あの日。ビギンズナイト。私のせいでおやっさんは死んだ。それは変えようのない事実だ。あかりに許してもらったとはいえ、この罪は変わらない。
「さあ、お前の罪を数えろ」
あのスカルに言われた言葉を反芻する。その言葉こそ私が言われるべき言葉だった。耳を押さえて目を瞑って蹲る。歩み寄ってきたスカルの気配を感じて、恐る恐ると目を開き耳から手をどけると、変身を解いたおやっさんの優しい笑みがあって。それで思い出した……あのスカルは、ありえない。
「弟子を泣かせた。あたしの最後の罪でございます」
「そんな、違います!あれは私の罪で…!」
そう訴えるもおやっさんはぼんやりと消えて行って。慌てて手を伸ばすが空を切る。
「おやっさん…、おやっさん!」
「お、起きたみたいやな」
目を覚ますと、見覚えのある可愛らしい部屋のベッドの上で。傍らには茜さんが椅子に座って私の顔を覗いていた。
「ここは…茜さんの部屋ですか?」
「葵の部屋やで。お姉ちゃんのベッドに寝かせるなんてとんでもない、なんて言うてな」
「あ、ですよね…その葵さんは?」
「イフさんを追って行ったら倒れてた金髪の人を客間で介抱中や」
「金髪…?まさか!」
痛む身体に鞭打ち飛び起きて客間に向かう。そこには、青い顔をしたリリィが寝かせられていて沢山の薬を手にした葵さんが途方に暮れていた。
「リリィ!?一体どうしたんですか!」
「あ、ゆかりさん起きたんですか…お知り合いですか?何やっても全然よくならずにどうしようもなくて…でもなんかわけありっぽいから医者に連れて行くわけにも…」
「知り合いに医者がいます。呼んでみましょう」
スタッグフォンで電話をかけたのは、あの病院での事件で知り合い番号を交換した監察医。阪井芽衣子だ。連絡したらすぐタクシーで来てくれた。リリィの様子を観察した芽衣子さんは安心させるように笑う。
「大丈夫。弱めの神経毒を受けて麻痺してるみたいだけど命に別状はないよ。胸元に刺された跡があるからそこから何かに刺されて打ち込まれたみたい」
「神経毒…ですか。ガイアメモリの傷は普通の治療では治せないんですが…」
「呼吸も難しくなるからうちの病院で預かろう。どうせ訳ありなんだろ?探偵さん」
「助かります…!」
リリィは救急車で運ばれ、私は琴葉姉妹に礼を言って、とりあえず蘇った死人の目撃された線路下のトンネルに向かうことにした。
「しかしよくわかりませんね…」
私のトラウマを刺激し、攻撃するだけして去って行ったおやっさん……の偽物、と断定するとして。リリィも恐らく死んだ知り合いを見て油断したところをやられたのだろう。かといって、茜さんや花梨が見た死者は、確かに知り合いではあったが直接的な被害は受けていない。恐らくついてったら夢を買うと称してガイアメモリを売りつけられるのだろう。この違いはなんだ?仮面ライダーを標的にしている…?何故?
「うん?」
スタッグフォンに着信。相手の名前はきりたん。スカルとの戦いで私を守ろうとしてくれてそのままだった。出てみると怒鳴り声が聞こえてきた。
《「ゆかりさん!無事なんですか!?」》
「わ、私は無事です。ですがリリィがやられました。神経毒だそうです」
《「神経毒?スカルにそんな能力ありました?」》
「あと一つ、思い出したんです」
《「思い出したとは?」》
「…おやっさんは死に際に私にロストドライバーを託しました。そして」
《「スカルメモリも私の本棚に虚音イフが入る時に消滅してる…」》
「だから、例えおやっさんが復活したとしても変身するのはありえないんです」
だが幻ではなかった。何度も銃撃を受けたし、謎の衝撃を受けた痣が腹部に残っていた。確かにそこに、おやっさんの姿をした何かがいたんだ。
《「スカルではない何かだったと」》
「さっそく検索したいところですが…今どこですか?」
《「帰りの新幹線の中ですね。横であかりさんが不貞腐れてます」》
「じゃあ検索できそうですね。では………!?」
茜さんの言っていた線路下のトンネル。そこに、白髪で着物を着た美女が黒スーツ姿でピンクのメッシュが入った黒髪ロングヘアーにサングラスの人物……恐らく「夢を売る」というミュージアムの売人と接触していたのが見えて。ダブルドライバーを装着しながら突撃する。
「駄目です、メモリを買っては!」
「ちゅわ?」
美女が振り返り、その紅色の宝石の様な瞳がこちらを見据えたその瞬間。体が硬直した。な、なんだこれは…?動けない。見れば売人も動けなくなってる。これは重圧…いや、プレッシャー?
「誰かと思えば仮面ライダーの片割れですわね。彼女にとって優先度は低いでしょうが……わたくしに痛めつけられたら別かしら」
「なに、を…」
【ゆかりさん!?どうしたんです、ゆかりさん!?】
震えと冷や汗が止まらない。本能的な恐怖の根源が目の前にいる。こいつは、メモリを買わされる哀れな被害者なんかじゃない。かといってアルテミスやエクスタシー、シャークにホワイトアウトといったミュージアムの幹部でもない、もっと上…!
《ナインテイルフォックス!》
ガイアドライバーを取り出し腰に装着。九尾の狐が体をくねらせてNと描かれているゴールドメモリを胸の間から取り出すとキスでガイアウィスパーを鳴らし、ドライバーに挿入する白髪の女性。とんでもない灼熱の風が吹き荒れて私は吹き飛ばされて転がり、視線を向けるとそこにいたのは、目を釘付けになるほどの美貌の怪物だった。
全身金色の毛皮に包まれ女性らしいフォルムの肢体の上半身を包む、複雑な文様が紅く記されている振袖を思わせる高級そうな蒼い着物。毛皮しか身に纏ってない下半身の臀部から生える九本の黄金の尻尾がまるで鎌首をもたげる八岐大蛇を思わせる扇状に広がり、下駄を履いてる様な足を囲ってドレスの様にも見える。
そして黄金の毛皮の中で唯一白い毛皮の、狐耳が生えた頭部は狐の仮面を思わせ、紅く隈取りされていて歌舞伎役者の様で笑っている様な顔の視線は冷徹そのもの。麦畑を連想させる金毛の腰までかかる長髪が灼熱の風で靡いて太陽にも見える。今までのドーパントとは間違いなく格が違う。
《ジョーカー!》
「くっ…変身!」
《サイクロン!ジョーカー!》
プレッシャーに怯える身体を鞭打って無理やりダブルに変身。しかしプレッシャーはさらに大きくなり、ついには地面が揺れ出した。地震…!?
「これ、は…!?」
『白面金毛九尾の狐…!?ゆかりさん、こいつです!こいつがビギンズナイトで私に命令していた「狐」です…!この地震は恐らく、傾国の…!?』
「こいつが…ミュージアムの首魁…!?」
「こいつ呼ばわりは失礼ですわね。きりたんはいつからそんな生意気になったのですわ?…ああ、元からでしたわね」
『私を知ってる…?』
それはつまり、東北記理子を知ってると言う事なのではないか。地震で立っていられず、プレッシャーで動けずなすがままに揺さぶられ頭を打つ。
「ぐうっ…」
「あら、なにもしてませんのにおっちょこちょいですわね」
《トリガー!》《サイクロン!トリガー!》
「立っていられなくても…!」
サイクロントリガーとなりトリガーマグナムから風の弾丸を連射する。しかし九尾が動いてナインテイルフォックス・ドーパントを包み込んで巨大な岩石となり弾いてしまう。
『殺生石!?』
「これだけじゃありませんわ」
瞬間、九尾が岩石からほどかれて元に戻り、間髪入れず高速で伸びた尻尾が槍の様に尖って私の腹部を貫き持ち上げられる。さらに伸びた残りの八本の尻尾がマシンガンの様に変形し弾丸が連射され、弾は撃ち抜かなかったものの全身衝撃で打ちのめされてしまったかと思えば、一本が触手の様に変形して首に巻き付いてきた。
「ぐっ…くっそ…!」
「無駄ですわ」
トリガーマグナムを乱射するが他の尻尾が殺生石と化して防御、槍を引き抜かれ苦悶にもがく間もなく上空に投げつけられ、さらに纏まって巨大な一本となった尻尾で叩き潰され上の線路に転がり、何とか立ち上がる。どうやら奴の地震で運行が止まっているらしく、遥か彼方に停車している電車が見えた。
「ぐっあっ……なんて力…!」
『一歩も動いていないのに…手も足も出ない…こうなればあかりさんが何とか誤魔化してくれると信じてエクストリームです!』
《サイクロン!ジョーカー!》
「このっ…がああ!?」
尻尾を足にして線路まで上がってきたナインテイルフォックス・ドーパントに、サイクロンジョーカーになりながら回し蹴りを叩き込むも尻尾が日本刀、七支刀、青龍刀、サーベル、シミター、シャムシール、フランベルジュ、ハルパー、クレイモアといった刀剣類に一瞬にして変形、纏めて振るわれて斬撃と共に薙ぎ払われてしまう。傷だらけとなったボディで線路に転がり、仰向けで空を仰ぐことになり、空の彼方から飛んできたそれを見た。
「おや、エクストリームメモリですわね」
「…きりたん!」
『はい、ゆかりさん!』
《エクストリーム!》
空から飛来したエクストリームメモリをドライバーに装填。サイクロンジョーカーエクストリームに変身を遂げる。よし、これで……!?
「「東北、記理子…それが私の名前…?きりたん、落ち着いてください!ウナちゃんが私の親友…?」」
「「しっかりしてください!…はっ!?そうでした、今はこいつを…!」」
「甘いですわ」
先端は刀剣類のまま、触手の様に蠢いて縦横無尽に襲いかかってくる尻尾。本体は微動だにしてない。なのに押されている。プリズムサーバーで解析しても、それ以上の動きで襲いかかってくる攻撃に対応しきれない。人間一人の頭脳で処理できる動きを完全に上回っている、まるでダブルの様な…!
「「くっ、この…!」」
《プリズム!マキシマムドライブ!》
「「プリズムブレイク!」」
プリズムソードとビッカーシールドで刀剣尻尾を捌きながら本体まで何とか近づき、プリズムソードの鍔部分にあるボタンを押してエネルギーを纏った剣身で刺突する。確かな手ごたえに勝利を確信する。
「残念ながらそれは今切り離した私の尻尾ですわ」
「「なっ!?」」
しかしボフンという音と共に突き刺したナインテイルフォックス・ドーパント…否、尻尾が一本だけの狐のドーパントが金色の尻尾となり、切り離されていたそれを回収した、奥にいた本物が再び九尾となってたった今回収した尻尾を大剣、クレイモアに形成。振り下ろしてビッカーシールドを弾き飛ばしてしまう。
「「しまっ…」」
「終わりですわ」
尻尾を全て元の形状に戻して天に伸ばし、先端を雷雲の形状にして九つの紫雷を落とすナインテイルフォックス・ドーパント。ビッカーシールドが手元にないのでプリズムソードを横に構えて受け止めるが、九つ全部受け止められるわけがなく。全身に雷撃が駆け巡り、あまりのダメージに意識が飛んだ。
「「がはっ…」」
「究極のメモリもこんなものですか。残念ですわ。それにしても全然現れませんわね、彼女。実験体の在り処を知りたいところなんですが……ああ、ちょうどいいですわ」
「「ぐっ!?」」
なにかを思いついたのか一本の尻尾で首を絞められ、持ち上げられてナインテイルフォックス・ドーパントの眼前に引き寄せられる。なにを…!?
「月読アイ。知ってますわよね?なら教えて欲しいのですわ。彼女が連れて逃がした実験体の在り処を…!」
「「実験体……なんのこと、ですか…!」」
「ちゅわ。知りませんの?残念ですわ。なら、月読アイが出てくるまで永遠に苦しむといいですわ。聊か不本意ですが、手段は選んでおられませんので」
そう言って投げ捨てられ変身が強制的に解除されて私ときりたんがその場に転がるも、ナインテイルフォックス・ドーパントから元に戻った白髪の女性は一瞥してから去って行き。私達は敗北に打ちひしがれるしか、なかった。
「エクストリームまで使うってことは相当な強敵が出たってことや…所長は置いて来て悪いとは思うが、急がへんと。琴葉神社って言うとったな…!」
ディアブロッサで揺れる水都を爆走し、琴葉神社に急ぐ。見れば、向かってる方面で巨大な九つの何かが聳え立ち、その先端から紫の雷を落としている光景が見えた。あれか?なんて力や、大地を揺らすほどの力はあそこから…!
「っ!?」
もう少しで辿り着く、その直前に目の前に飛び出してきたその人物に、急ブレーキして目を見開く。そこにいたのは、ウェブ・ドーパント…快子が演技していたものではなく、神威岳その人で。噂の蘇った死人なのかと、ディアブロッサから降りて駆け寄ろうとする。
「岳……!?」
しかし岳は持っていた刀を回して峰を前にしたかと思えば、目にも留まらぬ斬撃…否、打撃が襲いかかって全身を打ちのめされる。しまっ…咄嗟に頭部は守ったが右腕の骨がやられた…!
「剣筋は同じやけど偽物だった奴を知っとるぞ…!」
「…峰打ちだ」
「がっ!?」
岳は動きもしなかったのに、首に鋭い打撃を入れられて昏倒する。咄嗟に岳に手を伸ばすもぬめって滑ってしまい倒れ伏す。くっそ、またうちは…岳を騙る奴なんかに…ぐう。無念。
というわけでナインテイルフォックス戦でした。今回のエクストリームがきりたんが不安定だったとはいえ、完全敗北。しかも本体は一歩も動いてないと言う。控えめに言って無理ゲーである。
一方其の頃、岳と出会って打ちのめされるついな。蘇る死人の正体とは?
・ナインテイルフォックス・ドーパント
『白面金毛九尾の狐』の記憶を宿したドーパント。同一視される玉藻の前、妲己、そして天照大御神としての側面も合わせ持つ。存在そのものが圧倒的なプレッシャーを放ち、変身するだけで周囲の人間に本能的な恐怖を抱かせる。傾国の美女、の異名の通り文字通り大地を揺るがすプレッシャーを放つ他、九つの尻尾を自在に変形させる能力を持つ。自身を包んで殺生石になったり、一時的に切り離して分身や怪物を生み出したり、その力は圧倒的。使用するメモリはゴールドメモリ。変身者はミュージアムの首魁にして東北家家長、東北至子。
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