〈17〉
猛烈な速度で迫り来る真紅の機体が放った光弾を回避するため、クロトはホバリングしていた機体を急上昇させた。その衝撃で予備のヘルメットを被ろうとしていたカガリは足下に叩き付けられ、狭いコクピット内部で悲鳴を上げる。
「うわぁ! ……おい! アイツは何も知らないのか!?」
今回起こした拉致事件の事情を知っているのはミナを含めて数人だけであり、その中にアレックス・ディノは含まれていなかった。
もちろんラクス・クラインの婚約者であり、カガリの護衛であるアレックスに事情を伝えない理由などなかったのだが、決行の刻までアレックスと単独で接触する機会がなかったため、ラクスにはどうすることも出来なかった。
自分の婚約者が命の危機に晒された上、その名を騙りプラント議長と肩を並べている謎の少女の映像が世界中で公開されているというのに、まさかアレックスが目の前の仕事を優先して、一度も会いに来ないとは思っていなかったのだ。
「見りゃ分かるだろ! ちょっと黙ってろ!」
クロトは立て続けに飛来するミサイルに向かって右腕に取り付けた超高初速防盾砲を連射し、その全ての迎撃に成功する。そしてMA形態に変形すると、再びオーブ軍の防衛網を強引に突破し始めた。
その気になれば、モビルスーツを積載したまま戦闘機動が可能なGATシリーズ最高の推力──周囲から駆け付けてきたムラサメは瞬く間に振り切られ、その場に置き去りにされてしまう。
しかし真紅の機体は唯一距離を保ちながら、レイダーの進行方向に向かって光弾を連発した。行く手を遮られたクロトはレイダーをMS形態に戻して振り向くと、スピーカーから怒り狂った声が鳴り響いた。
『いったい何をやっている!? 今すぐ司令部に戻ってアスハ代表を解放しろ!』
スラスターを狙って放たれた光弾を右腕のシールドで受け流すと、クロトは真紅の機体と対峙した。
ストライクを思わせる洗練されたフォルムに、ファトゥムの様な大型フライトユニットを背負う真紅のモビルスーツ。
型式番号“ORB-02”──通称“
オーブ軍の主力量産機として採用されているムラサメを束ねる指揮官機として、試験的に製造された最新鋭のモビルスーツである。
モルゲンレーテ製のモビルスーツとしては初のVPS装甲を採用しており、装甲に流す電力が調整可能になったことで、PS装甲の課題だった消費電力という問題点を大幅に改善しており、総合的な性能は先の大戦で活躍したフリーダムに匹敵する上に、得意分野である大気圏内の空戦能力においては凌駕する機体だった。
唯一の問題点は並みのナチュラルでは動かすことすら困難な操作性だったが、先の大戦でジャスティスのパイロットだったアレックスにとってそれは問題点ではなかった。
『そういう訳にはいかねーんだよ!!』
『馬鹿なことを!』
クロトは機体を横滑りさせて光弾を回避すると、アレックスを牽制するため破砕球を投擲しようとした。しかしその動きを先読みしていたアレックスは最短距離で接近し、腰部から双刀型の柄を抜刀する。
斜めに振り下ろされた光刃をシールドで受け止めるが、直後に手首を捻って振り上げた刃が装甲の一部を抉り取った。ワンテンポ遅れて放った破砕球は余裕を持って回避され、フライトユニットに搭載されたビーム砲から放たれた光弾が更にレイダーの装甲を掠める。
『ちっ……!』
僅かな攻防で、如実に示された双方の優劣。
それは旧型と最新型の機体性能に因るものでも、カガリの同乗という特異な状況に因るものでもなかった。それはクロトがSEED因子を発現出来ないことに因る集中力、反応速度の問題だった。
キラとは異なり、
上澄み中の上澄みであるが今はあくまでナチュラルであり、ラウ・ル・クルーゼの様に特異な空間認識能力を持たないクロトがコーディネイターの中でも最上位の能力を誇るアレックスと正面から戦えば、苦戦は必然だったのである。
『一昨日の件は俺が調査する! 今のお前がやっているのはただのテロだ!』
『はっ! テメーの婚約者が襲われたってのに帰って来ねー奴が、何の調査をするって言うんだよ!』
『ラクスは関係ないだろう!!』
クロトはアレックスと罵り合いながら戦いを続けるが、不利な形勢は一向に変わらない。アレックスは機関砲の弾幕を掻い潜ると、双刀のビームサーベルを振り被って一撃、また一撃とシールドの上から叩き付ける様に斬り付けた。
更に背中のフライトユニットを切り離すと、正面と頭上から挟み込むように展開して猛攻を開始する。
致命傷に繋がるビームこそ紙一重で避けていたものの、一斉に放たれたミサイルに続けてレールガンが装甲に直撃し、レイダーは大きく体勢を崩した。衝撃で身体を強打したカガリは訳も分からず叫ぶ。
「おい!? このままじゃ墜とされるぞ!」
「黙ってろって言っただろ!」
クロトは突如機体を反転させて迫り来るフライトユニットを強引に捕らえると、レールガンとビーム砲を支えていた両舷の可動式アームを掴んだ。そして中心部に
一瞬早くフライトユニットが射出した大型対艦刀を空中で掴み、アレックスは宙を漂うレイダーに向かって全速力で突撃するが、目的地に辿り着いたクロトは海中に逃げ込み──アレックスも飛び込んだ。
〈18〉
眼前の空母4隻を擁する地球連合軍の大艦隊に向けて、ミネルバの放った陽電子破砕砲が濃緑色の大型モビルアーマーが展開したビームシールドに跳ね返された。
直撃すれば一撃で大型隕石を粉砕し、掠めただけでも同サイズの戦艦を大きく損傷させるミネルバの最大火力を無効化した圧倒的な防御力に、レイは思わず絶句する。
『……タンホイザーを跳ね返した!?』
『くっそー! 何なんだよこいつらは!!』
型式番号“YMAF-X6BD”──通称“ザムザザー”。
地球連合軍と提携している軍需企業の一つであり、大型モビルアーマーを専門開発している“アドゥカーフ・メカノインダストリー”が開発した試作モビルアーマーである。
現在の地球連合軍の主力量産機は先の大戦で活躍した“ダガーシリーズ”を再設計し、ハイコストなPS装甲こそ採用していないものの“ストライク”と同等の運動性能に加えて大気圏飛行能力を獲得し、状況に応じてストライカーパックを換装することで状況に応じた柔軟な対応力を持ち、パイロットの腕次第でザフトの主力量産機である“ザク”と互角に渡り合えるモビルスーツ“ウィンダム”だった。
しかし地球連合軍の上層部の中にはザフトが産みの親であるモビルスーツを主力機として扱うことに忌避感があったことと、国力に応じて機体の保有数を制限するユニウス条約によって単独での高性能化が求められたこと、かつて地球連合軍と提携している軍需産業を一手に纏め上げていたムルタ・アズラエルが一線を退き、再び企業間競争が過熱化したこともあって、こうした新型モビルアーマーの配備も行われていたのである。
『なんて火力とパワーだ……!』
高機動戦闘用シルエットを装備し、セカンドシリーズの中では最も高い大気圏空戦能力を誇る“セイバー”に迫る性能を有する“フォースインパルス”だったが、ザムザザーの脚に装備されている機関砲とビーム砲を併せた猛烈な弾幕で、シンは先程から近付くどころか防戦一方を強いられていた。
レイももう一機のザムザザーを相手取っていたが、同じく激しい弾幕と意外にも機敏な動きで捉え切れない。
コクピット付近に単装砲の直撃を受け、バッテリーパワーが危険域に迫り始めたシンは叫んだ。
『レイ! 7時の方向に新手のモビルスーツが!!』
『分かっている!!』
パーソナルカラーの真紅に塗装されたザクウォーリアでミネルバの甲板に陣取り、第3のパイロットであるルナマリア・ホークはバックパックにマウントされたビーム砲を構え、迫り来る砲弾やミサイルを迎撃していたが、四方八方から包み込むように行われる攻撃を防ぎ切ることは叶わず、次々にミネルバは被弾した。
船体は大きく揺れ、艦内に悲痛な叫び声が木霊する。
『グラディス艦長! このままじゃ全滅します! 一度領海内に撤退を!』
『さっきオーブ軍から通信があったでしょ? 針路そのまま、領海線を沿うルートで逃げるわよ!』
レイは船体の一部から火の手が上がり始めたミネルバを見て意見具申するが、先程から領海付近に展開しているオーブ軍艦隊の様子を慎重に伺っていたタリアは、あっさりとその意見を却下した。
ミネルバ及びグラディス隊は、オーブ連合首長国から一昨日の夜に起こったカガリ・ユラ・アスハ代表首長暗殺事件の首謀者ではないかという疑いを立てられている。
もちろん、そんな陰謀に携わっていないタリアにとっては事実無根であったのだが、地球圏に降下する間際まで現プラント議長であるギルバート・デュランダルが同乗していた上に、ザフト軍の最新鋭モビルスーツである水陸両用機“アッシュ”の残骸を見せられては、その裏にプラントに属する何者かの陰謀が働いているのを否定する事は困難だった。
それでなくとも度々ミネルバのクルーによって、偶然乗り合わせたオーブ代表首長に対する暴言が行われていたことから、その責任者であるタリアの立場は極めて苦しいものになっていたのである。
船尾に被弾したことで、スラスターの一部が破損した。一時的に船の制御を喪い、遂に領海線に侵入したミネルバに向かってオーブ軍から威嚇射撃が撃ち込まれ、周囲で炸裂して爆風を巻き起こす。
『墜ちろカトンボ! その貧弱なボディ、引き裂いてくれるわ!!』
『本気で俺達を……ぐわっ!?』
オーブ軍の威嚇射撃に一瞬気を取られたシンは、高周波震動で赤熱したザムザザーのクローに脚部を掴まれた。
その直後にバッテリーパワーが危険域に到達してVPS装甲が維持出来なくなり、根元からばっさりと破断される。
シンは海に落下する間際にスラスターを吹かせ、海面を這うように飛びながら更に機体を捻って追撃のビーム砲を回避するが、エネルギーが底を付いたインパルスは胸部に搭載された近接防御用機関砲を除けば、撃ち返すことすらままならない。
『くそっ……こんなところで!!』
必死で攻撃を凌ぎながら叫ぶシンの元に、ミネルバのオペレーターであるメイリン・ホークから困惑した声の通信が届いた。
『オ、オーブ軍が……!』
『オーブ軍がどうしたって言うんだよ!! いよいよ本気で俺達を沈めようって訳か!?』
要領を得ないメイリンの言葉とあまりにも絶望的な状況に、シンは苛立った声で叫んだ。
『じょ、状況は不明ですが、オーブ軍が突如現れたレイダーと交戦しているようです!! 領海付近に展開していたオーブ軍、撤退していきます!!』
『なんだと!?』
オーブ解放作戦において、シンは両親の命と妹であるマユの視力を奪われた。偶然マユが落とした携帯を拾おうとしたため、一人その惨劇から逃れていたシンは犯人の姿を見た訳ではなかったが、意識を取り戻したマユの話では、両親とマユは白いモビルスーツと戦っていた黒いモビルスーツに撃たれたらしい。
その話を聞いたシンが真っ先に犯人として連想したのは、とあるモビルスーツだった。
それは地球連合軍とオーブが技術協力を行い、ヘリオポリスで開発されていた地球連合軍初のモビルスーツである前期GATシリーズ。
合計6機開発された前期GATシリーズの中でも、大気圏単独飛行が可能な高機動強襲機として製造されたその機体は、当時のザフトを震撼させると共に、
その名は──レイダー。
『どうしてヤツが……!?』
普段は冷静なレイも我を忘れ、自らの育ての親である“ラウ・ル・クルーゼ”を討った忌まわしき機体に対して激情を露わにする。
オーブ国防軍最高司令官であるミナに事情聴取として呼び出されたタリア以外に、ミネルバでその健在を知る者はいなかったため、その衝撃はあまりにも大きかった。
「何故……!?」
そして健在を知っていたが故に、タリアの衝撃は誰よりも大きかった。第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦でオーブ軍が回収し、表向きは存在しない戦力として秘匿していたのだろうとタリアは認識していたからだ。
そんなレイダーがオーブ軍と交戦しているという事実は、オーブの内情を知らないタリアにとって理解の範疇外だったのである。思わぬ宿敵の襲来に、突如頭の中がクリアになったシンは大声で叫んだ。
『メイリン!! デュートリオンビームを!! それからレッグフライヤー、ソードシルエットを射出準備!!』
インパルスの最大の特性は、前大戦で開発されたZGMF-X11Aのコンセプトを踏襲する合体機構である。
中核である独立型コクピット“コアスプレンダー”を除けば戦闘中に換装可能であり、破損したパーツを交換することで戦闘能力を維持する他、それぞれのパーツに個別でバッテリーが内蔵されているため、継続戦闘能力を高める画期的なシステムだった。
加えて特定箇所に指向性の特殊粒子線を照射されることで、機体側でそれをエネルギー変換し、バッテリーの電力を再充電するデュートリオンビーム送電機能を有しており、その稼働時間は母艦が健在である限り核エンジン機にも匹敵する。
もちろん、一瞬でバッテリーを回復させる訳にはいかないため、まずは眼前に迫り来るザムザザーを退ける必要がある。バッテリーを一切使わずに。
『ヤツがすぐ近くにいるのに……俺はっ!!』
シンは機動防盾を目眩ましに投げ付けると、胸部の近接防御用機関砲を除いて唯一使用可能な対装甲ナイフを腰部ホルスターから抜いた。
ストライクに搭載されている近接対装甲コンバットナイフに影響を受けた、バッテリー内部の電池で高周波震動し、通常装甲であれば貫通可能な切れ味を持つナイフを両手に構えて機体を切り返す。
『おおおおおっ!!!』
フェイントを掛けながらザムザザーに向けて片方を全力投擲し、前傾させて陽電子リフレクターで防がせると同時に無防備な下部に潜り込むと、中心部分にもう片方を突き刺した。
更新が途絶えていたR18版も、不定期ですがこっそり種運命編を開始しました。一部本編を補完している箇所もありますが、内容は普通にR18なのでご注意下さい。
また機体設定を下部に記載します。
【機体設定】
諸元 タソガレ
型式番号 ORB-02
装甲材質 VPS装甲
動力源 バッテリー
搭乗者 アレックス・ディノ(アスラン・ザラ)
【基本設定】
ユニウス条約に伴い需要が高まったワンオフの高性能機として、戦後本格的な開発が行われたモビルスーツ。
その先駆けである本機体には、オーブ軍のフラッグシップとして密かに製造された“暁”と対を為す“黄昏”の名が授けられた。
総合的な性能はフリーダムに匹敵しており、得意分野の空中戦では運動性能で凌駕する他、シラヌイを搭載することで宇宙空間でも極めて高い戦闘能力を誇る。
【武装】
M2M5D12.5mm自動近接防御火器×2
73J2式試製双刀型ビームサーベル
72D5式ビームライフル“ヒャクライ”
試製72式防盾
※ラミネート装甲で製造された大型シールド。先端が鋭利に尖っており、打突武器としても使用可能。本機体は“アカツキ”と異なり、装甲自体に高いビーム耐性が存在しないため、ラミネート装甲を用いた専用シールドが用意された。
大気圏内航空戦闘装備“オオトリ改”
※本体から分離、変形させることで、自律行動可能な支援戦闘機としても運用できるフライトユニット。
オオトリを発展させたものであり、搭乗者には高度な情報処理能力が求められるため、これをカガリが扱える水準まで簡易化させたものがオオワシである。
【作者解説】
要は装甲をVPS装甲に変更して、オオトリとオオワシの中間的存在を搭載したアカツキです。
そこまでアカツキから改変した訳でもないのに、妙にジャスティスっぽさがあるのは不思議ですね。まさかアカツキも本来アレックスさんが乗る予定だった……?