「服装大丈夫?持ち物に忘れ物ない?本当に束さんついていかなくて大丈夫???」
「お母さんそれ何回目?自己診断組んでまでチェックしたんだから大丈夫だよ。あとお母さん何のためにこんなところにいるのか思い出して」
深海一万メートル付近に現在地を持つ潜水艦“ホエールくんMark.09“。その中に存在する格納庫にて、“ホエールくんMark.09“の主たる束は真子に対し心配の声をかける。真子はそれが杞憂であることを示しながら、母親の自粛を促していた。
真子は今日、初めて“ホエールくんMark.09“の外の世界へと旅立ち、そしてこの世界の大地に初めて足をつけようとしていた。
その目的は一体何なのか?それは、真子が通おうと決意した学校、“IS学園“の受験があるためだ。
ここまで様々な準備を行なってきた。と言っても、それは受験内容の対策といった準備ではなく、
真子には現在過去の経歴といったものは存在しなかった。卒業した小学校、卒業する予定の中学校、そして戸籍。受験を受けるために提出すべき書類が圧倒的に不足していた。
真子はその点に自ら解決案を生み出すことができなかった。
わからないことは、親に聞くのが一番である。子供のうちはそれでいいのだ。
真子は母親である束にこのことを相談し、何らかの解決案を要求した。
相談された束は、一瞬の迷いなく言い放った。
『なかったら作ればいいじゃん』
正に“天災“。
というわけで真子の受験に向けた必要書類は、“天災“篠ノ之束“と連絡の繋がる地上にいる人間かつIS学園の教員だからという理由でさも当たり前かのように巻き込まれた“プリュンヒルデ“織斑千冬“という世界が知れば軽く恐怖する布陣の元作成され、無事真子は受験資格を手に入れた。
そして今日、受験すべくこの“ホエールくんMark.09“を後にする。
IS学園の受験は2日間に分かれている。一日目に筆記試験を行い、二日目にISを使って教員と模擬試合を行う実技試験を行う。そのため既に地上で滞在するためのホテルも(千冬が)予約済みだ。
少なくとも3日、この船を空けることになる。そのことに、真子は若干の不安を覚えていた。
真子がこの船の家事を全て担うようになって数年、その間全く目立っていないが束の生活スキルはいつの間にか床が見えないほどいらないもので埋めることができないほど皆無なのだ。
……まぁ、真子の家事データを基に作られた“お手伝いくん漆式“がいるので大丈夫だとは思うが。それでも不安は拭いきれない。
しかしそんなことを気にしすぎるのも良くない。それに、真子の目の前にいる束の顔は、初めて地上に出ることやアクシデントによる不安をかけら程度に感じつつも、門出を喜ぶように笑顔だった。この顔が真子の信頼を大きく裏切ることはない、と判断し懸念事項からさりげなく排除した。
「それじゃお母さん、ここでじっとしているわけにもいかないしいってくるね」
「えぇ〜んまなちゃ〜ん束さん寂しいよ〜」
「お母さんがちゃんとしてたら予定通りに戻ってくるからね」
そういって真子は軽めに束に釘を刺しながら、“ホエールくんMark.07“へと乗り込む。
“ホエールくんMark.07“は束によって作られた小型潜水艇である。
定員2名と収監能力は低いながらも“ホエールくんMark.09“と同等の防御能力を持つ。また“ホエールくんMark.09“同様核融合による半永久的な発電能力や自動操縦がある。
また小型ゆえにステルス機能は“ホエールくんMark.07“によりも長く維持でき、海上での航行速度は60ノットと束クオリティを遺憾なく発揮している。
真子は“ホエールくんMark.07“に乗り込み、荷物を下ろす。そしてマニュアルに従って非常に早い手付きで“ホエールくんMark.07“の設定を終えていく。
『まなちゃん、準備はいいかな〜?』
チャンネルを束の持つ通信装置に合わせてある“ホエールくんMark.07“の通信機能から、束の声が聞こえてくる。
「自己診断プログラムからの返答、オールグリーン。お母さん、いつでもいいよ」
『OK!それじゃあまなちゃん、頑張ってきてね〜』
通信越しに真子に声を掛けると、束は手元にあるボタンをポチッと押した。
ポーン、バシュウッ!!
“ホエールくんMark.07“前方の通路の電灯が緑に光った次の瞬間、普通の人間ならば鼓膜が破壊されそうなほどの爆音と共に山梨県に存在する某テーマパークのアトラクションもびっくりな加速で“ホエールくんMark.07“は艦外に向けて発進する。
真子に襲い掛かる慣性の法則から生み出される猛烈なG。
しかし“お友達くん3号改“である真子には全く影響なし。問題なく“ホエールくんMark.07“は水の壁へと衝突する。
ドオォォオォォォォオォン‼︎
再び訪れる爆音。船内にいる真子が一番それを間近で聞いているはずだが、真子はそれに対し眉一つ動かさない。
それもそうだろう。現在真子はハイパーセンサーによる聴覚を一時的に切っているのだから。
真子は一度この“ホエールくんMark.07“による発艦と着艦を行なっている。
真子がぶっつけ本番で何かあることを嫌い、もちろんこれを束は快く承諾した。
そして真子は、データになかったことを記憶し、今回の発艦に挑んだ。「驚くほどうるさい」というデータを学習した上で。
自動操縦に切り替わった“ホエールくんMark.07“は、危険がないよう事前に察知するために、備え付けられている強力な照明をオンにして周りの視界を確保する。そして。目的の地上に向けて浮上を開始した。
「……………………」
真子は一人、船内でジッとしながら、深海の様子を見つめ続ける。深海一万メートルという特殊な環境の映像を学会に見せれば、軽く盛り上がるだろうということを少し考えながら。
寂しくはない。たった一人ぼっちで、真っ暗な病室の中で苦痛に耐えしのぶよりははるかにマシだから。
───────────
ザバァ
地を月が照らす時刻。人気のない海岸に、予定通り“ホエールくんMark.07“は到着した。
海中でステルス機能をアクティブにした状態で、上陸を見られる可能性がないか生体スキャンをおこなった上で真子は上陸のために浮上する。
真子は必要な荷物を持って“ホエールくんMark.07“上部にある扉から外に出る。
「ありがとう。ちゃんといい子に待っててね」
真子は“ホエールくんMark.07“にそう声を掛けると、真子は軽い身のこなしで“ホエールくんMark.07“から飛び降りた。
“ホエールくんMark.07“は自動操縦機能を以て海中へと沈んでいく。次に“ホエールくんMark.07“が真子の前に姿を表すのは二日間の試験を終えて特定の時間になった時か、何らかの事態に巻き込まれた際に真子がやむなく緊急で呼び出した時だろう。
波すらも落ち着き、閑散とした海岸にポツンと一人佇む真子。その姿は束が腕をよりにかけた美形なので、一つ彼女とこの光景をモデルに絵を書き起こそうならばそこそこの評価を得ることができるだろう。
真子の耳に伝わる静かな雰囲気。鼻に伝わる潮の香り。肌に感じる大気の揺れから生じる風。そして、目から読み取れる、病室からは見ることのできなかった海面。
そして、自らの足で砂浜に立つ感覚。
「……あははは!あはははははは!!わーい!!」
全身の感覚から伝わる情報に気分が舞い上がった真子は、大きく笑いながら駆け出し始める。
常に周りの様子をスキャンしているから、近所迷惑なんて考えなくていい。大きく、笑い声をあげて、元気に走り続ける。
走るだけじゃない。ジャンプ。側転。バク転。バク宙。束から授かった身体能力と処理能力を活かしながら体を動かし、その喜びに耽る。
まるで鳥のように、イルカのように、無邪気に無邪気に真子は動き続ける。受験という本来の目的を一時忘れながら。
ふと、真子が常に行っていた周囲のスキャンが、何らかの動的反応を検知した。
「ん?ってうわぁっ!」
思わず体を止めてしまった真子は、その盛大な動きを急停止したがゆえに体勢を崩し、砂浜の上でこけてしまった。
「……んしょっと」
少しした後、何事もなかったかのように真子は立ち上がり、服についた砂を払い落とす。
怪我はない。汚れもすぐに全て落ちた。何も問題はない。むしろ水を刺されたことで少し冷静になり、本来の目的を思い出した。
真子は先ほどの動的反応にハイパーセンサーを使って確認する。
先ほどの反応は車だったようだ。そしてその車からは一人の人間が降りて真子の方へと向かってくる。
女性だ。スーツに身を包み、長い黒髪をたなびかせている。そしてその歩き姿は、剣道などの武術い携わっている人間ならば、彼女の練度の高さが窺い知れるだろう。
何も警戒することはない。真子が実際に会ったことのある人間は束一人だが、会ってないだけで知っている女性が一人いる。
「─────天乃真子、か?」
「……織斑千冬さん……ですよね?どうも初めまして。“お友達3号くん改“改め“天乃真子“です」
真子はそんな言葉を口にし、丁寧にお辞儀をする。
初対面であるにも関わらず自身の名を呼ぶ女性に対し、警戒心ではなく敬意を以て真子は挨拶する。
織斑千冬。最強のIS乗りであり、数ヶ月後には真子の所属する学校の教員であり、真子の母親である束の親友たる女性がそこに立っていた。
何故千冬がこんな人気のない場所まで車を走らせてきたのか?もちろんそれは、真子のことを迎えにきたためである。
ホテルのチェックインをするという都合上、夜といっても比較的浅い時間に真子は到着していなければならない。
しかしそんな時間に街に近い海に浮上しようものならば必ず人に見つかり大事になる。
これは非常に面倒であり避けたい事態である。受験を受ける真子然り真子が受けるIS学園の教師たる千冬然り。
故に、面倒事を避けるべくなるべく人気のない場所を事前に調べ、そこに浮上した真子を千冬が回収する算段なのだ。
「…………どうか、致しましたか?」
「っあぁいや、何でもない」
千冬の様子をハイパーセンサーで読み取っている真子は違和感を感じ、不調ではないかと気にかけるも、千冬はそれを否定する。
千冬にとって“天乃真子“という人物について知っていたことは「束の娘である」ということと「アンドロイド」である、だけであった。
真子もそうであるように千冬も真子のことを見たこともなければ言葉を交わした事もない。
故に少し面食らっていた。
まず顔面偏差値があまりにも暴力的すぎる。人の顔としても人形の顔としても否定されるほどの美しさ。こんなものを視覚で認識するには立体的なものではなく絵などの二次元的なものでなければ表現できないのではないかと思うほどに。
そして、束の娘というからには絶対に変人奇人の類かと思っていたらそうではなく、非常に礼儀正しい。
……先ほどの真子の動きには多少目を瞑ることにはなるが。
少々非の打ち所がなさすぎるのではないか?何か裏があるのではないか?そう思わずにはいられなかった。
千冬はドイツ軍で教官をしていたということもあってそういう“裏“を感じ取ることができる。
しかし目の前の少女からはそういった“裏“のようなものは感じ取れない。100%善意で千冬を心配している。
─────眩しい。千冬は胸中でそう呟いた。
「とりあえず車に乗ってくれ。時間に余裕があるというわけでもない」
「よろしくお願いします」
千冬に促されるがまま、真子は車内へと入っていく。人工の表情筋が作り出すその顔は、非常にワクワクしている様子であった。
真子はあまり車というものに馴染みがない。乗った回数も両の指で足りるほどだ。普通の乗用車よりも救急車の方が馴染み深い。
それに加え真子のいた世界とこの世界ではテクノロジーに差がある。もちろんこちらの世界の方が発達している。故に、車の内装等も大きく変化していた。
故に楽しみにしていた。中学3年生というよりは小学生やそれより更に幼い子供のような好奇心をこれからのドライブに寄せていた。
千冬はその姿を見て顔には出さなかったが内心表情を崩していた。
重ねていたのだ。自身の弟である織斑一夏の幼い頃と、今の真子の様子を。
一夏も真子と同じ15歳の中学3年生。来年には高校生だ。それもあり少し思うところが千冬にはあった。
発進は静かなものだった。エンジンの遮音技術も優れており、そもそもエンジン自体が音をあまり発さない。故に極限まで耳をすませば微かに音が聞こえるほど無音の自動車走行がそこにあった。
「……本当に、束の娘……なんだよな?」
「はい。私はお母さん……篠ノ之束の娘です」
少し恐る恐る聞いた千冬の質問に真子は素早く、キッパリとした態度で答える。
「……束との生活は、どうなんだ?迷惑とか、かけられていないか?」
千冬の質問は、まるで滅多に息子に会うことのない父親のような質問であった。
千冬もこういった状況に慣れておらず、少し気まずい雰囲気を車内に作りながら運転を続ける。
しかし真子はそんなことを一切気にせず、束のことについて考える。
高い情報処理能力でコンマ一秒に満たない時間で整理すると同時に、思わず真子は笑みを浮かべる。
そして、千冬の質問に答える。
「束さんは凄く優しいですよ。私のこと大事にしてくれますし、私のお願い事もちゃんと聞いてくれます。……むしろ迷惑は私が掛けているので、お願い事なんてできる身分ではないですが」
「……それはよかった」
そう語る真子の顔は非常に安らかなもので、運転の最中ちらと見ただけの千冬にもその様子の真偽は容易に察することができた。
真子の口から聞かされる束という人物は、千冬の知る束とは違う人物ではないのかと疑いそうになる。……束レベルの技術力を以てすれば可能ではないかと思ってしまう点も含めて。
しかしそれに対し嫌な感覚というのは一切ない。むしろ非常にありがたかった。
一人というのは本人が意図していなくともストレスが溜まるものだ。もし深海で束一人で身を隠していたとしたら、間違いなく数年も持たずに千冬に接触し、面倒事を引き起こしていただろう。
しかしそうはならなかった。それは真子という“他人“がいたから。そして娘としての真子が母親としての束にうまく作用し沈静化していたのだろう。
─────もし真子が在学中に一切束との接触がなかったとしたら、面倒事を引き下げてやってくる兎と化しているかもしれない……。例えひっじょ〜に面倒な作業を強いられることになったとはいえ、束の提案は呑んでいて正解だったと千冬は痛感した。
「……これからも、束のことを頼むぞ」
懇願の気持ちも込めた一言を、真子に向かって千冬に投げかけた。
「お母さんのためになるなら、私なんかでよければ」
──────────
千冬との邂逅を果たしてから一夜明け、試験一日目を迎える。
「……………………」
ベッドの上で目を閉じていた真子は目を覚まし、むくりとその体を起こす。
体内に核融合による半永久的な発電機関を持つ“お友達3号くん改“である真子には睡眠の必要はない。
しかし、することはできなくもない。もしもの時のためにスリープモードは搭載してあるため、例え正常な状態であってもスリープモードに移行することは可能である。
千冬と別れ、ホテルにてチェックインを済ませた真子は、特にやることもなく、かといってフラフラと夜の街に駆り出すのはリスクを伴うのですぐに寝ることにした。
受験前の学生、しかも筆記試験も相当に難易度の高いIS学園の受験生であれば少しは対策をしておこうと思うものだろうが、真子には束がインストールしたデータベースがあるために、受験に関しての知識において詰め込むものは何もない。
真子自身そのことに少し他の学生に対し申し訳ないと思っているものの、今更そんなこと言っていてもしょうがないとなんとか割り切った。
寝起きで寝ぼけていたりまだ眠気があるという自体が発生しない真子は起き上がると、テキパキと出発に向けて準備を進めていく。
拡張領域を利用して用意された中学の制服を見に纏い、長い髪の毛を整える。そしてまた拡張領域から手に持つ荷物を取り出して中身を今一度確認してからもう一度拡張領域にしまった。
これだけで準備は完了だ。普通の女子であれば服をより多くの手間と時間がかかるだろうが、普通の人間でない真子にはこれで十分であり、この程度でも束によって造形された美貌は陰らない。
そして真子は朝早く、まだ少し太陽が登り切っておらず少し暗さのある時間からホテルを出て外に出かけた。
その時間に出かけなければ間に合わないのか?そんなことはない。ホテルから受験会場までは歩いてすぐの場所に存在する。現在の時間は受付時間まで数時間というレベル。余裕も余裕の時間だ。
では何故その時間に出かけたのか?
それは真子が街を出歩きたい、と気まぐれ気味に思ったためである。
真子の前世での人生の多くは病院のベッドの上で過ごしていた。
そうなる以前も体は弱く、更に幼かったため、一人で街を散策するなんてことはできっこなかった。
となると多少はそんな無意味に見えるような行為にも憧れを持つのも無理はない。初めての街、初めての地上。真子の気を引くものは多い。
「ふふっ」
真子は少し散策に思いを馳せると少し声を出して笑みを浮かべた。
まだ朝早いためかいないわけではないが人の数も少なめだ。故に、より景色を楽しめるだろう。
「んぐ……美味しい……」
散策開始から数時間。そろそろ受験会場へと向かう予定の時間になった真子は、近くにあったお店で買ったお菓子を頬張りながら歩いていた。
“お友達3号くん改“は前述の通り自らエネルギーを生み出せるために食事をとる必要はない。
しかしそれは真子が天乃真子としてではなく、“お友達3号くん改“として存在することを前提とした場合の話である。
そのためハイパーセンサーで味覚や嗅覚を再現している。あまり高性能にしすぎて味にうるさくなっても嫌なので、真子自身によって一般レベルにとどめているが。
試験の執り行われる今日と明日は週末に行われるために通勤のために出歩いている人は少ない。しかし陽が昇ると活動し始めるのが人の常なため、真子が散策を始めたときに比べるとかなり人通りは多い。
(うぅ……)
そんな中で、真子は非常に目立った。非常に優れた美貌に綺麗な黒髪、更に学生服ということもあり周囲の目を惹きつけに惹きつけていた。
真子は人のあまり多くない環境で過ごしてきたために大衆の多く存在する状況に慣れていなかった。その上注目されて嬉しいというような性格でもないので、少し困っていた。
奇しくも女尊男卑という世間の意識によって異性に声をかけられるというあまりよろしくない状況には至っていないが、それも「なくはない」という状況ということは真子にもわかっていた。
「ねぇ!」
「っ」
すると、大衆の中からついに真子に声をかける人物がついに登場した。
声は女性。声から読み取れる対象の年齢は恐らく真子とそれほど差はない。
男性に声をかけられるという非常に面倒な状況ではないが、びっくりした真子は思わずハイパーセンサーによって五感を鋭敏化させた上でを使って声をかけてきた人物の方を向いた。
予想通り、真子と同じぐらいの年齢だった。それは、彼女が身につけている制服が中学生のものであることからも明らかだろう。
肩まで伸びたセミロングの黒髪。しかしその髪の中に一束のピンクのメッシュが姿を見せていた。
身長は女性の、しかも中学生にしては高い170ほど。そして、流石に真子ほどではないが有名なアイドル以上の美貌をもった人物であった。
「こっちこっちぃ〜」
「うわっ」
突然、目の前の中学生に真子は手を引っ張られていく。真子の身体能力であれば抵抗することは容易だが、真子の視力で判断した彼女の意図に悪い思惑はないように読み取れたため、その力に逆らわずについていった。
「う〜ん、ここまででイイ感じカナ?」
素直に引っ張られ続けられること数分。いつの間にか人通りの少ない場所にきた。と言ってもいない訳でもなく、開けて明るい場所なので心配することはなかった。
現在地も先ほどの場所から目標とするIS学園の受験会場に近い。時間までまだ余裕もあるため、遅れるということもなさそうだった。
「ごめんね!急に!ビビったっしょ?でもまぁなんか困ってるカンジだったし?」
「あぁいえ、ありがとうございます」
目の前の女の子は気さくな雰囲気で真子に話しかける。真子も実際助かったので、丁寧に感謝の言葉を述べる。
「あっ、アタシ
「天乃真子です」
「まなまなね!りょ!」
真子に自己紹介した天城桃は真子に“まなまな“とニックネームをつけると握手をし、ブンブンと元気に手を振った。
真子にとって天城桃はあったことの無い様な人種であり、その接し方に戸惑いを隠しきれなかった。しかし目の前の人物に邪気が無いことは理解している上に真子の性格上邪険に扱うことができなかった。
「あ!まなまなってもしかしてIS学園受けるカンジ?」
「え、あはいそうです」
「やっぱりやっぱり!まぁこんなところでこんな日に制服着てるって言ったらそれしか無いもんね〜」
「あの、天城さんも?」
「そうそう!アタシもIS学園受けるの!あと“桃“でいいよ〜」
確かに今日は土曜日のため、中学生が学生服を着ているというのは珍しい。更に他の高校が受験を行うのは多くが明日だ。そう考えると真子がIS学園の受験生と推測するのは難しく無い。
しかし同じIS学園の受験生であったと推測できたとしても100%そうであるという確証は本人に確認する他にない。そんな中で困っていると思ったや否や手を引っ張って人混みを抜けるという行動から、桃の行動力の高さが真子には窺い知れた。
「そういえば、まなまなってばあんなとこいるなんて迷ってた?」
「んあ、いえ、ちょっと暇だったんでお散歩してました」
「あはは、まなまなってばもしかして余裕?まぁアタシも似たようなモンだけどね〜」
桃は真子に対し会話を投げかけ続ける。真子も初対面の人間にしてはよく会話に応じていた。
もし束だとしたら他人は他人と割り切って冷たい対応をしていただろう。しかし、真子にとって冷たくすべき相手は前世において自分を捨てた様な人間たち。そんな雰囲気は桃には感じないため、普通に接することができていた。
「んじゃ、行こうか」
「?」
「んも〜、試験会場でしょ!これ以上ゆっくりしてるとちょっとヤバめだし?」
桃は再び真子の手を取る。
この世界に来てから束以外で感じた他人の体温。束とは異なる温度に少し緊張しながら安心感を真子は感じた
「ほら、いこ?」
「─────はい、よろしくお願いします、桃」
「〜〜〜!まなまなはかわいいな〜!」
「あうあう」
桃は真子の頭をわしわしと撫でる。真子は桃に頭を撫でられると同時に思わず声を漏らしてしまう。
桃の手に伝わる髪の毛の感触は、一本一本が透き通った感触で、心地の良い感触を神経の多い手に伝わっていく。ずっと撫で続けたいと思いそうになるぐらいには。
そして真子は、頭を撫でる感覚に懐かしさを覚えていた。
真子の頭をよく撫でてくれていた人────最後の時まで手を握ってくれていた、真子の義姉も、よく真子の頭を撫で充てくれていたことを、真子はふと思い出した。
「は、早く行きましょう」
「えぇ〜?まいっか。れっつご〜」
そう言って桃はIS学園の試験会場に向けて歩き始める。真子も桃に一瞬遅れて歩き始め、その隣を歩く。
今日という日、真子にとって地上での初めての友達と、今日出会った。
少々文字数が多くなってしまった……
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