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ムクリ
「………………」
試験一日目から一つ夜を越え、試験二日目の朝を迎えた。
真子は昨日と同じように、しかし時間帯はずっと遅い時間にスリープ状態から目を覚まし、体を起こす。
起きてからゆっくりする必要はない。真子は体を素早くベットから移して立ち上がり、身支度を整えていく。
試験一日目の筆記試験、一般的に見れば
素早く鉛筆を動かし、驚異的な速度で眼球を動かしながら解いていくその姿はまさに機械的なもの。試験時間の半分以上を残したまま真子は見直しも全て終えて暇になること全教科。
そんな真子に比べるといささか見劣りするものの桃も優秀なものであり、
『多分だいじょぶ!!』
と満面の笑みで言いながら両手でサムズアップしていたため、おそらく大丈夫だろう。
拡張機能を利用して髪や肌などのスキンの状態、服装、本日必要な荷物を整える。そして最後に自己診断プログラムによって
この間、わずか1分程度。一般的な女性のみならず、男性と比べても遥かに早い準備速度だ。
「…………よしっ」
真子は軽く声を出して自身に気合を入れる。
今日の試験は昨日とはまるで違う。
昨日の筆記試験は少しズルいが束によってインストールされた知識によって、真子にとっての難易度は大したものではなかった。
しかし今日は実技試験。ISを使った模擬試合だ。つまり、真子自身の自力が試されるのだ。
なぜか束は全く問題にしていなかったが、真子は少し緊張していた。
そのためにも、気合を入れるというのは真子にとっては必要事項だった。
「あ、まなまなじゃん!おは〜」
「おはようございます、桃」
真子がホテルの部屋を出てすぐ、通路にて天城桃と邂逅を果たした。
なんの偶然か、桃も真子と同じホテルの一室を借りて、真子と同じくIS学園に入学するべく受験に臨んでいた。
真子の借りたホテルは束が選ぶほどには高いものなのだが桃曰く、「彼氏が用意してくれた」とのことだった。
桃の様子を見る限りでは真子と同じく出発の準備を整えている状態で部屋から出てきている。つまりは、これから試験会場に向かうところだとわかった。
ここで真子は勇気を絞り出し、桃に提案する。
「……あの、もしよかったら、一緒に行きませんか?」
真子は恐る恐ると言った様子でそういった。桃から見た真子は12cm小さいため上目遣いであり、心配そうな顔は小動物を連想させた。
正直言って破壊力はかなりのものだ。一国の王であろうともその顔を己に向けられば容易に感情を動かすことだろう。
「お〜!まなまなからそんなこと言ってくれるなんて!もちいいよ!」
そんな破壊力をものともせず、真子の勇気の提案に対し桃はいつも通りの様子で快く承諾してくれた。
思わず真子の顔が綻び、笑顔が漏れる。
真子には生前、親しい人間こそいるものの、友達と言えるような人間はいなかった。そのため、友達と仲良く目的地に向かうなんてことはなかった。
真子にとって、一種の夢のようなもの。それが果たせることに、真子は先ほどまでの緊張を忘れられるほど嬉しかった。
「……それじゃ、行きましょうか」
「いこいこ〜」
真子が外に向けて歩き出す。そしてそれに追随するように桃が歩き始める。
昨日と同じような光景。しかし昨日とは違い、真子は友に引っ張られるのではなく、自らの足を持って自分から歩き始めた。
──────────
特設IS活動用アリーナ。それが今回のIS学園受験二日目、実技試験の会場である。
真子と桃は異様なまでに忙しそうにしている教員に促されるがまま、それぞれの準備室に移動する。
自室に監視カメラ等のものがあるので拡張機能は使えない。そのため、真子は持参したバッグの中からISスーツを取り出し、服を脱いでISスーツに着替えていく。
ISスーツ。ISを扱う際に着用する専用衣装であり、筋肉から出る電気信号を増幅してISに伝えることができ、ISを扱いやすいようにする作用がある。
専用機を持つような代表候補生等はISスーツも専用の意匠のものを持っているのだが、真子が来ているのは一般的な指定のISスーツだ。
束も真子専用のISスーツを用意したが、真子は代表候補生でもなければ専用機もまだ持っていない。それなのにISスーツだけ専用なのを用いるはなんだか偲ばれると思い、今回は持ってきていない。
ISスーツに着替えた真子は、すぐ近くに待機しているIS“打鉄“に目を向ける。
“打鉄“は日本製の第二世代型ISであり、IS学園では訓練用としても配備されている。そして今回、IS学園の実技試験用としての役目を果たすべくIS学園の存在する孤島から輸送されてきた。
“打鉄“の特筆すべき点は、
今回の実技試験はこの打鉄、もしくは個人で保有している専用機を用いて模擬試合を行う。
打鉄の武装は受験生自ら選別し装備、もしくは拡張領域に格納しておいたのちに試験に臨む必要がある。
「─────」
真子もその試験内容に従い装備を選別する─────のではなく、単に近づいてその装甲を手のひらでゆっくりとなぞる。
ハイパーセンサーによって再現された触覚が表面の金属の感触を、ひんやりとした熱の感触を真子に伝える。
打鉄は量産型であるがゆえに、他の打鉄も多く存在する。故に、真子とこの打鉄はこの実技試験たった一度のみの付き合いだろう。
しかしそれが、真子がこの打鉄に感情移入しない理由には、なり得なかった。
紛れもなく今回の戦いで真子が駆るのはこの打鉄であり、この一戦のみにおいては真子とこの打鉄は
「よろしくね」
真子の、心を込めた一言。その一言で、真子が撫でる打鉄の装甲が、一瞬血走ったかのように非常に薄いピンクに色づいたかのように見えた。
試験開始時間が迫り、真子は急いで打鉄に装備を搭載していく。
真子の
そして、真子にとって2回目であるISへの搭乗が、行われる。
─────適正者の搭乗を確認。
─────自己診断プログラム起動。自己診断開始。
─────エネルギー循環、駆動系、回路、連結中装備、全て問題なし。
─────搭乗者に連結可能なシステムあり。連結開始。
─────連結完了。搭乗者のシステム、リミッター解除。
─────起動。
起動した打鉄は真子の意のままに起き上がり、直立状態になる。
「すぅ〜〜〜〜はぁ〜〜〜〜」
真子は打鉄を纏った状態で一息、大きく深呼吸する。
それと同時に冴え渡っていく、
手先、足先、ブースターに至るまで、元々真子の体であったかのように動かせる。
その感覚に真子は歓喜と安堵の気持ちを抱える。一切の澱みなく思い通りに動かせる、その体に。
ガコンッ‼︎
『受験番号──番、天乃真子さん。アリーナへ』
アリーナへの道の存在する大きな扉が開くと同時に、真子のいる準備室に響くアナウンス。
それは、ついに真子の実技試験がついに始まるという合図。
とうに真子の準備はできている。
真子は打鉄のPICによって少し浮遊する。そして、打鉄のブースターに、火を入れる。
ドヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‼︎
「─────ッ!」
大きなブースター音と共に真子と打鉄はアリーナへと躍り出る。
平坦かつ見晴らしのいい大広場。その反対側に試験官であろう教員がISを纏って佇んでいた。
試験官の名は山田真耶。纏うISはフランスの第二世代機であるラファール・リヴァイヴであり、その武装は未だ見えない。
しかし通常のラファール・リヴァイブと違う点が一つ。
人が纏うマルチフォームスーツであるISは通常脚部も人と同じく2本だ。
しかし目の前のラファール・リヴァイブには脚部が2本追加され4本になっていた。
真子はブースターを切り、PICを利用してゆっくりと地面に着地した。
その着地は教員から見ても見事なもの。まだ試験は開始していないものの、試験官の中で真子の評価が少し上がった。
『えっと、受験番号──番、天乃真子さんで間違いないですね?』
「はい」
ISに搭載されているプライベート・チャネルによって、遠く離れた試験官、山田真耶の少し弱気な声による確認が真子に伝えられ、真子の返事もまた山田真耶に伝わる。
『あぁえっと……早速!始めさせていただきます!』
「わかりました」
プライベート・チャネルから聞こえる山田先生の声に真子が丁寧に答えると、真子の目の前にカウントダウンを始めたディスプレイが表示される。
試験時間は10分。その間に真子は山田先生と戦闘行動を行いIS学園入学に足る実力を示さなければならない。
不思議と真子に緊張はない。例え模擬とはいえ戦闘行為は元々生命のやりとり。それに限りなく近い行為を行うことに、戦闘慣れしていない真子が、なぜ?
何度も言っていることだ。真子は数年に渡り死に近づき、あまつさえ一度死んだ人間だ。
それに緊張していては、根性で死の痛み、恐怖を払い除けることなど、できない。
しかし、それだけではない。例え自身が死に近づくことに慣れていたとしても相手を死に近づける行為に慣れているわけではない。
真子もその例に漏れず、例え相手が‘それを許容していて、自分に必要な絶対必要なことだったとしても、相手を傷つけることに忌避感を感じずにはいられなかった。
だがそれは真子一人だけであった話だ。
凡人から見れば真子は一人でこの試験に挑んでいるように見えるだろう。
しかし今の真子にはIS学園で経験を積んだ戦闘のスペシャリストが真に肌に触れるほどの距離で真子に寄り添っている。
打鉄という、一度限りの相棒が。
次の瞬間、真子に対物狙撃銃並みの規格の弾丸が波のように押し寄せてきた。
──────────
IS学園の教員、山田真耶は悩みを抱えていた。
今回IS学園入試の実技試験官に抜擢された彼女。その実力はかつて代表候補生であったこともあり高く、かの“ブリュンヒルデ“である織斑千冬もその実力を認めていた。
しかし、ISを扱う際に彼女には一つ、致命的な弱点を抱えていた。
もの凄くドジなのだ。
先日も授業でISの扱いを指導した際に飛行制御を少しミスってしまい、危うく壁に激突してしまうことがあった。
いわゆるヒヤリハットというものなので、後ほど経緯や原因、再び発生しないようにする対策法などを纏めて報告する羽目になったのだが。
しかし今回はIS学園の入試。受験生もまだISの扱いのレベルが低いことが予見される。
そんな中で再びドジを起こし、最悪の場合教員によって怪我人が出る可能性はある。
そんな事態は避けなければならない。
故に彼女は悩んでいた。急務ではないものの早めに終わらせておかなければ後に後に後悔するような作業に全く手がつかないようなぐらいには悩んでいた。
その時、山田に電流走る。
ガバッ
(これです!)
「?山田先生どうかしましたか?」
「あっいえ、すみません」
思わず立ち上がってしまった体を再び椅子に腰を下ろしつつ思いついた妙案について試行していく。
飛行によって事故が起きてしまうのならば、飛行制御を最小限にしてしまえばいいじゃない。
山田先生が扱うIS“ラファール・リヴァイブ“には“クアッド・ファランクス“というパッケージがある。
軍用艦に搭載される“ファランクス“を模し、魔改造したようなパッケージであり、毎分4,000〜7,200発の20mm多銃身機銃を四門搭載し、その制御のために脚部を4本追加するという束も喜ぶ頭の悪いパッケージだ。
しかしその反動を抑えるためにPICを十全使うため飛行はできないというピーキーすぎる性能を誇る。
しかし今の彼女に言わせればそれは
しかし試験に使うにはあまりにも火力が高すぎるため試験どころではなくドジとは別の要因で怪我人が出るだろう。
ならば数を減らせばいい。
四門もあるから過剰火力なのだ。その半分……二門であれば高火力かつ過剰ではないだろう。
言うなれば“クアッド・ファランクス“ならぬ“デュアル・ファランクス“とでも言うべき代物だ。
受験生は教員を倒す必要はない。むしろ倒すことができるのは毎年でるか出ないか程度なのだ。
むしろこの“デュアル・ファランクス“を凌ぐことができる生徒は入学後も期待できることだろう。
山田先生はこの妙案を形にすべく仕事を猛烈な勢いで片付け始める。そのあまりの勢いに、先ほど彼女い声をかけた教員が少し気圧される程。
後日入学試験終了後、この妙案を知った教員たちは各々こう語る。
『教員でもキツい』
──────────
(─────ッ!!)
迫り来る20×102mmの弾丸群。突然の出来事に戦闘慣れしていない真子は思わず反応が遅れてしまう。
しかしそれは真子の情報処理の中での一瞬。真子は正常な判断を取り戻すとPICとブースターによって飛行を開始して回避し、地対地から空対地へと状況を移行する。
ブ─────ン‼︎
あまりの発射レートの高さから独特な音を出す機銃を、ラファールは打鉄に照準を向け続ける。
真子はその弾丸を打鉄に制御を手伝ってもらう事で回避し続ける。
それと同時に拡張領域から自動小銃《
バラララッ!
そして、回避の合間を縫いながらラファールへと弾丸を差し向ける。
しかし、ラファールは本来更に二門装備してあった場所に盾を展開することで、安易とそれを防御してみせる。
そして、
─────あぶない。
打鉄の導くままに真子は拡張領域を利用して焔備と大楯を入れ替え、銃弾の雨霰から身を守る。
ガガガガガガガガガガガガ‼︎
大楯と弾丸がぶつかることで、非常に大きな甲高い音が、真子の聴覚を大いに刺激する。
盾で覆いきれない部位から被弾する。そして、あまりの弾丸の大きさと発射レートの高さから盾もすぐに限界を迎えていき、ついには穴が開き始めた。
穴が空いた所から弾丸は真子の間合いの内側に無理矢理侵入し、絶対防御を発動させる。それによってシールドエネルギーの減少は加速した。
─────りだつ。
真子が必死に攻撃から身を守っている最中、突然ブースターが火を吹かし、搭乗者を考えない程の加速を持って弾幕の嵐を強引に抜ける。
(た、助かった……!)
あのままでは更に減少速度は上昇しており、すぐにシールドエネルギーは尽きていたことだろう。
そんな嵐を抜けられたのはなぜか。ひとえに相棒のおかげだろう。
(ありがとう)
そう心中で思うと同時に真子は再び弾幕から逃れるべく飛行制御を行なっていく。
追随してくる弾丸たち。真子はそれを変則的な軌道を描きがら状況を打開する案を考案していく。
(……まずは接近しなきゃ)
このまま距離を戦っていても勝算がないことは先ほどの一瞬の攻撃の交錯によってボロボロになった盾を拡張領域にしまって空気抵抗とウェイトを減らしながら想起する。
ならばあの機銃が使えない距離、つまりクロスレンジでの戦いを挑まざるを得ない。
そのためにはあの弾幕を掻い潜らなければならない。
そのためには─────
(分析ッ……!)
あの弾幕の中には入るとどうなるか。そのデータは手に入れた。
ならば後は後は回避をし続けながらその性能を推し量る。それが真子の導き出した、結論だ。
(だから手伝って、打鉄!)
─────おけ
そんな真子の考えに同調するかのように、打鉄のブースター炎が更に大きくなり、山田先生の目には光の尾を引くように見えた。
試験開始から時間が経ち、展開は中盤から終盤の中間点といった具合だった。
ラファール・リヴァイブを操る山田真耶は、第二世代機の中でも拡張領域の広さに優れている機体性能と弾薬を節約する手腕を駆使し、いまだに弾幕を張り続けられていた。
受験生である天乃真子は一度の攻撃、そして弾幕の中を切り抜けたのを皮切りにずっと回避に徹し続けていた。
正直あの弾幕の隙間を縫っての攻勢、そして一度弾幕に囚われても抜け出せる技術がある時点で試験官側から見れば十分なのだが。
側から見ると進展のない展開。しかし、山田先生は今の展開に存在する変化を感じ取っていた。
(─────弾が、当たらなくなってきている……!」
序盤から弾幕を掻い潜って回避していたとしても、まだ被弾している場面というのはまだあった。
しかし今はどうだろう。飛行という人間である以上慣れないはずの行為を完璧に扱い、加速減速を巧みに使い分けて三次元的な動き回ることで、山田先生の張る弾幕の網に、一切ひっからないことがハイパーセンサーによって見てとれた。
今までの回避は分析のため。そう理解した山田先生は真子の行うであろう行為の予測の欄に、一つ候補を追加した。
それも、可能性の高い予測として。
(そろそろ、仕掛けてくる……!)
次の瞬間、真子と打鉄が猛烈な勢いで山田先生とラファールに弾丸の如く突撃し始めた。
回避に徹し続けることで真子と打鉄は一つのシステムを戦闘の最中に構築した。
山田先生の扱う機銃が描く弾幕が通ると予測される弾道を、真子の視覚に線として表示する。
名付けて
ならば、これ以上回避に徹しデータを集める意味はない。それに試験時間も終わりが見えてきた。
ならば、仕掛けるのは早い方がいい。
「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」
真子は雄叫びを上げながら全ブースターを起動。PICによって姿勢を制御して真っ直ぐ突っ込んでいく。
もちろん山田先生もそれに反応しないわけがなく、二門の機銃を同時に発射し始める。
ブ─────ン‼︎
唸りを上げて高速で弾丸を吐き出し続ける機銃。
その機銃の回転する多銃身の銃口のその先から線がむき、真子の正確に捉えていた。
当たるわけにはいかない。その線を全身で捻るかのようにロールし、最小限の動きで躱していく。
しかし近くなればなるほど弾幕密度は濃くなり、回避しづらくなる。一度照準から外れれば再照準は難しいだろうが、山田先生の手腕は一度とらえた獲物を逃すはずがない。
ならば無理矢理にでも離れてやる。
「えぃっ!!」
真子は打鉄の手に拡張領域から呼び出した物を呼び出し、全力でラファールに向けて投げつける。
それは、機銃によってひしゃげ、ボロボロになった最早ただの質量塊と化した大楯であった。
「─────ッ!」
最大限加速したISによって思いっきり投げられた質量─────流石にISといえども少なくないダメージを負うだろう。
山田先生は片方の機銃を以てそれを迎撃する。20×102mmの弾丸の1分で4000発以上の射出によりそれはあっけなく勢いを止め、威力を失う。
そしてその弾丸は、そんな盾の影に隠れた物体をも撃ち抜いた。
プシュー
「ッスモーク!」
真子はボロボロの盾と同時に、スモークグレネードを投げていた。
山田先生の前に生み出される濃い煙。その視界を覆い包み、いかにハイパーセンサーといえど真子と打鉄の姿を失ってしまった。
しかし幸いなことに、すぐに真子と打鉄は山田先生とラファールの前に姿を現した。
既に照準すらできないで間合いの内側に、近接用ブレード《
「─────ハァッ!」
ズバッ!!
葵によって放たれた一閃は一気にラファールの装備する20mm多銃身機銃を二門、同時に切り裂いた。
そしてそこからラファールに向けて切り返しの一閃を繰り出そうとする。
─────きけん
しかしその一閃は繰り出されなかった。真子の意思に反して打鉄が葵を用いて防御姿勢を取ったからだ。
ガォンッ‼︎
(─────!?)
響く轟音。葵から伝わる強い衝撃。真子と打鉄はあまりの衝撃の強さに後方へと吹き飛ばされた。
轟音の正体。それは銃としての機能を失い、盾よりも強大な質量となり果てた20mm多銃身機銃あった。
真子は打鉄の持つ葵に目を向ける。すると、刀型ということもあり衝撃に弱かったのか、葵の刀身が折れ曲がってしまっていた。
(─────ありがとう)
真子は大きい戦果を上げてくれた葵に心中で謝辞をかけると、拡張機能の中に仕舞い込んだ。
相対するラファールも、既に使用できない20mm多銃身機銃をしまいこみ、サブウェポンである自動小銃《カノン》と、盾2枚を装備した状態であった。
「「─────」」
真子と打鉄、山田先生とラファール、お互いに距離を取った状態で睨み合った状態で静止している。
打鉄のシールドエネルギーは回避中に被弾していたり絶対防御も発動していたためかなり消耗している。更に大楯と近接用ブレード《葵》を失っている。
それに対してラファール側にシールドエネルギーの消耗はなく、失ったのは20mm多銃身機銃二門。
現状、かなり真子側が劣勢だ。データを収集していないカノン相手に
それを可能にする武装が、まだ真子と打鉄には残っている。
故に、真子と打鉄は再び突撃を敢行した。
ドォォォォォォォォォォ‼︎
「ッ」
土埃を巻き上げ、轟音を撒き散らしながら焔備を装備して突撃する真子に対し、山田先生はカノンの照準を合わせ、後ろ方向にジグザグに移動しながらフルオートで撃ち始める。
それに対し、真子は自身のハイパーセンサーと打鉄のハイパーセンサーを、視力に集中する。
匂いが、味が、音が、肌の感触が、真子から消失する。
今の真子が行うのは事象の観測、そしてそれを必要な情報に計算して変換する。
ならば体の操作は今全て、打鉄に委ねられた。
そして真子によって伝えられた情報をもとに、打鉄は体を動かし、引き金を引いた。
打鉄へと迫る弾丸、そして打鉄から放たれる弾丸。お互いの距離は急速に縮まっていく。
そして擦れ違う─────のではなく、衝突してお互いあらぬ方向へと吹き飛んでいく。
「えぇッ!?」
そんなあり得ないような現象をハイパーセンサーによって辛うじて観測できた山田先生は驚きの声を漏らす。
IS同士の銃撃戦においてそんな現象を見たことがないわけではない。しかしそれは偶然引き起こされたものであり、数百発と発射される中での一発だ。
しかし今目の前で起こったのは、カノンから放たれた弾全てが焔備から放たれた弾丸全てと衝突するというもの。
動揺しないはずがなかった。
山田先生は動揺しながらも後ろへ交代しながらカノンの引き金を引き続ける。
それに追随し、距離も詰めつつも焔備で弾丸を迎撃していく。
そしてある程度距離が詰まった瞬間、打鉄は突然焔備を山田先生に投げた。
「その手には!」
山田先生は先ほどのようにスモークを警戒し、その場で停止し。撃ち抜くということをせず盾で防いだ。
こうすることでスモークが展開されたとしてもラファール全体を覆い、その姿を明確に視認できなくなるからだ。
しかし、スモークは展開されなかった。
そうして残った状態は、盾を構えて停止するラファール。
真子と打鉄が望んだ、理想的なシチュエーションだ。
「─────!!」
真子と打鉄は最高潮に加速したまま、ラファールにつっこんでいく。
しかし、ラファールは盾を構えている。
このままでは衝突することでダメージを負うのはラファールではなく打鉄側だ。
ならば、ブチ壊せばいい。
ゴォ─────!!
この模擬試合一大きい音と衝撃が、アリーナに響き渡る。
そしてそんな大きな波と共に、ラファールの盾は粉々に砕け散った。
それを引き起こしたのは打鉄の右腕に装備された武装、パイルバンカー《
そして追撃をするべく、まだ死に切っていない勢いのまま打鉄と真子はラファールと山田先生へと迫る。
しかし勢いついているのは山田先生も同じ、そのまま距離をとって仕切り直しを行おうとした。
「えっ─────」
しかし、山田先生の目論みは叶わなかった。まるでラファールが何もないはずのアリーナの何かに引っかかったかのように下がることができなかった。
その犯人は、打鉄の左手に装備されている外付けの大型クロー。引っ掻くのではなく、何かを掴むことを目的に開発されたそれは、その開発目的に違わずラファールを掴んでいた。
ガッガッガッガッ!!
そのまま打鉄はリボルバー式の弾倉に込められている5発の内4発をラファールに叩き込んだ。
絶対防御に対し加えられる大きなダメージの連続、そしてラファールのシールドエネルギーはまさしく吹き飛ばされていった。
「くぅ……!」
しかし山田先生の闘志は消えてはいなかった。まだ手に持つカノンの弾倉内に残っている弾丸を全て解き放つ。
ババババババババババババッ‼︎
数秒間にわたるカノンによる射撃は、盾砕きに残る弾倉を叩き込もうとしていた打鉄の体を仰け反らせ、中断するに至った。
しかし、打鉄はすぐに体勢を整え、最後の1発を、ラファールに打ち込む─────!
「「!!」」
その直前に、試験終了を知らせるウィンドウが目の前に表示される。
「うわっ」
それと同時に打鉄に任せていた制御系が真子に戻ってき、真子は少し驚いてしまう。
模擬試合の勝敗─────勝者は山田先生だった。
結果的にどちらもシールドエネルギーは尽きなかったが、僅かにラファールの方がシールドエネルギーを残していた。
山田先生の最後の執念が勝利に導いた結果となった。
「あっ!えっと、ありがとうございました!」
ふと正気に戻った真子は山田先生に対し深くお辞儀をする。
「お、お疲れ様です。これにて試験は終了です。ISを格納庫に格納しておいてくださいね」
「はい」
山田先生も正気に戻り、指導者らしく真子に指示を出してから自身も格納庫にISを格納すべく飛翔していった。
真子もしまうべくPICとブースターで飛翔し始める。
が、
「おわっ」
突然ブースターが異常を来し、その機能を大幅に低下させていく。
それも仕方がない。回避・突撃に真子はブースターを非常に酷使し続けた。それはブースターの限界を何度も超えるような行為であった。
むしろ、よく持った方であると言える。
真子は冷静に飛翔をPICのみで行い、ゆっくりと飛行していく。
そして格納庫に到着すると、所定の場所で打鉄を停止させて真子は地面へと降り立つ。
「今日はありがとうね」
真子は試験前と同じように打鉄の装甲を指で撫でる。起動により激しい運動をおこなったせいかIS全体が熱を帯びていた。
今回の試験、打鉄の献身的な協力がなければ試験官に対し辛敗という結果にはならなかっただろう。
故に、最大限の感謝を込めて言う─────
「ありがとう……!」
真子がそういった途端、まるで照れるかのように打鉄の装甲がほんのり色づいたかのように、真子には見えた。
そして真子は試験を終えて会場を出る。その際本来いないはずの男子とすれ違ったが、真子はそのことを対して気にすることはないと判断した。
そして会場の外に出ると、ピンクのインナーカラーの黒髪女子が真子の目に入ってきた。
「おっ、まなまなおつおつ〜」
「桃もお疲れ様です」
真子よりも先に試験が終わっていた桃は真子を待っていたようであり、真子の姿を見ると笑顔を咲かせた。
「まなまなはこれからどうするの〜?」
「お迎えが来るのでここで待ちます」
「えっ奇遇じゃん!アタシもなんだよね〜」
桃がそういうと、一台の車─────外国車のハイエンドモデル─────が、真子と桃の目の前に停まった。
「あはは、お迎えきちゃった。アタシのカレシってば寂しがりやで困っちゃうね☆」
桃が軽口を言っていると助手席から一人の男性が降りてくる。
170cmの桃よりもさらに大きい180cm程の身長を持つ、少し筋肉質な体を持っている。
年齢は真子の目測によると桃と同じ年齢であるとわかる。そしてその身なりはモノトーンカラーでまとめられた清潔感のあるものであり、表情も優しげのあるものだった。
「この人が私のカレシ!せいちゃん、この娘が友達のまなまなだよ!」
「ドーモ、まなまな=サン。加賀
「ど、ドーモ」
桃に紹介された加賀青日という人物は、真子に対し日本人らしい奥ゆかしきアイサツと共に深くお辞儀をする。
真子もまたその挨拶に対しアイサツを丁寧に返すと同時に、“友達“として紹介されたことを嬉しく思い笑顔を浮かべる。
その後、桃に近寄り桃と会話を続ける。桃と男の会話はお互いに楽しそうなものであり、桃に至っては少し顔を赤らめた恋する乙女のものであった。
「おっとせいちゃんストップ。ごめんねまなまなほっぽっちゃって」
「いえいえ、お気になさらず」
実際真子は桃と青日の会話を見つめることを非常に楽しんでいた。
真子には恋愛というものがわからない。それよりも真子が欲すのはそのもっと前段階である家族や友達、クラスメートといった人物。
しかしその先にある“恋愛“というものを目の前で見せつけられれば、真子も女である以上興味が湧かないはずがない。
故に二人の会話を観察することで、真子の欲は現状満たされていた。
「そういえばまなまな、連絡先交換してないよね交換しよ〜」
「あっはい!もちろん!」
桃に誘われるがまま、束によって持たされた端末を取り出して連絡先を交換する。
真子にとって初めての連絡先交換。思わず真子の表情が和らいでしまう。
現在真子の連絡先に登録されているのは束と千冬の二人のみであり、桃は真子の連絡先三号となった。
「それじゃあまなまな、IS学園で!」
「─────はい!」
IS学園にて再会を約束した二人。そしてその言葉を最後に桃は車に乗り込んで何処かへと去っていった。
真子は一人待ちぼうけとなった。真子が“ホエールくんMark.07“へといくには千冬の協力が必要不可欠だ。
しかし千冬はISの扱い世界トップの称号を持つ“ブリュンヒルデ“。故に今回の実技試験の総監督という立場を担っているため全ての試験を終えなければ解放されない。
真子はこっそり拡張領域から、束から預かっている束と直接繋がる連絡機を取り出し、そのスイッチを入れる。
「もしもし、お母さん?」
『ヤッホーまなちゃん!!』
案の定一瞬で連絡が繋がり、束の快活な声が真子の聴覚に繋がる。
『どうしたのまなちゃん〜?もしかして束さんが恋しくなっちゃったかな〜?』
「─────うん。だから、ちょっとお話してよう?」
『もちのろーん!まなちゃんの経験したこと、教えてほしいなー!』
「うん」
全ての試験を終了し、業務を終えた千冬は車を走らせる。
真子を束のいる場所に送り返すべく、初めて真子と会った海岸に真子を送っていかなければならない。
しかしかなり遅れてしまった。それもこれも千冬の弟、織斑一夏が「藍越学園とIS学園が似てる」などという理由でIS学園の試験会場に迷い込み、さらにあろうことか男であるのにISを起動してしまったからだ。
車の中から真子の姿が見えた。
車を停めてから降り、千冬は真子に声をかけようとする─────が、その直前に止めてしまった。
「─────」
『─────』
千冬を待っている真子は、非常に嬉しそうな顔で通話をしていた。
山水公さん誤字報告ありがとうございます。
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