第二十ニ話:Sの終演/バケモノと呼ばれた探偵
それは、私が初めておやっさんと出会った話。10年程前…私が小学生の頃ですかね?水都市民ホールで当時の歌姫「メーコ」のコンサートに幼馴染のマキさんと来ていた時のこと。突如不気味な蠍男…スコーピオン・ドーパントが舞台に現れました。尻尾を使って天井からぶら下がったまま、駆けつけた花さんを始めとした警官隊を蹴散らしたそいつを、おやっさんは華麗な動きで蹴り落としたのだ。
―――「あたしの依頼人に手を出さないでもらいやしょうか」
古風な喋り方をする帽子の下にペストマスクを被り着流しを纏ったその探偵は子供の私にはかっこよくて。生まれて初めて男の中の男を見た気がしました。それが私が探偵…いや、おやっさんというかっこいい男に憧れたきっかけです。
あとからおやっさんの日記を見つけて詳細を知ったのですが、メーコは一番のファン蠍男と名乗る人物に脅迫されていた様で。それこそが水都に現れたドーパント第一号。スコーピオン・ドーパントこと…おやっさんの相棒、
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「お爺さまの、相棒…」
そう呟くあかりに、私は頷いて日記に挟まれてあった古い写真と新聞のスクラップを見せる。帽子を被った和装の初老のおやっさん…虚音イフと、長いマフラーを首に巻いた年若い男が一緒に映ってる。新聞のスクラップには、蠍の様な頭部から伸びた蠍の尾をマフラーの様に首に巻いた怪人が映っていた。
「その捜査の途中で初めて、仮面ライダースカルに変身したそうです」
「仮面ライダー…スカル?」
「私達がそう呼んでいるだけで本来は「スカル」なだけみたいですけどね。当時は骸骨男という都市伝説として知られてました。でもおやっさんは紛れもなく仮面ライダーです。断言できます」
些細なことからスコーピオン・ドーパントの正体が自分の相棒だと突き止めたおやっさんは追い詰めるも、戦う決断が鈍ったことで多大な被害を出してしまいます。己の罪を数えたおやっさんは告げたそうです。お前の罪を数えろ、と。
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海風が涼しい建物の屋上で。その決戦は行われた。帽子を外し、普段から付けているペストマスクを投げ捨てた虚音イフは真剣な目でスカルメモリのガイアウィスパーを鳴らして腰のロストドライバーに装填、倒した。
「俺が愛するメーコの愛を独り占めするお前は…一体なんなんだ、イフ!?」
《スコーピオン!》
「
《スカル!》
共に異形の姿となり対峙する相棒だった両者。スカルは手にしていた帽子を傷の入った髑髏頭を隠す様に被り直し、スコーピオン・ドーパントが放って来た蠍の尾を蹴り飛ばす。
「今は…
蹴り飛ばした蠍の尾を掴んで引っ張って引き寄せたスコーピオン・ドーパントに拳を叩き込み、右手の指を拳銃の様にして突きつけるスカル。
「一つ。自分の相棒の心の闇を知ろうとしなかったこと。二つ、相棒を止めれなかったこと。三つ、戦う決断が鈍って犠牲を出したこと。…あたしは自分の罪を数えやした。さあ、お前の罪を…数えろ」
「人を愛することが罪だとでも…!」
猛毒の滴る尻尾を鎖鎌の様に振り回して斬撃をスカルに叩き込むスコーピオン・ドーパント。しかしスカル…骸骨の記憶であるが故に半死人も同然なその身体には毒は通じない。
「…「変身するのは少しの間死ぬことだ」あくまであたしの場合でございやすが」
《スカル!マキシマムドライブ!》
そして決着をつけたおやっさんだったが、海音一はメモリの毒素や初期型なのも相まって死亡。街の平和と引き換えに相棒の命を奪ったことも相まって探偵稼業を休業…していたところに、そんなことも知らない幼い私は探偵事務所を訪ねて、おやっさんの様にこの街を守りたいと熱弁。しかし断られ、私は高校生になるまで毎日助手になることを懇願し、紆余曲折あって認めてもらい高校を卒業してからおやっさんの助手になりました。
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「紆余曲折ってなにがあったんや?」
「いやあ、高校生の頃に茜さんのストーカーを相手にしたことを知られて…今思えばあかりから聞いたんですかね?」
「そういえばそんなことをお爺さまに自慢した記憶があります。私の自慢の先輩だって!」
「なるほど、一つ謎が解けました」
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その数年後、仕事を覚えてダメなりにおやっさんについていけるようになりいくつかの依頼も任されるようになった頃。運命の夜へと導く依頼人が現れたのです。
今から一年ぐらい前。その日、何時まで経っても帽子を被ることを認められなかった私は、仕事を終えて事務所に帰るとおやっさんがいないことをいいことにこっそり帽子を被ってかっこつけてたんですが、異常に気づきました。黒い帽子…おやっさんがいつもここぞって時に被る帽子と、危険な仕事の時に付けて行くペストマスクがなかったのです。
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「そういえばお爺さまってペストマスクをつけてたんですか?」
「なんでも、毒ガスなどから身を守るのと正体を隠す他、犯罪者に恐怖を与える効果があったそうです。実際にアレを被ったおやっさんはよくバケモノと呼ばれてました」
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調査道具のケースもなく、いつもの様に置いてかれて一人で仕事をしているんだろうなと思いました。今思えばスカルとして戦っていたのでしょうが……一人前だと認められてないのだと、そんな気持ちがアダとなりました。私にとってはもう一人の父親も同然だったあの人に認められたかった、それだけだったのですが。そんな私が謎の呼びかけるような音と共に見つけたのが、謎のトランクケース。指紋を判別していておやっさんにしか開けられないだろうそれにどうしたものかと考えていた時に鳴り響いた電話を手に取った。
「はい、虚音探偵事務…」
《「じょしゅのおんなのこだね。しょちょーは?」》
聞こえてきたのは幼い女の子の声でした。年下に助手で女の子呼ばわりされてイラついた記憶がある。
「むっ。…あなた、誰です?」
《「いらいにんだけど」》
「子供の悪戯なら切りますよ」
《「いいのかなー。だいじなことなんだけど」》
「…おやっさんなら今いませんけど」
《「やっぱり。けーたいがつながらないから、いちおーじむしょにかけたんだけど…うごきだしたならいいや。もうひとつだけいい?トランクケースのこってないかな?」》
「え!?なんでそれを…」
《「あるんだ。あいかわらずがんこだなー。じごくからぬけだすためのきりふだになるはずだったんだけど…イフらしいといえばそうだけどさ」》
「あなた、いったい…?」
そこで電話は切れた。おやっさんを呼び捨てにする幼い声から聞き取れたのは「地獄」のワード。そしておやっさんの本気の装備。どんな事件に関わっているのか心配になった。人生には必ず分かれ道が来る、「決断」と言う分かれ道が。この時の決断がそれだった。
「おやっさんの助手は私だけなんです…ほうっておけるわけないでしょ!」
私はトランクケースを手に事務所を飛び出した。日頃おやっさんが頼っている鳴花ーズの2人や昭胤流子といった情報屋を回って必死に足取りを掴んだ。そしてある港から船に潜り込んだらしいことを突き止め急行した。
港では黒服にサングラス姿の物々しい連中が、物資を運び入れていた。私はそのうち一つに潜り込んで船に乗り込み、この船が小さな島へ向かっているのを知ったのだ。それはただの小さな島ではなかった。一定距離まで近づくと巨大なビルが現れたのだ。もうわかるだろうがその連中はミュージアムで、小島のビルはミュージアムの重要な施設だった。
「ゆかり、なんであんた様がいるんですかねえ。それを持って来たんでございやすか?」
そのとき物音を鳴らしてしまった私はおやっさんに助けられ合流。電話があって危険を感じて届けに来たことを説明した。
「
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そう言ったおやっさんと共に、私はそのビルに乗り込んだのです。そこまで言うと、きりたんが口を開く。
「ここからは私から。そのビルに囚われていた少女こそこの私であり、そのビルは私のために作られた施設でした。あの日、目を覚ますと目の前のモニターに見たこともない狐の様なドーパントが映っていました」
★
《「ちゅわ。目が覚めましたか?」》
「あなたは…誰ですか?」
《「気にしなくてもいいただの狐ですわ。ちゅっちゅっちゅっ!さあ研究に励むのですわ。あなたは地球の全てを学ぶために生まれてきたのですから」》
「全てを学ぶ…そうです、それが私の使命でありたった一つの生きる価値です」
《「その通り。自分が何者かなどと考えなくても結構!ここはあなたのために作られた施設、いわば楽園ですわ。存分に楽しんでくださいまし」》
そう言った狐のドーパントの言うとおりに、私は一心不乱に…ガイアメモリを、作成してしまったんです。
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「なんやて!?お前が、メモリを作った!?」
「私の記憶はそこからしかありませんが、恐らく何度も記憶をリセットされて同じことを繰り返していたんだと思います。今この街にばらまかれているガイアメモリは間違いなく、私が作成してしまった物です。…ついなさん。貴方のお仲間を殺したメモリを作ったのも、私なんです」
泣きそうな顔のきりたんを、ついなさんは睨みつける。これは私が口出ししていいことじゃない。きりたんが隠さずに言うと決めたのだから止めるべきではないはずだ。
「それは悪意を持って作ったんか?」
「……いいえ、悪いことをしているという自覚は…ゆかりさんと出会うまでありませんでした」
「ならええわ。メモリを作ったのはお前だったのやとしても、うちの仲間を殺したのは桜乃空でメモリをばら撒いたのはミュージアムや。お前を恨むのは筋違いやろ」
「で、でも…!」
「じゃあかしいわクソガキ。なんも知らない子供がしたことを叱ってくれた結月という大人がいたんやろ?それで考えを改めたんやろ?ならこれ以上怒鳴るのも筋違いやろ」
「うっ…」
「そういうことらしいですよ、きりたん」
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言い負かされたきりたんを宥めて私は話を続ける。おやっさんと共にビルに乗り込んだ私が聞かされたのは、囚われている少女が「運命の子」と呼ばれているという話だった。
「運命の子?そんな大袈裟な…」
「大袈裟も何も、本当に地球の全てをしょいこんじまった女の子なんでございますよ。敵はこの島で彼女の力を引き出して悪事に利用、その子をまるで生きた部品の様に扱っているとのこと。運命の子を救い出したい、それが依頼人の願いでございます」
そう言って私が渡したトランクを簡単に開けるおやっさん。中身を確認したおやっさんに私は中身を尋ねた。
「…ガイアメモリでございやす」
「ガイアメモリって人間を怪物に変えるって言う…街を泣かす怪物たちの力の源って噂じゃないですか!なんでそんなものを…」
「お黙りんさい。置いといた物をわざわざ届けに来たのはあんた様でございましょうが」
「そ、それはそうですが…」
「あたしだって嫌いでございますよ。できるものなら見たくもありません。こんなもののせいで愛すべき街の人間がバケモノに成り果てるのを何人も見て来ましたからねえ……ゆかり。必ずあたしの命令は守るのでございますよ」
「こんなところでも説教ですか?例え半人前でも私はおやっさんの力に…」
「こんなところだから、でございます」
そんな問答をしていた時、明かりが消えた。おやっさんが「小さな援軍」と言っていたので恐らくファングメモリが配線を切ったのだろう。しかし警報が鳴り響き、それは現れた。
「出て来なさいコソ泥。産業スパイかどうかも知らないけど、私の矢はどんな獲物も逃がさないわ」
熊の毛皮を纏った鹿の足を持つ女の怪物。ミュージアムの幹部ドーパント。そうですあかり、病院でダンデライオン・ドーパントと戦っていたアイツです。あとから名前が分かりましたがアルテミス・ドーパントは黒服たちを引き連れて私達の近くまでやって来ていました。牽制に放った矢が壁に大穴を開けるのを見て悲鳴を上げなかったのは奇跡だったでしょう。
「…ゆかり。早速で悪いが命令です。これを持ってじっとしているのでおきなさい。一歩も動かない様に、わかりやしたね?」
私にトランクケースを預けて奴等の前に出ていくおやっさんを私は止めることもできないぐらい震えていて。おやっさんは姿を現すなり黒服を蹴り飛ばしましたが黒服たちはマスカレイド・ドーパントに変身。完全に囲まれてしまったおやっさんに向けて矢を放とうとするアルテミス・ドーパント。
「不気味な男ですね。狩猟相手としてはやりやすくて助かります」
「…人を撃つのに慣れてない様でございますね、お嬢さん」
「なっ…」
「覚えておいてくださいませ。「撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけ」でございますよ。ガイアメモリを仕事に使わないのがあたしのポリシーだったのでございやすがやむを得ません」
「ロストドライバー!?」
おやっさんが腰に付けたそれにアルテミス・ドーパントが驚いていたのを覚えている。ロストドライバー…ダブルドライバーの前身であるそれは、きりたん曰くミュージアムから設計図ごとロストした新型メモリのドライバーだったらしいです。帽子を外してメモリを手に取りガイアウィスパーを鳴らすおやっさん。
「なぜ、お前が!?」
《スカル!》
「変身」
《スカル!》
そしておやっさんが変身した骸骨男、スカルに私は衝撃を受けた。他の怪物たちと違って長年噂を残す骸骨男。奴こそが一番水都を泣かしていると思っていたがそうではなかった。メモリの力で骸骨男になって怪物たちと戦っていたおやっさんが陰から水都を守り続けていたんだと、気付いたのだ。
「さあ、お前の罪を数えろ」
帽子を被り直して宣告したその姿に、私はまた憧れたのだ。
イフ語が難しい!虚音イフはボイロではなくUTAUの結構新しいキャラなのですが、独特の喋り方が本当に難しい!でも個性的過ぎるキャラでボイロ劇場に多く出演してるのも納得です。彼の代名詞である「バケモノ」は彼の異名として出してみました。着流しを着て帽子とペストマスクを身に付けてる姿は異様そのものですが不思議なかっこよさがあります。
今回はMOVIE大戦COREの仮面ライダースカルと風都探偵六巻が原作となります。タブーの役はアルテミスが担当してます。
・スコーピオン・ドーパント/海音一
原作で言うスパイダー・ドーパントに当たるドーパント。普段はマフラーにしている後頭部から生えている尻尾が武器。小蠍を植え付け愛する人間に触れると熱暴走を起こさせる毒を打ち込む能力など、かなり凶悪な能力を持つ。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。