「ゆかりさん!なんで、なんで…!」
「あ、結月ゆかりのもとにむかうならこれ、とどけてくれないかな」
ひどく慌てた様子で急いでゆかりの元へ向かおうとするきりたんにアイが差し出したのはストップウォッチの様な物が付いたメモリだった。
「トライアルメモリだよ。たぶん、きっと、ついなのやくにたつから」
「あとはオレに任せて行って来い、仮面ライダー」
「…悪さしてたら絶対許しませんからね!」
アイとリリィに見送られ、きりたんは飛来したエクストリームメモリに入って水都を後にした、その数刻前。
右肩を大きく斬り裂かれて鮮血が舞い、倒れ伏すアクセルに、私は咄嗟に飛び出していた。
「ついなさん!?…きりたん!」
【はい!ヒートメタルです!《ヒート!》】
《メタル!》
「了解です、変身!」
《ヒート!メタル!》
きりたんに言われるなりヒートメタルに変身。炎を纏ったシャフトを振ると、何かに燃え移って炎の線がドーパントに直撃。左腕を覆っていた白い和服状の装甲が燃えた。
「あれは…!?」
『恐らく奴のメモリの正体は糸の記憶、ウェブです。昨日の戦いで見せたなんでも容易く斬り裂く斬撃は高速で振動させた糸鋸、飛ぶ斬撃は高速で振るわれた糸、シャフトを拘束されたのも糸と考えれば説明がつきます』
「なるほど。糸ですか……最初から答えが分かっていたとは厄介な」
『糸車に蚕の顔で個人的に検索するだけで分かりました。だからヒートが有効ですが…』
「近づくことは難しい、と」
「拙者のメモリに気付いたところで、もう遅い!
そう言って左腕を糸で覆って和服型の装甲を修復した奴の握った刀の刀身がほどけて持ち手を振るうと八つの斬撃が神社の境内を斬り裂きながら襲いかかり、咄嗟に炎を纏ったメタルシャフトを振るうが炎は通じずシャフトは輪切りにされて、胴体の表面を斬り裂かれて火花が散る。
「なん、で…!?」
『糸でできた刀をほどいた糸を糸鋸状に振動させて炎を突き破った様ですね…』
「何でもアリですか…!?」
「集束、三歩絶刀!」
さらにほどけた刀身をまた纏めて一本の糸刀を手にしたウェブ・ドーパントが両手で糸刀を握って踏み込み加速。さっき斬られた際に胴体に糸が付けられていたらしく引き寄せられて、目の前まで迫ったところにまっすぐ振り下ろして斬撃。
《ジョーカー!》
《ヒート!ジョーカー!》
《ジョーカー!マキシマムドライブ!》
「むっ…!?」
「『ジョーカーグレネイド!』」
咄嗟にヒートジョーカーになりマキシマム、真ん中から分裂して奴の斬撃を回避し両側から炎を纏った拳を叩き込む。しかし糸で作った装甲が燃えるだけでありメモリブレイクには至らず、さらに瞬く間に糸の和装甲が修復されていく。
「マキシマムが、効かない…!?」
『無尽蔵・種類も色も豊富な糸を操る、それだけのメモリのはずなのに…ここはエクストリームです!』
「駄目です、それでは水都を守る者がいなくなる!」
『いや、あのゆかりさん。実はですね…』
《トリガー!》
「…ツインマキシマムです」
《ヒート!トリガー!》
ヒートトリガーに変身。トリガーマグナムにメモリを装填し、さらにヒートメモリを引き抜いて腰のマキシマムスロットに装填。以前きりたんが使用した禁断の技、ツインマキシマムだ。
《トリガー!マキシマムドライブ!》
『正気ですかゆかりさん!?やめてください!』
「私は怒ってるんです。「依頼人を危険に晒す探偵は最低だ」おやっさんから私が何度も怒鳴られたことです。…衣亞さんや茜さんの時も守れませんでしたが、救えました。だけど…私についなさんを捜してくれと依頼してきた快子さんや、今回の依頼人であるついなさんを傷つけさせてしまった……私は私を許せない」
《ヒート!マキシマムドライブ!》
『やめて!やめてください!私でもああだったのに、ゆかりさんが死んじゃう…!』
「ここが命の張りどころです…!」
《マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!マキシマムドライブ!》
きりたんの制止の声をかき消すように狂ったように鳴り響くマキシマムドライブの音。まるで警告の様なそれと共にダブルの身体が炎に包まれ全身が焼けついて行く激痛に苛まれる。そんな私に怖気づくウェブ・ドーパント。だがもう遅い。
「待て結月!駄目や!」
『ゆかりさん!やめて―――!?』
「喰らいなさい、ツインマキシマム…!」
ついなさんときりたんの制止の声を振り切って腰のマキシマムスロットを叩き、全身に纏った灼熱の炎をトリガーマグナムに纏めて特大火球を解き放った。
「無駄でござる。
糸刀を円形に振るうウェブ・ドーパント。それと同時に格子状に展開された糸が煌めき、特大火球が受け止められて、糸刀を縦に振るうと格子の糸に包まれて特大火球が潰され消えた。
「そん、な……」
【ゆかりさん!?ゆかりさん!ゆかりさん!】
変身が強制的に解除され、全身黒焦げの姿で倒れ伏す。きりたんの声が聞こえるが返事ができない。不味い、意識が朦朧と……。
「今度こそとどめでござる」
「くっ……」
歩み寄ってくるウェブ・ドーパント。私は反動で動けず、アクセルも変身こそ解かれていないが右肩を大きく斬られたダメージで動けない。今度こそ終わりか、きりたんの制止の声を聞かなかった罰だな…。
「でやああああああ!」
「っ!」
瞬間、石段から誰かが飛び出してきて手にした刀を叩き込んだ。見ればそれは巫女服の様な物を着た恵さんで、身の丈はあろう物干し竿と呼ばれる刀を凄まじい剛力で振り回して糸刀で受け止めたウェブ・ドーパントをまるで野球ボールの様に打ち飛ばした。
「っ!?」
「兄上は、妹の私が止める!」
「恵…ッ!」
やはり恵さんは殺せないのか、受け止めるだけで反撃に出れないウェブ・ドーパント。それが分かっているが故に巧みに刀を操り斬撃を叩き込んでいく恵さん。しかしあの糸の鎧で受け止められて致命傷を与えられない。
「ゆかりさん、ついなさん!大丈夫ですか!?」
「あかり…どうしてここに?」
すると石段からあかりもやってきて、私を助け起こそうとする。恵さんはあかりが…?
「嫌な予感がして、ドーパントが手が出せないであろう恵さんを捜して連れてきたんです。とにかく今のうちに……」
「ハァアアアアッ!」
「いい加減にするでござる、恵!」
胴体を覆っていた糸の鎧を剥がされると激昂し、左手を突き出して視覚できる量の糸の束を放ち、それに弾かれた刀を手放してしまった恵さんを繭の様に閉じ込めてしまうウェブ・ドーパント。
「…恵も方相氏として生きるというのか。ならば、死ぬがいいでござる」
「やめろ!」
《エンジン!マキシマムドライブ!》
するとついなさんがちぎれそうな右手でエンジンメモリをアクセルドライバーに装填して取り外し、バイクフォームとなって炎を纏って突撃。その一撃に吹き飛ばされるウェブ・ドーパント。しかしアクセルの変身が解かれてついなさんはその場に転がり倒れ伏し、ウェブ・ドーパントも糸の装甲の一部が剥がれただけですぐ修復してしまう。
「お前は最後だと言っているでござろう、ついな」
「……今気付いた。お前、岳やないな」
「なに?」
すると何かに気付いた様子のついなさんにたじろぐウェブ・ドーパント。倒れ伏したままついなさんは続けた。
「何より大事にしていた恵に手をかけようとするのもそうやし、なにより……あいつはな、おどけて侍みたいなござる口調を普段からしていたけど、真面目になった時はそうじゃないんよ」
「なに…?」
「お前の口調が自然すぎて忘れておった、ビギンズナイトを語ったおかげか思い出したわ。…お前、誰や?その口調の岳を知ってるのは村の人間しかいない。岳の剣を真似れるのはうちら方相氏仲間しかいない。妹の恵でも再現できひん剣やぞ。誰なんや…!」
「うるさい!拙者は神威岳!方相氏を滅する復讐鬼だ!」
「ぐうっ…!?」
「恵ィ!」
激昂のままに糸刀を繭の中の恵さんに突き立てるウェブ・ドーパント。あそこは腹部だろうか。早く手当しないと不味い。
「…決めたぞついな。お前の今の仲間も殺してやる。後悔して死んで行け」
「なにを…!?」
「きゃあ!?」
「あかり…!」
私の手当てをしていたあかりが糸で縛られてウェブ・ドーパントの手元に引き寄せられてしまう。くそっ、体が動けば…!
「この女は預かる。拙者が神威岳じゃないと言うのであれば誰か言って見ろ。明日の早朝まで待つ。
「ううっ、ついなさん……」
「楽しみにしているぞ、お前の絶望する顔をな…!」
そう言って私達の間を歩いてあかりを担いで石段を降りて行くウェブ・ドーパントに、私とついなさんと恵さんは倒れ伏すしかなく。鳥の鳴き声が響く。
「ゆかりさん…!」
飛んできたエクストリームメモリから放たれた光の下で構成され姿を現したのはきりたん。慌てて駆け寄るきりたんを見て私は安心し、意識を手放した。
目を覚ますと、見覚えのある天井。如月家の客間だった。横を向けば右肩に包帯を巻いてさらしを巻いた上半身を露出させているついなさんがいた。
「起きたか結月」
「ついなさん…きりたんは?」
「うちに休めと言って自分は聞き込みをしとるわ。慣れてない様子やったけど、結月が倒れた上に所長が攫われたと聞いて気が気でないらしいな」
「…面目ございません」
心配かけたことを謝ると、ついなさんはニッと笑って頭を撫でてくる。空元気だろうか。
「うちのためにやったんやろ?もう無茶せんって約束するなら許したる。とりあえずわかっとることを話すで。まず恵が重傷。今は親父が秘薬を使って寝かせとる。次に、百合子は行方不明や」
「行方不明…」
「あいつが岳やないとしたら百合子で確定やろうな。きりたんは色から声まで再現できる糸人形を作ってアリバイを作れるって言っとったし。だけど百合子ならなんで隆斗を殺したんやって、そう思ってな。違う気がするんよ」
「…私もです。でもそうすると」
「ああ。……犯人がいないことになるな」
あかりを助けるためには嘘でも奴を神威岳だと認めるか、犯人を言い当てないといけない。で、その犯人候補は利理百合子だけ。でもその百合子が印種隆斗を殺すとは思えない。考えていると、ついなさんの手に握られた奇妙な物に気付いた。ストップウォッチの様にも見えるけど、ファングメモリの様な大型のメモリにも見える。
「それは?」
「ああ、きりたんが月読アイから預かったんやと。トライアルメモリ。アクセルの強化メモリらしい」
「月読アイってアクセルドライバーやらを貴方に渡した?きりたんと接触したんですか!?」
「そうらしい。月読アイが留守の間水都を守る手段を用意したらしいからきりたんもこっちに来れたんやと」
「でも、それがあれば…」
「駄目や。弱くなる」
「え?」
ついなさんの話によると一度試してみたらしいがアクセルの特徴でもある重装甲がパージされ、パワーアップするどころか奴の攻撃の一つも受け止められないほどの紙装甲になってしまうらしい。スピードこそ上がるもパワーも下がっていて、それだけだそうだ。
「なるほど……確かにアレに対抗するには装甲は必須ですものね…」
「そもそも普通のアクセルの装甲でもあの攻撃を受け切れないからな。あの子供は何を思ってきりたんに預けたんやろ…」
「…思ったんですけど。あの攻撃全部避けろってことじゃないですか?」
「え?」
「紙装甲ってことは運用方法が異なるってことですよ。それにスピード…脚力があるなら、あるじゃないですか!」
「なにが?」
「過去を語った際にホワイトアウトに繰り出そうとしていた足技ですよ!」
「!」
そう言うと突破口が見えたのか顔を輝かせるついなさん。あとは敵の正体、か。すると足音が聞こえてきたと思ったら障子が開いてきりたんが顔を出す。ナイスタイミング、さすが相棒。
「ただいま戻りました」
「お帰りきりたん」
「あ、お帰りなさい」
「馬鹿ゆかりさんはあとで怒るとして、色々聞いてきましたよ。ゆかりさんはアリバイしか聞かなかったようですが、今回聞いてきたのは神威岳との関係です」
「関係?」
「神威岳じゃないとしたらなんであそこまで固執してるんだろうと思いまして」
さすがというか着眼点が違う。
「木偶蔵さんは神威岳の師匠で師弟仲は村の間でも評判でした。利理百合子は時々一緒に任務に出る程度の同僚。神威恵はそれはもう仲睦まじい兄妹で幼馴染二人と一緒に慕ってたとか」
「…まあうちにとっても年上の先輩やったしな」
「次に第一の被害者、那須野与一は神威岳とは同級生で親友だったそうです。第二の被害者の印種隆斗も同級生で一緒に修行した仲良しの同僚。第三の被害者である赤井快子は妹の神威恵の幼馴染で後輩、ついなさんと肩を並べるべく本人に内緒で修行を付けてもらってた、などの情報を村で聞きました」
「快子、岳に修行付けてもらってたんか。知らんかった」
「そんなこと一度も言ってませんでしたね。………………うん?」
あの時のことがフラッシュバックする。それにたしかあの時……………………あ。
「あ――――――!?」
「うるさっ!?どうした結月!?何かに気付いたんか!?」
「ゆかりさん?」
「きりたん、ナイスです!最後のピースがそれだ!違和感はいくらでもあったんです。なのに今の今まで気付かなかった…!」
「どういうことや?」
首を傾げるついなさんときりたんに、私は其の名を告げる。
「犯人は―――――――」
「「えぇえええええええ!?」」
翌日、役山の採石場。右肩を治したうちはきりたんを連れてここまでやってきた。そこに約束通り、奴はいた。健啖家なためお腹を空かして弱ってる様子の所長。今助けてやるからな…!
「拙者のことを神威岳だと認める気になったか?それともまさか正体が分かったとでも?」
「そのまさかや。…まさか、お前だったとはな。結月に言われても信じられへんかったわ」
「……なんだと?」
訝しむウェブ・ドーパントに、きりたんが指を立てる。
「ゆかりさんが気になったのは五つ。ついなさんが村に戻ってるのにそれが当たり前だと言わんばかりにノーリアクションだったこと。ござる口調なんてのを真似るぐらい稚拙なのに太刀筋はついなさんが誤認するほどそっくりだったこと。なんで三人目だけ首を断たれていたのか。貴方が電話で神威岳の事を呼ぶ際に言いかけた「し」という言葉。そして決め手は………悲鳴が上がったことでした」
「なに、を……!?」
「気付きましたか?首を斬られてるのに悲鳴を上げられるわけがない!」
「行方不明の百合子をお前は利用して、自分が死んだように見せかけた。なあ、そうなんやろ?」
エンジンブレードを突きつける。信じたくなかったが間違いないらしい。
「快子…いや、赤井快子!」
「………なんだ、ばれちゃったのか」
そう言ってメモリを引き抜いて変身を解除するウェブ・ドーパント。そこに現れたのは、巫女服姿で首にトレードマークのマフラーを巻いた快子だった。…信じたく、なかったなあ。
コナンと金田一少年を参考にしたこのトリック(?)いかがだったでしょうか。別人の身体に自分の服を着せて首を斬ることで自分が死んだように見せかけ自由に行動する。違和感に気付いていれば最初から犯人が分かる仕様でした。
エルドラド戦でのきりたんに続きツインマキシマムを使用したゆかり。それすら容易く防ぐウェブ・ドーパントの恐ろしさを表現できたかなと思います。
・ウェブ・ドーパント
「糸」の記憶を宿した蚕と糸車を合わせた様な姿のドーパント。常に己の糸で作った着物型の装甲を身に纏っており、破壊されても即修復することでとんでもない耐久力を誇る。糸の硬度や種類、色まで変えることが可能で糸を束ねて剣や薙刀にしたり、蜘蛛の巣状にして捕らえたり、偽物人形を作ったり万能に立ち回れる。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。