16.
「──被告は、自分の行動が艦の安全をどれほど脅かしたか全く理解していません」
ナタルは検察官として、呆れたような口調で言った。
現在キラは民間人であるが准尉相当の扱いを受けている。なぜならモビルスーツのパイロットに抜擢され、野戦任官されたことになっているからだ。
「同意です」
クロトは面倒そうに欠伸を噛み殺しながら回答した。
キラはラクス・クラインを無断でザフトに解放した罪を問われ、アークエンジェルの会議室で臨時の軍事裁判を受けていた。
裁判官は艦長であるマリュー、検察官は副長のナタルが務め、弁護人はクロトが、監視役はムウが務めることになった。
数ヶ月単位で単独行動を行うこともある宇宙軍では、規律を保つためこうした軍事裁判が行われることもしばしばあった。しかし今回のケースは極めて異例だった。
「ラクス・クラインは重要な人質でした。そもそも我々が彼女に貴重な水や食料を分け与えていたのは、この艦の安全を守る為だったんですからね」
「……弁護人は言葉を慎んで下さい」
マリューは頭を抱えた。何せクロトがキラを弁護するどころか、これはただの茶番だとばかりにいい加減なことを主張したからだ。
その真面目腐ったようなクロトの口調は、自分達にはキラの行為を裁く資格などないのだと言わんばかりだった。
「ふ、ふ……」
キラは思わず笑い出しそうになったが、辛うじて下を向いた。
「……今回の我々の行動は、コルシカ条約4条特例項目C、戦時下における措置に相当します」
ナタルはクロトの主張を無視すると、自分達がラクスを人質に取った今回の行動の正当性を主張した。するとクロトは補足するような雰囲気で言った。
「バジルール少尉のおっしゃる通りです。
人を食ったような言葉に、マリューは眉を潜めた。
「キラ・ヤマトは、何か申し開きしたいことがありますか? ……何故あのような勝手なことを?」
「私は、人質にするために助けたわけじゃありませんから……」
「でもこの中でそう思ってるのは君だけみたいだよ?」
どう理屈を並べたとしても、最初は民間人として保護しようとしていたラクスを人質に利用しようとしたのは事実だ。
「異議あり!」
「弁護人は言葉を慎んで下さい!」
ナタルとマリューの叱責するような声に、クロトは大袈裟に肩を竦めた。
このままではいつまで経っても話が纏まらない。
そう考えたマリューは溜息を吐くと、用意していた判決内容を告げた。
「──被告人キラ・ヤマトの行動は、軍法第3条B項に違反、第10条F項に違反、第13条に抵触するものであり、当法廷は同人を銃殺刑とします」
「……ッ!!」
キラはその言葉の重大さに硬直した。
やはり自分の行為は死で償わなければならない犯罪行為だったのだ。事前に“そう”なるだろうと聞かされていなければ、耐えられずに泣き出すところだった。
「……しかし、これはあくまで軍事法廷でのことであり、同法廷は民間人を裁く権限を持ち得ません。キラ・ヤマトには今後、熟慮した行動を求めるものとし、これにて本法廷を閉廷します」
「
クロトは椅子にもたれるように伸びをした。
この船の艦長であるマリューに、キラを裁く度量など無い。
そもそも自分達が不甲斐ないせいで民間人の少女を命懸けで戦わせているのに、どの面を下げて裁くつもりなのか。
今回の軍事法廷はあくまで体裁──民間人だからと何をしてもいい訳ではないという対外的なアピールに過ぎない。
つまりこの軍事裁判は、最初から結果の決まった出来レースだったのだ。とはいえこの茶番劇に付き合わされた人間からすれば、堪ったものではなかったが。
「……続けて、先のクロト・ブエル少尉の職務放棄について、軍事法廷を始めます。キラ・ヤマトは直ちに会議室から退出して下さい」
「ですよねえ……」
クロトはうんざりした口調で言った。
キラの証言で、ラクスの無断解放に関するクロトの関与は否定された。しかしマリューの招集に応答しなかった行為は、言い逃れしようのない職務放棄だ。
自室謹慎位で済めば幸運だ。クロトは退出するキラに手を振ると、それまでキラが座っていた被告席に座り直した。
「──キラ! 大丈夫か?」
会議室を退出したキラは、サイ達に取り囲まれていた。
ラクスの解放について、最大の難関であるクロトの黙認を得たキラは単独で実行しようとしていた。
そんな中で、キラは偶然サイ達にラクスを連れ出す所を目撃されてしまったのだ。地球連合のやり方に反感を抱いていたサイ達は、キラの無断出撃を支持してサポートを行った。
当然ながらサイ達もキラに先立って厳重注意と共に、軽い処罰を受けていた。実行犯であるキラには更に重い処罰が下るのではないか。そう考えたサイ達は、裁判の様子を見に来ていたのだ。
「何て言われたの?」
「お前も、トイレ掃除1週間とか?」
「……大丈夫。厳重注意だけで済みました」
重大な戦争犯罪に対して軽い処罰で済ませる前例を作るよりは、適当な理由を付けて無罪にした方が都合良い。
そんなマリューの判断もあって、キラは事実上の無罪放免となっていた。そうした背景を理解出来なかったサイ達は、めいめいに不満そうな表情を浮かべた。
「そっか。ってことは……俺達だけか」
「私達、マードック軍曹に凄く怒られたの。お前達は危険て言葉すら知っちゃいねぇのかぁ! って」
「あぁ、ごめんなさい。私も手伝いますから」
「いいよ。もうすぐ第8艦隊と合流だし、大したことない」
「……」
フレイは唯一複雑な表情を浮かべた。
その第8艦隊の先遣隊に父親が同乗したことで、結果的に唯一の家族を喪うことになったからだ。
自分のせいだ。そんなフレイにキラは罪悪感と同情を抱いたまま沈黙していると、何かを言いたそうにしているカズイを後ろに従えたサイが口を開いた。
「カズイがさぁ。お前とあの女の子の話聞いたって。あのイージスに乗ってんの、友達なんだってな。しかも初恋の人なんだって?」
「……!」
カズイが自分とラクスの会話を盗み聞きしていたことと、それを周囲に話したこと。そしてカズイの放った無神経な言葉に絶句するキラに対して、サイは神妙な顔で更に言葉を続けた。
「
何が心配なのか。
何がよかったなのか。
キラにはサイの真意が全く理解出来なかった。
勿論思うのは自由だ。誰でも自分の身の安全が心配だし、自分を守ってくれる存在が帰って来れば嬉しいだろう。
しかしそれを張本人に言うのか。
まして、キラが戦っている相手が友達であり初恋の人だと理解した上で平然と言える無神経さがキラには理解出来なかった。
クロトはアスランとの仲を知らないにも関わらず、ザフトに投降することすら勧めていたというのに。
「あは、は……」
それほど中立国の民間人でありながら、地球連合軍の一員としてザフトと戦っているキラの立場は微妙なのだ。
クロトと共にアスランやアスランの同僚と命懸けで戦う覚悟、そして生き延びたとしても、二度とオーブに戻れないかもしれない覚悟で戻って来た自分に対してこの仕打ちはなんなのか。
キラは涙が出そうになった。
「じゃ、俺達、交代だから」
「うん。君が戻って来てくれて、本当に良かったよ」
「またね、キラ」
好き勝手に言うだけ言って立ち去って行くサイ達を睨む気力すら喪い、キラはその場で俯いた。
もちろんアスランのことを話す訳にはいかないが、早くクロトと話がしたい。そう思ったキラは会議室で軍事裁判を受けているクロトを待つことにした。
フレイはそんなキラの様子をじっと見た。
もしも自分がサイと戦う事になったらいったいどんな気持ちになるだろうとぼんやり考えながら、慌ててサイの後を追った。
17.
ヴェサリウスに臨時で設けられた要人専用室にて。
ラウは先程保護に成功したラクスから、レイダーのパイロットであるクロトに関する証言を聞き出そうとしていた。
クロトは文字通り、実在すら疑われていた地球連合軍のエースパイロットだ。
ナチュラルでありながらコーディネイターを凌駕する戦闘能力を誇り、これまで無敵を誇っていたクルーゼ隊を何度も退けた正真正銘の化け物なのだ。
そしてラクスはそんな少年兵と出会い、アークエンジェルで友好関係を築いていたというのだから全く訳が分からない。
なんにせよ地球連合軍が隠蔽しようとしている秘密兵器──生体CPUの情報を得られる機会などそうそうないだろう。
ラウは仮面の奥底で嗤いながら、ラクスを促した。
「赤毛で、何処にでもいそうな普通の御方でしたわ。地球連合軍の士官服を着ていなければ私と同年代の少年にしか見えないような……」
「同年代?」
地球連合軍で士官になるためには、原則的に士官学校を卒業しなければならない。だから常識的に考えれば、10代の人間が士官ということは有り得ない。
しかしその少年兵はキラのように臨時登用された民間人ではなく、正規の手続きで任命された軍人らしい。アスランは怪訝な表情に変わった。
「ええ。書類上は17歳ですけれど、実際は知らないとか。物心付いた時からブルーコスモスの施設で育てられたそうですわ」
「ブルーコスモス……! あの反プラント……反コーディネイター主義者共か」
やはりレイダーのパイロットはユニウスセブンに核攻撃を行い、アスランの母を含めて大勢を死亡させたカルト集団の一員だったのだ。
ラウは納得したように頷くと、声を荒げたアスランを宥めながら言った。
「ブルーコスモスは特に大西洋連邦軍と癒着しているそうだ。おそらくヤツは盟主の秘蔵っ子といったところだろうな。……他に何か言っていませんでしたか?」
ラクスはくすりと笑った。それはクロトがブルーコスモスであることよりも、もっと重要なことだろうと思っていたからだ。
「そうですね。……クロト様はとても口が悪い御方なのですが、キラ様にはお優しい方でしたわ。なんでも
「──は?」
「ほう」
ラクスの言葉に絶句するアスランを余所に、ラウは嘆息するように呟いた。
「わたくしにも随分親切にして下さりました。わたくしを乗せたキラ様を追ってクロト様が来なかったのは偶然ではありませんよ? クロト様がわたくしを解放したいというキラ様の意思を尊重して下さったのです」
「……どう思います、隊長?」
アスランは頭を抱えた。
ラクスの言葉は悪趣味な冗談にしか聞こえなかった。キラに続いて、ラクスも地球連合軍の連中に洗脳されているのではないかとすら思った。
とはいえクロトが件の引き渡しの際に現れなかったのは事実だ。こちらを混乱させる為だけに貴重な人質であるラクスを手離し、ストライクを危険に晒すという行為は常識的に考えて有り得ない。ラクスの語った言葉の信憑性は極めて高かった。
「信じ難い内容だが、ラクス嬢が嘘を吐く理由はあるまい?」
「ですが、そんな事が……。ある筈がない……」
これは想像以上に愉快なヤツらしい。
突然突き付けられた理解不能な情報に混乱するアスランに対し、クルーゼは得心が行ったように頷いた。
「ふむ。思想と言動には難があるが、それを補って余りある能力を持つということだろうな。現ブルーコスモスの盟主は自身に忠実であれば、コーディネイターを受け入れているという話もある」
「はぁ……」
アスランは不承不承ながらも頷いた。
しかに何かが違う気がする。ラクスはラウの評に納得しながらも、時折クロトに感じた得体の知れない雰囲気を口にした。
「ですが、クロト様の本心は分かりませんでした。強くて……怖くて。優しい方なはずなのに、まるで全てを憎んでいるような……」
そんなラクスの言葉に、クルーゼは仮面の奥深くでラクスを嘲るように笑った。
「まさに誰も手が付けられない狂犬ということでしょう。お気になさらず」
おそらく件のクロト・ブエル少尉は生体CPUだ。
莫大な力と引き換えに特定の薬物を手放せない身体に改造され、たとえ摂取し続けても数年で耐久期間を迎えて廃棄される消耗品なのだ。
なるほど本来は心優しい少年だったのだろう。
認めよう。君には私と同様に、全ての人類を裁く権利がある。
ラウはCICに足を運ぶと通信を行った。
それはイザークとディアッカを中心に、第8艦隊と合流寸前のアークエンジェルに実行しようとしていた奇襲攻撃を中止させるためだった。
クロトの正体は決して狂犬などではなく、狂うしかなかった哀しき悪魔だ。生まれ持った才能に驕る彼等だけでは、万が一にも勝ち目などないのだから。
前話から開催中のアンケートやキラちゃんガチ勢の考察によると、キラちゃんは着痩せしてるけどムチムチしたワガママボディの隠れ巨乳らしいです。
キラちゃんは(自主規制)
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無
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控えめ
-
普通
-
巨
-
爆