皆さんありがとうございます。
「───────────」
山田先生が前に立ち、1−1最初の授業を行なっていた。
その内容は中学校での内容を繰り返したりするような一般的な高校のものではなく、専門的な言葉を交えたISの基礎知識、その解説であった。
IS学園に入学する以上、専門的な言葉というのは履修していて当然。なぜならばそれがIS学園入学に値するか否かを見定める入試の筆記試験内容だからだ。
そしてこの授業内容も、一般的なIS学園生徒なら知っていて当然の知識、その振り返りのようなものだった。
故に、初授業ということもあり少し緊張感を持っている生徒もいるが、少し力を抜いている生徒も多かった。
「……………………」
真子は、そんな基礎的な授業を非常にしっかりを受けていた。
ノートは取らない。先生の発言も、先生が前に書いた言葉も、五感で感じれば瞬時に覚えられるし、それを既存の知識に対して最適化することできるからだ。
では、真子は何故、束から膨大なデータを授かっているにも関わらず真面目に授業を受けているのか。
例え受けたとしても、真子にとって実りのあるものだろうか?
その答えはYes。そしてその理由とは、真子が今行っている最適化という作業が非常に大切だからだ。
真子の持っている知識は篠ノ之束という全ての天才を過去にする天災が一から生み出したものばかりだ。
そのため、その表現や認識は非常に独特で凡人とはかけ離れている。そしてそれが伝わるのは束本人と真子、そして“お手伝いシリーズ“だけだ。
故に、凡人の一般的に合わせるというこの作業がとても大事なのだ。
この作業がなければ、今後このIS学園で活動していく中で必ず必要である連携に異常が生じるだろう。
受験の際も、唯一真子が勉強と言えるものを行ったのがこれだ。
それでも、束印の高度な情報処理能力の前には一瞬の出来事ではあったが。
そんな中、唯一授業の内容について行けてない人間が1人。
その人物は配布された教科書を凝視しながら、焦った表情を浮かべて冷や汗を流していた。
「織斑くん?どこかわからない部分がありましたか?」
「……一つもわかりませぇん……」
「えぇっ!?」
その人物、唯一のIS操縦者である織斑一夏の様子を気にかけた山田先生が近寄り、丁寧に優しい声で問いかけた。
すると一夏は、そんな地獄での蜘蛛の糸に縋り付くかのように、授業の内容が一切理解できないという己の現状を吐露した。
織斑一夏という人間は、例え姉が世界最高のIS乗りだったとしても、本来ISに関わるはずのなかった人間だ。
それは男だから、というだけではない。男でもISの開発という点では関わることができる。
現に真子の友人である桃の所属するカカ研の従業員は男性が多く、そこで名を上げIS界隈で有名となった人物もいる。
ならば何故と言われれば、本人にその意思がなかったとしか言いようがない。実際、一夏は藍越学園に入学したのちに就職して金銭を稼ぐのが彼の人生設計でもあった。
しかし、一夏は手違いからISを動かしてしまった。その保護のためにもどの国家にも属さず、外部からの干渉を拒絶するIS学園に入学させられた。
故に、知識を問う筆記試験は無駄。何故ならば入試に必要な知識を持っているはずがなかったからだ。
実技試験も、本当に男性がISを動かせるのかということを再確認するためのものであった。
最も、彼に授業を理解するに必要な知識が
「織斑、事前に配布された参考書はどうした」
「?…………もしかして、あのめちゃくちゃ分厚いやつですか……?」
「そうだ」
傍から授業の様子を見守っていた千冬が一夏へと近寄り、事前に用意された参考書の有無を確認する。
その参考書とは、政府がISの予備知識が一切ない織斑一夏という個人のために用意した特別なものであった。
何年もかけて学んでいくはずの知識を早急に覚えてもらうためには、既存のものでは最適解と言えるものがなかった。
そのため、政府はわざわざ国内でも著名なIS関係者と本の作成に必要な人材を多めに呼び寄せ、少し無茶な期限と奮発した資金を投げかけ、編纂させた。
そんな経緯のもとに完成した参考書が、一夏のもとに届いている─────はずだった。
「……あ〜〜〜……」
「どうした?」
「電話帳と間違えて捨てちゃいました」
バコォン‼︎
「いってぇ!」
「当然の報いだバカモン!」
折角の特別性参考書を捨ててしまったという一夏の報告を聞いた千冬は、その手に持つ出席簿によって一夏の頭から重い音を響かせた。
同時に千冬は酷い頭痛の訪れと共に深く溜息を吐いた。
真子関連に関する立ち回りも相当に厄介なものであったが、一夏の参考書作成においても千冬は重労働を強いられていた。
それもそうだろう。世界最強の《ブリュンヒルデ》でありながら、ドイツの軍部での教官経験もあるIS学園の教師。正に適任であった。
そんな訳で大変苦労して作られた参考書が、あろうことか捨てられていた。それに対し多少なりとも不満を抱かない方が不自然だ。
「っはぁぁぁ〜……明日、新しいやつを用意してやる。一週間で覚えろ」
幸いなことに、千冬は異常がないかの最終チェックのために完成状態の参考書を保有していた。既に十分な知識を持っている千冬は、それを弟に譲るぐらい大したことはなかった。
「えぇっ!?い、一週間は流石に───」
「い い な ?」
「ハイ」
ちなみに、参考書は専門家による膨大なチェックにより非常に読みやすいかつ必要事項が印象に残りやすいものになっているので、一週間で覚えることはそれほど難しくはない。
「まなまな、織斑クンって面白いね」
「うん」
それ以降、授業はつつがなく進んでいった。
──────────
真子にとって初めての学校は、何のトラブルもなく終わりを告げた。
束が全力で手掛けた至高の美形の顔は少なからず注目を集めたが、桃と出会うきっかけの一件を機に慣れてしまったので問題はなかった。
桃はそのことに気をかけていたようだが。
クラス全体で見れば一夏がクラスにいるイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットに絡まれたりしていたが。
その2人による会話の内容というのも、一夏がISに関わる気が今まで全くなかったが故の知識のなさとセシリアの男性軽視・IS代表候補生としての誇りが化学反応を起こしたが故の出来事だ。
正直、厄介事でしかない。そして、この手の擦れ違いというのは内容に違いこそあれどどこにでもあった。
それは真子も同じであった。真子本人がそれに巻き込まれることはなかったが、真子がまだ複数人部屋の病室にいた時の長い時間の間には何度かあった。
桃も、企業のIS乗りであれば同じようなことはよくあった。
そして2人が導き出したその状況に対しての対処法とは「関わらないこと」。例え正義感に心動かされ対処しようとしたとしても、その先に待つのは無関係の人間によって油が注がれ、更に燃え上がったという事実だけだからだ。
スタスタスタ……
そんな真子は現在、これからプライベートな時間を過ごしていく部屋、つまり寮にて指定された自室に向けて歩いていた。
「あった」
歩みを止めた真子の目の前にある扉には“404号室“と書かれたプレートが飾られていた。
今日のカリキュラム終了後に千冬から手渡された鍵を使って扉を開けて中に入っていく。
渡り廊下の正面にリビングへの扉、そして側面にはトイレと浴室への扉がある。
真子は404号室内を歩きながらその部屋のことをよく観察していく。
流石はIS学園というべきだろうか。恐らく貴族などの高階級の人間が使用するにふさわしいようにするためか素材も高く、部屋の間取りもよく考えられている。
しかしその上でIS、ひいてはIS学園の原点が日本という国であるからか和のテイストが少なからず散りばめられていた。
リビングを抜け、ベッドが2つある寝室に入ると、丁寧に真子と、同室であろう人物の荷物が置かれていた。
当然、真子の所持品である
彼女は稼働する必要はないと判断したためか、自らスリープ状態に移行しており、目を閉じて正座していた。
傍から見れば瞑想しているかのようだ。
「れんちゃん、ただいま」
真子の持ち物、“お手伝いちゃん“である蓮手に真子は声をかける。
するとパチッと目を開き、その体を正座から立位へと移行する。
「真子様、おかえりなさいませ」
「うん、ただいま」
真子に対し丁寧なお辞儀を披露する蓮手に対し、真子は優しい笑顔と共に返事を返す。そしてそれと同時に蓮手を受け取った時のことを思い出して、真子は微笑みを浮かべる。
母親である束からの祝いのプレゼント。真子はまるでは小さな子供が新しいお人形をもらっているような気分になり、心の中が温かい感情で埋まっていくのを自覚する。
ガチャ
すると、真子以外の404号室の住人もやってきたのか扉を開く音が真子のハイパーセンサーで再現された聴覚に届いてきた。
真子は咄嗟にその身を翻し、音の方向へと体の正面を向けた。
人と人の付き合いにおいてファーストコンタクトは非常に大事だ。そこによる印象は今後での関わりに付き纏い、もしそれを変えようと思うのならばそれなりにインパクトのある出来事を起こさなければならない。
特に同じ部屋の人間となるとこれからの付き合いも長くなるだろう。その重要性は更に高まるだろう。
「どうも〜〜〜!天城桃でぇ〜〜〜す!これからよろしくぅ……ってあれ?まなまな?」
「─────桃さん」
意気揚々とした様子で寝室に入ってきたのはまごうことなき今日再会を果たした真子の友人、天城桃その人だった。
─────真子と桃がお互いに目を合わさったまま硬直したのは、僅か一秒に満ちるか否かの刹那。
どの程度の硬直で収まったのは桃がカカ研の人間として色々経験しており、真子も優れた情報処理能力を持っているからなのか。
そして硬直から解放されたその次の瞬間、桃にとって未知の美少女、蓮手と目が合わさり、桃は完全に硬直してしまった。
「─────あっ」
真子もそのことに気づいたらしく、思わずその動揺に声帯機能が作動してしまった。
そして、この状況に対し、硬直から口だけが解放された桃も、その声帯機能を働かせる。
「え、えっと、まなまな?その人誰ぇ……?」
当然の疑問を真子に投げかける。そしてそれを真子同様に認識している蓮手は、自己紹介に対する
ここで馬鹿正直に、蓮手が真子の補助を目的としたアンドロイドだと桃に言ったとしよう。
すると間違いなく、カカ研という技術者の集う会社のIS操縦者である桃は、その技術力の高さを認識すると同時に問うだろう。即ち「どこの会社のものなのか」と。
ISという超技術が横行している世界においてもアンドロイドというのは未だ実用化に至っていない。
所詮世界は現在ISという束という天災が作り出したものを扱える程度に理解しているに過ぎない。それは必ずしも新しい技術を容易に考えつくことができるようなものではない。
そこで
疑問が湧かないはずがない。
だが、その作り出した張本人は世界から指名手配を受けている人物。その人物から授かったアンドロイドを持っているということは、居場所を知っているという証左に他ならない。
故に、それを素直に言おうものなら真子のみならず、束という理解者・友人・母親にまで危険に晒してしまう可能性があったからだ。
それを全て理解者した上で、真子は
「いいよ、れんちゃん」
「─────承知しました。初めまして桃様。“お手伝いシリーズ“最新型特別仕様機“お手伝いちゃん“改め“天乃蓮手“です」
蓮手がアンドロイドであるということを。
真子はその旨を非常に簡潔に伝えると、それを上手く汲み取れた蓮手が、深々とお辞儀をしながら自己紹介を行なった。
「…………えぇ?」
流石の情報量に桃は思考がフリーズ寸前にまで追い詰められ、あと一歩一押ししてやれば崖から突き落とすが如くフリーズに陥らせて数時間の思考停止に至るだろう。
そこからたっぷり数十秒、沈黙の時間が訪れる。
フリーズ寸前だった桃の思考は復旧していくと同時に状況を噛み砕き、整理し、飲み込んでいく。
そして完全復活と状況の飲み込みを終えた数十秒後に、再び口を開いた。
「えーっと……それって、蓮手ちゃん……あ〜れんちょんって呼んでもいい?」
「問題ありません」
「やったっ」
先ほどのフリーズから打って変わり、桃は軽いフットワークで蓮手に接する。
「それで、れんちょんって〜……アンドロイド?」
「肯定します」
「そっか〜〜〜……う〜〜〜ん……」
桃の問いかけに対し蓮手はそれをなんとも思わないように答える。
そして桃は蓮手の答えを聞くと、唸りを上げながらぐるぐると蓮手の周りを回りながら確認するかのように視線を当て続ける。
その間、真子の心境は穏やかなものではなかった。
真子が桃に対しこのことを隠そうとしなかったのは、桃は真子にとって友人であるからだ。
友人であるから真子は桃に対し、束ほど強固なものではないが信頼をおいていた。
しかし真子からの信頼だけでは友人たりえない。友人たり得るには、相互的な信頼関係が必要不可欠であるというのが、真子の前世からの考えであった。
そして信頼してもらうに必要なことは、嘘をつかたり、何かを変に誤魔化して隠そうとすることだ。
その為に真子は
満足するまで見ることができたのか、桃は突如として足を止め、真子の方へと向き直った。
「いや〜〜〜れんちょんかわいいね〜〜〜!きっと作った人は趣味がイイネ!」
「──────────」
桃の口から出できた言葉は、真子の予想していた「どこの会社のものなのか」というものではなく、そのビジュアルと、蓮手の製作者である束への賞賛の言葉であった。
真子はその計算の想定外にあった出来事に、言葉を発することができなかった。
胸のうちに湧き上がる感情は安堵?歓喜?それとも疑問?もしくはそれがごちゃ混ぜになったものが胸中で渦を形成しているのか。
「いや〜〜〜それにしてもすごいねこれ……マジでリアル美少女にしか見えない……。最新のお人形みてめっちゃ精巧じゃん!って思ったけどそれより良くできててアンドロイドなんてすごいね〜……」
再び蓮手へと視線を戻していた桃は、興奮したかのように言葉をつらつらと並べて感想を言っていく。
その言葉が自分へのものだと理解しているのか、蓮手はどこか恥ずかしがるような仕草を見せる。
その上で、どうしても真子は、桃に聞いてみたくなってしまった。
「───どうして何も聞かないでくれるの?」
蓮手について、桃が今知っているのはアンドロイドだということ、そしてその詳細情報を真子が握っているという推測程度は容易にできるだろう。
しかしそれを何故聞かないでいるままで平気なのか。自分に対して隠し事を持っていることが怖くないのか。それを真子は問わずにはいられなかった。
沈黙は訪れない。桃はその答えを、瞬時に返すことができたから。
「まなまなが知ってるんなら、それでいいじゃん」
「─────!」
「
真子にとって、桃のもつ友達に対する認識の違いというのは衝撃的なものだった。
友達だからこそ、お互いに補い合う。信頼しているからこそ、補うことができる信じられる。
要は信頼の置き方の問題だ。信頼という点では真子とそう大差ないにも関わらず、そこ一つで大きく変わるということが、真子にとって衝撃的だったのだ。
「あっ忘れてた。これから同室ってことでこれからよろしくね、まなまな!」
真子に対し、桃は握手を求めて手を差し伸べる。それはまるで、段差の上から真子を引っ張り上げるという、支援のための手のごとく。
真子の気持ちに答え、人工の表情筋は満面の笑みを浮かべ、手は桃の手へと吸い寄せられた。
「はい、これからよろしくお願いします、桃」
「うんうん、おkおk。あっ、もしよかったら丁寧な言葉使わなくてもいいんよ?」
「───うん、わかった」
こうして、404号室における。一組の友情は、新たな解釈と共に深まった。
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