「この写真……処分しないといけなかったのに、しくじったなあ。ばれたかも」
船内の一室で、ベッドサイドランプの光しかろくな明かりがない暗闇の部屋にて。インクで汚れた写真を手にする人物がいた。ミリアルの変装を解いて、ドーパントの変身も解いて、悲しげな顔で写真を見つめて、光を失った目で真っ黒に染められた写真を眺める。それはもう、二度と戻ってこない失われた日常を彷彿とさせて、涙がこぼれる。
「幸せだったなあ……でも、もう戻ってこない……ならせめて」
《ファズマトデア!》
写真を懐にしまい、ガイアメモリを取り出してボタンを押すと右手首に突き刺す。リストカットを思わせるその部位から徐々に痩せ細っていき、身長も伸びていき見る見るうちに人型の枯れ枝の様な怪人、ファズマトデア・ドーパントに変貌。たたみかけるようにミリアルに姿を変えつつ、ベッドに乗せていた、緑色の宝石で象られた彫像「真実の愛」を手に取る。
「お前の思い通りにはさせないぞ、
「おかしい……」
「なにがですか?」
初峰九王に確認を取って、とある会議室でインク・ドーパントの正体を暴くべく準備を進めていたゆかりは、眉をひそめてそんなことを言いだし、壁の機械を弄っていたきりたんが振り返る。
「ミリアルはともかく、あかりまで帰ってくるのが遅いです。もしかしたら犯人に出くわしたんじゃ……」
「あかりさんは常人より強いから心配なさそうですが…ミリアルはともかくとは?」
「気づいてなかったんですか?恐らくですがあのミリアルは怪盗Iです。そしてきりたん、あなたは狙撃前にどこにいましたか?」
「えっ?ミラ・マリンに手品を見せられていましたが……」
「やっぱり……私はあの時、「真実の愛」が見える位置できりたんと一緒にいました。あれはおそらく、怪盗Iだったんです」
「ええ!?」
そうなのだ。あの時、感じた違和感があった。きりたんはずんだ餅を美味しそうに食べていたが、あれはずん子……純子さん提供の物だ。気まずくて食べれないはずなんだ。それにミラ・マリンを調べていたはずなのに「特に何も」は怪しすぎた。あれは私に気付かれることなく「真実の愛」に近づくための演技だったんだ。
「あまりにも自然すぎて、停電の後に合流した貴方を、ずっと一緒にいたと思い込んでいたのが失策でした……そして、私達と離れていた時にミリアルと入れ替わった。きりたんが二人いるのは明らかにおかしいですからね。ミリアルはおそらくどこかに捕まっているのか……今デンデンセンサーたちに探らせています」
「でもそれじゃ、逃げられるんじゃ……」
「そのためにスパイダーショックの発信機を取り付けておきました。ミリアルに化けている怪盗Iはまだ船内にいますよ。それに、恐らくその正体は……いえ、今優先すべきは殺人犯であり財団Xの確保です」
怪盗Iの正体は何となく目星はついている。だとしたら、止める必要すらないのかもしれない。だけど依頼されているから後から取り戻させてはもらうが。
「準備はできました。あとは……」
「加賀さんが容疑者を連れてくるのを待つだけですね。…もっとも、状況証拠からある程度絞れていますが」
正直これは賭けだ。加賀煉が財団Xだったら全ての前提が覆る。だがその心配は杞憂だったらしい。
「言われた通り、指定された人間を連れてきたぞ」
「なにかわかったのか?探偵」
警備主任の
「事件の香りがしますよ!」
「子供たちを安心させるためにマジックを披露していたかったのだけど……」
新米ジャーナリスト、
「わ、私に何か御用でしょうか」
「酒でも奢ってくれる…ってわけじゃなさそうだねえ」
インペリアルスター号のメイドの一人でドジっ子メイドのラグナ・ポンド。インペリアルスター号の整備士、
「おやおやぁ。これはこれは紲星探偵事務所の探偵さん方じゃないですかあ。リリィさんはいらっしゃらないので?」
「探偵さんの方から呼んでいただけるなんて嬉しいわ」
長身で緑に染めた髪でピエロメイクのオークショニア、
「まずあなた方をお呼びした理由をご説明しましょう。伊藤廻を殺害した犯人の目星がつきました。しかし証拠が足りず、犯人を追い詰めるにはあと一手必要です。早速で悪いんですが、皆さんには…」
そう言って首を向けると、頷いて機械を操作するきりたん。瞬間、スプリンクラーが作動して水がこの部屋の全員に降りかかる。
「きゃあ!?」
「な、なに!?」
「っ……」
びしょ濡れになり半ばパニックに陥る中で、きっと睨みつけてくるその人物の姿が、ドロドロと溶けていく。まるで水に溶かしたインクの様に、その姿が崩れて真の姿が現れる。逆さにしたインク瓶の様なヘルメットを被った、ドロドロに溶けたインクの漆黒の外套を全身に纏った、右手が万年筆の様な形状になっているドーパント。あいつだ。そいつは観念したのか左手をかざした右手の甲からメモリを引き抜いて変身を解除する。さっきまでインクを被って擬態していた人物がそこにいた。
「ミラ・マリン……やはりあなたが犯人、財団Xでしたか」
「びしょ濡れにしてごめんなさい、逃げてください!」
「なぜわかった?私の偽装は完璧だったはずだ」
スプリンクラーがやんで、きりたんが他のみんなを逃がしているのをしり目に、さっきまでとは違う、男勝りな言葉でミラが問いかけてくる。加賀煉だけがいつでも捕らえられるようにと身構え、私は解答した。
「まず、目を付けたのはあなたと藤城さんでした。ステージの上に立ち、見渡せる位置にいた。しかしここで問題が出てくる。ドーパントはその特性上、こっそり変身するのが難点です。ガイアメモリの音を鳴らさず、注目されていた中でドーパントの力で狙撃し、何事もなかったかのように戻る?不可能です。でも、常にドーパントの姿でいたらどうか?これはきりたんが調べた「インク」のメモリの能力でわかりました。操るインクは変幻自在。インクを被ることで色を変え形を変え、擬態できる。おそらくマジックもこれを利用していたのでしょう。それならすれ違いざまに蛍光インクを伊藤廻にマーキングすることも可能だ」
ドーパントのまま人の姿をとれるのはオクトパス・ドーパントと同じだ。さすがにあそこまで精度が高くないが、厄介極まりない能力だ。手持無沙汰なのかガイアメモリを手で玩ぶミラ。私は咄嗟にバットショットを取り出し、ギジメモリを装填して飛び立たせる。
《バット!》
「っ…」
「させませんよ。ここで問題なのは、怪盗Iが「真実の愛」を狙っていたところです。もし藤城さんならそれを見逃す手はない。つまりあなたに絞られますが……証拠もなかった」
バットショットがメモリを奪い取り、私の手に渡り勝ち誇る。そう簡単にメモリを使わせるわけがない。
「くっ……それでインクを取り除くためのスプリンクラーか、考えたな。全員呼んだのは私がまだばれてないと油断させるためか?」
「その通り。悪いことをしましたが……あなたは財団X。逃がさないためにはこの方法しかなかった。加賀さん!」
「心得た!」
私の言葉に頷き、加賀さんが飛び掛かる。体格は加賀さんが上、メモリもない。そうそう負けることはない、はずだった。
「生憎だったな。私には頼りになる味方がいるんだ」
その歌声が聞こえてきた途端、加賀さんの動きが止まる。新手か?そう思ったとたん、扉が開いて押し寄せてくる虚ろな目をした久遠さんたち。加賀さんも加わり、私達に雪崩かかる。いったいなにが…!?
「あともう一歩だったな。名探偵」
《インク!》
私が取りこぼしたガイアメモリを手に取り、起動して右手の甲に突き刺し溢れ出た漆黒のインクに包まれ変貌するインク・ドーパントが私に向けて万年筆の様な右手を構える。最悪だ。
怪盗Iはファズマトデア・ドーパント。何のドーパントかはまだ明かさないでおきますが検索したら出そう。その正体はゆかりもわかる例のあの人…?
そしてインク・ドーパントの正体判明。ミラ・マリンでした。感想でなんか怪しい言われた時ビビったよね。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。