逆襲のクロト   作:皐月莢

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新たな同盟

 〈19〉

 

 ザムザザーの下部に高周波震動ナイフを突き刺し、スラスターの一部を破壊して大きく怯ませたシンは機体を翻すと、受信機能が設置されているインパルスの額でデュートリオンビームを受けた。

 瞬く間に機体のバッテリーが充電されると共に、同時に換装したソードシルエットとレッグフライヤーに搭載されたバッテリーの補助を受け、再びPS装甲が白と赤を基調とした鮮やかな色に変わる。

 そして弧を描くように放ったフラッシュエッジが陽電子リフレクターの効果範囲外から襲い掛かり、装甲の一部と共にリフレクター発生器の一つを両断する。

 

『でやあああああ!!』

 

 虎の子の陽電子リフレクターを喪い、混乱するザムザザーのコクピットにシンはソードシルエットから抜いた対艦刀(エクスカリバー)を全力で突き刺した。

 

『馬鹿な……!』

『今だ!!』

 

 相棒をインパルスの対艦刀(エクスカリバー)で一刀両断され、一瞬の動揺で生じた僅かな隙をレイは見逃さなかった。

 ザムザザーが放つ猛烈な弾幕のパターンを見切り、左腕で構えた空力防盾と僅かなスラスターの制御で4基の複列位相エネルギー砲を交い潜って一気に距離を詰める。

 

『甘い!!』

 

 更に機体の両面から放たれた砲撃を躱し、背部に接続されたビーム砲を両脇に展開してスーパーフォルティスを放った。技術の進歩によって核動力機であるジャスティスに搭載されたフォルティスと同等の威力を有する一撃は、咄嗟にザムザザーが前傾して形成した陽電子リフレクターの前にあっさりと防がれる。

 

『!!』

 

 前傾したことで、攻撃の手が止んだザムザザーに向かって擦れ違うように接近し、死角から振るわれた大型クローを空間認識能力で察知して回避すると、無防備な下腹部にプラズマ収束ビーム砲を放ち──同じくフリーダムに搭載されたバラエーナをバッテリー機で再現した強烈な一撃がザムザザーを貫いた。

 

 〈20〉

 

 目的地であるオーブ領海付近に潜伏していたイズモの格納庫にて、クロトとカガリは黄昏との戦闘で深く傷付いたレイダーのコクピットから降りた。

 衝撃を吸収するパイロットスーツを着ておらず、予備のヘルメットを被っていただけのカガリは全身に痣が出来ていたが、特に支障はないようだった。クロトは自らのヘルメットを脱ぐと、気怠そうに額の汗を拭った。

 

「……あー、疲れた」

 

 建前上はアスハ家の有志がセイラン家に取り込まれたオーブ代表首長を救出するという体裁を繕う必要があったため、オーブ軍に人的被害を出す訳にはいかない。

 そんな状況で旧式に乗り、基本性能では全てが一回り上の“黄昏”を相手に立ち回るのは困難極まるものだった。事実、カガリが囚われているコクピットを狙えないという縛りがなければ何度か危うい場面が存在したが、ともあれ目的は達成である。

 それも意外なオマケ付きで。

 

「こんな船まで用意して……。ヒーローごっこじゃないんだぞ! この馬鹿野郎!!」

 

 クロトは水中に逃げ込んだレイダーを追い、イズモに着艦した“黄昏”から飛び降りたアレックスにいきなり胸倉を掴まれた。反射的に押し退けようとするが、強烈な殴打を頬に受けてその場に崩れ落ちる。それを後ろから見ていたカガリが悲鳴を上げ、別方向からは血相を変えたラクスとキラが現れた。

 

「止めてください、アスラン。クロト様の所為ではありませんわ」

「ラクス!? しかしコイツは……」

「アスラン!!」

 

 ラクスの激しい剣幕に、アレックスは思わず怯んだ。そして隣のキラに助けを求めるような視線を向けるが、キラはその視線に構わず倒れ伏したクロトの下に駆け寄る。

 キラの存在を認識したクロトは上体を持ち上げると、即座に立ち上がってパイロットスーツに付いた埃を払う。

 

「大丈夫?」

「こーいうのは慣れてるから。僕は問題児だったからねえ」

「それは、そうだけど……」

 

 かつてロドニア研究所で受けていた“教育的指導”や、強烈な禁断症状を引き起こす“γグリフェプタン”が切れた時の苦痛と比較すれば、たかが虫に刺されたようなものだ。

 まるで何事もなかったかのような口振りのクロトに、キラは僅かに表情を曇らせながらも笑うと、そんな二人を見てカガリは肩を竦めて呆れた様に呟いた。

 

「……お前らって、ホント仲良いよな」

「そう? でもカガリとユウナ程じゃないよねえ?」

 

 茶化すクロトに、カガリは顔を紅潮させた。

 

「──ッ! 私だって色々悩んで、考えて、オーブの為になると思ったんだ! でなきゃあんな奴と誰が結婚なんてするか!」

「あはははは……」

 

 翌月には国を挙げて行われる予定だった盛大な結婚式が、セイラン家がアスハ家の権威を取り込む為の政略結婚であることは関係者の間では有名な話であり、私人としてのカガリとユウナが不仲というのもまた有名な話である。

 もっとも、ユウナは自分の男としての権威を高めるトロフィー程度には、容姿端麗で鮮やかな金髪を持ったカガリという少女を気に入っているようだったが。

 

「キラ……」

 

 まるで仲の良い兄妹が戯れている様な光景に微笑むキラを見て、アレックスは複雑な表情を浮かべた。

 

「アスラン?」

「……いや、何でもない。こんな馬鹿な真似をした理由は何だ? 国家元首を攫うなんて、国際手配級の犯罪行為だぞ?」

 

 それぞれ初代最高評議会議長、初代国防委員長という形でプラントの立ち上げに携わった“シーゲル・クライン”と“パトリック・ザラ”の子であるラクスとアレックス──アスランは当時対立を深めていたクライン派とザラ派を結束させるため婚約を結び、以来公私に渡って親交を深めていた。

 その婚約関係はアレックスがヘリオポリスを襲撃した際、今まで両親が強制していた男装から解かれた親友──キラとの邂逅で亀裂が生じ、最終的にフリーダム強奪事件とオペレーション・スピットブレイクの情報漏洩容疑を掛けられたシーゲルがパトリックの部下に射殺されたことで、事実上婚約関係は解消されていた。

 しかしパトリックが行った情報統制によって、シーゲルは非業の死を遂げたと発表され、戦後の混乱を避けるためクライン派もそれを是認したため、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになっている。

 ラクスにとってアスランは自らの知る中で最も優秀な少年であり、高度な遺伝子調整が行われたコーディネイター同士とは思えないほど、遺伝子上の相性も極めて良好だという。

 だから余程この人だという運命の相手が現れなければ、ラクスもわざわざ婚約関係を白紙に戻す理由はなかった。

 

「……」

 

 しかしアスランが今もキラに懸想していることを、ラクスは理解していた。

 唯一対人関係の構築が苦手なアスランにとって、月の幼年学校から家族ぐるみで付き合いのあったキラの存在に並ぶ者は存在しない。ましてそれが男装していた可愛らしい少女であれば、むしろ惹かれない方が不思議である。

 

「……そうかもしれません。ですから私達が間違った道を歩んでいると思えば、貴方が私達を正せばいいのではないでしょうか?」

「俺が……君達を……?」

 

 しかしラクスが返還された後も容赦なく自分達を殺しに来るアスランに抱いていた恋心は消え失せ、反対に生体CPUという壮絶な生い立ちが明らかになったクロトをキラは選んだ。

 とはいえ今もアスランの中では未練が残っているらしい。そしてその未練を抑制することが出来るのは、曲がりなりにもアスランの婚約者であるラクスだけなのだった。

 

「もしかして、僕が整備をしないといけないのかなぁ? もうやり方を忘れちゃったけど」

「ここにいても整備の邪魔だって、よくマードックさんに怒られてたもんね」

「しょーがないだろ。やったことなかったんだからさぁ。……でもあの時と違って水ならいくらでもあるから、別に無駄遣いしても大丈夫だよねえ?」

「そういう問題じゃないような……」

 

 かつてクロトが逆行した世界では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という。

 だったら仲睦まじい二人とは異なり、破綻寸前の婚約関係になった自分達はいったい何を間違えてしまったのだろう。

 ラクスは大きく溜息を吐くと、アレックスに今の自分達が置かれた状況の説明を始めた。

 

 〈21〉

 

 オーブを発ったミネルバが地球連合軍の厳重な包囲を打ち破り、カーペンタリア基地に無事到着したという報告を受けたギルバート・デュランダルは平静を装いながらも、内心胸を撫で下ろしていた。

 プラント最高評議会議長でありながら、実質的な権力は秘書である“例の男”に握られているデュランダルにとって、自らの手駒として数えられるのはミネルバの艦長であるタリア・グラディスや、養子であるレイ・ザ・バレルら極少数だけである。

 もちろん、デュランダルも“人の遺伝子に沿った正しい道を歩む社会システムを構築することで、最大多数の最大幸福を実現する”運命計画を実行するためには、この世界を支配しようとする“例の男”は邪魔だった。

 そもそも“ブレイク・ザ・ワールド”や“ラクス・クライン暗殺未遂事件”の真相、そして“偽ラクス擁立”というデュランダルにとって致命的な事実を掴んでいる“例の男”を排除しなければ、デュランダルに未来は存在しない。

 とはいえあくまで遺伝子学者であり、特定の政治基盤を持たず軍事戦略にも造詣が深いという訳ではないデュランダルが運命計画を実行するためには、まだ“例の男”の存在は必要不可欠だった。

 本来圧倒的な戦力を有している筈の地球連合軍や“ロゴス”の内部情報を正確に把握している“例の男”がいなければ、劣勢に陥っている地球連合軍が一挙に盛り返すことも考えられるのだ。

 そんな中で適切なタイミングで“例の男”を排除するのは、あのラウですら為せなかった偉業である。

 老いたナチュラルの肉体というハンデを抱えながら、並み居るコーディネイターを押し退けて白服にまで上り詰めた男のオリジナル──遺伝子的な才能は“キラ・ヒビキ”すら超越しているだろう。

 特に二桁を超える遠隔操作兵器を自由自在に制御するどころか、長期の未来予測すら可能な空間認識能力は他者の追随を許さない。どの遺伝子をどう調整すればこの様な人間が生まれるのか、遺伝子学者であるデュランダルにさえ想像すら出来なかった。

 そもそもラウやレイと同じ遺伝子を有しながら、彼等とは異次元の能力を持っている“例の男”はデュランダルの運命計画にとって、絶対に許容出来ない存在である。

 そんな“例の男”の唯一の欠点と言えるのが、遺伝子学者であるデュランダルが偶然発見した、とある現象を引き起こす者が例外なく保有している特異な遺伝子配列“SEED因子”を持たないことである。

 それはナチュラル、コーディネイター問わず一定の確率で有している、優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子であり、それを有する者は「人と世界を融和する存在」だとマルキオ導師が提唱した因子だ。

 あくまで思想家ではなく学者であるデュランダルは「人と世界を融和する存在」などといったオカルトめいたことを信じている訳ではなかったが、事実としてSEED因子を発現させた者が一時的に圧倒的な能力を獲得することは理解していた。

 ストライク──そしてフリーダムのパイロットとして活躍した“キラ・ヒビキ”、そんな“キラ・ヒビキ”と唯一互角に渡り合った“アスラン・ザラ”。

 最後にモビルスーツの絶対的な性能差を覆してラウを討ち取り、デュランダルにSEED因子の凄まじさを示した“クロト・ブエル”。

 傲岸不遜にして、それに見合うだけの能力を有している“例の男”を排除するためには“例の男”と同じ遺伝子を持ったレイに加えて、SEED因子を持つ者としてデュランダルが見出した“シン・アスカ”の覚醒が欠かせない。

 故にあえて“例の男”の不興を買い、本物のラクス・クラインが敵に回るリスクを冒してまで密かに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()訳だが、デュランダルの計画は失敗してしまった。

 とはいえデュランダルがラクスに似た声を見出し、整形手術で偽者のラクスに仕立て上げた“ミーア・キャンベル”の働きによって、プラント国内に一定数存在する厭戦派を牽制すると共に、地球全土で反連合の機運を高めており、計画に支障はきたしていない。

 かつて平和の為に第三勢力を結成し、互いに大量破壊兵器を撃ち合う未曾有の絶滅戦争を終わらせる為に尽力したラクス・クラインが一勢力に肩入れすることなど、真にラクスを理解している者であれば有り得ないことだ。

 しかしかつてとある偉人が言ったように、人は自分の見たいものしか見ないのだろう。

 自分達ザフトは正義で、地球連合軍は悪。そんな風に二極化するなと訴えていたのが、ラクス・クラインだということから目を背けて。

 事実、ロード・ジブリールを操ってアーモリーワン事変を引き起こし、旧ザラ派のテロリストを支援してブレイク・ザ・ワールドを引き起こし、部下にラクス・クラインの暗殺を命じながら偽者を擁立している自分が──その手足であるザフトが、横暴な地球連合軍と戦う救世主として持て囃されているのが現実だ。

 もしも全ての事実が明らかになれば、今度こそプラントは諸悪の根源として内部崩壊するだろう。そしてそれが恐らく“例の男”がプラントに現れた理由だ。

 かつて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ラウとは真逆で、本質的には()()()()()()()()()()()()()()()()“例の男”は、先の大戦で“ニュートロン・ジャマー”や“ジェネシス”を造り世界を滅ぼそうとしたプラントを──そして種の断絶に繋がるコーディネイターという存在を許容していない。

 実際、国民の大半がコーディネイターで構成されているプラントは、人口減少を食い止める何らかの技術革新か、ナチュラルが多数存在する地球を支配下に置かなければ国家として存続不可能になるだろうということは、有識者の中では常識である。

 だからこそプラントは自衛戦争だと主張する一方で、積極的自衛権の行使を名目に世界各地へ降下部隊を送り込むオペレーション・スピア・オブ・トワイライトの様に、客観的に見て過剰防衛とも言える作戦を許容したのである。

 かつてアーモリーワン事変が起こった際、強奪したセカンドシリーズで暴れているファントムペインに対して、インパルスのパイロットであるシン・アスカは「また戦争がしたいのか、あんた達は!」と叫んだ。

 しかし真に戦争がしたいのは就任期間中に大衆の支持を得て全世界に運命計画を執行したいデュランダル自身と、やがて人口減少で国力が維持出来なくなる為、内心第二次連合・プラント大戦を行う大義名分が欲しかったプラントだ。

 でなければ、モビルスーツやフレアモーターを用意し、綿密な計画を立てて実行に移された筈のユニウスセブン落下テロ事件に関与したテロリスト達は全員死亡した、などというデュランダルの詭弁がプラントで許容される訳などないのだから。

 自らが搭乗するつもりらしい、核エンジンとデュートリオンビーム送電システムをハイブリットさせた『ハイパーデュートリオンエンジン』を搭載した第三のモビルスーツの設計に励む“例の男”に一瞬視線を遣ると、デュランダルは偽者のラクス・クラインが読み上げる原稿の作成に戻った。




オーブ解放作戦でジャスティスにバラエーナをぶち込んでしまうキラちゃんがいなければ、アレックスさんはラクスの婚約者として三隻同盟の二大エースだったという風潮。
原作の種運命でもプラント市民はその認識なので、クロトが勘違いするのは必然かもしれません。

【小ネタ】
ブーステッドマン=クロト・ブエルは生体CPUである!
彼を改造したブルーコスモスは反コーディネイターを掲げる悪の自然保護団体である! ブーステッドマンは青き清浄なる世界の為にザフトと戦うのだ!!

【没プロット公開】※種編の終盤も一部変更有
クルーゼとの死闘の末、ジェネシス内部でプロヴィデンスの核爆発に巻き込まれて戦死したクロト。
絶望しつつもシングルマザーとして生きていたキラちゃんだが、ザフトの襲撃をきっかけにフリーダムに乗り、各地で停戦を訴えながら武力介入を開始。
しかし漆黒の制式レイダーは唯一互角に渡り合う。
そんな中、フリーダムはベルリンでデストロイと激闘を繰り広げるが、その最中に突如デストロイは停止する。
その隙を突いてフリーダムの制止を振り切り、ビームサーベルを叩き込むシンだったが、コクピットの中には(以下略)

どう考えても収拾が付かないので、以前公開したプロットと同じく没になりました。
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