ボイロ探偵W   作:放仮ごdz

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どうも、放仮ごです。今回は本来ならビギンズナイト編最終話だったのですが、本日5/27が昔からお世話になっている蒼ニ・スールさんの誕生日ということで、彼のお気に入り…もとい心酔しているリリィ金堂主役回を書いてみました。設定でちょっとだけ語ったマネー時代の、おやっさんが生きてた頃の物語となります。

地味に本編に繋がる要素も。楽しんでいただけたら幸いです。


番外編:Eに至る覇道/金は天下の回り物

 今から7年前。水都に住む17歳の少女、金堂百合は借金返済のために奔走していた。金堂コンツェルンという会社を倒産させ首吊り自殺という醜い最期を迎えた父と、ストレスで醜くなり病死した母親、かつては美しかった両親の残した借金。高校は退学して始まった金稼ぎの日々。しかし彼女は自分だけは美しく居続けると誓い、道路工事から窓掃除、詐欺にひったくりといった犯罪、自分の身体を売ること以外は全部やった。

 

 

「…なんだ、お前も負け犬か?」

 

 

 バイトの帰り、ヘトヘトになりながら帰宅していた途中で路地裏で強姦されようとしていた年下の少女を見かけて暴漢を蹴り飛ばして救出。半殺しにしたあと、泣きそうになっていた黒髪を伸ばしっぱなしにしている少女にそう尋ねると少女はキッと睨み付けて反論した。

 

 

「私は、私は!なんでこうなんだろうと思うことはあっても、自分を見失うことだけはなかった!私は捨て子だ。言葉も道行く人間の会話を聞いて覚えた様な人間だ。だが、私が私だ!私が諦めない限り負けなんかじゃない!」

 

「いい言葉だ、感動的だな。だが無意味だ。お前は社会的地位の最下層、弱者だ。負け犬がなに言ったところで響かないさ。……心が醜い者共にはな」

 

 

 半殺しにした暴漢を足蹴にしながらそう言う百合を、少女は荒んだ目で見上げる。

 

 

「お前はそうじゃないとどうして言える?」

 

「オレは金堂百合。美しい物が好きだ。美しい物を見た以上それを失いたくない、そう言う人間だ。お前の目は美しい。こんな環境でいてなお輝き続けるそれは宝石をも上回る。…お前、名は?」

 

「…名前はない。言っただろ、私は捨て子だ」

 

「ならキクを名乗れ。菊の花言葉の一つは「高潔」お前にぴったりだ」

 

「…キク」

 

 

 与えられた名を反芻し、大事に受け止める少女に百合は満足げに笑って手を差し伸べる。

 

 

「オレについて来る気はないか?今はまだ下積みだが、そのうちオレは頂点に立つぞ。絶対だ。オレには見えている、黄金の玉座に座る美しいオレ自身の姿が」

 

「美しいって……あんたはナルシストですか?」

 

「オレが美しくないと?」

 

「…いやまあ美人だとは思うけど。というかなんで自分の事をオレって言うんですか」

 

「オレはオレであるからだ。お前と同じだ」

 

「…あんたについていけば私は私を誇れそうですね」

 

 

 それから一年。キクに手伝ってもらってやれること全部やっても四割がやっとの借金。

 

 

「どうするんだ百合さん。このままじゃ…」

 

「まともに稼いで間に合わないなら方法はあるさ」

 

 

 トイチでないのが救いだが、このままでは母親と同じ末路を辿ってしまう。そう危惧した百合は大勝負に出ることにした。

 

 

「オレはオールイン。さあどうするよ、オーナー」

 

「なっ…ダブルダウン!…っ!?」

 

「絵札の残り枚数を考えると賢い選択じゃなかったな?」

 

 

 裏カジノ【黄金郷(エルドラド)】。それが百合が選択した大勝負。イカサマもなにも知らない少女が選んだのはブラックジャック。確固たる自信による豪運と、父親譲りの観察眼による残りのカードの把握で荒稼ぎ。ついには【黄金郷】のオーナーとの勝負に持ち込み、根こそぎ勝ち取った百合は【黄金郷】のオーナーの座を勝ち取ったのだった。

 

 

「なんだちょろいな。こんなもんか」

 

 

 客を相手に稼いだ金で大金をせしめた百合が次に求めたのは力。よりにもよって借りた先が悪徳企業でこちらが大金を手に入れたことをいいことにあの手この手で金を奪おうとしてきたのだ。力が無くては金を守ることもできない。都合のいいことに、客の中にはガイアメモリでイカサマしようとした者もいたのでとっ捕まえて情報を吐かせてガイアメモリの売人と接触。キクと共にガイアメモリを手に入れた。

 

 

《ギロチン!》

 

「へへっ、へへへ…私までいいんですかねえ、百合さん」

 

「気にするな、オレの側近なんだからな。しかし選んだのはそれか…趣味が悪いな」

 

「ギロチン、いいじゃないですか。首を断てば皆平等。名無しの私としてこれほどふさわしいメモリもありませんよ…」

 

「お前にはもうキクという名前があるのだと何度言えば分るんだお前は。…オレは、これ以外には考えられないな」

 

《マネー!》

 

「それは他の物より高額ですがよろしいのですか?」

 

 

 セイカと名乗った売人の女性にそう尋ねられて百合は不敵に笑い、札束を取り出す。

 

 

「もちろんだ。金に糸目はつけんさ。いただこう、『通貨』の記憶。マネーのメモリを」

 

《マネー!》

 

 

 生体コネクタを胸元の中心に施術し、買ったばかりのメモリを挿入した百合の姿が全身黄金の体色で三本指のドーパントへと変貌する。本来肥満体のはずが彼女自慢のプロポーションを保っていた。なんなら女性型の肉体の胸部が変身前より大きくなっており、長髪の様に札束の様な物が複数頭部から伸びている。

 

 

「うん、心地いいな。まるで金貨のプールを泳いでいるようだ」

 

「そっちの方が悪趣味では?」

 

 

 同じくギロチン・ドーパントへと変貌したキクがツッコむ。三本指になった己の手を不満げに見つめていたマネー・ドーパントは気にせずセイカに尋ねる。

 

 

「このドーパントはどんな能力があるんだ?」

 

「相手の額に端子が付いたコインを挿し、生命を吸い取る「ライフコイン」を体内に溜め込む能力を持つ他、コイン型の光弾を飛ばすことができます」

 

「…それだけか?」

 

「残念ながら。しかし貴方は適合した様だ、少なくとも他の使用者は貴方の様にプロポーションを保っている人間はいませんでした。本来なら肥満体になる筈なんですがね」

 

「そんな醜くなるわけがないだろう。オレは金堂百合だぞ?」

 

「もちろん高額のメモリを買っていただいたのでアフターケアは保証いたします。では私はこれにて」

 

 

 セイカはそう言ってその場を去り、残されたマネー・ドーパントとギロチン・ドーパントは顔を見合わせる。

 

 

「で、どうします?」

 

「せっかくだ。今日も来るであろう馬鹿ども相手に能力を試すか」

 

 

 その日、生気を失った挙句バラバラにされた大量の死体と、胸部がさらに増量した黄金の怪人と血塗れの怪人が水都の陰にいたことは誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「骸骨男?」

 

 

 一年後、本編から五年前。【黄金郷】で客から金を実力でむしり取り、さらには自身に心酔する部下も増えてきてカジノではなくちょっとした裏組織となり、メモリ売買組織ミュージアムのスポンサーにもなり軌道に乗り始めた頃。キクに続く自身の側近である男、西友から聞かされた情報に百合は首を傾げた。

 

 

「はい。怪物が骸骨男に倒されるという報告、多数…俺達に犠牲者は出ていない。しかし…ドーパントを倒す者、確実にいます」

 

「へえ。都市伝説の骸骨男か。だから活動を自粛しろって言いたいのか西友?」

 

「いえ。そんな事はありません」

 

「そういや、妙な探偵が嗅ぎまわってるって部下から報告を受けてましたね」

 

「探偵ねえ」

 

 

 手にしたコインを指でカラカラと弄びながら熟考する百合。カジノ二階にあるこの部屋の窓から一階に目を向ける。目元にマスクをつけて簡易的に顔を隠しドレスコードしている客がメインの【黄金郷】で今時珍しい着流しで帽子を被り、目元のマスクではなくペストマスクを被った男がいることに気付く。

 

 

「いるじゃないか、クソ怪しいのがな」

 

《マネー!》

 

 

 にんまりと笑ってメモリを鳴らし、胸に突き刺してマネー・ドーパントに変貌するなり下に降りて行く百合。突如現れた怪物に、常連の客達は驚きもせず、新参の客達も「怪物が経営しているカジノ」と知っているからかどよめきはすれど悲鳴は上がらない。その中でビクッと反応したペストマスクの男は明らかに異様だった。

 

 

「ようこそ客共!楽しんでいただいているか?オレはこのカジノのオーナー、金堂百合だ。申し訳ないが、賭けようともしない曲者が紛れ込んだようなので排除させていただく。…そこのペストマスク、お前だよ」

 

「…これは自前の仮面でございますが、駄目でしたか?」

 

「駄目じゃないさ。お前が探偵じゃなければ、な!」

 

 

 コイン型の光弾を放つ。握ってから開くことで高速で射出できるように進化させた力、それをあっさりと身を翻して避けるペストマスクの男に、笑うマネー・ドーパント。

 

 

「ハハハッ!知ってるぞ、バケモノと呼ばれ犯罪者に恐れられているペストマスクの探偵!それがお前だろう。ただ者ではないな、オレの部下にしてやるよ」

 

「それは嫌でございます。あたしのペストマスクが有名になっているとは誤算でした。しかしバケモノと…言い得て妙でございますね」

 

《スカル!》

 

「ガイアメモリ、だと?」

 

 

 ペストマスクの男は腹部に赤いバックルを取り付けると帽子を外し、懐から取り出した骸骨でSと描かれたメモリのガイアウィスパーを鳴らすとバックルに装填、バックルを傾ける。

 

 

「変身」

 

《スカル!》

 

 

 すると男の姿が骸骨男としか形容できない異形へと変わり、帽子を被ると周囲の客がどよめいた。骸骨男の都市伝説を知らぬ者はいないのだろう。怪物が骸骨男に退治される。オレが退治されたらこのカジノも無くなる、そう考えているのだと察した百合は更に笑う。

 

 

「ハハハハッ!骸骨男なんぞにオレがやられるとでも?血も肉も無い骨になにができる?」

 

「あんた様を止めること、ぐらいはできると思いますが?」

 

「ハッ!言うねえ!ご同類!」

 

 

 変身前より大きな胸に手を当てると溜め込んでいるライフコインが左腕へと複数枚、移行。巨大な大砲に左腕を変化させると金貨の塊を発射。骸骨男…スカルに炸裂して金貨がぶちまけられた。客がそれをここぞとばかりに回収しようとする姿を見て愉悦するマネー・ドーパント。

 

 

「オレの奢りだ!このコインで賭けするか?」

 

「……その腕、半死状態のあたしには明るい物が見えます。命、でございますか?」

 

「よく気付いたな。このオレと1VS1のギャンブルをして、全財産を失ってもなお勝負を渇望する者には、命を担保としたファイナルゲームを持ち掛けるんだ。それにも敗れた場合、このライフコインに命を吸い取られる。文字通り命を懸けたギャンブルだ。面白いだろ?」

 

「…その命を奪われた人間は」

 

「うちの側近に始末させる。命が吸われた人間なんて置き場の無駄だからな?オレの糧となって生き続ける、永遠に!」

 

「…ならせめて解放してやるのが救いでございますね」

 

 

 瞬間、突進してきたスカルの拳を受けて壁を突き破り下水道に飛び出すマネー・ドーパント。大砲でスカルを狙うが蹴り返され、まともに直撃の衝撃を受けて転がってしまう。

 

 

「くっ……美しいオレの中で生き続けることの何が悪い!?その身が破滅しようと醜くギャンブルを続けようとしていた連中の命だぞ!?」

 

「命に良し悪しはありやせん。そこにあるだけで尊い物。それをあんた様は奪ったばかりか肉体までもを失わせた。さあ、お前の罪を数えろ」

 

「ハッ!罪なんて、どれだけ重ねたかもう忘れたさ!」

 

 

 スカルの宣告に、金貨大砲を乱射して返答するマネー・ドーパントだったが、全て蹴り飛ばされてしまい、スカルがメモリをスカルマグナムに装填する隙を与えてしまった。

 

 

《スカル!マキシマムドライブ!》

 

「覚えておいてくださいませ。「撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけ」でございますよ」

 

「撃たれる覚悟?そんなもの、力を手にしたときからしているさ!来い!」

 

 

 スカルマグナムからばら撒かれる弾丸を避けもせず真面に受けるマネー・ドーパントは爆散。姿が消えたことを確認するとスカルは歩いてその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無事ですか百合さん!」

 

「百合様…!」

 

 

 爆散跡に駆け寄るキクと西友、その部下である黒服たち。姿が見えない主に不安になっていると、下水の中からマネー・ドーパントが出てきて歓声が響いた。

 

 

「危ない危ない…咄嗟にライフコインを出して盾にしてなかったらヤバかった…」

 

「さすがというか、そんなもの咄嗟に思いつくなんて相変わらず豪運ですね百合さん…」

 

「さすが、百合様……下水に濡れて尚、美しい…!」

 

「言わずとも知ってる。むしろ我が黄金の光沢を際立たせているな、結果オーライだ」

 

 

 そう言って変身を解いた百合は考える。負けるつもりはなかったが相手が中々に強かった。これ以上の力がいる、とそう思ったのだ。

 

 

「…一度ばれた場所で商売を続けるのも危ないな。今頃警察にリークされてる頃だろう」

 

「どうしますか…?」

 

「よし、高飛びするか。その前にアフターケアを試すか。マネーメモリを買ってさらにはスポンサーにもなったんだ。何もないのは嘘だろ。…よし、西友。お前は部下と資金を集めて海外に逃げる準備。キクはオレについてこい」

 

「了解…!」

 

「了解ですよ」

 

 

 携帯電話を手に百合は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、百合とキクはミュージアムの中心たる東北家に訪れ、客間にて交渉していた。

 

 

「マネーより強力なメモリですか。それも黄金の」

 

「そうだ。金に糸目はつけん。あるなら寄越せ、このオレに」

 

 

 売人である星香に突きつけた条件は、マネーより強力でなお且つ黄金のメモリ。相変わらず強欲だな、とキクは苦笑いを浮かべる。星香はその条件を聞くなり手にした端末をポチポチと叩いて結論を述べた。

 

 

「一つあります。最高級のゴールドメモリの一本。その名も…黄金郷(エルドラド)のメモリ」

 

「オレにぴったりじゃないか。どこにある?今すぐ寄越せ」

 

「そうはいかないのです。このメモリを紹介しなかったのは当時の貴方がスポンサーじゃなかったのと、そもそもこのメモリは一本しか存在せず持ち主が決まっているからです」

 

「オレ以外にそのメモリを手にするとは生意気な。何者だ?」

 

 

 百合が尋ねると星香は端末を操作し、目の前にモニターを出現させて件の人物を映す。拘束具の様なマスクで口元を隠した赤と黄色のオッドアイで黒髪を虫の触角の様なツインテールにした女性が映っていた。

 

 

「…ミュージアムのスポンサーの一つ、財団Xの幹部。CAカルネという人物です」

 

「CAカルネ…?そいつはどこにいる?」

 

「運がいいですね、今この屋敷に来ています。会って行きますか?」

 

「愚問だな」

 

 

 星香に案内されついて行くと、また別の客間で。星香がノックして開けると、そこにはとてつもないプレッシャーを放つ女性がCAカルネと対面していた。この世のものとは思えない透き通った白髪の和服美人、東北至子は赤く光る眼を百合へと向けた。とてつもないプレッシャーを感じるが不敵な笑みを取り繕う百合。キクは蒼い顔で気を失いそうになっていた。

 

 

「ちゅわ?星香さんでしたか。何の用ですか?」

 

「いえ、スポンサーの一人である金堂百合氏がCAカルネ氏と話があるとのことだったのでお連れしました」

 

「それはそれは。直接会うのは初めてですわね。私は東北至子、ミュージアムの首魁ですわ。金堂百合さん、これからもどうぞご贔屓に」

 

「お、おう…こちらこそいい取引をよろしく頼む」

 

 

 プレッシャーに押されながらもなんとか言葉を絞り出す百合。それに対してCAカルネは慣れているのか長身の身体で背筋ピンと座ってお茶を飲んでいた。拘束具の様なマスクの上から飲んでいるので何か仕掛けがあるらしい。

 

 

「どうやら商談はここまでの様だね東北至子殿」

 

「そうみたいですわね。スポンサー同士、仲良くしていただけると嬉しいですわ」

 

 

 そう言ってその場を去って行く至子の姿が見えなくなってようやく深呼吸できた百合は緊張が解けて気絶してしまったキクの脛を蹴って無理やり覚醒させる。目の前には席を立ったCAカルネ。白い詰襟の服を着た二メートル近い身長に見下ろされる形となる。

 

 

「それで何用かね。私に用があるのだろう?」

 

「単刀直入に言おう。お前の持っているエルドラドのメモリ、オレに寄越せ」

 

「それは困るな。スポンサー特権で手に入れた我が組織の資金源の一つだ」

 

「お前たちがスポンサーになるのが早かっただけだ。本来ならそれはオレが手にしていたメモリだ」

 

「負け惜しみを言って悔しくはないのかね?」

 

「負け惜しみ?違うな。そのメモリがオレの物というのは厳然たる事実だ」

 

「…どうやら平行線の様だな。星香君、といったか。君、戦えるところを貸してもらえないかな。どうやら力づくで黙らされるのがご所望らしい」

 

「はい。では我が屋敷の傍の森をお使いください」

 

 

 ニコニコと手で外の森を指し示す星香に従って廊下を歩いて行くCAカルネ。それに続く百合とキクだったが、星香に呼び止められ、小さな機械と拳銃型の機械を手渡された。

 

 

「先日は金堂様がピンチなのにも関わらず援護に向かえず申し訳ありませんでした。お詫びとしてはなんですが、貴方にぴったりのものをお渡しします」

 

「これは?」

 

「メモリ施術装置と、ガイアメモリ強化アダプター。ガイアメモリの能力を3倍に増幅する装置の試作版です。一度使えば使用後にメモリが崩壊してしまう諸刃の剣となっていますが……このギャンブルに勝つおつもりの貴方なら関係ありませんね?」

 

「いいなそれ。ありがたくもらっていくぞ」

 

 

 にっこり笑顔の星香に、百合も満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたなデカブツ蟲女」

 

「本当に待たせた挙句、罵詈雑言とは。どうやら君には躾が必要らしい…」

 

《エルドラド!》

 

 

 CAカルネが取り出したゴールドメモリを鳴らして額に突き刺すと、王冠を被った黄金の髑髏の様な顔に、金色の包帯を巻いた金色の骨の様な形状の手足が目立つ骸骨の様な姿へと変貌。さらに両腕を付けた大地を黄金に変えて両腕と両足に武装し、まるで昆虫の脚の様な形状にするとさらに脇腹からももう一対黄金の節足を生やし、異形の巨体で百合を見下ろした。

 

 

「私は蟲が好きでね。彼らの機能的な造形には敬意を表しているんだ。人間なんぞよりよっぽど美しい」

 

「ならコックローチのメモリでも使ってろデカブツ蟲女」

 

《マネー!》

 

 

 メモリを胸に突き刺してマネー・ドーパントになるなり胸に手をやりライフコインを全て左手に移動して金貨大砲を装備する。そして間髪入れず発射したが、跳躍したエルドラド・ドーパントに避けられ、外してしまう。

 

 

「なっ…飛蝗!?」

 

「遅いよ、君」

 

 

 グシャリ。急降下と共に右の下腕に頭を掴まれ地面に叩きつけられる。さらに持ち上げられたかと思えば四本の腕が鞭の様に振るわれて嬲り殺しにされていく。力量が違いすぎた。そもそも人間の命を奪い取ることに特化しているマネーと、触れた物を黄金化し自由自在に武装できるエルドラドの戦闘力に差がありすぎた。

 

 

「この…ウアァアアアアア!?」

 

「邪魔なそれは切除しよう」

 

 

 左腕の大砲を向けるが、蟷螂の鎌になった右腕に切断され、激痛が走る。何とか腕は無事で済んだが己の身体を斬られた感覚は抜けない。もはや一方的な蹂躙だ。

 

 

「思い知ったかね、同じスポンサーでも格が違うということを。一思いに殺してあげよう」

 

 

 再び飛蝗の脚で跳躍。さらに下腕部を翅に変形させて羽ばたき、両腕を甲虫の角に変形させたエルドラド・ドーパントは急降下。

 

 

「百合さん!?」

 

「グッ…アアアアアアアアアッ!?」

 

 

 ドロップキックと共に両腕の角をマネー・ドーパントに蹴り込んだ部位に突き刺した。マネー・ドーパントの変身が解除され、胴体がひしゃげてさらに抉られ、見るに堪えない姿となった百合に駆け寄るキク。エルドラド・ドーパントは血に塗れた己の金の腕を見やると嗜虐心からか笑みを浮かべて立ち去ろうとする。

 

 

「………待てよ」

 

「百合さん、無茶ですよ!?」

 

「…ふむ、存分にしぶといな」

 

 

 しかして金堂百合は立ち上がる。このまま無様に倒れているのは美しくないから。血反吐を吐きながら立つのは美しいから。己の信念を貫くために立ち上がる。

 

 

「ガハッ…いいな、いいメモリだ。だがお前はそのメモリを使いこなせていない」

 

「なにを…」

 

「お前、生物まで黄金化できないんだろ。できるのなら私を黙らせているはずだからな。だから無生物を黄金化し武装する。その力を金儲けのためにしか使ってないのか?全然使いこなせてないぞ!」

 

「減らず口が…!」

 

 

 甲虫の角、蟷螂の鎌、飛蝗の脚を装備して跳躍。再び急降下して黙らせんとするエルドラド・ドーパント。しかし百合は不敵に笑って件の機械を取り出しメモリに取りつける。

 

 

《マネー!アップグレード!》

 

「オレが先に死ぬか、メモリ(お前)が先に崩れるか…ギャンブルといこうか」

 

《トレジャー!》

 

 

 そして胸部に突き刺すと、その姿が一瞬マネー・ドーパントになってから変形する。頭部は頭頂部に宝玉がはまった豪華な王冠を目深く被った黄金の触手を髪の様に生やしたものに、全身に宝石が散りばめられており両肩は宝箱の形に、両足は宝剣に。そして手には黄金の杯…聖杯が握られている。胸部には強化アダプターが露出していた。マネー・ドーパントのアップグレード。『財宝』の記憶を有するトレジャー・ドーパントへと金堂百合は変貌した。

 

 

「ハハッ、ハハハッ…百合さんらしい姿ですね…!」

 

「一回限りというのがもったいないぐらいだな!色んな意味で!」

 

「ほざくなぁあああああ!」

 

 

 飛びかかってくるエルドラド・ドーパントに、トレジャー・ドーパントは右肩の宝箱の蓋を開いて突きつける。

 

 

「溢れろ財宝よ」

 

 

 すると宝箱から湯水の如く金貨や宝石が溢れだして物量でエルドラド・ドーパントを押し返して叩き潰す。そしてトレジャー・ドーパントは跳躍。お宝に埋もれたエルドラド・ドーパントに肉薄し露出している六本の黄金の手足を両足の宝剣を振るって全て切り裂いた。

 

 

「この…!」

 

「黄金の聖杯(物理)!」

 

「ごはあ!?」

 

 

 さらに手にした聖杯で何度も何度も殴りつける。変身を解くまで殴るのをやめない、と言わんばかりにタコ殴りにする。マフィアというかヤクザというか、生来の百合らしい戦い方にキクは苦笑いを浮かべた。

 

 

「西友辺りが見たらなんて思うかな…いやあいつなら全肯定するか」

 

「お宝に殴られる気分はどうだ、金メッキ野郎!」

 

「私は女だ…!くっ、役立たずのメモリが欲しいならくれてやる!」

 

 

 何とかトレジャー・ドーパントから逃げ出して変身を解き、エルドラドのメモリを投げ捨てるCAカルネ。それをキャッチし変身を解く百合。同時に、強化アダプターごとマネーメモリは負荷に耐えきれず崩壊してメモリブレイクしてしまう。CAカルネはそれを見て勝利を確信したのか笑いだす。

 

 

「わかる、わかるぞ…お前は何時か我が財団Xの不利益になると……ここで始末する」

 

 

 そう言って取り出したのは目玉の様なスイッチ。それを押すとCAカルネの姿が蠍を模した怪人へと変わる。スコーピオン・ゾディアーツ。財団Xが援助している他組織の怪人だ。

 

 

「無様に醜く逃げればいいものを…逃げないと言うのならここまでされたお返しはしないとな?」

 

《エルドラド!》 

 

 

 エルドラドメモリを施術装置に装填して胸部に生体コネクタを刻み、メモリのボタンを押して突き刺し、エルドラド・ドーパントに変貌する百合。しかしCAカルネのエルドラド・ドーパントと異なりまるで城か宮殿の様な黄金の装甲と黄金のピラミッドの様な形状の硬質な腰布が追加されている。この姿こそがエルドラド・ドーパントの完全体だった。

 

 

「なんだ、その姿は…まさか適合したとでも…?」

 

「エルドラドのメモリだぞ?【黄金郷】のオーナーであるオレが使いこなせないわけないだろう!」

 

 

 そう言って地面に手を触れ黄金の触手を展開してスコーピオン・ゾディアーツを瞬く間に拘束し持ち上げると蹴り一つで変身を強制解除させるエルドラド・ドーパント。

 

 

「オレには野望がある。欲望に塗れた醜い水都を、美しい黄金に染め上げてその朝日を拝むことだ。さぞその光景は美しいだろう。金の力で全部金に置き換えるしかないと考えていたが、この力があるなら話は別だ」

 

「ぐっ、この…放せ!」

 

「あと一つ。美しい物は永遠にその姿のまま残したい。そんな願望を、お前は叶えてくれるか?なあ…エルドラド」

 

「まさかっ、やめっ、やめろおおおお!?」

 

「お前は一目見た時から美しいと思ったんだ。醜く足掻くぐらいならオレの物になれ」

 

 

 そしてそのまま、CAカルネに手を触れると断末魔を上げながら黄金像へと姿を変える。有機物すら黄金に変えて操る力。それが百合の変身したエルドラド・ドーパントの能力だった。

 

 

「うわあ、百合さんやべえ。あの重傷なのに何で動けるの」

 

「やばいってなんだ。美しいだろこのオレは」

 

「ブラボーブラボー。私、いたく感動しました」

 

 

 キクと馬鹿なことを話していると、そこに拍手をしながら星香がやってくる。黄金像と化したCAカルネを見やりニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「いやー、実は財団Xはミュージアムの技術をそのまま自分たちの物にしようと目論んでいたらしく。でもスポンサーなので手を出せないので、存分助かりました金堂様」

 

「オレを上手く使ったわけだ。念願の力を手に入れたから見逃してやるよ」

 

「ありがたい。これで貴女方、【黄金郷】が最大手のオーナーとなりました。これからはそちらとの取引を優先させていただきます」

 

「…ああ、それなんだがな。我々は一時期海外に活動の域を広げようと思う。ガイアメモリの力で一稼ぎするつもりだ。だから名を改めることにした」

 

「ほほう?」

 

 

 変身を解いた百合は明らかな重症の姿で仁王立ちし、宣言する。

 

 

「その名もガイアメモリマフィア、エル・ドラードだ。それと外国を拠点にするならオレも名を改めないとな。…リリィ。リリィ金堂。なんてどうだ?」

 

 

 こうしてエルドラド・ドーパントことリリィ金堂が誕生したのだった。




リリィ金堂誕生と、何で海外で活動していたのかのいきさつでした。悪役が主役ということでどこにも正義はないのだ。地味に財団Xとその幹部CAカルネ登場、至子さん二回目の登場でした。こんな前から星香さんが活動していたのも地味に重要だったり。

・マネー・ドーパント(百合ver)
適合したことでスリムな女性的なフォルムとなったマネー・ドーパント。ライフコインを胸部に溜め込む他、左腕に移して金貨大砲に変形することができる。戦闘力はあまりない上に命を奪った人間をギロチン・ドーパントに始末させていたため原作みたいに人質にとる作戦もできないが、ライフコインを盾にして致命傷を避けることが可能。

・トレジャー・ドーパント
マネーメモリを試作版強化アダプタでアップグレードして一回限りの変身を果たした姿。能力は財宝召喚。体を構成しているものすべてが財宝のため、全てが一級品。

・エルドラド・ドーパント(CAカルネver)
リリィと比べると豪華な装甲がなくだいぶみすぼらしい。有機物を黄金化することができず、基本的に無機物を黄金化して武装し蟲の形状にすることで戦う。

・スコーピオン・ゾディアーツ
フォーゼの幹部怪人。ゾディアーツスイッチの複製品を持っていたがエルドラドの敵ではなかった。

次回はビギンズナイト編ラスト。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
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