元雄英生がヴィランになったお話   作:どろどろ

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第五話:忍び集う影

 心臓が引き締まるかのように鋭利な空気が立ち込める空間。

 裁判官と裁判員たちの、厳格でいて同時に卑しげであるかのような瞳に見降ろされた少年を、初老の検事は無慈悲な言葉で斬りつけた。

 

「──現場に残された弾痕から、犯人が猟銃を使用していたことは明らかです。加えてその夜、現場近辺で目撃された者の内、“無個性”だったのは被告人だけであります」

「……っ」

 

 滔々と手元の書類を読み進める検事の言葉を聞き、聡明な少年──草壁勇斗は即座に発言の趣旨を理解する。全身の毛穴から汗を出し、信じまいと賢明に努力をしてみるも、続く検事の答え合わせは残酷だった。

 

「──個性を持っている者なら、わざわざ武器の類を使用したりはしないでしょう。進化の遅れた旧人類、時代に置き去られた被告人こそが、この連続殺人事件の犯人であることに一切の疑いの余地はありません!!」

 

 乱暴な論理としか形容できない主張ではあったが、裁判員たちの反応を見る限り、少なくともこの空間では今の説明に大きな信憑性が付与されているようだった。

 勇斗はそれを察知し、戦慄し、恐怖と同時に落胆する。

 

 あり得ないだろう。

 状況証拠と言うにも稚拙すぎる根拠。

 武器から指紋が検出されたわけでもない。

 ただ、銃火器に武装していた犯人はきっと無個性に違いない……そんな愚にもつかない滑稽な論理が、厳正なる司法の場でまかり通るなど。

 

「──被告人、草壁勇斗氏が犯行に至った動機についてですが……証拠5をご覧ください。彼はつい半年前、某ヒーロー科高校を自主退学しています。恐らくは無個性故の非力さで授業についていけなくなったからでしょう。

 ──『どうして自分だけが持っていないのか!?』『他の皆は持っているのに!?』『恵まれていないのは自分だけなのか!?』『個性を持っている人間が妬ましい!!』……被告人に、そのような醜い感情が芽生えたであろうことは、想像に難くありません」

「な……っ!?」

 

 目を見開いて怒りを露わにする。

 妬ましい? 醜い感情、と言ったのか? この男は。

 草壁勇斗は個性に恵まれなかった。それは事実だ。そして、友達からも先生からも「お前にヒーローは無理だ。努力するだけ無駄」と何度も言われてきた。

 努力するスタートラインにすら、立てなかったのだ。

 

 それでも諦めきれなかった。

 ただ偶然、少年の夢を支えてくれる家族がいたから、彼は頑張ることが出来たのだ。

 努力することを辛うじて、家族にだけ許してもらえたのだ。

 

 そうやってようやくたどり着いた──雄英入学という華々しい奇跡。

 他人を妬む時間も、僻む時間も惜しんで、血の滲むような研鑽をつんだ結果がソレだ。

 にも関わらず……草壁勇斗が他人を醜く妬んでいた、だと?

 

「何か言いたそうですね?」

「ッ」

 

 冷ややかな裁判官の目が勇斗を射抜く。 

 怒りよりも平静な心の方が若干勝り、勇斗は感情が許す限り出来るだけ穏便な反駁を行った。

 

「そんな……俺は……銃声と悲鳴を聞いたから、被害者宅に駆け付けただけで……でも、もう手遅れでした……。被害者の方は、虫の息で……俺は、助けられなかった……」

「助けられなかった? 君が殺した女性をですか? 言っている意味が分かりませんが」

「っ! だから!! 俺は犯人じゃないって言ってんだろ!?」

 

 最初から結論ありきで決めつけている司法の従事者を前に、とうとう勇斗は最後の防波堤を破壊し、内に溜まった悲痛な叫びをぶちまけた。

 

「おかしいと思わないのか!? 無個性だから、きっと犯人に違いないって!? 俺が個性のある他人を妬んでるって!? 頼むからちゃんと調べろよ!! ちゃんと知ってくれよ! 俺がどういう人間なのか!! ちゃんと考えてくれよ!!」

「…………はぁ」

 

 あぁ、こりゃ全く通じていない。

 

 人間の言葉が。

 

 客観的な論理に紐づいた要求が。

 

 この愚鈍な生物たちには通じていない。

 

 言い終わり、勇斗の目が死んでいった。

 無個性だから。無個性なのに。無個性の分際で。──ここでもまた、同じような視線ばかりに出会う。傍聴席に視線を逸らすと、そこに鎮座する無数の生物たちは、勇斗を汚物でも見るかのような目で眺めていた。

 人間の姿をした滑稽な何か。

 他人に救われることに慣れきり、求めることばかりを覚え、社会の少数悪を笑顔で害獣と割り切る、最も理性から遠い醜い豚ども。

 

 ──自分は、こんな人間たちを救うために、ヒーローを志していたのだろうか……?

 

 

「確固たる証拠に鑑み、客観的に事実が評価できるにも関わらず、被告人には一切の反省の色が見えない。また、犯行に至った明瞭たる動機についても身勝手極まりないもので、手口も極めて悪質である。被告人が未成年であることを踏まえても、更生の余地があるとは到底思えない!!」

 

 

 地獄の鐘が、少年を祝福するように鳴り響く。

 

 

「よって──主文、被告人『草壁勇斗』を死刑に処す!!」

 

 

 カラカラと、何処かで鳥が嗤った気がした。

 喉の奥がぐつぐつと煮えたぎり、心臓はパチパチと律動を激しくしていく。

 視界がぐにゃりと曲がると、その隙間から色彩と形容するにも悍ましい憎悪の念が噴出してくる。

 

「……ははっ」

 

 ゲラゲラと、今まで勇斗を見て笑ってきた有象無象たちの声。

 全く同じ感情が、全く同じ笑い声が、草壁勇斗の腹からあふれ出した。

 

「アッッハハハハハハハハハハハハァァァッ──ッ!!」

 

 誰が誰を嘲笑っていたのか、もはや少年自身にも分からない。

 

「ふざっ、けんな……っ!」

 

 痒くなって痒くなって痒くなって痒くなる。

 目の裏側に虫が入りこんできたかと錯覚するほど、少年の頭の中に雑草が生い茂る。

 

「ふざけんな……ッ!!」

 

 羨ましかった。妬ましかった。全部欲しかった。

 でも、そんな感情を圧殺して少年は常に最善を尽くしてきた。

 醜い本音と戦いながら、誰よりも清廉潔白な聖者であらんと努めてきた。

 

 ──その徒労への報酬がこの悲劇だと言うのなら。

 

 怨嗟のように、慟哭のように、かつて黄金色を誇っていた少年が咽び叫んでしまうのも、無理もない話だった。

 

「ふざけんなよなぁァァアアアアアッッッ!!!!」

 

 その時、無個性の少年の絶叫に呼応するように、『個性』もまた同時に雄叫びを上げた。

 世直しと言わんばかりに、豚を屠殺する衝撃波は四方八方に拡散され。

 

 

 

 

 そして再び──目が覚める。

 

 

「……また、この夢か」

 

 鈍い頭痛を抑えるかのように頭を指圧しながら、朝木はベッドから身体を起こす。

 そのすぐ隣で眠るトガの首筋を撫でて、そこにある命の脈拍を感じると、ふっと安心したように微笑んだ。自分が失った温度を、トガを通じて取り戻したかのような気持ちになれたから。

 

「確か……あの後、草壁勇斗は逃げ出して──それから、駆け付けたヒーローの炎で、生きたまま……」

 

 少年が辿った悲惨な最期を思い出し、朝木が肩を揺らす。

 

「ハハ、くっだらねェ。マジウケるわ(笑)」

 

 

 ──まぁ、気にするだけ無駄だ。

 ──どうせ自分とってこの記憶は、()()()()()()()()()()

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ヒーローを目指すなら雄英高だろう、と誰もが言う。

 

 現No.1、No.2を誇るトップヒーローたちの母校であり、業界内最高峰の業績を爛々と掲げる名門中の名門である。高偏差値の国立大であることに鑑みれば、ヒーロー業界以外への就職・進学への可能性も幅広い。

 まさに、入学が決定した瞬間に将来が約束される、日本の花形である。

 

 口田甲司(こうだこうじ)は今年度の雄英入学生の一人だった。

 それも、彼の所属学科は倍率は軽く数百を超える超難関のヒーロー科である。

 

 入学してからは夢のような受難の日々だった。

 

 担任の相澤は時に理不尽のような命題を課してくることもあったが、そんな壁の一つ一つが、全て綿密に絡み合って自分の将来を裏打ちしているのだと思うと、あらゆる苦労に幸を見出すことが出来た。

 

 今日も厳しいヒーロー基礎学を乗り切り、全ての授業が終了すると、彼はいの一番に教室を後にした。

 元々口数が多い方ではない。友達が少ないことは悩みの種だが、彼には個性によって動物たちと意思を交わすことが出来る。孤独とは縁のない日々だった。

 

 帰り道、口田は小鳥たちと戯れながら真っ直ぐに我が家を目指す。

 日は既に落ちかけていて、家では母が夕飯の支度をしている事だろうか。

 

「……うん?」

 

 漫然と夕日を眺めていると、不意に流れ込んでくる違和感。

 足を止める。

 

 彼の個性──『生物ボイス』は、動物と意思疎通し、自由に命令を下せるというものだ。その性質上、彼の側にも動物の意思というものが流れ込んでくるということがある。

 人間めいた言語である場合もあれば、極めて鮮烈な感情という形もあり得るだろう。

 しかし今回の場合はそのどちらにも該当しない。

 

 それは、まるで動物に元来備わる危機意識のようなもの。

 

 明確な『逃げろ』というメッセージだった。

 

「何、だろう……この、感じ……」

 

 バサバサと散り散りに去っていく鳥たちを尻目に、口田は違和感の正体に苦悶する。

 自然災害の際に、その予兆を敏感に予知した動物たちが回避行動を行うという事案は、古くから発見されているものだ。

 感覚としてはまさにそれに近い。

 

 

「おい朝木、アイツじゃないか?」

 

 

 顔を上げると、正面から近づいて来る男たちがいた。

 対照的な二人組だ。

 片や、灰を被ったかのような髪色の、幽霊のような痩せぎすの青年。

 片や、さも苦悩とは無縁と言わんばかりの緑目の優男。

 

 

「言葉を考えろよ、シギー。俺たちはあくまで偶然、ここを歩いていたらたまたま雄英の生徒と出会い、これから好奇心で声を掛けようというだけだ。まるで彼個人を狙っていたかのような言い方はよせ」

「なるほど。そういった白々しさはお手の物みたいだな。なぁ、操り人形」

「ハハ。未だにナンパ=悪だとか、青臭い倫理観に毒されてそうな現代キモオタ軍団のボスみたいなお前には、どうせ理解できないことだろうさ」

「意味不明だな」

「当然だ。チェリーには理解できない日本語だからな」

 

 

 ソレを視認した途端に、即座に理解する。

 先刻から感じていた違和感、嫌悪感、忌避感、危険信号の正体があの二人であることを。

 

「やぁ、雄英生。ちょっと俺たちに道を教えてくれないか」

 

 緑目の青年は耳障りの良い声を不敵に弾ませながら、口田へと歩みよった。

 今すぐに逃げなければ、自分の身が危ない。

 そう感じる一方で、全てが自分の思い過ごしである可能性を憂慮してしまい、決定的な判断が下せない。 

 

「震えてるぞ、そのガキ」

「ありゃりゃ……この段階で怯えるとは、勘の良いことだ。流石は俺の後輩だな」

「もういい。強引に連れ去る」

 

 ビクリ。

 連れ去る、とそう言った。

 誰が、誰を? ……決まりきっている。

 

「短慮だな。俺が彼なら、個性との兼ね合いで必ず蜂か毒蛇を携帯しておく所だが」

「なら大丈夫じゃねェか。コイツはお前じゃねェ」

「……ふむ、確かにその通り」

 

 尻餅をつく。

 二人がニマリと嗤った。

 

「では荒々しく参りましょうか、我らがリーダー」

「ッッ」

「──……つって、もう手遅れなんだけどね」

 

 悪魔の背後から圧倒的な『黒』が出現し、瞬く間に口田の世界は暗転した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 そこは人里離れたモダンなログハウスだった。

 窓の外に目をやると、飛び込んでくるのは広大な山々の景観。はたまた別方向の窓からは、沿岸側からの涼しい南風が吹き抜けてきている。

 口田はそんな緑の家で、全身を拘束されていた。

 

 最初は相手も優しかった。

 コーヒーを振る舞ってくれたり、何処からか数匹の山猫を連れて来たりと、まるで上客を遇する猫カフェの店員かのように接してきたのだ。 

 彼は個性の影響で動物の心が分かる。猫たちは、その男に懐ききっていた。さぞ長い年月可愛がられていただろうことは、想像に難くない。しかしそんな矮小な愛玩動物たちを──男は口田の目の前で生きまま解体を始めたのだ。

 

 いきなり誘拐されて、かと思ったら厚遇されて、少しだけ心を開きかけた矢先、信じられない凶行を突き付けられる。

 

 自分が痛めつけられたわけでもないのに、正体不明の感情に胸を刺された口田は、気付かぬうちに咽び泣いていた。

 

「その涙は何だ? 憂いか? 失望か? それとも恐怖か? どれでも良いが、全てなら尚良い」

「ぅ……ぁ……っ」

 

 緑目の優男は滑らかな指先で、這うように口田の下顎を撫でる。

 

「──あぁそうだ、それでいい。色んな君の感情を発露してくれ。短期的にとは言え、君という少年を模倣するのに材料は多ければ多いほどいい。俺も学ぼう。だから君もしっかりと見て覚えるんだよ、トガちゃん」

「はい」

 

 いつの間にか、優男の傍に女子高生が佇んでいた。

 改めて周囲を探ると、彼らの他に人の気配はしない。家の中は勿論、外からも。何故かシギーの姿も見えなかった。

 

 拘束具で縛られた身体を無理に起こされ、簡素な木製椅子に縛られる。

 

「安心してくれ。親御さんには、君は友達の家に泊まると連絡してある。ここは誰も来ないから、好きなだけ絶叫できるよ」

 

 

 ──そして、本当の地獄の時間は始まった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 五時間が経過する頃、口田は死から限りなく遠くもあり、しかし生から限りなく遠い世界に、意識を飛ばされていた。

 全裸のまま木製の椅子に張り付けにされ、全身の太い動脈と静脈には、満遍なく何本もの輸血用のチューブと脱血用の注射器が取り付けられている。無理やり新鮮な血液を循環させてはいるものの、彼の身体は本来あるべき生気の色を失っていた。

 両手両足の爪は当然のように全て剥がされ、剥き出しになった筋繊維には針が縫い付けられている。

 体毛は毟り取られ、岩石のような頭部は一部が粉砕され、脳が頭蓋骨が外気に直接触れている状態。

 

 優しかった元来の表情は見る影もなく、地獄の淵で悪魔にでも怯えるかのような顔のまま静止してしまっていた。

 しかし浅く肩が動いているため、完全に絶命はしていない。

 いや、朝木が口田にそれを許していなかった。

 間違いなく再起不能となるであろう非道なる拷問を施され、それでも彼は死ぬことさえ許されず、終始肉体と精神を限界まで摩耗することを強いられたのだ。

 

「ふぅ~っ、これにて解体終わりぃ~……流石に今回は疲れたなぁ……ねぇ、助手ちゃん?」

「ううん! すっごく楽しかったです! 私はまだまだイケます!!」

 

 朝木に助手と称された女子高生……トガは飛び跳ねながら口田の周囲を駆け回る。その度に脊髄反射で少年の身体がビクンと揺れ動いた。

 

「これ以上は彼の身が持たないからダメだよ。君は俺があとでイカせてあげるから、今は真面目に復習すること。いいね?」

 

 トガの頭をポンと叩く。

 狂喜乱舞するかのように駆け回っていた少女は、それだけで表情を溶かし、動きを止めた。

 

「うへへへへへ~……はぁ~い……私は勇さんの言う通りにするのです~……」

「うむ。よろしい」

 

 朝木は脱力したトガを抱きかかえ、近くの長椅子に寝転ばせた。

 その後、黒い霧に包まれて登場した悪意の申し子たちが、雄英生を取り囲むように、腐った血のような香りで充溢する部屋に集結する。

 死柄木は朝木が作り出した惨状を目の当たりにし、呆れたように肩をすくめる。

 

「お前にこんな趣味があったとはな」

「別に。趣味ではないかな。むしろ拷問(こういうの)は効率悪くて嫌いだ」

「でも、あの女に学習させるために必要だったんだろ?」

「まぁねン。トガちゃんには当日、しっかりと生徒に扮して、対オールマイト用の“人質”として機能してもらわなきゃだからね~」

 

 朝木が口田をここまで虐め抜いたのは、トガに口田甲司を学習させることにあった。

 まず口数が少ないという大前提があるにしても、少年の喋り口調が限りなく完璧に複製されるのに越したことはない。

 ただ、鮮やかな血の芸術を前にしてトガが狂乱することは目に見えていたため、出来るだけ長めに濃密な時間を確保しただけの話。実際の所、断じて朝木自身に拷問の趣味嗜好はない。

 

「この少年、殺したのですか? 死体を運ぶのは私の中が汚れてしまうので、あまり好ましくないのですが……」

 

 黒霧が問う。

 

「喋んなゴミ虫が。白霧だか黒雲だか知らねェが、俺様の前で貴様が人間様の言語を用いることは許さん」

「私の名は黒霧です……白要素どこから出てきましたか……?」

「フン。安心しろよ、このガキは俺で処理するから」

 

 処理、という表現からはまるで殺害するかのような意味合いが感じ取れるが、未だに口田の息は微かに紡がれている。死に体の少年に最後のトドメを刺すような雑用作業を、普段の朝木勇はあまり好まない。

 この場で黒霧に口田の身柄を渡さなかったのは、決して彼の配慮などではなく、朝木自身の予定のために少年の生死が重要になってくる可能性があるからだ。

 

(流石に口田甲司は殺せない。四割くらいの確率で、このガキが死ぬと明日の俺が不利になる。ハゲダルマは頼れないし、俺が治療するしかないか……まぁ多少後遺症が残るくらいは、仕方ねェか)

 

【準備完了、といった所かな】

 

 部屋のスピーカーの一つから、電子音のような声が響く。

 ここは朝木勇が独自に調達した別荘だ。先生は朝木から届けられる情報しか耳に入ってこないはずだが、無情報からの憶測で連合の進捗を判断したらしい。

 

 あぁ、先生の言う通りである。

 準備完了だ。メインプランは勿論、フェイクプランの方も。

 

「そうだな、ジジィ。計画は成った。あとは個々人の頑張り次第だ」

 

 この世に絶対なんてものはない。

 綿密な計画とは、複数の可能性を張り巡らせ、その全てに対処するように緻密な手段を講じることだ。しかしながら、どんなに完璧な計画でも不測の事態というものは付き物。

 結局は、現場で作業を行う者たちの柔軟力次第になる。

 

【勇、憶測で構わない。君の見立てを教えてくれ。この『オールマイト殺し』は成功すると思うかい?】

「思わない。オールマイトが死ぬ所とか、想像できるわけねェだろ」

「…………あ?」

 

 死柄木の手が朝木に伸びる。

 

「どんな兵器を揃えようと、平和の象徴はそう簡単に崩せないだろうさ。ただし、そんな悲観をぶっちぎってこそのプルスウルトラだ。ヴィランが抱えちゃいけねェなんてルールはない。一緒に限界超えようぜ、偉大なる我らがリーダー様?」

 

 伸びて来た手を払いのけ、朝木は死柄木の肩に腕を回した。

 こうしてボディタッチをすると、最近の死柄木は不用意に朝木に手を出したりはしなくなった。彼の五指が触れる=死が確定することを憂慮してか、それとも友情めいたものでも感じるようになったのか、どちらにせよ朝木には反吐が出るような心理だったが。

 

「……チッ、気安く触れんな。テメェは女を叩き起こせ。早めに明日の準備をさせろ」

 

 逃げるように連合の小さな長は朝木から離れる。

 そして宣言した。

 

「こっちの手にはチートがあるんだ。オールマイトは明日殺す。必ず殺す。

 ──日本の平和は、明日終わる」

 

 敵連合の雄英襲撃まで、実にあと18時間を切っていた。

 




ちょっとだけ過去回想挟んだ。

次回こそ雄英まで行ける!はず!
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