逆襲のクロト   作:皐月莢

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歌姫との別れ

 14.

 

「──なんであいつらをやっつけてくれなかったのよ!! あんた……自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!!」

 

 フレイは涙ながらに絶叫した。先遣艦隊の全滅に伴い、父親であるジョージ・アルスターの戦死が明らかになったからだ。

 一方のキラも、すっかり親友となったラクスがアークエンジェルに人質として利用された事実に呆然となっていた。

 苛々しているのはこっちの方だ。

 クロトは呆れた様に肩を竦めると、結果的に最悪の事態を招いてしまったことを理解したのか沈黙しているマリューとナタルを睨んだ。

 

「……本気で戦ってないのは、あんた達の方だろ。どうせラクスを人質に取るなら、さっさとやればよかった。そうすれば先遣艦隊が全滅することはなかった。あんた達は僕達の命を危険に晒しただけだ」

「私達も……迷って……」

 

 この後に及んで、まだ自分達は最善を尽くしたとでもと言いたいのか。クロトはぐだぐだ言い訳する2人をばっさりと切り捨てた。

 

「迷った、ねえ。……中途半端な対応で連合軍の威信を失った挙句に先遣艦隊を全滅させたあんた達より、その子の方が余程指揮官に向いてるよ」

 

 ラクスを人質にしたことでアークエンジェルの悪名はプラント中に広まり、第八艦隊の地球連合軍での立場も悪くなるだろう。

 クロトは周囲の雰囲気が変わったことで困惑しているフレイに、マリュー達に向けたものと同じ冷ややかな視線を向けた。

 死人に鞭を打つような手段はクロトの好みではないが、ジョージは自分の命惜しさに自分を囮にしようとしたのだ。死亡したからといって、それをあっさりと許せるほどクロトは大人ではなかった。

 

「あ、そうそう。僕も本気で戦ってないよ。僕に死ねって命令しておいて、本気で戦って貰えると思ったら大間違いだろ?」

「……あんた、ふざけないでよ!!」

 

 間近で目撃したクロトの戦いぶりは、まさに鬼気迫るものだった。アルテミスで見せたのは単なるニュートラルだったのだ。

 完全に馬鹿にされている。そう感じたフレイは抗議の声を上げたが、クロトはけらけらと嘲笑しながら平然と切り返した。

 

「やっぱり盟主様に怒られるかな? 同じブルーコスモスの仲間を見殺しにしたのはさ」

 

 ジョージ・アルスターはブルーコスモスだ。

 それも単なるテロリスト紛いの過激派とは異なり、大西洋連邦外務次官の地位を利用して世界各地で反コーディネイターのロビー活動を行っている人物だった。

 

「軍人でもない君のお父さんがあの船に乗ってたのは、アルスター家がブルーコスモスの一員だからでしょ? ブルーコスモスの力でパイロットに選ばれた僕が言えた口じゃないけど、特権濫用も程々にしないとねえ」

 

 地球連合において、反コーディネイター感情を持つ者は少なくない。

 しかし反コーディネイターの看板を掲げ、テロ活動すら辞さないカルト集団であるブルーコスモスに所属することを公言する者は意外にも少数派だ。

 それは国策としてコーディネイターを受け入れているオーブであれば尚更だった。今まで周囲に隠していた事実を、クロトに暴露されたフレイは沈黙した。

 

「……お父様はともかく、私は!」

 

 フレイはクロトの一方的な言葉に反論する材料がないことに気付いた。

 ジョージはフレイに自分の思想を強要しなかった。

 しかしジョージに溺愛されて育てられ、今もキラに食って掛かった自分がブルーコスモスではないなどと主張しても誰が納得するだろうか。

 

「ま、僕は別にどっちでもいいんだけど」

「……違う。違うんだから……」

 

 思う存分暴言を吐いたクロトはイージスに損傷を受けたレイダーの状態を確認するため、何かを言いたそうにしているキラを置き去りにして格納庫に向かった。

 

 

 

 本気で戦っていない。

 キラはフレイの言葉を反芻しながら、通路の片隅で座り込んで泣いていた。

 頑張っているつもりだけど、本気はもっと先にあるのだろう。だって自分は誰にも内緒にしていることがあるのだから。

 

「どうなさいましたの?」

 

 キラは不意に投げ掛けられた声に顔を上げた。

 すると個室で軟禁されている筈のラクスが、キラの顔を覗き込みながら心配そうな顔を浮かべていた。

 

「何をされてるんですか? こんなところで」

「ピンクちゃんのおかげです。……戦いは終わりましたのね?」

 

 ピンク色の自律機械“ハロ”。

 その機械には高度な解錠機能が搭載されており、ときどき勝手に鍵を開けてしまうことがあるらしい。ラクスはその機能を利用し、戦闘が終わって静けさを取り戻した船内を散歩していたらしかった。

 

「ええ。貴女のお陰で……」

「なのに、悲しそうなお顔をしてらっしゃるわ」

 

 ラクスは優しく問い掛けた。するとキラは遂に耐えられなくなり、今まで誰にも打ち明けられなかった重大な内容を口にした。

 

「……私、ずっと皆に隠してることがあって。……あのモビルスーツ……イージスのパイロット。……アスランはとても仲の良かった友達で、初恋の人なんです……」

 

 ラクスは驚いた様子で、両手を口に当てて息を呑んだ。

 

「そうでしたの。……()()クロト様もいい人ですもの、それは悲しいことですわね」

「彼? アスランを知ってるんですか?」

 

 キラはラクスの顔を不思議そうに見た。まるでラクスが、イージスのパイロットであるアスランを知っているような口振りだったからだ。

 

「アスラン・ザラは、私がいずれ結婚する方ですわ。……優しいんですけども、とても無口な人。でも、このハロをくださいましたの! 私がとても気に入りましたと申し上げましたら、その次もまたハロを」

 

 ラクスは無邪気そうに笑うと、キラもつられて笑った。アスランが会う度に渡すハロで、完全に部屋が埋め尽くされてしまう光景を想像したからだ。

 

「……そうですか。アスランは相変わらずなんですね。私のトリィも彼が作ってくれたものなんです」

「まぁ! そうですの? お二人が戦わないで済むようになればいいですわね……」

 

 ラクスは溜息を吐いた。

 旧い友人であり初恋の人であるアスランと、現在片思い中のクロト。そんな2人が戦場で戦う光景は、キラにとって耐え難いものなのだろう。

 とはいえザフトに所属するアスランと、地球連合軍に所属するクロトが戦場で出会えば戦闘は避けられないだろう。

 どうすれば戦争が終わるのか。その答えは見付かりそうにもなかった。

 

15.

 

「……相談したいことがありまして」

 

 この計画を成功させる為には、なんとしても説得に成功しなければならない。キラはベッドの上で寝転がるクロトに目線を向けた。 

 

「もしかして、ラクスをプラントに帰らせてあげたいとか?」

 

 クロトは手元の携帯ゲームに興じながら言った。

 いきなり核心を突かれたキラは思わず硬直したが、むしろそれを肯定するような口調に警戒を解いた。

 

「クロトさんは反対しないんですか?」

「このまま地球連合に引き渡せば、多分人質どころじゃ済まないからねえ。……でも僕は君から何も聞いていないし、何も知らない。それでいいだろ?」

 

 正規軍人という立場上、手伝うことは出来ない。反逆罪で処罰されかねないし、アズラエルに発覚すれば即座に処分も考えられる。

 もちろんその気になれば、キラを粛正するのは容易だろう。だがそんな気になれないのは自分の中に芽生えた甘さなのか、それとも別のものなのか。

 まったくヘリオポリスに訪れた時の自分とは大違いだ。クロトは静かに苦笑した。

 

「ありがとう、ございます」

 

 何にせよ、このままでは都合が悪い。いっそそれなら──

 クロトは感謝を口にするキラに、ふと脳裏に過った提案を口にした。

 

「この際、ラクスを連れてザフトに投降しろよ。ラクスと口裏を合わせれば、プラントに保護して貰うくらい出来るでしょ。僕に脅されてたとかさ」

「……そんなことをしたら、皆が……」

 

 アークエンジェルには現在、キラや正規クルー達以外にフレイらヘリオポリス宙域で回収した避難民達も乗っている。

 レイダーには劣るとはいえ、ストライクもアークエンジェルの貴重な戦力だ。それを失ったアークエンジェルは、今まで以上に危険な状態に陥るだろう。

 クロトは自分だけ逃げ出すことは出来ない、と言いたげなキラの言葉を遮った。

 

「皆って誰のこと? CICにたむろしてる馬鹿なクラスメート?」

「そういう言い方は……ちょっと……」

 

 キラは毒を混ぜたような口振りに気圧された。

 

「そうかな? 志願して連合軍に協力してるんだから、もう善良な中立国の民間人とは言えないでしょ。ま、自分は関係ないって顔してる避難民も大概だけどさ」

 

 人体実験の被検体と、中立国の民間人。

 本来決して交わらない立場の人間と関わったのは初めてだったが、想像以上に心をざわつかせるものだった。その感情はいったいどこから来ているのだろうか。

 クロトは携帯ゲームの画面をぱちんと閉じて嗤った。

 

「君もクルーゼ隊に入って僕を殺しに来てもいいんだよ。……やられないけどね」

 

 彼女と戦場で対峙することになれば、何かが分かるかもしれない。はたして自分は彼女を撃つことが出来るのか、そうでないのか。

 今の自分であれば、彼女を撃てるような気がした。

 

「そんなことしませんよ。戻って来ます、必ず」

 

 しかしキラはクロトの突き放すような言葉をきっぱりと否定した。

 このまま戻って来ない方が楽だけど。クロトは矛盾した思いを呑み込みながら、退出した少女を無言で見送った。

 

 

〈こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク!〉

 

 キラが放ったメッセージは、ヴェサリウス艦内に衝撃を与えていた。

 それはラクスを人質に取ったアークエンジェルを虎視眈々と追跡しながらも、手をこまねいていたクルーゼ隊にとって天恵と成り得るものだったからだ。

 

〈ラクス・クラインを同行、引き渡します! ただし! ナスカ級は艦を停止! イージスのパイロットが、単独で来ることが条件です。この条件が破られた場合、彼女の命は保証しません……〉

 

 それは罠としか思えない内容だった。

 その気になったところを、漆黒の襲撃者が現れるとしか思えなかった。

 しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。

 たとえ罠でもキラと接触する好機だと考えたクルーゼとアスランは、一先ずそのメッセージを信用することにした。

 

「隊長! 私に行かせて下さい……!」

「分かった。許可しよう。可能であれば、ストライクのパイロットを投降させろ。成功すればこのクルーゼが彼女の安全を保証しよう」

「は! ありがとうございます」

 

 一方のアークエンジェル艦内は騒然となっていた。

 突然キラが無断でラクスを連れ出し、クルーゼ隊と接触しようとしているのだ。

 

「艦長! あれが勝手に言ってることです! 攻撃を!」

 

 やはりコーディネイターはコーディネイターということか。ナタルはアークエンジェルの射程圏外に逃れようとしているストライクに向かって叫んだ。

 

「こんな時に少尉は何処に行ったの!?」

 

 この状況を打破出来るとすればクロトとレイダーだけだろう。

 しかしクロトは先程から姿を消しており、マリューの招集命令に一切答えない。

 その中で唯一ムウは笑った。歯噛みしているクルー達とは異なり、今回キラが起こした暴挙の経緯におおよその推測が付いたのだ。

 

「くくっ。嬢ちゃんが少尉に黙ってこんな事をする訳がないだろ? たぶん少尉も納得済みだろうさ。お姫様と親しかったのは、あの2人だからな」

 

 

 

 キラのメッセージから、経過すること十数分。

 ラクスは要求通りイージスの中から姿を現したアスランに抱えられていた。

 今後も困難が待ち受けているだろうが、キラはアークエンジェルに残るらしい。勇気ある決断を下したキラに、ラクスは感謝の言葉を告げた。

 

「いろいろとありがとう、キラ。クロト様にも、お世話になりましたとお伝えください。御二人のことは決して忘れません」

「私も、貴女と過ごした時間は幸せでした」

 

 どうやらラクスとキラの間には、同じコーディネイターとして友情があるらしい。

 今が好機だ。アスランは拳銃を構えたまま自分達を見送るキラを説得するため、ラウから託されたメッセージを叫んだ。

 

「さぁ、お前も一緒に来い! 今なら俺の隊長が、お前の身の安全を保証してくださるそうだ!」

 

 キラは沈黙を保ったまま動かなかった。

 魅力的な条件を用意したというのに、なぜ俺の言うことを聞かない? キラの反応が芳しくないと感じたアスランは更に叫んだ。

 

「お前はコーディネイターなんだ! お前が地球軍に居る理由がどこにある!? ……お前は地球軍の連中に騙されているんだ!! 俺は、お前と戦いたくない!!」

 

 キラは唇を噛んだ。

 結局のところ、アスランにとって地球連合はただの敵でしかないらしい。ザフトだってヘリオポリスと同じように無関係な人を大勢殺しているのに。

 

「私だって……貴方とは戦いたくない! でも、あの船には大事な友達が……力になりたい人が居るの!」

 

 アークエンジェルには同じゼミの友達も、ヘリオポリスの避難民もいる。最前線で戦っているというのに、自分を送り出そうとしてくれた少年兵もいる。

 だからここで自分だけ逃げ出す訳にはいかない。

 

「……ならば仕方ない。……次に戦うときは、あのブルーコスモスのパイロットもろとも俺がお前を討つ!」

 

 キラは息を呑んだ。

 やはりアスランはこちらの状況など、考えたこともないのだ。今こうして自分がストライクに乗っているのは、そもそもアスラン達のせいなのに。

 まして今もラクスを引き渡すことに影で協力しているクロトのことなど、ただの危険人物だとしか思っていないのだ。これでは話にならない。

 

「私も……!」

 

 キラは誰かに見られている様な気配を感じ、ストライクに乗り込んだ。そしてスラスターを逆噴射すると、沈黙しているイージスから距離を取り始めた。

 

〈残念ながら交渉は決裂したようだな、アスラン! ヤツが現れる前に、ストライクを確保するぞ!〉

 

 ラウはキラのメッセージを無視し、密かに出撃していたのだ。十分に加速したシグーはみるみる距離を詰め、早くもストライクを捉える位置まで接近していた。

 

「いったい何を!?」

 

 アスランは目を見開いたラクスを収納しながら、大きく頷いた。

 先に卑怯な手段を取ったのは地球軍の方だ。ここでストライクを確保すれば、キラを説得するのは簡単だろう。

 しかしラクスはコクピットの片隅で立ち上がった。そしてアスランがラウに応答しようとした通信機を強引に奪い取った。

 

〈ラウ・ル・クルーゼ隊長! 止めて下さい!〉

「な、何をするんだラクス!?」

 

 アスランは通信機を奪い返そうとしたが、ラクスは一瞬早く両手で抱え込んだ。こんな情けない真似をさせる訳にはいかなかったからだ。

 

〈追悼慰霊団代表の私の居る場所を、戦場にするおつもりですか? そんなことは私が許しません! すぐに戦闘行動を中止して下さい!〉

 

 呆気に取られている様子のラウに、ラクスは更に大声で叫んだ。

 

〈聞こえませんか? すぐに戦闘行動を中止して下さいと言っているのです!〉

 

 アスランは思わず言葉を失った。いつもニコニコしている印象だった少女が、激しい剣幕を露わにしたからだ。




キラちゃんの才能はポケモンに例えると、子供の特性を自由に選択可能+6Vが確定するメタモンみたいなものだと思ってください。

改造コードかな?

クロトくんが乗り換えるなら

  • レイダーのまま(鋼の意思)
  • 核搭載レイダー(あっ……)
  • フリーダム(自由が欲しかった!?)
  • ジャスティス(大穴)
  • ブロヴィデンス(!?!????)
  • その他
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