燦然と輝く蛍光色の光に照らされて、朝木は坊主頭の医者と向き合った。
二人の周りを囲む培養液には、澄んだ肌色の死骸が無数に浸され、来客をじっと見つめるかのように瞳を揺らしている。
そこは実験施設というにはあまりに霊妙な空間で、儀式上というにはあまりに悍ましい科学の叡智が立ち並んでいた。
『ドクター、彼から君に相談とのことだ。聞いてやってくれ』
どこからともなく降って湧いた声に、坊主頭の医者――氏子達磨という名の男は溜息をついた。
「特別だぞ。オール・フォー・ワンきっての申し出でなければ、お前のようなガキをワシのラボには招かん」
「それはそれは。寛大なお心に言葉も出ませんね。俺も来たくはなかったよ」
朝木は研究書類が纏められていたデスクに適当な空間をつくると、そこに腰を落ち着けた。
「……無礼者め。相談とは?」
「個人的に仕入れて欲しい物がある。まぁ、もしかすると、雄英襲撃でも使うかもしれない代物だ」
「ふむ、物によっては考えてやらんこともないが。それで、何が欲しい?」
「液体窒素1000Lと金属ナトリウム1t。とりあえずそれだけ」
「…………テロでも起こす腹か?」
「学習不足だよ、氏子さん。テロには政治的思惑が必須事項なんだ。知っての通り、ただの通り魔的破壊はテロじゃない。最近は“計画性”を“政治的”と短絡的に結ぶ奴が多くて、困ったものだね。雄英襲撃なんて社会科見学みたいなもんさ。俺たちはそこで、ついでに人を殺すだけ」
無茶苦茶な理屈で武装した暴論を呆れたように腕で振り払った氏子は、更に溜息を重ねると、苦々しい表情を繕いながらも渋々首肯した。
「半分はこっちで調達してやるが、もう半分は自前で何とかするんだな」
「了解した。何、期待はしてなかったから、半分埋めてくれるだけでも有難いさ」
「……ならば最初からワシなぞ頼るな」
「知ってるだろ。今は情報収集で多忙なのさ、俺」
雄英襲撃の案は形になってきてはいるが、まだ情報も戦力も詰め切れていないのが現状だ。とは言え、雄英の見取り図や予定情報は実際の地の利もある朝木からすれば、入手も比較的容易だった。問題は人員集めの方だが、朝木のマルチタスクにも限度があるため、死柄木と黒霧の担当ということになっている。
だが、あの悪童に人を集める知性など無いだろう。最終的には、“先生”に頼るのが関の山だ。
「どうせ死柄木はアンタを頼る。もっと全面的に支援してくれても良いんじゃない、ジジイよぉ」
『君はいつまで経っても私を先生と呼んでくれないね。……これでいいんだ。石橋は優秀な建築士に作ってもらった上で、自分で叩いてみるのが良い』
今の論調から察するに、石橋を作る側の人間は『先生』や『朝木勇』であり、叩いて渡る側が『死柄木弔』といったところだろうか。正面戦闘に特化していない朝木は、裏方での立ち回りの方が合っている。しかし、誰かと共同戦線を張っている今のような状況は、どうも気分が優れなかった。
これで、全て自分が思い通りに盤上を指揮できるのなら、朝木としても一切の文句はない。しかし、オール・フォー・ワンは決して他人に指揮棒を譲らないだろう。それどころか、朝木勇ですら自分の手駒のように思っているに違いない。
『──そういえば、もうずっと君の調整をしていなかったね。どうかな、その後の体調は』
「ご心配なく。仮に問題があったとしても、アンタに整備されるのだけは御免だよ」
そんな見え透いた虚勢を張れる程度には、朝木は健康体だった。
「フゥム。たまげた器じゃの。ある意味マキア以上ではないか?」
『肉体と違って精神強度には限りがない。僕の通説を朝木勇──君は証明してくれた。つくづく、僕らの出会いは宝だったと実感するよ』
「……あっそ」
隠居中の闇の帝王の軍門に下ったのは、結果的に朝木にとっても有益だった。そのおかげでこうして今も最低限の幸せを感じる生活が出来ている。ただ、感謝するかどうかは別問題だ。
朝木は目の色を薄くし、先生の姿を想像して虚空を睨む。……アンタがどれだけこっちに感謝しようと、こっちがアンタに友情を持つことなど、決してあり得ないと。
「出来ることなら、もう少しばかり奥まで、お前さんの脳を解析してみたいものだな」
「馬鹿言うなよハゲダルマ。死にたくないなら、そういう冗談は辞めときな」
オール・フォー・ワンだけではない。氏子達磨も慢性的には朝木勇の敵だ。死柄木を率いるこの異常者二人に、人間の感情は期待してはいけない。
ただ、利用できる分には利用しよう。
相手がこっちに友情を錯覚している間、それに甘えて搾取するくらいなら、朝木のプライドの許容内だった。
「そういえば氏子さん、ついでにもう一個――
◇◆◇
社会の深層で悪魔どもが密会を果たして数時間後――時刻は12:50を回った頃。
雄英高校ではちょうど四限目が終わり、昼休みに突入していた。国立学校なだけあって設備は他の学校より秀でており、学内には四つ星級の食堂が併設されていた。
「人すごいなぁ……」
昼休みの花園『メシ処』にやってきた緑谷出久は、軽く想像の三倍を行く人口密度に顔色を悪くし、倦厭の念に駆られていた。
「ヒーロー科以外にも、サポート科や普通科の生徒、上級生の方々も一同に会するからな!」
「席空いとるといいけど……」
飯田天哉と麗日お茶子も同伴し、三人は食券機の元へと向かった。既に格安の定食は売り切れが続出しており、余談を許さない状況だ。
三人の前列には約五十人近くが並んでいる。料理にありつけるのは何時になることやら。評判が良かっただけに反動が大きい。三人が肩を落としていると、背後に並んでいた少年が声を掛けた。
「なぁ君たち、もしかしてヒーロー科の一年か?」
緑谷が振り返ってれば、そこにいたのは女性のように端麗な顔立ちの少年だった。人形のように柔らかそうな肌に、清潔感のある深い黒髪。
その容姿にも驚きだったのだが、たまたま列で近いというだけで気さくに話しかけてくる積極性は、流石雄英生と言ったところだ。
「えっと、は、はい。一年生です!!」
「畏まるなよ。誤解しないで欲しいんだけど、俺も同級生だから」
「あ、そう、なん……だ」
内向的な緑谷は、不意のコミュニケーションがあまり得意ではない。自分の歯切れの悪い返答を羞恥し、顔が茹で上がっていく。ただでさえ人が多くて緊張しているのに、こんな陽キャを超越した太陽神みたいな少年に声を掛けられて、精神力が保つはずがない。
「どうして僕らが一年の、それもヒーロー科だと思ったんだ?」
慌てふためく緑谷に、飯田が助け舟を出した。
「だって君たち、自信のない足取りとか、制服の仕立て具合とかいかにも一年生じゃん。あと、ヒーロー科は他の科より比較的授業が終わるの遅いし、校舎も遠いから、列の位置的にもてっきりそうかと。違うのか?」
「すごい洞察力だな。……いいや、その通りだとも。俺は一年A組の飯田天哉! どうぞよろしく!」
すると、萎縮せず自己紹介した飯田に鼓舞されて、他の二人も名乗りをあげる。
「私、麗日お茶子。その眼なんかカッコイイね!」
「緑谷、です……だ」
「無理に敬語外そうとしてこんがらかってんの面白いな君! 他の二人も元気あって良いね!」
緑眼の少年は花のように笑いながら、緑谷の肩を小突いた。何だかスキンシップの感覚が映画の中で見る外国人に似ている気がする。
「――
「……C組? そんなのあったの?」
最初に疑問に思ったのは緑谷だった。受験の定員から考えても、ヒーロー科に三つもクラスが存在するとは思えない。
「あ~、確かに表向きは無いんだけど……う~ん、詳しく説明しなきゃダメかな」
「後ろめたい事情ってヤツだ……!」
「バッサリ来るね!?」
「俺も少し気になるな」
「……本当はオフレコなんだけどな。他言するなよ?」
三人から疑念を向けられ、居たたまれない様子の朝木は、苦々しい微笑を繕った。
「アレだよ。留年生向けの特別学級ってヤツ」
「留年? 除籍ではなくて?」
「そうそう。進級に値しない成績を修めつつも、個性の希少性とかが認められて学校に残留できる裏システムがあるんだ。学費は馬鹿高くなるけどね。そんな奴らのクラスが一年C組って訳」
「えぇ……何そのズルいシステム……」
つい口から出た言葉。
緑谷は自らの失言に遅れて気付き、はっと口を押えた。
「あはは! そう言われると痛いな。ただ、やっぱり君が思うように特別待遇ってのは問題らしくて、口外したら強制除籍なんだよね」
「そ、それ退学ってこと!? じゃ、話しちゃ不味いんじゃ……!」
「君たちが黙ってくれてたらオールオッケーよ」
朝木が説明を渋っていた理由が判明し、緑谷たちは結果的に感じ悪く迫ってしまったと猛省した。
「俺は年上だけど、タメだと思ってくれていいから。あと、順調にいけば来年は君たちと同じクラスかもしれないし、今のうちに友達になれたら嬉しいな」
留年生と言うからには成績不振なのだと思うが、外面だけは限りなく完璧な朝木は、既に三人からの初見好感度で上限値を叩き出していた。僅かな年の差など覆い隠すように、濃い友情が演出される。
「俺たちとしても、色々と教えてくれるとありがたい!」
「留年生なんだぁ。だから雰囲気とか上級生っぽかったんだね」
「僕、てっきり普通に大人の人かと疑っちゃった。すみ……ごめんね、朝木くん」
「良いってことさ! あ、どうせ一緒に食べるなら、さっきの話の口止め料ってことで奢らせてくれない? 俺って友達の為に浪費するのが趣味だからさ」
「ムム! では、それに甘えてしまうと君の為にならないな!! 拒否させてもらおう!!」
「ふ、アレを見ても同じことが言えるかな――?」
そう言って朝木が指差したのは、もうすぐそこまで差し迫った食券機の一番上の欄。まるでピラミッド構造のように突き抜けたそれは、煌煌と“壱万”という文字を帯びた一般学生たちの絶対不可侵領域だった。名を――『レジェンドハンバーグスペシャル弁当』。
「が、学生食堂で一食一万円だって!? PTAは息をしていないのか!?」
「…………じゅるり」
「あの値段から考えて、きっと普通の高級料理って感じじゃない……? もしかして、成長を促進する為に究極の栄養素が詰まってるとか……ヒーローの名門ならそれもあり得る……だとすれば、それを毎日食べればどれほどの効果が……まさかぼったくりってことは無いだろうし……ブツブツ」
三者三様の個性的な反応に、朝木の頬は緩む。懐から諭吉を四人召喚し、見せびらかすように扇いで見せた。
「ははン――安心して甘えてくれていい。俺にとっての四万円は君たちにとって四百円と変わらない」
「神や……神がおる……!」
「ありがとう朝木くん!」
「ぐッ、ま、まぁ、君がどうしても奢りたいと言うのであれば、その顕示欲を満たすため俺たちが贄となるのも吝かではないな……」
「オッケー。決まりな」
前の列が全て消化され、四人は食券機の前に並び立つ。朝木は『レジェンドハンバーグスペシャル弁当』の食券と万札四枚の等価交換を済ませると、それをカウンターに持っていくのではなく、緑谷に譲り渡した。
食券購入の現場を目の当たりにした緑谷としては、その紙切れの価値の重さを理解しており、それを託された重圧で妙な声が漏れてしまう。
「……あの、これ」
「食堂勤務の“ランチラッシュ”と少し前に揉めたんだ。煮魚についてくる漬物の大きさでゴネちゃって。――そういう訳で、
「そっか。だから僕らに運んでほしいってこと?」
「そゆこと。任せたぜ、緑谷」
朝木は四人分の席を確保するため、三人と別れて食堂の喧噪の中に紛れていった。
◇◆◇
四人用のテーブル席に座った朝木の背中に、ひたりと吸い付くような温もりがあった。
その正体は背後で格安の牛肉定食を頬張る女子生徒だ。
「もしかして、緊張してる?」
「何がです?」
「……ハハ」
乾いた笑いは先刻までの“一年C組朝木勇”と似ても似つかない劣悪なもの。朝木は食事に執心中の少女に、背中越しから語り掛けた。
「――案外バレないもんだね。ま、こんなにごった返してたんじゃ、仕方ないけどさ」
「楽勝だったんですか?」
「ああ。目標のコピーは手に入った」
朝木は胸ポケットにしまい込んだUSBに手を当てる。
「
「……じゃ、帰ります?」
「焦る必要はないよ。君は一般女学生。食事はゆっくり楽しもう」
「はい。勇さんが言うならゆっくり楽しみます」
悠長な会話を広げる不法侵入者二人は、誰にも気づかれない自信があるのか、もしくはこのスリルすら楽しむ豪胆さを備えているのか、微塵も不審な様子もなく、周囲には小声で話し合う一般生徒にしか見えていないことだろう。
「でも、もうちょっとくらいトラブルがあっても面白かったのに。見知った顔とすれ違う、とかさ。流石に教師はヤバいけど。……退屈すぎて、思わず一年C組とか名乗っちゃった。ハハ」
「私もコスプレだけで、個性使ってないです。本当にこんな変装で大丈夫なんでしょうか」
「トガちゃんって意外に慎重派なんだね。バレたらバレたで面白いじゃん。何事も楽しもうぜ」
すると直後、はらりと朝木の視界に水玉模様の布が躍り出た。旋回するように空気に乗り、ゆっくりと重力に従いながら足元に着地する。
そのハンカチを拾ってふと顔を上げると、仄かな香水の匂いを感じた。……そういえば、俺はこの匂いを知っている。ふと振り向くと、
……へぇ。
どうやら、彼女はこの二年間香水を変えていないらしい。
見なかったことにしてもいいが、女子はハンカチを無くすと困ったりするのだろうか。そう考えた朝木は、決意するより先に身体を動かしていた。
ハンカチを拾うと、少女を追って肩を叩き、
「そこの方。コレ、落としましたよ」
「あらら~、すみません。ありがとうござい……ま……?」
──まぁ、別に、何てことはない。
この世には自分と同じ顔の人間が三人はいると言う。たとえ少女が、殺人の罪に問われたかつての想い人と似た顔した男と、食堂で偶然の邂逅を果たしても全く不思議はない。
そう、全く違和感のないあり触れた自然な偶然なのである。
「どうしたのねじれ~? 先に行っちゃうよ~!」
「…………う、うそ」
波動ねじれの眼が見開かれる。
「そんな。どうして……っ? 何でここにゆうとが」
「ええっと、“ゆうと”って俺のことですか……? 確かに俺の名前は朝木勇ですけど……」
異常に当惑するねじれを前にして、朝木は至極自然な困惑を織り交ぜて続けた。
「あのぅ~、友達が呼んでますよ。行かなくていいんですか、先輩?」
「……」
天真爛漫で赤子のような微笑みが得意な少女は、この時だけ石仮面のように表情を凍らせていた。しかし、数時間にも思える数秒の沈黙の末、彼女は『思い過ごし』という結論に達する。
当然だ。常識的に考えたらまずありえない。彼がここにいる筈がない。本当にいたとして、顔色一つ変えず、こんなに自信満々と他人の顔が出来るなんて――そんなの人間の精神じゃないのだから。
「……まさか、ね。……うん、拾ってくれてありがとう! ばいばい!」
「ええ、またどこかで」
だからこんなもの、トラブルでもリスクでも何でもない。他人の心の動きを熟知していることが、どれだけ退屈なのか実感した朝木は、諦観にも似た息をついた。
「――今のは知り合いかい? 上級生だったようだが」
「やぁ飯田。何だよ、見てたのか」
いつの間にかトレイを持って近づいてきていた飯田を、朝木は四人テーブルに先導した。
「今の彼女については本当に知らないんだけど、立ち振る舞いから察するに、かなり屈強そうな先輩だったね。きっと雄英の三本の指に入るくらいには実力者なんじゃないかな」
「……やはり知り合いなんじゃないか。昨年の関係性なのか?」
「さてどうだろうね? 少なくとも、彼女は俺を赤の他人だと認識したみたいだったけど」
「…………何と言うか、その、お気の毒に」
フラれた感じに勘違いしているようだが、まぁいいだろう。
朝木は先程と同じ位置――牛肉定食の少女と背を向け合うように――腰を下ろし、飯田が運んできたハンバーグ弁当を見下ろした。
「(これが、レジェンドハンバーグだと……?)」
雄英在学中は苦学生だったため、朝木はこの幻の肉と対面するのが初だったりする。
そして、ブラックボックスだった一万円という料金設定の謎が、今解けた。使われている肉は至って平凡。盛り付けも珍しくない構図。スーパーの食材で九割九分の模倣ができそうなよく見るハンバーグである。ただ一点――金粉が散りばめられていることを除いて。
「これ、絶対に味大したことないやつ……」
「ん? 何か言ったか?」
「いいや別に……」
暫くすると、緑谷と麗日もやってきた。
「ゴメン、待たせた?」
「数分くらいだ。気にするな」
「それじゃ、みんなで一緒に食事の挨拶でもしよっか」
「ご立派だね、麗日。“いただきます”ってやつ? 俺は久しくした覚えがないね」
「一つのお米にはね、神様が住んでるから。ちゃんと感謝示さなきゃあかんよ」
「はい! 分かりましたお母さん!」
「……朝木くんって誰とでも仲良くできそうな人だよね。社交性が後光みたいに滲み出てるし」
「デクくん、それガチで言っとるん……?」
食事前の談笑も何気ない青春の一幕だ。ここに邪な者が割り込む余地はない――筈だった。
突如鳴り響くけたたましい警報ベルの音。不安を煽る音調は、狂騒渦巻く食堂を瞬く間に静まり返させる。
『セキュリティ3が突破されました! 生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください! 繰り返します! セキュリティ3が――』
「な、何だコレ!? セキュリティ3って!?」
「……誰かが校舎内に侵入してきたってコトだよ。どうなってんだ全く」
混乱に陥る人々の波の中で、鎮座し続ける朝木だけが冷静沈着だった。それもその筈、彼だけが瞬時に何が起きているのかを把握できたのだから。
(大方、誰かさんが“雄英バリア”に
既に雄英に朝木が侵入していることを知らないのか、それとも援護のつもりなのだろうか。死柄木と朝木の行動にすれ違いが生じ、この状況だ。
彼の考えでは、襲撃の実行日まで学校側の警戒心を煽るような出来事は起こすべきではなかったのだが、起きてしまったものは仕方がない。
「飯田、緑谷、麗日。君たちは先に避難を済ませてくれ。俺は校舎で残った人たちの避難誘導に助力することにする」
「そんな! だったら僕らも!!」
「緑谷――悪いが、足手まといだ。新入生なんだから俺に従え。いいな?」
割と本気の圧を込めた命令口調。肌をジリジリ焼くような朝木の眼差しに、緑谷は身震いを禁じ得ない。
彼の平時の陽気な人柄も相まって、この指示に口答えできる者は一人もいなかった。
「くれぐれも気を付けてくれよ」
「そっちもな」
最後に飯田とだけ言葉を交わし、朝木は未だ食事を続ける少女に声を掛けた。
「ぶぅ。まだ食べてる途中だったんですけど!」
「ゴメンよ。……『
「……ここより、勇さんの手料理の方がいいです」
「え、俺の? オムライスしか作れないよ?」
「そっちの方が好きです。特製ケチャップのヤツです」
「嬉しいよ。ありがとう」
言うと、朝木はトガが抱えていた手製の
「コレは忘れ物。今日、
そして、必要な最後の布石は完了した。
「帰ろうか。――次来る時は、誰かを殺そう」
「はい」
数十秒後、学校の何処かから別の場所へ、朝木とトガヒミコの姿が消えた。