逆襲のクロト   作:皐月莢

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メサイア・ショック

 〈100〉

 

 マティスを手に掛け、一族の遺産を継承したアル・ダ・フラガが最高位の最高司書官に就任した秘密結社“ライブラリアン”が本拠地を構える某所の最深部にて、再びアルは意識を取り戻していた。

 これでいよいよ残機は完全に喪失してしまったが、同時にアルが目指していた最後の扉が遂に開かれることを確信した。

 アルは溜息を吐くと、司令室に直通のエレベータに乗り込んだ。

 ナチュラルはコーディネイターを憎み、コーディネイターはナチュラルを蔑む。相容れぬ両者の争いは、人類が全滅するまで永遠に終わらないだろう。

 私はそんな世界を守るために誕生した、いわば免疫のようなモノだ。だからこそ私は超越者たる才能を有しているのだとアルは確信を深めた。

 ネオ・ジェネシスが破壊されたことをきっかけに、起動するように仕掛けておいたプログラムで機動要塞メサイアは地球に落下する。再び起こったコロニー落としは地球全土に深刻なダメージを与え、地球上の人口は9割以上が死滅するだろう。

 あとは混乱するプラントをライブラリアンの力で葬り去れば、荒廃した世界でこの私が全てを支配する神として君臨するのだ。

 

「…………?」

 

 扉が開くと、アルは奇妙な人影を視界に捉えた。

 それは頭の上半分を覆う漆黒の仮面を被った金髪の男だった。かつてラウ・ル・クルーゼを自称し、今はネオ・ロアノークと名乗る男がアルを葬り去るために現れたのだ。

 

「この失敗作がぁ!!!」

 

 アルは激高しながら銃を取り出した。

 そして1発の銃声と共に、ネオの放った銃弾がアルの額に空洞を空けた。

 やがてアルの生体情報をリアルタイムで受信・保存していたメインサーバーはガイアの攻撃で破壊され、己の命を金で買った男は完全な死を遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 至近距離でフリーダムの核爆発を受け、ネオ・ジェネシスを破壊されたメサイアは要塞全域に仕掛けられていたフレアモーターの起動と連動して機械系統の異常が発生し、けたたましい警報音が鳴り響いていた。

 あちこちで脱出する兵士と擦れ違う中、ザフト製のパイロットスーツに身を包んだレイは通路を駆け抜けると、目の前の扉を開けた。

 

「やぁ、レイ」

 

 それは壁面に無数の機器が並ぶ広大な司令室だった。

 そしてその中心部に設置された“玉座”に座っている男に、レイは銃を向けた。同時にデュランダルも立ち上がると、片手で銃を構える。

 

「ギル」

「まさか君が生きていたとはね」

 

 妙に嬉しそうな顔のデュランダルに、レイは無言で銃を握り込んだ。

 それは復活したアル・ダ・フラガと手を結び、この世界を滅茶苦茶にしようとした男のものとは思えない晴れやかな表情だったからだ。

 

「やっとここまで来たのに、そんなことをしたら世界はまた元の混迷の闇へと逆戻りだ。君も知っているだろう?」

 

 それぞれの生まれ持った遺伝子を解析し、それに最適化した人生を“運命”と定めることで社会全体の幸福を最大化する社会システム──運命計画。

 それはこの終わりなき争いを続ける世界を照らす希望として、かつてレイもラウの生存を知るまでは葛藤しながらも支持した計画だった。

 メサイア要塞には広大なコンピューターが搭載されており、それを用いて人類の遺伝子情報の解析を行い管理する施設も設置されている。

 もしもレイが引き金を引き、このままメサイアが破壊されれば、デュランダルの掲げる希望は完全に途絶えることを意味していた。

 

「そうなのかもしれません、ギル」

 

 今は恐怖政治の延長という形でしか実現出来ない運命計画も、やがてデュランダルの思想が浸透すれば平和なものに変わるのかもしれない。

 そうなれば人類の歴史に混迷の闇は訪れないのかもしれない。このまま自分がデュランダルを撃てば、再び混迷の闇に包まれるのかもしれない。

 しかし。それでも。

 

「でも俺達はそうならない道を選ぶことも出来ると思うんです」

「それを誰が選ぶのかな。人は忘れ、そして繰り返す。もう二度とこんなことはしないと、こんな世界にはしないと、一体誰が言えるんだね?」

 

 ますます喜色を露わにしながら、デュランダルは言った。

 

「でも俺達は分かり合えることも、変わっていけることも知っています! だからたとえ明日がなかったとしても、変わらない世界は嫌なんです!」

「傲慢だね。流石はあの男……。いや、ラウのクローンというべきかな」

 

 生まれながらの超越者“アル・ダ・フラガ”のクローン。

 コーディネイターのような欠陥も持たず、寿命問題を解決出来なかった失敗作のラウ、その二次クローンであるレイですら最上位のコーディネイター相当の能力を有している。

 そんな世界最高のナチュラルが言う綺麗事に、果たして何の意味があるだろうか。

 デュランダルの皮肉めいた言葉に、レイは自嘲した。

 

「俺はあの二人とは違う。貴方も知っているでしょう!」

 

 それは努力か、それとも執念の差か。

 才能は同等の存在でも、現実としてレイの能力は二人に遠く及ばない。それ故にレイはデュランダルにインパルスを与えられず、最後はあっさりと切り捨てられた。

 ヒトは遺伝子だけで全てが決まる訳ではないし、後天的にいくらでも変わるのだ。

 

「……だが“君達”が言う世界と私が示す世界、皆が望むのはどちらだろうね?」

 

 デュランダルは銃口を向け、遅れてレイも照準を定めた。一瞬静けさを取り戻した司令室の中で、1発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 レイの手引きで現れたクロトにガーティ・ルーから放り出されたアズラエルは、エターナルからの救助信号を無視して戦場に向かっていた。

 遂にメサイアを視界に捉えたスローターダガーのコクピットで、その軌道計算を行っていたアズラエルは叫んだ。 

 

『今計算してみたがメサイアは地球の引力に引かれて落ちる!! だから核は持ってりゃ嬉しいただのコレクションじゃないと言ったんだ!!』

 

 要塞全体に張り巡らせたワイヤーに電力を流し、メサイア全体を強力な磁場で包む込むことで太陽風の磁場と干渉し合うフレアモーターの発動によって、安定軌道を飛行していた筈のメサイアが引力に引かれて少しづつ落下を始めていたのだ。

 このままメサイアの落下を放置すれば、地球全土にブレイク・ザ・ワールドを上回る甚大な被害が発生するのは明らかだった。

 

『そんなことを言ってる場合じゃないでしょう!』

 

 アズラエルの癇癪めいた声に、イアンは反論した。

 このユニウスセブン落下テロ事件を再現したデュランダルの凶行を阻止するには、その時と同様にメテオブレイカーを使用するか、アズラエルの言葉通りに核攻撃を行ってメサイアを破砕する以外に対応策はないように思えた。

 しかしこの場にメテオブレイカーは存在せず、核兵器の類も存在しない。

 唯一幸いだったのはメサイア守備隊にとっても想定外の事態だったらしく、次々と要塞内部から脱出して戦闘宙域から撤退を開始していた。

 先程ザフト軍の戦意を繋ぎ止めていたフリーダムはレイダーに討たれ、切り札のネオ・ジェネシスは核爆発を至近距離で受けて完全に破壊された。

 その上司令部に何らかの異変が起こった状況下で、なおもラクス・クラインの停戦勧告を無視して戦い続ける者はそう多くなかったのだ。

 

『少佐! ネオは何をやってる!?』

『中尉か! 大佐はまもなく合流される!』

 

 後方から追い付いて来たカナードに、イアンは叫ぶように言った。

 ネオはデュランダルを支援している秘密結社を襲撃した後、デトロイトに展開しているハーピー隊を率いて合流する手筈になっていた。

 レイダーの量産機であるハーピーはオプションに補助推進器を搭載することで、単独での大気圏突破能力を有している。ネオも同様の手段で一度限りの大気圏突破能力を実現したガイアに乗り、まもなくイアンと合流する予定だった。

 

『どうすればいいんだ……!?』

 

 この凶行を止められる可能性があるとすれば、要塞内部に突入したクロト達がメサイアのコントロール権を奪うことだけだとカナードは直感した。

 資源採掘後のアステロイドに設備を組み込み、月軌道から地球軌道まで短時間で移動する程の機動力を実現したメサイアであれば、ここから地球の引力を振り切る軌道に航路を変更することも可能だ。

 

 〈101〉

 

「ギル!!」

 

 クロトが役目を終えた拳銃をホルスターに戻すと、胸を真紅に染めて崩れ落ちたデュランダルにレイは駆け寄った。

 そしてデュランダルを撃ったクロトを睨むが、すぐに視線を落とした。レイを撃とうとしたデュランダルを阻止するため、司令部に飛び込んだクロトが撃ったことは明らかだったからだ。

 

「……すまない、助かった」

 

 本来ならば、デュランダルは自分がこの手で撃たなければならなかった相手だとレイは苦渋の声を漏らした。

 アルとの壮絶な死闘を制した代償か、今もキラに肩を支えられたまま荒い息を続けているクロトからレイは再度視線を戻した。

 大きな揺れが起こり、要塞全体から轟音が鳴り響く。いつこの要塞が機能停止しても不思議ではない状況だった。

 デュランダルの受けた傷は深かった。優秀ながらも平凡な遺伝子学者の抱いていた壮大な計画は完全に潰えたのだ。

 

「やぁ、キラ君。……そして、クロト君」

 

 ごぼりと血を吐き出し、デュランダルは視線を上げた。

 表向きはラクス・クラインの暗殺と見せ掛けて、この世から葬り去ろうとしていた二人の顔をじっと見据えた。

 

「どうやらこれが私の運命だったらしい。……最期に聞きたいことがある」

 

 ヘリオポリスでザフトの襲撃に巻き込まれ、偶然出会った2人。

 本来交わる筈のなかった2人の出会いは小さな波紋を起こし、それは未曾有の絶滅戦争を終わらせる程の波に至った。

 そして永い時を経て復活した超越者を討ち取り、デュランダルを倒してこの戦争を終わらせることに成功したのだ。

 

「ここで私が死に、再び混迷する世界で君達はどうする?」

 

 自由のある限りヒトは争いを起こし、世界は混迷の闇に染まる。そう冷たく嗤ったデュランダルに、クロトとキラはゆっくりと口を開いた。

 

「覚悟はある。僕達は戦う」

「貴方のいう運命は、私にとって死と同じです。たとえ世界が混迷に向かうとしても、自由のために私達は戦います」

「そうか……」 

 

 自由と平和。

 どちらが大事なことなのかは、誰にも分からない。

 しかし運命的な出会いを果たした2人が自由を選択し、その代償として戦い続けるというのだから、これほど皮肉なことはないだろう。

 血を吐きながら可笑しそうに嗤い続けるデュランダルに、クロトは静かな口調で言った。

 

「死ぬ前に、さっさとメサイアの落下を中止しろ。そうすれば世界は今より少しだけ平和になる」

「……私に協力しろというのかね?」

「アンタが本当にヒトの未来を想っているなら、な」

 

 このままメサイアが落下して壊滅的な被害をもたらせば、デュランダルの死で一時の平和が訪れる筈だった世界は再び混迷に包まれる。

 それがもしもデュランダルの本意だというなら、たった今自分達に語った言葉は単なる負け惜しみだとクロトは言った。

 なるほど厄介なヤツだ、とデュランダルは苦笑しながら小さく溜息を吐いた。

 

「残念ながら、メサイアの落下は阻止出来ない」

 

 メサイアに取り付いたストライクレイダー、ジャスティスは戦力の大部分を喪失しており、アカツキもメサイアを完全に破壊出来るほどの火力は有していない。

 そのため敗戦を悟ったデュランダルは、メサイアを加速させて地球から遠く離れた火星圏に逃走しようとしていたのだ。

 しかしアルの仕掛けていた隠しプログラムが作動し、フレアモーターの起動で強制的に軌道を変更されたメサイアは地球の引力に引かれ始めていた。

 それを解決する手段はメサイアの移動速度を上げるか、あるいは軌道を再修正するしかなかった。だがフレアモーターの起動と連動して起こった機械系統の異常で、メサイアは既に落下以外の選択肢を喪っていた。

 広大な司令室にデュランダルが1人残されていたのは、このままメサイアに残っていれば確実な死が待ち受けていたからだったのだ。

 

「…………」

 

 メサイアの置かれた現状を告げられたキラは、唇をぐっと噛み締めた。

 自由のために戦い続けるとデュランダルに宣言した直後に、まもなく行われる大虐殺を見ていることしか出来ない自分がどうしようもなく無力な存在に感じたからだ。

 

「そうか。……そういうことか」

 

 一方でクロトは、ぽろぽろと涙を溢れさせたキラを見詰めながら呟いた。

 そしていつの間にか背後に立っていたタリアとレイをその場に残すと、キラの手を引いて踵を返した。

 想いだけでも、力だけでも、奇跡は起こらない。そう自分に言い聞かせながら。

 

 〈102〉

 

 デュランダルからの通信が途絶えたことで、これ以上の戦闘継続は無意味だと判断したザフト軍は次々にラクスの停戦勧告を受諾し始めていた。

 しかし地球に最接近を果たしたメサイアは、遂に本格的な落下を始めていた。

 まもなく地球は壊滅し、唯一生き残ったプラントが世界を支配する。

 しかし深刻な出生率の低下問題を抱えているプラントは、そう遠くない未来に滅びてしまうだろう。かつて新たに生まれるだろう新人類と、旧人類との架け橋となる調整者として命名されたコーディネイターが皮肉にも人類に終止符を打つ。

 そんな世界の破滅が間近に迫っていた。

 誰もが絶望する中、メサイアの行く手に2機のモビルスーツが立ち塞がった。

 

 ──始めよう、キラ。

 

 そう囁いたクロトは唯一健在なストライクレイダーの左腕を掲げると、メサイアの後方に向かって一直線に加速しながら声を張り上げた。

 

『所属も、人種も、今は関係ない。僕達はみんな、この世界に生まれた1つの命なんだっ! だからみんな──』

 

 先程から停戦勧告を行っていたエターナルを中継基地に、モノクロームカラーの堕天使の叫びが木霊する。

 

『ストライクレイダーの元に集えッ!!』

 

 蒼い大型ウイングスラスターが猛烈な唸りを上げ、斜めに落下しているメサイアの軌道を押し上げるようにストライクレイダーは突撃した。大破した機体のあちこちに鈍い打撃音が響き渡り、関節部位からは紫電の光が漏れ出す。 

 そして片腕でメサイアを押し上げようとするストライクレイダーを支えるように、隣に取り付いたアカツキはウィングスラスターから光の翼を展開した。

 しかし落下を始めたメサイアは微動だにしない。

 たった2機のモビルスーツが押し上げるだけで、莫大な質量のメサイアの落下を阻止することなど出来ない。

 これでは単なる自殺行為だ。

 そんなクロトとキラが始めた行動に呆気に取られた両軍を嘲笑うかのように、後方から現れた日蝕を示す濃紺色と灰緑色のモビルスーツ(エクリプス)が取り付いた。

 

『ははッ! 何やってんだお前らァ!!』

『やっぱテメーはとんでもねー馬鹿だぜ!!』

 

 オルガとシャニが加わった直後に、白と黒のグフイグナイテッドに挟まれる形で、オーブ軍の残存部隊を引き連れたジャスティスが姿を現した。

 

『動ける連中は全員連れて来たぞ! まさかお前まで来るとはな、イザーク!』

『それはこっちの台詞だ! アスラン貴様ァ、いつのまに出世した!?』

『グレイトォ! オーブ軍だけにいい思いはさせないぜ!』

 

 ジャスティスは両脚のビームブレイドを突き刺して機体を安定させると、この場で唯一搭載されているハイパーデュートリオンエンジンを全開で稼働させた。

 その付近では3機のドムトルーパーが陣形を組んでいる。

 メサイアの落下を阻止しようとしているクロトとキラを援護するため、歌姫の騎士団とジュール隊が一同に集結したのだ。

 

『地球が駄目になるかどうかなんだ! やってみる価値はあるぞ!! そのさっきから五月蠅いヤツも手伝わせろ!!』

 

 カナードに連行され、先程から周辺宙域を彷徨っていたイアンに加えて軌道の再計算を行っていたアズラエルまでもがメサイアの外壁に取り付いた。

 

『もう一度計算してみたが──うわああああ!?』

 

 機体の制御を乱したアズラエルがコクピットの中で絶叫する中、地上から上がってきた銀色のモビルスーツが戦列に加わる。

 

『はははははっ! 久しぶりだな!!』

『誰だ!?』

『ク、クルーゼ隊長!?』

『クルーゼ!? いったい何をしに来た!!』

『今の私はネオ・ロアノーク大佐だよ、ムウ!!』

 

 トール、ニコル、ムウの3人が思わぬ人物の登場にそれぞれ困惑する中、補助推進器を切り離したネオはメサイアの外壁にビームブレイドを突き立てながら押し出し始める。

 そんなガイアを追うかのように、地上から押し寄せたモビルスーツが次々取り付いた。

 

『そうだ! コズミック・イラの正義は我々にある!!』

『蒼き清浄なる世界のためにィ!!』

『盟主殿に続け!! レイダーを援護しろ!!』

 

 その圧倒的な数の暴力を受けて、どれだけ押し上げようとしても全く様子の変わらなかったメサイアの軌道が徐々に緩やかなものに変わり始めた。

 

『ローエングリン、撃てッ!』

『全砲門開け!! ゴットフリート、撃てぇ!』

 

 メサイアの端を掠めるように、ようやく合流を果たしたオーブ軍と第八艦隊の合同部隊が一斉射撃を行った。

 アークエンジェル、ドミニオンからの猛烈な砲撃を受ける度にメサイアの外壁が大きく削り取られ、更に軌道が上向きに変化する。

 しかし地球の重力を振り切るには僅かに速度が足りておらず、メサイアの軌道は地上と平行移動する形で維持されてしまう。

 

『このままではまずいぞ! ルナマリア!!』

『分かってるわよ!! こんな時にアイツはどこにいったの!?』

 

 外の様子を見て司令室から飛び出したレイと、その姿を確認したルナマリアがそれぞれカオスとザクウォーリアで加勢するが、それでもメサイアの軌道は変わらない。

 これではそれぞれのモビルスーツに内蔵されている推進剤が尽きれば、再びメサイアの落下が始まってしまう。

 駆け付けた者達の中には断熱圧縮と過負荷の影響を受けて、弾薬に引火して自爆するモビルスーツも現れ始めた。

 ようやく灯った希望の灯火が消えようとした瞬間、混迷の闇を切り裂く光の翼を展開したインパルスが姿を現した。

 シンは唇を噛み締め、無数のモビルスーツに囲まれながらメサイアを押し出そうとしているストライクレイダーを睨み付けた。

 過去を守るのが間違いで、今の現実を守ることだけが正しいとは思えない。

 だから俺は今度こそ過去も、現実も、この手で守りたい。シンは咆哮と共に、かつての愛機であるインパルスを加速させる。

 

『アンタって人はああああ!!!』

 

 コアスプレンダー、チェストフライヤー、レッグフライヤーの全てが大気圏内における単独飛行能力を有しており、デスティニーシルエット採用時はサードステージ相当の驚異的な推力を誇るインパルスが強烈な突進を加えた。

 機体全体に激しい衝撃が走り、シンの意識は一瞬消失した。

 その一撃で遂に安定速度に到達したメサイアは、地球の重力を振り切って徐々に離れ始めた。

 やがて自爆装置を作動させたメサイアは、その動力源である核原子炉を暴走させて大爆発を起こし、世界を混迷に誘おうとしていた脅威を喪失させた。

 

『こちらはエターナル。ラクス・ディノです。ザフト軍、現最高司令官に申し上げます。わたくしどもはこの宙域での戦闘継続は無意味と考え、それを望みません。どうか現時点をもっての両軍の停止に同意願います。繰り返し──』

 

 ラクスの行った停戦申し入れに対して、ゴンドワナに乗艦していたザフト軍司令官は受諾の意思を示した。

 更にミネルバに戻ったタリア・グラディスと、唯一健在だったコンクルーダーズの構成員であるハイネ・ヴェステンフルスが同調の意思を示した。

 停戦協議に向けて、既にオーブとプラントの非戦派が水面下で動き始めている。

 しかし先の大戦のように停戦条約を結ぶだけでは、今回起こった一連の事態は収まらないだろう。ラクスの戦いはこれからが本番なのだ。

 しかしそんなことは、目の前に起こった悲劇の前では些細なことだった。

 

「キラ……! クロト様……!」

 

 ラクスの瞳から零れた涙が、宙を舞った。

 モニター画面に表示されているモビルスーツの中に、ストライクレイダーとアカツキの姿がどこにもなかったのだ。




という訳でクロトくんとキラちゃんはメサイア落下阻止と引き換えに、ヴォワチュールリュミエールの光に呑み込まれて細胞一つ残さず消滅しました。(大嘘

シンくんもデスティニーインパルスは伊達じゃない!を決めてくれたしまぁいいんじゃないでしょうか。

次回は種運命編の最終話予定です。エピローグもやるので、もう少し続きますが。
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