12.
中立国のコロニー、ヘリオポリスの崩壊。
その報告を受けたデュエイン・ハルバートンは、麾下の地球連合軍第8艦隊を率いて月面基地を出撃していた。
彼はモルゲンレーテ社からの技術協力を受けて始めたG兵器開発計画の推進者であり、マリュー・ラミアスの上官に当たる人物だった。
アークエンジェルとの遠距離通信に成功したハルバートンは補充要員を乗せた先遣艦隊を先行させたが、合流地点付近で潜伏していたクルーゼ隊の襲撃を受けていた。
「──モビルアーマー、発進急がせ! ミサイル及びアンチビーム爆雷、全門装填!」
「熱源接近! モビルスーツ6!」
「くっ……」
遂にアークエンジェルと合流を果たした地球連合軍第8艦隊の先遣隊旗艦──モントゴメリの艦長であるコープマンは唇を噛み締めた。
モントゴメリの随伴艦であるバーナード、ローはそれぞれ敵のモビルスーツ部隊に包囲され、船体のあちこちから火の手が上がっている。
「一体どういうことだね! 何故今まで敵艦に気付かなかったのだ!!」
ブルーコスモスと大西洋連邦事務次官の権威を濫用し、モントゴメリに同船していた中年の男──ジョージ・アルスターはコープマンに詰め寄った。
しかしザフトの中でも特に精鋭部隊と呼ばれるクルーゼ隊がその気になれば、その接近を察知することは不可能なのだ。
コープマンはジョージの非難を無視して各所に迎撃指示を出した。同時に合流を果たしたアークエンジェルに反転離脱の指示を打電した。
「いったい何のつもりだ!」
「この状況で何が出来るって言うんです?」
アークエンジェルはモビルスーツ戦を想定して造られた最新鋭艦だ。そのため、母艦としてはもちろん戦艦としても優れた能力を有している。
しかし実態は正規クルーの大半を失い、ヘリオポリスで救助した学生にCICを手伝わせている状況であり、戦力として期待出来る状態ではなかった。
そんな不完全な戦力でクルーゼ隊を撃退するのは不可能であり、むしろ反対に先遣艦隊を含めた4隻が全滅する公算の方が高かったのだ。
「合流しなくてはここまで来た意味がないではないか!」
「あの艦が落とされるようなことになったら、もっと意味がないでしょう!」
第8艦隊の最優先目標は、奇跡的にザフトからの強奪を免れたレイダー、ストライクをアラスカ基地に持ち帰ることだ。
開戦以来、連戦連勝を続けているザフトに勝利するためには、両機のデータと実物を基に連合製モビルスーツの量産化に着手する事が重要だったのだ。
極端な話だがたとえ先遣隊が全滅したとしても、レイダー、ストライクさえ無事であれば作戦は成功だ。反対に先遣隊が全滅を免れたとしても、アークエンジェルが撃破されて両機が喪われるようなことになれば、今までの犠牲が全て無駄になってしまうのだ。
「護衛艦、バーナード沈黙!」
「奪われた味方機に落とされる……。そんなふざけた話があるか!」
イージスは周囲を飛び回るメビウスを次々撃ち抜くと、変型しながら宙域から離脱しようとするバーナードに取り付いた。そしてクローで装甲を掴むと、動力部に向かって零距離で極大のビームを撃ち込んだ。
一瞬の沈黙と共に大穴が開き、目も眩むような大爆発が起こった。
〈お前達さえいなければ!!〉
本来はPS装甲にも通用するローの砲撃を、アスランはいとも簡単に回避した。
そして敵討ちに突撃したメビウスを擦れ違いざまに斬り捨てながら、傷付いた哀れな子羊に突撃していく。
〈1隻残らず沈めるぞ、アスラン!!〉
まさに変幻自在だった。
ラウは迫り来るメビウスを一方的に撃墜すると、モントゴメリの周囲を飛び回りながら激しい銃撃を浴びせている。
2人の天才が示した力は先遣艦隊の戦意を完全に喪失させた。
誰もが全滅を覚悟する中、ジョージは悲壮な表情のまま沈黙する通信兵に叫んだ。
アークエンジェルから送られた乗船者リストの中に、とんでもない怪物の名前が乗っていることを思い出したのだ。
「直ちに
「しかし……! この状況ではっ!?」
コープマンは困惑した。
クロトの正体を知らないコープマンにとっては、クロト・ブエル少尉は唯一生き残ったG兵器のテストパイロットでしかなかったからだ。
こんな絶体絶命の状況で援護に来させたとしても、既に手遅れどころかクルーゼ隊に包囲されて撃墜される可能性が高い。万が一生き延びたとしても、アークエンジェルに帰投出来ず死亡する可能性が高いと思ったのだ。
「アレは
「ど、どうしてそんな重要なことを……」
コープマンは実在すら疑われていたパイロットの存在に絶句した。
これまでアークエンジェルが無事だった理由は明白だった。ナチュラルでありながらザフトを一方的に葬り去る怪物が、アークエンジェルに乗艦していたのだ。
最初から出撃を命令しておけば、精強なクルーゼ隊だろうと返り討ちにすることも不可能ではなかっただろう。
結果的にジョージにとってクロトの存在を黙っていたことが、先遣艦隊を全滅寸前まで追い込む事態を招いたのだった。
13.
「……コープマン大佐より打電です! 少尉を出撃させた後、アークエンジェルは直ちにこの宙域から離脱するようにと!」
ムウはミリアリアから意外な報告を受け、思わず怒りを露わにした。
「おいおい。今すぐ出撃しても間に合うかどうか怪しいってのに、そのまま少尉を置いて離脱しろだと? コープマン大佐ってのは随分ふざけた指揮官みたいだな?」
「い、いえ。そんな筈はないのですが……」
ナタルは宥めるように取りなしたが、モントゴメリから送られた通信は理解に苦しむものだった。包囲された先遣隊を見捨てさせる訳でもなく、全軍で救援に向かわせる訳でもなく、単にレイダーを救援に寄越せという内容だったからだ。
連合屈指の名指揮官と謳われるハルバートン准将も認めるコープマン大佐が、こんな馬鹿げた通信を送る筈がないと思ったのだ。
「僕は構いません。それが命令ですからね」
ピクニックに行くような雰囲気のクロトに、ムウは強い口調で言った。
「いくらなんでも無茶だぜ。バッテリーが切れたらそれで終わりなんだぞ?」
ニュートロンジャマーの影響によって長距離通信が困難な状況下で、1度母艦を見失ったモビルスーツが帰投出来る可能性は極めて低い。
それも酸素の関係で、活動時間に明確な限界が存在する宇宙空間なら尚更だった。
「駄目です! 死にに行くようなものです!」
「その時はその時だよ」
マリューはクロトの暴走を止めようとするキラを見て、口を開いた。
「今から反転しても逃げ切れるという保証はないわ。総員第一戦闘配備! アークエンジェルは先遣隊援護に向かいます! 2人も直ちに出撃準備を!」
ここで最大戦力のレイダーを見捨てるような形で喪うことになれば、たとえクルーゼ隊の追撃を振り切ったとしても艦内の士気は崩壊すると判断したのだ。
「大丈夫だよね、パパの船、やられたりしないよね? ね?」
フレイはキラの胸倉を掴むと、悲壮な声で叫んだ。少女は先程から艦内に漂っている不穏な気配を感じてCICに来ていたのだ。
「邪魔」
クロトは目の前のフレイを突き飛ばすように押し退けた。そしてすっかり臨戦状態に突入している様な殺気を放ちながら言った。
「そんなこと僕は知らないね。やらなきゃやられる、それだけだよ」
フレイはクロトの凶悪な迫力に息を呑んだ。
一方のムウはその戦い慣れした雰囲気に頼もしさすら感じながら、殺伐した状況に困惑しているキラに声を掛けた。
「少尉の言う通りだぜ、嬢ちゃん。まずは自分が死なないことを一番に考えるんだ。あとはなるようになるだけさ」
「初めて上官らしいことを言ってますねぇ」
茶化したクロトに、ムウは吹き出しながら返答した。
「今までただのおっさんだったからな! 嬢ちゃんのお守りは俺に任せろ!」
「……あぁ、おっさんの自覚はあったんですね」
「おっさんじゃない!」
ムウはそんなクロトとキラを引き連れると、格納庫に向かって走り始めた。
合計3隻だった筈の第8艦隊の先遣隊は、既に傷付いた姿で宙を漂うモントゴメリ1隻を残すのみになっていた。まさに土壇場という状況だ。
クロトは無数の光弾を横滑りして回避しながら、目に付いたイージスに向かって全速力でレイダーを急加速させた。
〈また会ったな、赤いの!!〉
〈さっさと来い! この狂犬が!!〉
機首と肩部に搭載した機関砲を連射し、真っ向から反航戦を仕掛けた。
クロトは擦れ違いざまに機体を変型させて急制動を駆けると同時に、イージスの横腹を狙って破砕球を投擲した。
アスランは機体を捻って攻撃を紙一重で躱すと、左腕と両足の先端からビームサーベルを展開して懐に飛び込んだ。
クロトは両脚の一撃を急上昇しながら回避した。そして右腕に取り付けたシールドを斬撃に合わせ、そのまま突き付けるように連装砲を連発する。
アスランは反動で僅かに距離が開いた瞬間に大口径ビームを撃ったが、レイダーの頭口部から放たれた高出力エネルギーがそれを阻んだ。
特性の違いはあれど、イージスとレイダーの最大火力は互角だった。
〈俺がお前を……! 討つ!!〉
アスランは怒りと共にイージスを再加速させた。そして獲物を見付けた猛禽類の如く迫り来るレイダーと接近戦に突入した。
〈抹殺ッ!!〉
クロトはシールドを狙って破砕球を全力で叩き付けると、フレーム内部に浸透するような鈍い衝撃がイージスを襲った。
思わず意識が一瞬飛ばされそうになりながら、アスランは両脚のビームサーベルを最大範囲に伸ばしてレイダーの左足を斬り飛ばした。
〈お前の様な奴がいるからっ!!〉
〈蒼き清浄なる世界の為にィ!!〉
クロトの放った機関砲がジンを蜂の巣に変え、アスランが反撃で放ったビームがメビウスを蒸発させた。更にクロトの放った攻撃を避けながら強引に距離を詰めた。
単純な格闘戦では選択肢の多いアスランが有利だ。しかしクロトの卓越した技量はアスランの接近を許さなかった。
クロトは反射的に蹴りを放った。間一髪でイージスを蹴り飛ばして射程範囲外に逃れると、無防備なコクピットを狙って機関砲を連発した。
〈おいおい、あんなのに巻き込まれたら一瞬でお陀仏だな。お嬢ちゃんもボーッとしてる暇はないぞ! どんどん撃て!〉
〈……は、はい!〉
覚悟していたとはいえ、まさに鬼気迫る戦いだ。
目の前で繰り広げられている壮絶な光景の前に、キラは
〈!!〉
レイダーとイージス。
メビウス・ゼロ&ストライクとシグー。
どちらも危うい所で均衡を保っていたが、格納庫の弾薬に引火したのかアークエンジェルの防衛目標だったモントゴメリが爆沈したのだ。
その直後だった。クロトは戦場に響き渡る声明を耳にした。
『──当艦は現在、プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している。偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴官のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理するつもりであることを、お伝えする!』
どうやら敗戦を悟った自軍がラクスを人質にしたらしい。
どうしてこのタイミングで? 誰の指示で? クロトは機体の動きを止めた。
『お前達地球連合軍は!! どこまで卑怯者なんだ!?』
アスランはクロトに向かって激高した。
『うるせーんだよ。……やらなきゃやられる、それだけだろうが……』
クロトは情けなさすら感じながら、呟くような声で返答した。
地球連合軍が心底腐敗しているのは重々理解していたが、それはあのアークエンジェルのクルー達も例外ではなかったのだ。
〈残念だが退くぞ。作戦を練り直す必要がある〉
ラウはレイダーが去ってからも、その場で沈黙しているアスランに呼び掛けた。
〈……まさかラクスが奴等の手に落ちていたとは〉
〈あぁ。厄介なことになったな〉
その言葉とは裏腹に、ラウは先程まで対峙していた少女の正体に確信を深めた。
少女の本名はキラ・ヒビキ。
彼女は世界最高の才能を獲得した“スーパーコーディネイター”として、そしてある男の後継者を産み出す存在として造られ、その唯一の成功作として誕生した少女だ。
我が子に全ての遺伝子を確実に成功させる機能を保有し、全ての分野で世界最高の才能を約束する、まさにヒビキ博士が理想とした生きた人工子宮だ。
この世の誰もが求める一方で、誰もが自分が彼女でないことに安堵する存在。
フラガ家は代々、一族同士の存在を感じ取る特殊能力を有している。それは一族の人間に持っている、特定の遺伝子配列で獲得する空間認識能力に起因していた。
あの男は巨額を投じて造らせた少女を逃がさないため、遺伝子調整を通じて彼女にその能力を獲得させたのだ。
一族の中でも歴代最高の能力を持つ、自分だけが唯一感じ取れる範囲で。
つまり
せいぜい彼女を守れよ。
あの生体CPUがいなければ、キラはとっくに死んでいただろう。
いくら彼女がスーパーコーディネイターであろうとも、単なる素人のキラが英才教育を受けた赤服達に勝てる訳がない。
生体CPUという存在はヒトを超える為に造られた存在という意味では、意外にもスーパーコーディネイターに近い立ち位置だ。
そんな2人の出会いは、この世界にいったい何をもたらすのか。
ラウはコクピットの中で静かに嗤った。
誰よりも早く種割れしそうなアスランですが、ここで種割れすると色々と大変なことになりそう。
クロトくんが乗り換えるなら
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レイダーのまま(鋼の意思)
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核搭載レイダー(あっ……)
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フリーダム(自由が欲しかった!?)
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ジャスティス(大穴)
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ブロヴィデンス(!?!????)
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その他