破壊兵器の内部構造に意外なものを感じつつ、フリーダムの自爆装置に表示されている900秒を切ったばかりのタイマーを見て、キラは最悪の事態は避けられたと胸を撫で下ろした。
後は可能な限りみんなが離れてくれれば、とキラは切に願いながらフリーダムをその広大な空間に降下させた。
クルーゼと戦っていたクロトは無事だろうか。
底知れない憎悪に身を焦がしながらも、一心に自分を救おうとした少年のことを考えれば考えるほどキラの絶望は色濃くなり、思わず泣き出しそうになってしまう。
自分が、自分さえ、自分は──。
キラが次から次へと溢れ出す後悔に身を任せていると、スピーカーから少女の声が響き渡る。
『へぇ、こんな所にいたんですか』
キラを追って侵入したのだろう、ストライクネロが姿を現した。パイロットの少女は呆れたような口調で言い放つと、同じくジェネシスの中枢部に飛び降りてフリーダムと対峙する。
地球連合軍において、レイダーに搭載されていたMk5核弾頭ミサイルに次ぐ火力を有する機体のパイロットである彼女も、この
『
キラの悲痛な叫びに、ステラは怒りを露にする。
『逃げる? 私に何処に逃げろと言うんですか!?』
この戦いの結果がどうなろうと、事実上のクーデターを起こした反逆者であるステラ達は地球連合軍に戻れない。
たとえ戻れたとしても、決して表沙汰にしてはならない地球連合軍の闇を知る者として、確実な死が待っている。後はどれだけ多くの命を道連れに出来るかどうかだけだというのに、目の前の少女は今更何を言っているのか。
『さぁ、決着を付けましょう』
ステラは半重力下では大幅に機動力が低下するデストロイストライカーをパージすると、腰にマウントされた小型ビームライフルと背部の対艦刀を抜いた。
『……』
ここでフリーダムを喪うことがあれば、ジェネシスの破壊に失敗して無数の命が喪われることになる。しかし自爆装置を再操作して即座に核分裂炉を暴走させれば、ヤキン・ドゥーエ要塞から脱出しようとしている多くの命が喪われてしまう。
しかしそれが狙いではなく、そうした状況を突き付けて自分に全力を出させることがステラの狙いだろうとキラは推測する。黙って攻撃を仕掛けず敢えて一騎討ちを挑もうとする理由は、一騎討ち自体が目的だとしか考えられないからだ。
力だけが全てではないと考える自分に、力だけが全てだと考える者として挑むつもりなのだろう。
『分かった。決着を付けよう』
残り時間は700秒。
その名に自由を冠するモビルスーツに乗りながら、呪われた運命に縛られた少女の戦いが始まった。
〈119〉
クロトは複合兵装防盾システムに左腕の
しかしその際に生じる一瞬の硬直を読み、クルーゼが放ったビームがレイダーの右腕を根元から蒸発させる。
『ちっ……!』
レイダーのバッテリーは既に限界が迫っていた。それを悟ったクルーゼは両腕のビーム砲と
その弾幕を強引に突破しようとして、みるみる損傷するレイダー──クルーゼは自らの勝利を確信したかのように絶叫する。
『この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で、何を──何故信じる!?』
この世界が憎悪と狂気に満たされているのは、クロトも重々分かっている。
その結果であり、怒りと絶望の末に世界を滅ぼそうとするクルーゼ、そして過去の自分を否定するなら、本来はその否定に足るだけの何かを示す必要があるのだろう。
しかし今はクルーゼとの問答に付き合う時間はない。
『お前を殺ってから考える!!』
クロトはクルーゼの絶え間ない砲撃に最大出力の
『君とて咎人の一人だろうが!!』
決してクロトは善人ではない。
生体CPUとして授けられた強大な力を無秩序に振るい、多くの未来を奪ってきた悪人でもあるのだ。そんなクロトにクルーゼを裁く権利などない。
──それでも。それでも。
『守りたい人がいるんだ!!』
左腕を喪い、一瞬体勢を崩したプロヴィデンスにクロトは全速力で突撃した。深手を受けたことで、大幅に重量が減少したレイダーの加速はクルーゼの予測を超え、紙一重で致命傷を避けながらプロヴィデンスへの接近に成功する。
『くっ──』
レイダーの
千載一遇の好機──
急速に距離が詰まる両機体──残存する全ての
『滅殺!!』
そして無数のビームを潜り抜けたレイダーがプロヴィデンスの胴体を捉え──クロー内部から展開した
『ふ、はは……!』
クロトに届いた声は嘲笑か、それとも別の意味合いか。
その直後、
核エンジンが停止し、慣性で漂っていたプロヴィデンスは推進剤に引火して爆散──その破片の一つが沈黙していた灰色のモビルスーツに命中する。
破片を受けたモビルスーツは再起動し、頭部に備えたメインカメラとセンサーを煌々と輝かせると、
なかなか今回は難産でした。
水星の魔女は流行りそうですね……!
赤い水星の正義(仮)とかどうです?