〈93〉
──全ての答えは皆が自身の中に、既に持っている! それによって人を知り、自分を知り、明日を知る。これこそが繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。私は人類存亡を賭けた最後の防衛策として
機動要塞メサイアにて、先程デュランダルはヒトの遺伝子を主体とした新たな社会システム構想“
その施行下ではナチュラル・コーディネイターを問わず全ての人類が遺伝子を採集、解析され、各自の最適職種に応じて社会に組み込まれるという。
戦争の要因は自身に対する無理解や現状に対する不満であり、唯一の解決策は予め定められた運命を歩むシステムを構築することだとデュランダルは主張した。
全ての人間が自由意志を捨てて最適な運命を歩めば、その規範に従うという点で人類は平等であるという論理と、人は自分を知り、その中で最も出来ることをして生きることが幸せに繋がるという思想に基づいて。
「本国の動きは?」
クロトは先日熱気で焼かれて軽い火傷のようになった肌に、キラから受け取った保湿クリームを塗りながら呟いた。
プラント単独で
だからこそギルバート・デュランダルはロード・ジブリールの暴走を許し、ミーア・キャンベルを用いて戦争を煽り、最終的にロゴスを打倒して地球経済を壊滅させることで
「さっき、議会ではプランの拒否が採択されたみたい。……でも、国外に脱出しようとしている人も大量に出てるって」
実際に遺伝子調整によって“恵まれた運命”を持つ者が多いプラントでは反対意見が挙がっておらず、国家として明確な反対姿勢を示したのはオーブ、スカンジナビア王国の2カ国に限られていた。
それ以外の各国は第2のオペレーション・フューリーを恐れ、プラン公表後も様子見を続けていた。地球連合が内部崩壊寸前の今となっては、下手に反対姿勢を示せばザフトの侵攻が実行されるかもしれないからだ。
今やザフトに抗う力はブレイク・ザ・ワールド、そして二年越しの大戦で疲弊し、ロゴス壊滅で国家経済が崩壊した殆どの国に残されていなかった。
プラントが地球圏全域を支配する世界は、すぐ間近に迫っていた。未だ国内で大規模な反デュランダル派の動きが始まっていないのは、デュランダル政権を打倒するのは全ての敵対勢力を殲滅してからで十分だと考える者も少なからずいたからだった。
「このままじゃ全滅するかもしれないしねぇ」
クロトは飄々と言った。
デュランダルは
ロード・ジブリールの命令で製造された“軌道間全方位戦略砲”は、月面基地ダイダロスに設置された本体である巨大ビーム砲と、月周辺に配置された複数の廃棄コロニーに内蔵されたビーム偏向装置で構成された戦略兵器システムである。
その名の通り、廃棄コロニーの配置を変更することであらゆる目標を狙うことが可能なその戦略兵器システムは、かつて世界を震撼させたジェネシスに効果範囲こそ劣るものの、同等以上の破壊力を有する大量破壊兵器だった。
これをプラントが保有することで、デュランダルは地球圏全土に
引き渡しを拒絶した地球連合軍に対し、デュランダルは
廃棄コロニー群を巡る攻防は当初連合軍優位に推移していた。
しかし兵力が手薄になっていたダイダロス基地を“天命”を擁するコンクルーダーズ及びグラディス隊が強襲し、数時間の戦闘でダイダロス基地は壊滅状態に陥った。
レクイエムの奪取を防ぐため、敗戦を悟ったダイダロス基地守備隊は自爆装置として設置していたサイクロプスを起動し、両軍に甚大な被害をもたらしながらも地球連合軍はレクイエムの強奪阻止に成功した。
地球連合軍は反転攻勢のため、前大戦で壊滅したプトレマイオス基地に代わり、地球連合軍の主力基地アルザッヘルに駐屯している月艦隊を発進させた。
しかし地球ー月間のL1地点に機動要塞メサイアを接近させていたデュランダルは、地球連合軍の用いたサイクロプスの報復措置として、メサイア要塞に搭載された大量破壊兵器“ネオ・ジェネシス”を使用し、月艦隊を一撃で壊滅状態に追い込んだ。
地球連合軍の月面戦力を葬り去ったデュランダルは更なる人類の敵として、
デュランダルの暴挙を阻止するため、第2宇宙艦隊を主力とするオーブ軍、及びエターナルと地球連合軍の残存部隊で構成された“歌姫の騎士団”は、デュランダルが目標地点に到着する前にネオ・ジェネシスを破壊する最終作戦“オペレーション・アポカリプス”を発動したのだった。
「こうやって話すのも、今度こそ最後かもしれないから」
キラと共にエターナルの格納庫に移動したクロトは、遂に出撃準備を完了したストライクレイダーの前で肩を竦めた。
機動要塞メサイアに駐屯している無数の守備隊に加えて、一部をサイクロプスで撃破されたとはいえ“グラディス隊”“ジュール隊”ら月軌道艦隊の精鋭部隊が、メサイアを狙う歌姫の騎士団を挟撃しようと移動を開始している。
まるで袋の中に閉じ込められた鼠であり、考えられる限り最悪の戦況だった。
しかしたとえここで全滅したとしても、自分達は絶体絶命の危機に陥ったオーブを救わなければならないのだ。
「……どうして私達は、こんなところまで来てしまったんだろうね」
キラは呟くように言った。
空白の2年間を経て再び起こった、世界規模で行われた絶滅戦争。
それは第1次連合・プラント大戦と比較して、ナチュラル陣営とコーディネイター陣営に分かれて起こった総力戦ではなかったが、ブレイク・ザ・ワールド、ロゴス崩壊に伴う世界経済の混乱を合算すれば、先の大戦を上回る大量の犠牲者が発生している。それが唯一無二の事実であり、否定しようのない結果だ。
たとえこの戦争が終わったとしても、それは新たな絶望の序曲に過ぎない。この世界はデュランダルが示したように、戦争の火種が無数に転がっているのだから。
それこそ絶対的な支配者が大量破壊兵器を突き付け、徹底的なヒトの管理を行わなければ平和な世界など永遠に訪れないかもしれないのだ。
「本当は、こんなことは終わりにしたいのに」
そんなデュランダルを否定するビジョンを、キラは連想することが出来なかった。
平和と自由。本質的には相反している二択を迫られた時どちらを優先するべきか、キラには分からなかったからだ。
「デュランダルが示す世界の行き着く先は、誰もが自らの運命に従わされる世界だ。僕が生体CPUとして、君がスーパーコーディネイターとして造られたように」
クロトは自分に言い聞かせるように言った。
生体CPU。スーパーコーディネイター。
いずれも誰かに定められた運命を与えられ、その運命を遂行する者として人為的に造り出された禁忌の存在である。
そしてそれは
後天的に任意の能力を飛躍的に向上させる生体CPUと、先天的に任意の才能を付与するスーパーコーディネイターの製造技術は、実際に
「たとえそれで世界が平和になったとしても、僕は嫌だ。僕は自由のために、自由に生きるために戦う」
誰もが自らの運命に従い、その運命に沿って生きることで、デュランダルの主張するように平和な世界が訪れるのかもしれない。
しかしそれは果たして人間と言えるのだろうか? それはかつてモビルスーツの生体CPUだったクロトとどう違うのか?
そもそも自らの運命に従うことが唯一の正義だと言うならば、この世界線でもクロトはヤキン・ドゥーエで討たれるべきだったのか?
キラはアスランに殺されるべきだったのか?
だったらそんな運命は願い下げだ、とクロトは不敵な笑みをキラに見せた。
「見せてやるよ。自由を手に入れた僕の、運命を捻じ伏せる力を」
〈94〉
機動要塞メサイアを出撃したシンは、迫り来る無数の標的を捉えていた。
それはネオ・ジェネシスに撃たれ、早くも艦隊の半数近くを喪失しながらもデュランダルの暴挙を阻止するために決死の突撃を開始した“歌姫の騎士団”だった。
それぞれミーティア、ミーティア改を装備したインフィニットジャスティス、ストライクレイダーの圧倒的な機動力と殲滅力を武器に快進撃を続けていた騎士団だったが、後方から追い付いたグラディス隊に捕まったことで消耗戦を余儀なくされていた。
「これより本艦は戦闘を開始する。全砲門開け。ザフトの誇りに賭けて、今日こそ奴等を討つ!」
後方から追い付いたミネルバが主砲を放ち、シンを援護する。次々に地球連合軍の残存部隊やムラサメが機体から火を噴き、その反応を消失させていく。
これで奴等を全滅させれば、平和な世界が訪れる。
シンは射出したドラグーンから次々ビームを放って地球連合軍の残存部隊である“ユークリッド”を爆散させると、巨大なアームドモジュールから伸びる大型ビームソードでインパルスの胴体を両断したストライクレイダーに向き直った。
『ここは僕が引き受ける!』
クロトは通信回線で叫ぶように言った。
ザフトの大軍に挟撃された状態で徒に戦闘を続けるくらいなら、部隊を二手に分けて対応する方が余程勝機があるからだ。
メサイア攻略部隊ももちろん重要だが、この場に留まって敵の大部隊を足止めする部隊も重要である。この場で唯一ドラグーン搭載機と戦闘経験を持つクロトが1人で足止めに当たるのは、感情論を抜きにすれば妥当だった。
『エターナルも残ります! 後は全軍でメサイアへ!』
応えるようにラクスも周辺部隊に指示を飛ばした。
モビルスーツ運用母艦としては最速を誇る一方で、イズモ級のように大火力を持たないエターナルは全方位に陽電子リフレクター発生装置を配置しているメサイアの攻略には適していなかったからだ。
ほんの数秒にも満たない逡巡の後、オーブ軍第2艦隊の司令官であるアスランはストライクレイダーとエターナルの直掩機を残して前進命令を下した。
人類の敵であるオーブを粛正するというデュランダルの宣言は、自分達を包囲網に誘い込むためのハッタリではないと理解していたからだ。
「……くそっ」
一方のシンも同様に、そんなデュランダルの真意を心の奥底では理解していた。
人類の敵とまで断言し、事実ザフトにとっては唯一の脅威であるオーブ軍を殲滅したからネオ・ジェネシスの発射を中止するなんてことは有り得ない。自分達に逆らった人類の敵の末路として、見せしめに殲滅することは明白だった。
しかしシンはそれを脳裏で棚上げした。
デュランダルの言葉を信じて正義面で地球全土を荒らし回り、自分と同じような戦争孤児を大量に生み出し、それを疑問視した親友を自らの手で殺してしまった自分を直視出来なかったからだ。
デュランダルがオーブを撃つ筈がないし、たとえ撃ったとしても人類の敵であるオーブとレイダーのパイロットが悪いのだ。
『舐めてんのかよアンタは!!!』
シンはドラグーンから放たれる全方位攻撃を器用に回避しながら、自分達の足止めを開始したストライクレイダーを睨み付けた。
遺伝子学の権威であるデュランダルに戦士としての適性を見出され、フリーダムのパイロットから
コイツさえこの世に存在しなければ、自分は妹を見殺しにするような事態に追い込まれることはなかった。
クロトの放った対艦ミサイルの嵐を、シンは滑るように後退しながらドラグーンから展開した無数のビームで迎撃した。クロトはミサイルの誘爆に紛れて接近し、核爆発を考慮する必要がなくなったプロヴィデスティニーを大型ビームソードで斬り付ける。
しかし光の翼を展開していたシンは急上昇で回避すると、ストライクレイダーの左アームドモジュールにビームライフルから放った光弾を直撃させた。
続けて右アームドモジュールから放たれたビームを紙一重で避け、再度ドラグーンを操作して眩い光の弾幕を展開する。
『ちっ……!』
クロトは左右に急制動を繰り返して全方向から襲い来るビームをやり過ごしながら、苛立ったように舌打ちした。
対多数の敵を想定したミーティアと、フリーダムと同様にストライクレイダーを上回る機動力と殲滅力を併せ持つプロヴィデスティニーとの相性は最悪らしい。
あわよくばバッテリーを温存しながら、などと邪心を抱いたままで勝てる相手ではないらしいと考えたクロトがミーティアをパージすると、真横から迫っていた大型ドラグーンから伸びたビームスパイクがコアを貫いた。
『次はアンタがああなるんだ! この人類の敵が!!』
『ははっ』
まるで凶悪犯を断罪するようなシンの口調に、可笑しくなったクロトは冷たい声で嗤った。
激高したシンはドラグーンを射出すると、背部の蒼いウィングユニットを展開しながら距離を開けようとするストライクレイダーに追撃を掛けた。
『何が可笑しいんだよ!!』
『イチイチ言わなきゃわかんねーか!!』
最大加速と同時に、クロトは強引に機体を旋回させて切り返す。
二度、三度と交錯しながら紙一重でドラグーンの攻撃を躱し、振り下ろされた大型対艦刀をビームキャリーシールドで受け止める。
『ふざけるな!!』
今までの戦闘とは異なり、その場で足を止めれば攻撃を躱せない。
クロトは即座に左肩の電磁砲を放ってシンに強烈な打撃を与えると、斜め上方のドラグーンから放たれたビームを宙返りで回避した。腰部のクローを左右に展開し、電磁砲の衝撃から体勢を立て直したシンにビームガンを連射する。
『だったらあんなのを守ってるお前はなんなんだ!? 世界の敵か!?』
決して少なくない数の人間を殺した自覚はある。最善を尽くすことが出来れば、救えた命も無数に存在しただろう。
しかし現実に目の前でオーブの粛正を掲げるデュランダルを支持するシンにそれを指摘される理由があるのか、とクロトは不快感を露わにした。
大西洋連邦軍の攻撃で滅びたとはいえ、ザフトの侵攻を撃退する水準までオーブが復興した事実がある以上、シンにそれを正面から否定することは出来なかった。
ガンマ線レーザー砲であるネオ・ジェネシスがオーブに発射されれば、その強烈なエネルギー輻射は地表に存在する全ての生物を一掃してしまうからだ。
その結果として予想される死傷者の数は、当然ながらオーブ解放作戦で発生した数とは比較にならない。文字通り桁違いの数になるだろう。
『あれは戦争のない平和な世界を創るために必要な力だ!!
そんな人類の敵の妨害に屈しないためにも、ネオ・ジェネシスの力は必要悪として保有しなければならないのだ。
『そんな世界を平和だって言うならそうかもな!!』
しかしそれは平和の光に包まれた世界というよりも、恐怖で支配された暗黒の世界だ。
シンは至近距離で放たれたビームガンをシールドで防御するが、クロトの言葉に気を取られて操作が単調になっていたドラグーンが立て続けに撃墜される。
AIに動作補助を行わせることで、操作難易度を引き下げる代わりに自由度が低下した第2世代ドラグーンの欠点をクロトは狙ったのだ。
『だったらどうすればいいって言うんだ! 戦争のない世界以上に幸せな世界なんてあるはずがない!!』
たとえ親友を殺したとしても、妹を見殺しにしたとしても、せめて戦争のない世界を作ることが出来れば2人に対して贖罪になる筈だ。
シンは光の翼を展開し、生き残っていたドラグーンを総動員して弾幕を張りながら突撃するが、半端な弾幕は自らの未来位置を伝えるようなものだった。
『僕は戦争があっても自由な世界が欲しいんだ!!』
クロトは前方に加速すると、反動を付けて極破砕球を投擲した。
シンは弧を描いて迫り来る凶悪な質量兵器を回避するが、一瞬視界が狭まった隙を突いて頭部から放たれた大出力ビームが更にドラグーンを呑み込んだ。
『何を!!』
シンは全てのドラグーンを喪失したことで、ほぼ無用の長物と化したドラグーン・プラットフォームを即座にパージして機体を加速させた。
自由を求める襲撃者と、天命を授かった戦士の戦いは更に激しさを増していく。
「何が人類の敵だ……!」
青白い特殊戦闘艦の中で、アズラエルは手を伸ばせば届きそうな距離で繰り広げられている激闘の様子をモニター越しに窺っていた。
それは一見するとアークエンジェル級に類似する形状でありながら、宇宙空間での運用を前提としているため揚力を獲得する主翼を有しておらず、まるで箱を連結させたように無機質なシルエットだった。
最大の特徴は各所にミラージュコロイド発生器を搭載することで、船体全体に極めて高いステルス性能を保有させていることだった。
船体両舷には低温ガスを搭載した増槽を装備しており、それを噴射して推進力として利用することで、ミラージュコロイドを展開したまま移動を可能にしている。
「あのとんでもない兵器を復活させた奴等の方が、遥かに人類の敵じゃないか!! いつその照準が地球に向けられるか分からないんだぞ!!」
ロゴス崩壊に伴うブルーコスモスの衰退で、地球連合軍に於ける影響力の大半を消失していたアズラエルはロアノーク隊を手中に収めたものの、それ以外に自国の領域外で動かせる実行部隊を保有していなかった。
この特殊戦闘艦“ガーティ・ルー”には情報保持の観点から、イアン・リー少佐を含めた必要最小限のクルーしか同乗していない。
その一方でセカンドステージのカオス、それに加えて元々ネオの搭乗機として用意されたウィンダム、アズラエルの私物であるスローターダガーを加えれば、合計3機のモビルスーツを有している貴重な戦力である。
けたたましくCICで騒いでいるアズラエルの声をBGMに、レイは以前デュランダルの指示を受けてパイロット候補を辞退したカオスを起動した。
とある地点に存在するライブラリアンの本拠地を撃破するため、ラウは灰色にカラーリングを変更したガイアと共に地球に残った。
自分の任務はネオ・ロアノーク大佐の代理としてシンの暴走を止めることと、デュランダルとアルの野望を阻止することだ。
『レイ・ザ・バレル、カオス、発進する!!』
原作でレイくんがカオスのパイロットじゃなかった問題、いくら考えても謎だったので本作では乗せてみました。
“自由”を手に入れたクロトが定められた“運命”を強制するデスティニープランの守り手を“襲撃”する、妙にフィットしてますね。
https://twitter.com/Saya_Satsuki
↑
ついったー。
最近は専らロム専ですが、リプライがあれば反応します。
遂に種運命編の最終章なので、質問等ありましたらお気軽にリプライください。