逆襲のクロト   作:皐月莢

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Justice and Freedom

 かつてソロモン諸島と呼ばれ、CE74年現在においてオーブ連合首長国と呼ばれているこの国は、戦後の国際社会において急速に発言力を拡大した島国だ。

 なぜ発言力を拡大したのか? 

 それはオーブ国防軍がザフトの切り札だった機動要塞メサイアを陥落させ、昨年から続いていた第二次連合・プラント大戦に終止符を打ったからだ。

 なぜ連合・プラントと比較して遥かに戦力の劣るオーブ軍が、圧倒的な戦力を誇る地球連合軍を撃破したザフトに勝利したのか? 

 それはオーブがナチュラル、コーディネイターといった人種の垣根を超えて、様々な理由で各陣営から離反した才能ある者達を掻き集めたからだ。

 たとえどれほど強力な兵器であろうと、それを扱える者がいなければ只の鉄屑なのだ。

 とりわけ第一次連合・プラント大戦においてそれぞれの陣営で最強と評されながらも国を追われた2人の少年兵の活躍は目覚ましく、オーブ軍の勝利に大きく貢献した。

 その1人──元地球連合軍の生体CPUにして、カガリ・ユラ・アスハ直属の近衛兵としてアスハ邸の地下に封印されていたレイダー、更にターミナルが製造した最新型モビルスーツのストライクレイダーを駆り、前大戦で伝説的な戦果を挙げたフリーダムを討ち取ったクロトの快気祝いが某所で行われていた。

 

「……すげー気まずいんだけど?」

「自業自得だ」

 

 クロトと並んでオーブ軍を勝利に導いた少年兵の片割れ──アスランは、網の上に並んでいる肉に目線を向けながら言った。

 結果的に不意打ちのような形になってしまったが、オーブとプラントの今後を考えれば絶対に必要なことだと考えていたからだ。

 

「全くですよ。アスランさんが奢るって言うからわざわざ付いて来たってのに、一体これはどういうことなんですか?」

 

 戦後公式に国軍となったザフトは士官制の導入に当たって、その模範とするためにオーブ軍と定期的に合同演習を行うことが決定した。

 そして第1回が先日オーブ領海付近で行われ、かつてオーブに滞在経験のある元グラディス隊から複数人が参加者として選ばれていた。

 これはその親睦会と、クロトの快気祝いを兼ねて行われた集いだったのだ。

 

「その辺にしておけ、シン」

 

 刺々しい言葉とは裏腹に、オーブ軍との演習中もクロトの姿を探していたシンを思い出したレイはくすりと笑った。

 

「ちえっ。……別に奢りなら俺は構いませんよ」

「僕も別に」

 

 一触即発の空気が漂う中、アスランとレイを挟む形でクロトとシンはグラスをかちんと合わせた。

 

「そうそう、1つアンタに聞きたいことがあったんですよ。なんだってキラさんがフリーダムのパイロットに?」

 

 どうせならと、シンは無邪気に質問した。

 第1次連合・プラント大戦におけるフリーダムのパイロットが、アカツキのパイロットであるキラだったことはシンも理解していた。しかし、そもそもオーブ国民である筈のキラがザフトの最新鋭機に乗ることになった理由は見当も付かなかった。

 ラクスの親友とはいえ、キラはモビルスーツで戦うどころか争いごとの苦手な人間にしか見えなかったからだ。

 

「なんでって言われても……ストライクのパイロットだったから?」

「ストライク!?」

 

 クロトの意外な返答に、シンは思わず咳き込んだ。

 型式番号GAT-X105──“ストライク”。

 それは大西洋連邦がモルゲンレーテ社の技術協力を受け、オーブの保有する資源コロニー“ヘリオポリス”で極秘開発していたモビルスーツの1機であり、レイダーと並んでザフトの快進撃を食い止めた傑作機だった。

 

「ストライクのパイロットはナチュラルだと習いましたけど?」

「それは嘘だ。……ストライクのパイロットがコーディネイターであることはプラントにとって不都合な事実だったからな」

 

 シンの探るような問い掛けに、アスランは苦々しい顔で言った。

 プラントにとってコーディネイターでありながら連合軍に与するキラは不都合な存在であり、レイダーのパイロットがナチュラルだと判明したことと相俟って、ザフトの士官アカデミーでは両者をナチュラルだと教えていたのだ。

 

「……あれ? でもアンタが特務隊に選ばれたのって」

 

 アスランはクルーゼ隊を退け、バルトフェルド隊を破ったレイダー、ストライクを撃破した功績を称えられてネビュラ勲章を受賞し、喪われたイージスに代わってジャスティスを受領すると共に特務隊に任命されたのだった。

 要はこのアスランが、隣の席に座るクロトと向こうの部屋でルナマリア達に囲まれているキラを殺そうとしたんじゃ、と言い掛けたところでクロトが口を開いた。

 

「そうそう。僕もキラもコイツに殺されかけたんだぜ」

 

 クロトは大皿の上から料理を取ると、げらげらと嗤った。

 一方のアスランはしばらく神妙な顔をしていたが、やがて一息に酒を呷った。対抗するようにシンも酒を呷り、キラから飲酒を禁じられているクロトはソフトドリンクを口にした。

 当事者の口から語られる、1人の少女を巡って地球連合軍の生体CPUとザフトのエースパイロットの間で行われた永きに渡る死闘。

 なるほどこれはあのラウですら面白がっていた訳だ、とレイはせめて雰囲気だけでも愉しむためにノンアルコールを注文した。

 

 

 

 なぜ自分はここにいるのか──。記憶の扉が開き、忘れようとした筈の全てが酩酊したアスランの脳裏に蘇った。

 

(父上……母上……)

 

 黄道同盟の創設メンバーであり、後にプラント評議会初代国防委員長に就任したアスランの父──パトリック・ザラは厳格な人間で、コーディネイターは新人類であると公言して憚らない差別主義者だった。

 一方で母のレノア・ザラは当時身を隠していた月面都市コペルニクスでナチュラルのカリダ・ヤマトと友人関係となり、自分もその時キラと出会った。

 地球連合とプラント間の緊張が高まったことで、レノアは自分を連れてパトリックが独立運動を行っていたプラントに移住した。

 転機が訪れたのはC.E.70年2月14日だった。

 レノアが地球連合軍に所属するブルーコスモス支持者によって引き起こされた食料生産コロニー“ユニウスセブン”の崩壊に巻き込まれ、帰らぬ人となったのだ。

 元々タカ派の急先鋒だった父は過激な言動を繰り返すようになり、自分もまたそれをきっかけにザフトへ入隊した。それは軍人としてプラントの平和を守るためであり、地球連合に復讐するためでもあった。

 ザフトの士官アカデミーを主席で卒業したアスランは、同期らと共に世界樹攻防戦、グリマルディ戦線で活躍したクルーゼの部下に加えられることになった。

 

(キラ……)

 

 そして翌年のC.E.71年1月25日。

 自分はヘリオポリスで極秘裏に開発されていた地球連合軍の新型機動兵器を奪取するため、モルゲンレーテに潜入した際にキラと再会を果たした。

 3年ぶりに再会した時のキラは髪を伸ばした女性らしい格好をしていたが、記憶の中と寸分狂わぬ立ち振る舞いだった。なんとキラ・ヤマトは女の子だったのだ。

 何もかもが理解出来なかった自分は標的である“イージス”を奪取すると、その場から一目散に逃げ出した。これは何かの間違いだと思いたかった。

 アスランがクロト・ブエルと出会ったのもその日だ。

 6番目のG兵器──イージスの兄弟機として開発された“レイダー”のパイロットとして選ばれた少年兵が立ち塞がったのだ。

 グリマルディ戦線で初実戦を終え、自らの身体データに合わせる形で先行開発されていた専用OSを使い熟していたクロトは次々クルーゼ隊を討ち取り、あわやクルーゼをも追い詰めるところまで迫っていた。

 まさか同世代のナチュラルに、それもブルーコスモスに所属する少年兵にこれほど苦戦を強いられるとは思わなかった。

 自分はクロトの手に落ちたキラを奪取するため、失望する父を見返すため死に物狂いで戦ったが、数機で掛かっても到底仕留められる様な相手ではなかった。

 最終的にクロトに勝利したのは偶然だった。キラに深手を受け、撤退した筈のニコルが救援に現れなければ自分は敗れていた。

 それでも正義は勝ち、悪は敗れるのだと確信を深めた。

 さぁそんなヤツのことは忘れて俺と一緒に来い、と言い掛けたところでキラの憎悪が襲い掛かった。いつの間にかキラにとってクロトという少年兵は、幼馴染みの親友である自分よりも大切な存在になっていたのだ。

 自分は怒りのままにキラと死闘を繰り広げ、最終的に組み付こうとしたイージスに対してストライクが自爆する形で決着が付いた。

 タイムリミット寸前まで戦闘を続けていたキラは自爆に巻き込まれて跡形もなく消滅したとしか思えず、実際に付近を捜索したオーブ軍もそう判断した。

 その後出会ったカガリの言葉も、プラントで再会したラクスの言葉もほとんど頭に入らないまま、ただ奇跡的に生きていたらしいキラと言葉を交わすため、自分はジャスティスを受領した。

 血のバレンタイン事件を引き起こした核兵器を封印するため、無関係な中立国に至るまでニュートロンジャマーを無差別投下し、地球全土に前代未聞のエネルギー危機をもたらしたプラントが核機動モビルスーツを開発した矛盾。

 そこには自分の求めていた正義などどこにもなかった。

 世界各地を回っても一向に迷いの晴れないままオーブに向かった自分は、強化改修が施された新型のレイダーとストライク相手に奮戦するキラと再会した。

 どうやらクロトも生きていたようだった。しかしクロトには地球連合軍に切り捨てられたアークエンジェルに合流する意思は一切ないようだった。

 その時再び捨てたはずの感情が復活した。

 やはりナチュラルとコーディネイターは相容れない存在なのだと。キラに相応しいのはこの自分なのだと。

 そして自分は個人の意思でキラに加勢した。

 それが軽挙なものだったと理解したのはその直後だった。ストライクを退けたキラが、クロトと戦っていた自分に攻撃を開始したのだ。

 まさか敵として対峙しているクロトと援軍に現れた自分を天秤に掛けて、自分を拒絶するとは思わなかった。

 その後クルーゼ隊に合流した自分はコロニー・メンデルでもキラと和解することが出来ず、密かに両陣営の共倒れを狙っていたクルーゼの暗躍や、父が秘密裏に開発を進めていた大量破壊兵器(ジェネシス)の存在を見過ごしてしまった。

 その結果、自分は相手陣営を絶滅させるため互いに大量破壊兵器を撃ち合う、地獄のような戦場の到来に加担してしまった。

 キラの介入でボアズ基地に行われた核攻撃は奇跡的に阻止されたが、その反撃で父が解禁した最終兵器で地球連合軍は甚大な被害を受け、その本拠地である月面基地プトレマイオスも第2射を受けて壊滅した。

 地球を狙っていた第3射は三隻同盟の介入とフリーダムの核爆発で阻止されたが、それを最後まで阻もうとしていた自分は戦後裁判で大いに批判を受け、フリーダム強奪事件に関与したラクス達と共にオーブに亡命する形となった。

 結果的に世界を救った形になったとはいえ、軍事機密の塊であるフリーダム及びその専用母艦であるエターナルの強奪は決して許されないことだったのだ。

 クロトと再会したのはその頃だった。

 かつて心底疎ましいと思っていたブルーコスモスの少年兵は、地球連合軍のエースパイロットどころかモビルスーツの生体CPUだった。

 フリーダムを残してヤキン・ドゥーエ要塞を脱出し、エターナルに運び込まれたクロトは既に昏睡状態に陥っていた。

 人工的に生成された擬似的な脳内麻薬“γ-グリフェプタン”を大量摂取し、潜在能力を極限まで引き出した上でSEED因子を覚醒させたクロトはその反動で一気に病状を悪化させていたのだ。

 そうでなければキラに新型機を破壊され、その代替機として与えられたストライクに対するストライクルージュのような機体で、ドラグーンを用いたオールレンジ攻撃を得意とするザフトの最新鋭機“プロヴィデンス”を撃破することなど不可能だったらしい。

 いつのまにか医学を修得していたキラと異なり、ただの戦士でしかなかった自分に出来るのは見ていることだけだった。

 みじめになった自分は最悪の選択肢も頭に浮かんだが、遂にその勇気すら持てずオーブ軍に入隊してカガリの護衛に選ばれ、せめてクロトが外を出歩けるようになるまではと決断を先延ばしにしている内に戦争が始まり、そして終結した。

 

 

 

 トイレに駆け込んだアスランは便器に頭をもたげ、口内に迫り上がってきたものを辛うじて呑み込んだ。頭を殴られたような痛みを感じてその場から動けず、脳裏に浮かび上がった忌まわしき過去を再び記憶の片隅に押し込んだ。

 酒なんて飲むんじゃなかった、と水を流して立ち上がろうとしたアスランは入口で待ち構えているクロトの存在に気付いた。

 

「バーカ。飲み過ぎなんだよお前は」

「……そうだな。少し飲み過ぎたかもしれないな」

 

 とはいえ、決して悪いことだけではなかったのだろう。

 少なくとも自分にナチュラルの友人が出来ることなど、絶対に有り得ないと思っていたのだから。

 アスランはアルコールで火照った顔を流水で洗うと、その場をそそくさと後にした。

 

 

 その同時刻。

 別室で行われていたルナマリアと公務の合間に足を運んだカガリを中心とした男子禁制の親睦会では、被告人に対して厳重な取り調べが行われていた。

 

「クロトさんとはどこまで進んでるんですか?」

「え、えーっと」

 

 両脇をホーク姉妹に固められ、キラは困ったような笑みを浮かべた。

 親睦会の話題は、ゲストとして拉致されたキラとクロトに関する内容だった。ゴシップ好きでミーハーなところもある彼女達は──特に絶賛彼氏募集中のメイリンは、2人の間柄に興味津々だったのだ。

 

「手を繋いだくらい?」

「……アンタ、よくそんな嘘を吐くわね」

 

 カガリと同様に、公務の合間に現れたフレイはわざとらしくキラの顔を見て溜息を吐いた。

 

「う、嘘って……!」

「アンタねぇ。サイ達はどうだか知らないけど、マリューさんとムウさんもアンタ達のことは知ってたんだからね?」

 

 キラが赤面したまま黙り込むと、カナードとカガリは見苦しい態度を続けている妹に呆れたように肩を竦めた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。空き部屋はいくらでもあったのに変だなーと思ってたんだ」

「あぁ、()()()()()()()()()()()()()。アレでバレていないと本気で思ってたのか?」

「もうやめて!!」

 

 まるで探偵に罪を暴かれた凶悪犯のように、キラは両手で顔を隠しながらがくりと項垂れた。遺伝子の相性次第で子が成せないコーディネイター同士ですら滅多に聞かない下世話な内容に、ホーク姉妹は赤面しながら苦笑した。

 今や世界最強のエースパイロットと評されているクロトと、それを上回る正真正銘フリーダムのパイロットであるキラが想像以上に爛れた関係らしいと理解したからだ。

 

「と、ところでラクスはどうなの?」

「残念ながら艶っぽい話は何もありませんわ。わたくしもキラを見習わないといけませんね」

 

 本気か冗談か全く分からない口調で、ラクスはますます顔を紅潮させたキラを見ておどけたように笑った。




後半の過去回想では保護者大激怒シーンが流れてそう。

ところでなんと来年3月末に大阪、5月に東京でSEEDオンリーがあるそうです。レイダーの下に集え!
1月に劇場版上映ですもんね。
乗るしか無い、このビッグウェーブに。

作者は一般参加しか経験がありませんが、サークル参加する有識者の兄貴姉貴はいるんですかね……?
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