皆さんありがとうございます。
真子と蓮手が“ホエールくんMark.09“から発艦し、海面に向けて浮上してから早数時間。2人を乗せた“ホエールくんMark.07“は再び大気が満ちる空間、そのすぐ近くに到着していた。
今回浮上するのは前回の様に日本の本州に位置する場所ではなく、IS学園の存在する人工島、そこに直接2人は上陸しそれを千冬が回収する手筈となっている。
しかしそれは言うは易し、行うは難し。
IS学園は外部の干渉を許さないという国際規約に基づき設立されている為、違法な島内への侵入に対する目は非常に厳しいものとなっている。
日本という国に属する学園であるためその監視機能に武装はされていない。しかしそれは、IS学園であるからこその一種の慢心に近いものだとも言える。
なぜならばもし何かが引っ掛かろうものならば直ぐに通報が入り、実力者のIS使いがISの高機動性をもって駆けつけ、必要とあれば攻撃を行うからだ。
しかし、そんな監視機能も“ホエールくんMark.07“を捉えることはできない為、真子と蓮手には危険は一切ない。
“ホエールくんMark.07“は世界の目から束を隠し続けているステルス機能を保有している。いかに世界基準で見て最新鋭の技術だったとしても、ISを生み出した束からすれば児戯の域を出ないものだ。
そして、ステルス機能によって島内に侵入し、突然真子と蓮手が現れたとしてもその監視機能は異常とは捉えない。
真子は既に共有されているデータベース内にIS学園の生徒として登録されている。そして蓮手は千冬の懸命かつ献身的な根回しによって“真子の所持品“として監視は認識する。
故に、
「ほっ」
真子は無事、島内の人口に地面にその足をつけた。
真子は地面を踏み下ろす感触に、流石に受験時に初めて地に足をつけたとき並ではないが、湧き上がる歓喜の感情は、人工の表情筋は自然と笑みを作り上げるには十分だった。
「───あっ」
「わわっ」
満足げに笑顔を浮かべる真子に続き、蓮手も“ホエールくんMark.07“から地面に向かい飛び降りる。
しかし、着地がうまくいかなかったのか体勢を崩してしまい、真子はそれを咄嗟に受け止めて正常な体勢へと戻す。
「大丈夫?」
「はい、次回からは問題ありません。ありがとうございます」
真子が心配の声をかけると、蓮手はそれに問題ない旨と感謝の意を伝えた。
蓮手が姿勢を崩した理由、それは蓮手に『飛び降りて着地する』というデータが不足している為である。
蓮手は“お手伝いくんシリーズ“が蓄積してきた膨大な稼働データを基に体幹を構築しており、“お友達3号くん“に比べてオートバランサーの大幅な縮小化に成功している。
しかし、“お友達くんシリーズ“が稼働しているのは飛び降りるような場所のない“ホエールくんMark.09“であるため、蓮手は体勢を崩してしまったのだ。
しかしもう問題はない。束特製の自己学習機能によって着地時の各身体運動のアジャストは終了しているので、もうこけそうになることはないだろう。
「ありがとう。またよろしくね」
真子は飛び降りた方向へと体を向けて小さく呟く。そしてそれに合わせるように蓮手も真子と同じ方向を向いてお辞儀をする。
傍から見ればその姿は虚空に話しかける美少女。しかし真子が目を凝らす───即ちハイパーセンサーを少し視覚機能に集中すれば、そこには確かに“ホエールくんMark.07“の姿がそこにある。
真子の言葉と同時に、真子の目には“ホエールくんMark.07“が水中へと身を潜めていくのがわかった。
このまま“ホエールくんMark.07“はステルス状態のまま安全域として設定されている水深まで沈み、その姿を隠し続けるだろう。
そんな真子の後ろから、地面を踏み締める足音が響いてくる。視線に集中していたハイパーセンサーを通常状態に戻すと、真子は後ろを向いた。
「おはようございます、織斑先生」
そこには黒いスーツに身を包んだ千冬が、真子たちの方に歩いて来ていた。千冬がきた方向を見てみると、前回真子が地上にきた時にも乗った千冬の車が停められていた。
真子は挨拶の言葉を述べると同時に見事に綺麗なお辞儀を千冬に向ける。それは隣にいる蓮手も同じであり、真子の様子を倣うかの様にお辞儀を向けた。
「ああ、おはよう。それにしても遅かったじゃないか。……まぁ、理由は大体検討つくがな」
「すみません……」
「ああいや、天乃が気にすることじゃない」
千冬は少し呆れた目を遠く離れた友人の顔を思い浮かべながらそう呟いた。
千冬と束は、真子のIS学園の受験を期に数年ぶりにお互いに連絡を取り始めていた。
その連絡には真子についての根回しの束から千冬への願いも含まれているのだが、それは一握りの内容。その多くがお互いのプライベート的な内容であった。中には千冬の守秘義務に抵触するような内容もあったが、相手は束。その気になれば機密など簡単にスパッと抜けるような人間相手に、気にするはずもなかった。
故に千冬は理解していた。束がどれほど真子に愛情を注いでおり、そして入れ込み、そして依存しているかを。
だからこそ、今回集合時間を束から指定されたものの、千冬はどうせ束により真子の到着が遅れるのが分かりきっていたので、今回あえて遅く到着した。
そうしなければならないほど、束が千冬にもたらしている仕事量は多いが故に。
「……そいつが束の言ってた“お手伝いちゃん“とやらか」
「初めまして。“お手伝いシリーズ“最新型特別仕様“お手伝いちゃん“改め“天乃蓮手“です」
千冬が蓮手に反応を示すと、それのレスポンスとでも言わんばかりに蓮手が丁寧な挨拶を行う。
千冬はそれに既視感を覚えた。
それは数ヶ月前の受験一日目の前日の夜、砂浜にて初めて真子とあった時に真子が行った挨拶。蓮手の挨拶はそれと酷似していた。
しかし、そこには違和感を感じるような違和感があった。
今の蓮手の挨拶は非常に自然な動きであったが、こういった事務的な動きを良くみるかつ優れた目を持つ千冬からしてみれば、少し機械的な動きを感じ取れた。
しかし、数ヶ月前の真子が行った挨拶は、事務的なものであったが、体の動かし方は正に人間そのもの。アンドロイドと言われても普通ならば信用しないほどのものだった。
千冬が感じた時間差の違和感。それは、今のその状況を見れば技術が退化している様に感じることだ。
真子の体である“お友達3号くん改“を千冬は“お友達3号くん“時代ならば知っている上、改造を行ったのも今から数年前と束は通話の中で語っていた。
しかしこの“お手伝いちゃん“こと蓮手は、真子も知らなかった少し前まで知らなかったぐらいには新造のアンドロイドだ。
自己学習機能による経験値の差、という可能性の存在するが、蓮手は“お手伝いシリーズの“壱式改二〜玖式が自己学習機能によるデータから作られているので経験値という観点でも負けている筈だ。
一瞬の動作から千冬の中に生まれた違和感への疑問。
─────しかし、千冬はそれを胸中で振り払った。
今、そんな疑問を持つ必要はない。束関連で千冬が学んだ教訓はできる限り受け流すことだ。そうでなければストレスが溜まる一方だ。
それに、真子と蓮手の製造期間に大きく差があるといった可能性が千冬が考えうるだけでも数多くある。今結論を急ぐのは愚策である。そう千冬はこの場で簡易的な結論を出した。
「まぁそれはともかく、とりあえず車に乗れ。私も遅れたくはないからな」
「はい」
千冬に誘導されるがまま、真子と蓮手は千冬の自家用車に乗り込む。
待つ際にその中に居た為なのかエンジンが点けっぱなしだった千冬の車は、無音に近い極小さな音を発して動き始める。
IS学園の為に作られた人工島。その全てがIS学園の敷地な為に整えられた設備やら環境やらで作られた景色を、真子は車の窓越しに熱心に見つめる。
その姿をバックミラーで確認した千冬は、真子の内に潜む想いに似た何かの強さの一端を感じ取り、その人間らしさから少し微笑んだ。
──────────
千冬によって無事に時間に間に合い、入学式が終了した。
休憩時間にあたる今の時間に真子は、自身のクラスである1-1の教室にて指定された席に座っていた。
蓮手はどうなったかと言うと、生徒ではなく真子の私物である為、千冬によって真子がこれから暮らす予定の寮の部屋に連れて行かれた。
当然のことだが、女性しか扱うことのできないISを扱う機関であるため、女子生徒の姿でクラス内は埋め尽くされている。
「あは〜、まなまなと席隣〜!」
「これからよろしくお願いします」
「おk!」
その中には真子の友人である桃の姿もあった。その席は真子の手前であった。
真子の挨拶に、桃は元気にサムズアップをしながら返事をする。その姿に真子は心に連動して笑顔を作った。
そんな女子ばかりの紅一色の教室の中に、1人の男子、黒一点が存在していた。
その存在はもちろん女子達の注目を集め、皆悟られないようにしながらもチラチラと様子を伺うのがわかる。
彼はひたすら俯き続けており、少し覗いたその顔は困惑の表情に伴い脂汗らしきもので濡れていた。
彼の名前は織斑一夏。その名字からわかる通り世界最強の“ブリュンヒルデ“の弟であり、世界で初めて、男性でISを動かてしまった人間だ。
世界初の男性IS操縦者というニュースは世界に知れ渡っている。なぜならば、今や社会の根幹にある女尊男卑、その考えの崩壊につながるためだ。
ちなみに、真子がそのことを知ったのは、今日の朝に千冬から車の中で離されたときであり、驚いたのは千冬の弟であるということだけだ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り響き、席から立っていた生徒たちが座り、崩して座っていた生徒は正しく前を向いて座る。
そして同時に入ってきた人物、つまり担任かそれに類する立ち位置である教師の姿を見ると同時に真子の心境は驚きに包まれた。
綺麗な緑の髪に特徴的な眼鏡、そしてその豊満なボディの持ち主に真子は非常に見覚えがあった。
「は、初めまして!副担任の山田真耶でsんひっ!?」
「──────────」
1-1の副担任である山田真耶はクラス全体に自己紹介をするべく生徒を見渡しながら挨拶をしていたが、真子のことを見て怯えた声をあげてしまった。
それは緊張や真子の目が驚きから目を見開いていることも関係あるのだが、一番の理由は、山田先生にとって真子が少しトラウマになっているからだ。
真子との模擬試合は辛勝であったものの山田先生の勝利であった。
しかし最後の最後、打鉄のクローで距離を固定されたまま絶対防御を貫通して痛みを感じたパイルバンカーの連撃は現役時代ですら感じなかった恐怖を植え付けられてしまった。
それでも、最後に反撃に転じて勝利をもぎ取ったのは流石と言わざるを得ないが。
尚、この戦いで用いられたラファール・リヴァイブのデュアル・ファランクスは他の教官に過剰戦力だと指摘されたことや本人の意思で自主封印とした。
その結果、一夏の試験の際に飛行制御を誤って壁にぶつかってしまい、撃墜判定をもらってしまったが。
「すぅ〜……はぁ〜……」
しかし流石は教師というべきか。咄嗟に深呼吸を行い、普段の調子を取り戻すべく努める。
担任である教師は少し遅れる旨を伝えて山田先生にこの場を託した。その期待に応えねばならない。
「それでは、まずは自己紹介をして貰いたいと思います。順番は名前の順で……天城さん」
「おっアタシだ。んじゃまなまな行ってくるね〜」
調子を取り戻した山田先生に指名された桃は、真子にヒラヒラと手を振ると教壇に立つ。
「アタシの名前は天城桃!呼ぶ時は名字でも名前でもよし!いちお〜“カカ研“の操縦士やってたりするから知ってる人もいるカモ??趣味はいっぱいあるから大体は話合わせられるよ〜。これからよろしく!」
パチパチパチパチ……
自己紹介を終え、自席に戻っていく桃を送るように拍手の音が鳴り響く。
そして、それと同時に教室内が少しざわつき始める。
その原因は、桃が自己紹介内で自身が“カカ研“の操縦士であることを明かしたからだ。
“カカ研“。正式名称は“加賀科学研究社“というISを扱う有名企業の一つであり、その通称として一般的に知られているのが“カカ研“だ。
“カカ研“が一般的にも知名度がある理由は、カカ研が開発した第二世代機“赤城“にあるだろう。
“赤城“は操縦者が露わになる面積が少ない程の装甲の面積と厚さと、それに伴う重量を支えつつ重量系の
また、利用者からの要望に丁寧に応えて、時にはそれに合わせた
そして桃はそんな企業の操縦士であるという情報は、クラス全体をざわめかせるのに十分であった。
「まなまな、アタシどうだった?」
「大丈夫かと」
「やった!」
対して真子はその情報に対して「へ〜」ぐらいにしか思っておらず、それよりも戻ってきた桃と会話する方に意識を割いていた。
「次は天乃さん、お願いします」
「はい」
桃に続いて名前の順が2番である真子が、山田先生に呼ばれる。
真子は教壇に登るまでの僅かな時間、真子は自己紹介で何を言おうかを思考する。
自身が一度死んでいることやこの体が“お手伝い3号くん改“であること、束と親密であることは勿論言うことはできない。
その上で、一体何を紹介すればいいのか?
─────ある。なんの為にここに来たのか、真子の思考を構成する上で、重要な要素が。
そして、真子は教壇に立ち、言葉を紡ぎ響かせるために、空気を吸う。
「私の名前は天乃真子です。夢は─────宇宙に行くことです」
おめでたいことにこの作品がランキング入りしました。改めて皆さんありがとうございます。
ぽっぴんさん、ケーキリゾットさん、シオン126さん☆9評価、トロイさん☆8評価、 怪猫蜜佳さん☆4評価ありがとうございます。
tanbeさん、トロイさん誤字報告ありがとうございます。
UAが3,000を突破しました。読んでくださった皆さんありがとうございます。
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