──地球軍はただちに攻撃を中止して下さい。あなた方は何を撃とうとしているのか本当にお解りですか?
もちろん分かってる。
僕達の行為は戦争という大義名分を掲げて行う虐殺だと。きっと僕達は大罪人で、君達は聖者なのだと。
だが、君の方こそ本当に解っているのか?
自由も何もかも奪われた、僕たち生体CPUという存在を。
「わたくし、ユニウスセブンの追悼慰霊の為の事前調査に来ておりましたの。そうしましたら、地球軍の船とわたくしどもの船が出会ってしまいまして」
ラクス・クライン。
プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの一人娘であり、プラントはもちろん地球でも熱狂的なファンの多い“プラントの歌姫”だ。
いわばコーディネイターの民間人どころか、とんでもない類の要人だった。
クロトは壁に背を預け、そんな少女の事情聴取の様子を窺っていた。地球連合軍の軍艦に1人囚われの身だというのに、ラクスは堂々としていた。
ブルーコスモスの一員だと名乗ったクロトが睨みを利かせているというのに、まるで意に介していない様子だった。
単に能天気なだけかもしれない。とはいえ後に父親の遺志を継ぎ、三隻同盟の旗頭になった少女だと素直に感心した。
「それで、貴女の船は?」
マリューが問い掛けると、ラクスは目を伏せて首を振った。
「分かりません。あの後、地球軍の方々もお気を静めて下さっていれば良いのですが」
どうやらこの宙域を偶然航行していた地球連合軍の軍艦が、ラクスを乗せた追悼慰霊団の船と遭遇したようだった。
通常の民間船ならまだしも、敵対勢力の関係者が乗った船だ。ラクスの身柄を手中に収めようと企んだ地球連合軍は問答無用で船を攻撃したようだった。彼女の救命ポッドを回収した付近に漂っていた船の残骸は、その悲惨な顛末を示していた。
大凡の事情を察したマリューが沈黙する中、クロトは口を開いた。
「僕と同じブルーコスモス系の大西洋連邦軍の仕業だろうね。思わぬ大物を見付けたんで、独断で暴走したってトコかな。道理で大破した民間船の残骸が転がってたり、ザフトが周囲を捜索してたワケだ」
クロトは周囲が暴言を咎める中、1人きょとんとしながら自分に視線を向けたラクスを嬲るように言葉を続けた。
「君もなんとなく分かってるんじゃないの? 君を、シーゲル・クラインの愛娘を逃がすために全員死んだんだよ」
ヒトは不平等だ。
ただ使い潰されるだけの人間もいれば、命懸けで守られる人間もいる。
まるで愉快なものでも見たかのように嗤うクロトを見て、ラクスは憂いを帯びた表情に変わった。
「やはり、そうなのでしょうか?」
ラクスの問い掛けに、クロトは見逃す理由があるのかと切り返した。
死人に口なし。その場の全員を殺してしまえば、地球連合軍が民間人の船を撃沈したことなど何の問題にもならないのだから。
「……そうそう、君を探してたモビルスーツも僕が撃墜したんだよ。可哀想だったけど今は戦争中だし、仕方ないよね」
まさに言いたい放題だ。
周囲が呆気に取られている中、ラクスはクロトの敵意や悪意など些細な問題だと言わんばかりに微笑み返した。
「クロト様は、とてもお優しい御方ですね。自分が悪者になってまで、わたくしに全てお話してくださるなんて」
どうも話が噛み合わない。毒気を抜かれたクロトは溜息を吐いた。
「君の気持ちなんてどうでもいいんだよ。僕の機嫌を取るのは勝手だけど、話が終われば適当に放り出すつもりだよ?」
「あら。そうなんですか?」
ラクスは首を傾げた。
ブルーコスモスを名乗り、この場で良くも悪くもラクス・クラインの価値を一番理解しているだろうクロトがラクスの身柄に興味を示さなかったからだ。
「僕にも色々考えがあるんだよ」
このままラクスを拘束して連合軍の基地まで連行した結果、プラントが大幅に戦略を変更するようなことになれば全てが台無しだ。
ラクスの父、シーゲルは人類史上最もヒトを殺した指導者と言われる一方で、あくまでプラントの中では穏健派に属するとされる人間だ。
そんなシーゲルが過激派に転向するようなことになれば、今までクロトが築き上げてきた多少の有利など一瞬で吹き飛んでしまう。
シーゲルには正史通り、スピットブレイクを利用して地球連合軍が反転攻勢に移るまでの間はザラ派を抑え込んでもらう必要があるのだ。
「少尉! 何を勝手なことを!」
「そうですかねぇ。このまま連合軍に引き渡すより、何も見なかったことにする方が余程いいと思いますけど」
ムウはクロトの言葉に同調すると、訳知り顔で頷いた。
「ま、連合軍に引き渡せば大歓迎だろうからなぁ。なんたってあのクラインの娘だ。いっそ見なかったことにした方がいいかもな」
一方のナタルはそれでは甘過ぎると言いたげに、クロトとムウに視線を向けた。
「少尉や大尉の意見も一理ありますが、彼女はただの民間人ではありません。私は月本部に連れていくべきだと考えます」
マリューはしばらく考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。それは人道的な観点でも合理的な観点でもなく、アークエンジェルの艦長としての結論だった。
「バジルール少尉の言う通りよ。アークエンジェルの機密保持のためにも、ここで彼女を放り出すわけにはいかないわ。貴女にもある程度の自由は約束するけど、出歩く時は監視を付けさせてもらうわよ」
クロトの報告からもザフトが付近でラクスを捜索しているのは明白だ。ここでラクスを解放して、アークエンジェルの進路を悟られる訳にはいかないのだ。
ラクスは肩を竦めたが、やがて悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「では、わたくしを監視される方を選ばせて頂いてもよろしいでしょうか?」
クロトは不穏な気配を察知した。
わざわざ最悪の状況で持ち掛ける交換条件など、おおよそ普通のものではないと容易に想像出来たからだ。
「ええ。ちょうどこの船には女の子のコーディネイターが乗っているから、たぶんその子が適任だと思うんだけど。ここに呼んでくるわ」
マリューは話は纏まったとばかりに立ち上がった。
学生達と共に回収した物資を格納庫で積み込み作業中のキラを、ラクスの監視役として呼び寄せるためだった。
一方のラクスはそんなマリューを余所に、うんざりした表情で立っていたクロトに真っ直ぐな視線を向けた。
「ではクロト様、宜しくお願いします」
「はぁ?」
クロトは素っ頓狂な声を上げた。
多少興味を持たれたような気はしていたが、いくらなんでも監視役に指名されるとは思わなかったからだ。
してやったりとばかりに、ラクスはくすくす笑いながら言った。
「いけませんか? わたくしはクロト様ともっとお話をしたいと思ったのですが」
「……僕は君と話すことなんてないけど」
「わたくしにはありますわ」
あまりにも意外な人選に困惑するマリューとナタルを余所に、ムウは珍しく返答に詰まっているクロトに爆笑した。
「いいんじゃないか。少尉は1度暴れ出したら誰にも止められないヤツだが、女の子には甘いって評判だからな」
「そうなんですか?」
ムウはしたり顔で言うと、心底嫌そうな表情のクロトにウィンクした。
「あぁ。少尉は女の子を守る為なら、上官だろうと平気でぶん殴るヤツだからな」
「まぁ、それは素敵ですわ」
ラクスは本気で感心した様な雰囲気で頷いた。
「とはいえ、男の少尉にずっと監視させる訳にはいかないだろう。嬢ちゃんと2人でお姫様の見張りを宜しく頼むぜ?」
「……分かりましたよ。やればいいんでしょう、やれば」
クロトは面倒なことになったと頭を掻いた。
僕はこれでもブルーコスモスの盟主に仕える忠実な番犬なんだぜ、と反射的に呟きそうになった言葉を呑み込んだ。
そして先程からこっそり外から様子を窺っている志願兵達とその背後に立っているキラに視線を向けた。
──入るタイミングが分からない。
クロトは3人分の食事を器用に積載したトレーを抱え、マリューがラクスに割り当てた部屋の前でぽつんと立っていた。
中で内緒話しているらしい2人の会話は全く聞き取れなかったが、たぶんロクでもないことだろう。とはいえ2人が打ち解けてくれるならむしろ好都合だ。
これ以上妙な噂が広まるようなことになれば、無事に地球に戻れたとしてもアズラエルの不興を買って処分されかねない。
しょせんクロトという存在は、彼にとって単なる消耗品なのだから。
「そうですか、そんなことが。キラ様も大変だったんですね」
ラクスはキラの語った内容に溜息を吐いた。
ヘリオポリスで行われたザフトの襲撃に巻き込まれたこと。
この船に乗っている友達や避難民の命を守るため、これからもストライクで戦わなければならないこと。
今までは気にならなかったが、ただ自分がコーディネイターというだけで地球連合軍から疎まれている存在だということ。
「私はコーディネイターですから仕方ないんです。地球連合軍にはコーディネイターを嫌ってる人も大勢いて……。今は敵同士なので」
今の地球連合軍内部には、ブルーコスモス系の派閥に限らず反コーディネイターを掲げる者は無数に存在する。
その数はエイプリルフール・クライシスで地球全土にエネルギー危機とそれに伴う数億人の犠牲者が出て以降、日々拡大の一途を辿っている。
「だからって、キラ様に何をしてもいい訳ではありませんわ。キラ様はもっと自分を大事にしてくださいな」
先日軍事要塞アルテミスでキラに暴行しようとしたユーラシア連邦軍人達も、非ブルーコスモスだが反コーディネイターを掲げる者達の1人らしかった。
そんな連中を相手に、知る人ぞ知るブルーコスモス盟主の番犬がコーディネイターを庇って大暴れしたという事実はラクスにとって興味を引かれるものだった。
奇貨居くべし。
ナチュラルでありながらコーディネイターを圧倒する力と、ブルーコスモスと相反する思想で動いているクロトの存在は、遺伝子至上主義と人種差別が蔓延しているこの世界で極めて特異な存在だとラクスは率直に思った。
「あの時のクロトさんは怖かったけど……格好良かったから……」
キラは顔を赤らめた。
「ムウ様からも聞きましたが、クロト様は物凄くお強いそうですね。ザフトとも、ほとんど一人で戦っていらっしゃるとか」
「はい。私なんて、足を引っ張ってるだけなんじゃないかって……。私のせいで、皆から色々と言われてるみたいだし……」
曰く
統計上は5億人と言われているにも関わらず、コーディネイターを積極的に受け入れているオーブ国内でも殆ど見掛けないのは、本人すら認識してない隠れコーディネイターが大量に存在しているという説があるのだ。
実際にシミュレータを用いたモビルスーツの戦闘訓練でも、キラはクロトが叩き出したスコアに遠く及ばない。キラがOSを書き換えたことで常人には立ち上がることすら困難になったストライクも、クロトはじゃじゃ馬程度の感覚で操縦出来た。
それを見た周囲は、影に隠れて好き勝手に噂話をしていたのだ。
「あの方は自分が悪く思われることなんて、何も気にしていらっしゃいませんわ」
クロトは自分の悪評を利用しているような素振りすらあった。
天上天下唯我独尊。
一般的な地球連合軍人を気取るのはもちろん、ブルーコスモス盟主の番犬であることを装うのはとっくに飽きたと言いたげだった。
むしろクロトの纏う奇妙な雰囲気に、ラクスは何か根本的なものを見落としているような気がしていた。
「クロトさんは、不器用なだけなんです。時々何を考えているのか分からない時があるけど……。それもしょうがないっていうか……」
ラクスはクロトを弁護しようとするキラの顔を見た。もしかして彼女がその謎を解き明かす答えなのでは、と直感した。
「キラ様は、クロト様のことが気になって仕方ないのですね?」
アズラエルに才能を見出されたノンポリの少年兵が、この可愛らしい少女との出会いで本来の姿に戻ったのかもしれない。
ヒトはきっかけがあれば、簡単に変わってしまうのだから。
「わ、分かりますか!? 恥ずかしいです……」
ラクスは微笑むと、顔が真っ赤になったキラの手を取って立ち上がった。
ナチュラルとの融和を語りながら、ただ戦争を激化させることしか出来ないクライン派に2人の姿を見せてやりたいものだと思った。
「さあ、クロト様がお食事を持って来られるまで、わたくしと一緒に歌いましょう。デュエットなんてしたことがありませんから、わたくしも楽しみですわ」
クロトくんが乗り換えるなら
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レイダーのまま(鋼の意思)
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核搭載レイダー(あっ……)
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フリーダム(自由が欲しかった!?)
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ジャスティス(大穴)
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ブロヴィデンス(!?!????)
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その他