ビギンズナイトのことをあかりとついなさんに話してから一週間ぐらいたったある日。今日も今日とて猫探しなどの危険のない依頼を終えて帰ってゆっくりしていた私とあかりの元に訪れたのは、今時珍しい和服を着た若者だった。
「如月追儺を捜してほしい?」
白を基調としたミニスカ和服とも言うべき服と赤い襟巻、和風で先端が草履になっているサイハイブーツを身に着けた高校生ぐらいの少女の名は
「はい…足取りを追って行ったら水都に来たことが分かって。伝えたいことがあって捜しているんです…」
「えっと…赤井快子さん、でしたっけ?如月追儺さんなら…」
「邪魔するで結月」
「あ」
「え」
私達の顔見知りです、と伝えようとした瞬間、ノックもせずに入ってくる警視殿が一人。ついなさんは快子さんと目を合わせて固まった。
「ついなあ!」
「わあ!?快子なんでお前がいるんや!?」
…どうやら今回の依頼は、今まで謎に包まれていたついなさんのルーツについて知ることができそうだ。
「
「そ、それは悪かったけどな?うちもようやく岳を殺した奴を見つけて…今は刑事の方を本業にしとる」
「ついなは方相氏でしょ!幼馴染三人娘の中で一番優秀な村一番の方相氏!」
「いやそうなんやけどな?」
「言い訳しない!」
「はい!」
すごい、あのついなさんが完全に押されている。どうやらこの二人は幼馴染らしい。話を聞くについなさんが目的のために、本来は効率よく動くための手段でしかない刑事という立場を本業にしていることに快子さんは憤ってるらしい。方相氏であることに誇りがあるのだろうか。
「ついながいないから村は大変なことになってるんだからね!」
「大変ってどういうことや?村に何があった!?」
「…岳さんが蘇って怪物になって、方相氏を殺し始めたんだ。与一さんがもう犠牲になってる」
「あの与一がか!?」
怪物。殺し。そのワードに顔を見合わせる私とあかり。水都の外でドーパントが?エル・ドラードという海外でも活動していたドーパントもいるものの、日本では何故か水都にしか現れないはずのそれが、水都の外に現れるなんて今までにないことだ。
「……結月。頼みがある。依頼をしたい」
快子さんから事件のあらましを聞いていたついなさんが黙っていたかと思えばそう言ってきた。
「うちにはどうしてもあの岳が蘇って見当違いな復讐をし始めたとは思えへん。アイツを騙る阿呆がいるに違いないんや。うちと一緒に
そう言って頭を下げるついなさんに、私は様子を見に扉から顔を出したきりたんと視線を交わす。きりたんは頷いた。行けということか。
「水臭いじゃないですか。貴方と私達の仲です、もちろん手伝いますよ。ね、あかり?」
「もちろんです!ついなさんも私達の仲間ですから!」
「へー、ついな新しい仲間を見つけたんだね」
「そ、そんなんやないし!…でもいいんか?留守の間に事件が起きたら…」
「きりたんを残すので大丈夫ですよ。それに水都以外にドーパントが出たって言うのなら間違いなく組織が絡んでるはずです。行かないわけにもいかないでしょう」
そんなわけできりたんを事務所に残し(ご飯は鳴花ーズの2人に頼むことにした)、私達はついなさんの故郷、山奥にあるという
快子さんを後部座席に乗せたついなさんのバイク、ディアブロッサをハードボイルダーにあかりと二人で乗って追いかける。バイクになってばかりで知らなかったがちゃんと免許を取って購入してエンジンブレードを組み込む改造までしてあるらしい。そういや公務員でした。まだ道路はあるがアスファルトもだいぶ古くなってきた。ろくに人が来ない場所であることが容易に想像ついた。そして先が見えないトンネルの前につくとついなさんは一度停車させて振り向いた。
「ここのトンネルを抜ければ
「ついにですか」
「ちょっとお尻が痛いです。タクシーで来るべきでしたね」
あかりがそうぼやくのを聞きながらトンネルを進んでいく。バイクの音が木霊する中、感じた。途中で空気が変わったと。トンネルを抜けると、盆地の様になっている山々に囲まれた村が見える丘に出た。見る限り建物は木造だらけだ。ちらほら見える住人も着物を着ていて江戸時代にタイムスリップしたかのようだ。
「ここが…
「ついなさんの故郷ですか…」
「そうやで。まずはうちの家に向かおか。快子はここまででいいか?」
「うん、送ってくれてありがとね、ついな。あとで恵のところにもちゃんと顔を出すんだよ?」
「わかっとるわ」
そう言ってディアブロッサから降りた快子さんは当たり前なのか跳躍するのを繰り返して村まで向かって行った。…方相氏ってみんなああなんですかね?
ディアブロッサを引き摺るついなさんの案内でハードボイルダーを手で押しながらやってきたのは村で一番大きな武家屋敷。門構えに「如月」とあるのでついなさんの実家らしい。ついなさんが当たり前の様に片手でバイクを引っ張っているのはツッコミ待ちなのだろうか。村の印象としては、ところどころにぽつぽつと存在する岩から緑色の結晶の様な物が生えていたのが気になった。鉱脈なのだろうか?
「親父ー!帰ったでー!」
大声で呼びかけるついなさん。すると障子扉がバンッと開き、誰かが飛び出してきてその手に持った棍棒をついなさんに振るい、私達が慌てる間もなくついなさんは片手でその一撃を受け止めにやりと笑う。
「引退したのに腕は落ちとらんようやの、親父!」
「当たり前じゃ!心配かけおって馬鹿娘!」
「「ええ……」」
襲ってきたのは袴を履いた黒い着物姿で鬼の面を斜めに被った立派な髭の初老の男でついなさんの父親らしい。今のは再会の挨拶か。何なのだろうかこの村。きりたんがいたら目を輝かせそう。
「おや、ついなの友人ですかな?わしは
「結月ゆかりといいます。水都で探偵をしている者です。こちらは所長の…」
「私は紲星あかりといいます。紲星探偵事務所を経営してます」
「ほう、探偵さん。お若いのに一城の主とは立派な。…ということは例の事件を聞いて?」
「はい。友人のついなさんの依頼で調査に来ました」
挨拶を終えると屋敷の中に入れてくれる木偶蔵さん。床の間に案内されて机を挟んで畳に敷かれた座布団に座る。
「この村は完全な奥地での。人が死んでも警察のお世話になることの方が珍しいんじゃ。そもそも人死になど珍しくもないでの」
「それはまたどうして」
「わしらは国にお仕えする方相氏。鬼を相手に死ぬことなど珍しくないからじゃ」
「鬼とは?」
そうだ、気になっていた。せいぜい厄い空気とかを祓うだけだと思ってたのだが物理的に被害が出るのか。
「鬼ってのは文字通り異形の怪物や。比較的人間的な姿なんやが…角や牙が生えていたり異色肌やったり中途半端に異形化しとる。原因不明ながら日本各地に現れるそいつらを退治するのがうちらの役目や」
「この村の人間は昔から超人体質に生まれてな。常人より頑丈で怪力を併せ持ち、傷が治る速度も速い。故に鎌倉幕府の時代から国にお仕えして鬼退治をしてきた。それが方相氏じゃ。その中でも一番の才能の持ち主で歴代最強の方相氏がわしの娘、ついなじゃ」
【興味深いですね】
私と脳内会話しているきりたんの声が聞こえて頷く。鬼…そんなものが実在してるんですね。それについなさんがその歴代最強とは…いやまあ、生身であの重さのエンジンブレードを振り回すばかりか跳躍してたし妥当か。
「そんなうちでも仲間を助けることはできひんかったがな…」
「そうだ、岳が殺されたと報告を寄越してそのまま雲隠れするもんだから心配してたんだぞ」
「岳を殺した奴を追っていたんや。岳は鬼に殺されたわけやない、鬼よりも凶悪なドーパントに殺されたんや」
「どーぱんと?」
首を傾げる木偶蔵さんにドーパントについて説明する。水都に出没する怪物であること。人間がガイアメモリという悪魔の小箱で変貌すること。今回蘇ったついなさんの仲間だと言う怪物もそのドーパントかもしれないので調べにきたことを語った。
「なるほど…まるで鬼みたいなものだな」
「私も思いました。その鬼は、ドーパントに酷似している」
「でもガイアメモリは水都にしか出回ってないんですよね?」
「…鬼とドーパントどっちも戦ったことがあるうちから言わせてもらえば、どっちもどっちや。強いて言うならドーパントの方が強いな」
「なるほど?」
鬼は不完全なドーパントという事か。…ドーパントってことはもしかして人間だったり…まさかね?
「あれは鬼ではなかった。ドーパントという奴なんじゃろう。うちの者の中でも確かな実力者だった若者、那須野与一を容易く葬ってしまった。糸で雁字搦めにされ、袈裟斬りにされてな」
糸を使うドーパントか。糸と刀、全く繋がらない。
「だがあの太刀筋、立ち振る舞いはまさしく
「そんなわけあるかい!あいつは、岳は!氷漬けにされてうちの目の前で砕け散ったんやぞ!?生きとるわけがあらへん!」
「わしが剣を教えたんじゃぞ!?見間違えるはずが無かろう!」
「うちはその死を目の前で見たって言ってるんや!」
「落ち着いてください二人とも!」
あかりが二人を宥めているのを横目に考える。死んだはずの人間が生き返る。そんなことを以前見た覚えがある。
「…以前、エルドラド・ドーパントという怪人がいました。そいつは自身の偽物を作って死を偽装し姿を隠していました」
「……おいなんや結月。自分、まさか…」
「ホワイトアウト・ドーパントは自身の偽物を作ることができます。…氷漬けにされた人間なら作れると思いませんか?」
「ふざけてんのか!あいつがうちを騙して奴と共謀して生きとって仲間を殺してると言うつもりか!?」
私の服に掴みかかり怒鳴り散らすついなさん。木偶蔵さんとあかりはオロオロしてる。
「その可能性もあるってだけですよ。ガイアメモリは人の心を狂わせるんです。例え善人であっても心根が歪んでしまう」
「うちは信じへんぞ!そんなこと…そんな馬鹿げたこと…!」
「大変!大変よ村長!」
そこに黒髪で翡翠色の目をした狐の面を斜めに被った少女が入ってきた。誰?と私とあかりが首を傾げているとついなさんが反応した。
「
「どうした、恵。まさか…」
「怪物が、兄上がまた現れて…隆斗さんを襲っていて!」
「兄上ってまさか…」
「ああ、恵は岳の妹や。それよりいくで、結月!怪物が岳じゃないと証明したる!恵、案内を頼む!」
「あかりは念のためにここで待機を!」
私達は外に出るなり恵さんの案内で急行する。途中でついなさんはディアブロッサに収納しているエンジンブレードを引き抜いて走る。そこは川沿いで巻き藁などがあることから修練場らしいことがわかる。そこに、奴はいた。両肩はまるで糸車の様で青黒い蟲の様な顔と四肢が目立つグロテスクな全身を白い和服に身を包んでいて白い刀を手にしている姿は侍の様にも見える。
「方相氏は滅するがいいでござる!」
「グッ…アァアアアアアッ!?」
目にも留まらない速度で振り下ろされた刀が、止める間もなく出っ歯の青年を縦一文字に斬り裂き鮮血が舞う。鮮やか過ぎるその太刀筋は圧倒的な練度を感じさせる。これが神威岳の太刀筋ということですか…。
「隆斗さん!?いやぁあああああ!?」
「恵は下がっとれ!岳を騙る不届きもの…ここで潰したる!」
《アクセル!》
ついなさんはアクセルドライバーを腰に付けてメモリを鳴らしてドライバーに装填、私もジョーカーメモリを手にきりたんに呼びかけドライバーに装填する。
「きりたん!」
《ジョーカー!》
【出番ですか。《サイクロン!》】
蟲のドーパントは血に濡れた刀を振るって血を飛ばし、返り血を浴びて白い着物を赤く染め上げた悪鬼が振り返る。
「変…身!」
「【変身!】」
《アクセル!》
《サイクロン!ジョーカー!》
「ついなが…変わった!?」
驚く恵さんを置いて、私達は左手の指を拳銃の様にして突き付け、アクセルはエンジンブレードを構えて宣言する。
「『さあ、お前の罪を数えろ!』」
「振り切るで!」
「…来い」
刀を手に挑発してくるドーパントに、私達は突撃する。刀を蹴り上げて拳を叩き込むが刀を握ってない方の左手で受け止められて押し返され、振り下ろされた斬撃を紙一重で避けて距離を取る。同時にアクセルが斬撃を受け止めて鍔迫り合い。
「お前は誰や!?なんで、岳を騙るんや!?」
「拙者は神威岳。拙者を見捨てたお前たちに引導を引き渡す復讐鬼だ、ついな!」
「黙れ!うちは、岳を見捨てた訳やない!」
激しく刀とエンジンブレードを斬り交わすドーパントとアクセル。その間に私達はメモリを入れ替える。
《ルナ!》
『こいつに接近戦は危険です!』
《トリガー!》
「同感です」
《ルナ!トリガー!》
ルナトリガーに変身、アクセルと斬り交わすドーパントに向けて誘導弾を放つも、ドーパントが左手を翳すとシュルルッという音と共に誘導弾が全て斬り裂かれてしまう。なんだ、今のは。
「きりたん…見えました?」
『いえ、音は聞こえましたがトリガーの目を持ってしても見えませんでした』
「とにかく、少しでも気を逸らさせましょう」
乱射乱射乱射。誘導弾を連射し、そのたびに左手が向けられ斬り裂かれていく。しかもその間片手でアクセルの猛攻をいなしている。なんて奴だ。技量はシャーク・ドーパントを越えているかもしれない。
「くそっ、岳と同じ太刀筋をしおってからに…!」
「拙者は神威岳だと言っているでござろう。ついな、お前は最後だ。そこで寝ているでござる」
「ぐあああ!?」
「ついな、大丈夫!?」
押し返され距離を取ったかと思えば刀が振るわれて見えない斬撃がアクセルに炸裂。その威力に吹き飛ばされて変身が解除されるついなさんに駆け寄る恵さん。
「ついなさん!?この…!」
《メタル!》
《ルナ!メタル!》
ルナメタルに変身してメタルシャフトを伸ばして攻撃するが、伸ばした瞬間刀が振るわれて見えない斬撃に輪切りにされてしまう。なんなんですかねこの剣豪!?
「飛ぶ斬撃とか漫画だけで十分なんですが!?…って、シャフトが動かない!?」
『手放してください!』
「遅いでござる!」
さらに切断されて残ったメタルシャフトが何故かビクともせず動かなくなり、手放そうとしたときには見えない斬撃を受けてダブルドライバーが弾き飛ばされて変身が解除されていた。歩み寄ってくるドーパントに、ダメージで動けず何もできない。万事休すか。
「がはっ…ファングかエクストリームなら対抗できたかも…」
「標的じゃないが邪魔者……ここで始末する、でござる」
「待て!結月はこの村と何も関係あらへん!恨んでいるならうちを殺せ!岳!」
エンジンブレードを地面に突き刺し杖代わりにして立ち上がり、涙を浮かべて叫ぶついなさん。斬り交わして神威岳だと確信したのか。
「お主は最後だついな。方相氏に生まれたことを後悔して死んでいくでござる」
「待って!兄上!」
斬られようとしていた私の前に両手を広げて立ちはだかった恵さんに、刀が止まる。実の妹はさすがに斬れないか。
「本当に兄上ならどうしちゃったの!?方相氏であることに誇りを持っていた兄上は何処に行ったの!?」
「…方相氏は存在すること自体が悪でござる。悪鬼滅殺。己が異形になろうと成し遂げて見せようぞ」
「ついな!お客人!無事か!?」
「ゆかりさん!悲鳴が聞こえましたけど…」
「一体何事!?」
「まさかまたあの怪物が…りゅうくん!?」
すると様子を見に来たらしい木偶蔵さんとあかり、快子さんと見知らぬ黒髪の一部が金髪になってるロングヘアーの女性がやってきて、それを見たドーパントは分が悪いと見たのかどんな手品か幻の如く刀を消し去り、跳躍すると何もない空中に着地し走って行って姿を消した。
「これは、ついなさんにとってのビギンズナイトを聞く必要がありますかね…」
残された死体の前に転がっていたダブルドライバーを拾い上げ、私は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるしかなかった。
ついなの故郷、
ついなの相棒、神威岳がドーパントじゃないと証明するために来たはずがドーパントかもしれないという可能性にいきついたゆかりたち。ドーパントの正体は実は生きていた神威岳なのか否や。ちなみに容疑者は今回で出揃ってます。
次回はついなのビギンズナイト。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。