目を覚ます。すると私は猟犬の背に乗せられていて。前を向けば、高速で動くスミロドン・ドーパントを追い詰めるようにアルテミス・ドーパントが複数の矢を空に連続で放ち、矢の雨で追い詰めている光景があった。少なくとも、Wとして戦う時は見なかった容赦のなさだ。手加減していたというゆかりさんの推理は当たっていたらしい。
「ずん姉さま…」
「あ、きりたん!」
「キシャー!」
呼びかけると、どちらも反応。スミロドン・ドーパントは「赤ずきん」である私を是が非でも殺す為か矢をいくつもその身に受けながら突撃してきたが、アルテミス・ドーパントは私の前に立つと弓を構えてエネルギーの矢が引き絞られる。
「どんなに速くても目標が決まってるなら…!」
「キシャー!?」
瞬間、放たれた特大のレーザーがスミロドン・ドーパントを飲み込み、射線上の木々もろとも消滅させた。す、すごすぎる…。
「きりたん、大丈夫だった?」
そう言って振り返ったアルテミス・ドーパントがメモリをドライバーから引き抜いて変身を解くと猟犬も消滅して私は地面に降りる。そして改めて見れば、写真に写ってた女性と同一人物・・・のはずだが、緑色の髪が途中から金髪になって地面に蛇のように引きずるほど長くて、桃色のドレスを身に着けた格好だった。…なんのお伽話でしょう?
「えっ、金髪?それに長い…すごく長い…」
「きりたんは赤ずきんかな?私はどうやらラプンツェルに当てはめられてしまったらしくて…魔女を倒して逃げながら、迷い込んでいた人たちを保護してたんだけどみんな私を怖がって…ちゃんと守れたのはきりたんだけなんだ」
人助け…ミュージアムの幹部とは思えない善行だ。前は口封じとかしていたのに。
「貴方は私が妹だと知ってたんですか?死んでいるということも?」
「…うん。父様や至子姉様にガイアゲートって呼ばれている東北家の地下にある井戸に足を滑らせて落ちて、「運命の子」として蘇ったきりたんはまるで別人みたいで……怖かった。逃げ出した時にはちょっとだけ、ほっとしたよ…」
「…私には記憶がないので……死ぬ前の私ってどんなだったんでしょうか」
「……生意気でゲーム好きですぐ煽って甘えん坊で素直になれない子供?」
【今とあんまり変わりませんね!】
「……遺憾ながらゆかりさんに今とあんまり変わらないって言われたんですが」
いや確かに否定できませんが。すると笑顔になるずん姉さま。
「ゆかりさんってのはそのドライバーで繋がってる相棒かな?…うん、いい仲間に恵まれたんだね。よかった。…あそこにいた時より、すごく楽しそう」
「……ずん姉さまは何でミュージアムの幹部なんかやってるんですか。そんなに優しいのに」
「…至子姉様も蛇門も放っておけないから。きりたんを失ってから二人はおかしくなっちゃったの。至子姉様は父様の跡を継ぐって言いだしてミュージアムなんて立ち上げちゃうし、蛇門は狂ってしまったのかいつだって笑ってる。母様も至子姉様の実験体を連れて夜逃げしちゃったし、私までいなくなったら、二人とも本当に壊れちゃうよ……」
「私が死んだことでそんなことに…?」
…いや冷静になってみれば。足を滑らせてガイアゲート?に落ちて死んでしまったのはいい。どうして生き返って、ミュージアムの中枢に使われていたんだ…?
「…私が生き返った理由、知ってます?」
「…至子姉様はガイアゲートから出現した生き返ったきりたんを見て歓喜した。私もそうだった、きりたんが帰って来たんだって。でも至子姉様が喜んだ理由は違ったの。きりたんは地球に選ばれたんだって。そう喜んでいた」
「地球に、選ばれた?」
「至子姉様はガイアインパクトを起こして人類を絶滅しない種にする為の、地球の記憶と繋げての強制進化を起こすって言ってた。人類を絶滅させず、家族を絶対に失わない方法だって、誇らしげに。そのために、選ばれたきりたんを利用するって、言ってた」
「そんな!そんなことしたら、強制進化に適応できない人間はそのまま死亡するんじゃ…」
「……だよね。詳しくはわからなかったけど、そうなるんだろうなとはわかってた。きりたんを利用してまでやる事じゃないって。…でも、今の至子姉様は本当に怖くて、止められなくて。従うしかないの…ここにきてようやく、やりたいことができたんだ」
「ずん姉さま…」
泣きそうな顔のずん姉さまに、何とも言えなくなる。苦しんでいたんだ、狂っていく家族を見て、それでも自分は正気を保つしかなくて、従うしかなくて、人を殺めて……それを十年も。どんなに苦しかったのか、想像もつかない。
「久しぶりにその名前で呼ばれて嬉しいな。…でもなんできりたんがここに?」
「ミュージアムの幹部の星香さんという人からうちの探偵事務所に依頼が来たんです。消えたずん姉さまと東北蛇門を捜してほしいと。さもないとナインテイルフォックス・ドーパントが水都を滅ぼすかもしれない、と」
「…うん、そうだね。至子姉様は何よりも私の安否を気にしていた。自衛向けとは思えないこんなに強いメモリを渡したのも、きっと……じゃあ私、帰らなくちゃね。正義の味方ごっこは終わりだ。全然できてなかったけど」
「でも、でも……」
「私だって水都が大好きなの。私が戻って守れるなら、そうするよ」
「…わかりました。ゆかりさん、合流しましょう。今どこにいるかわかりますか?」
【あ、やっと話が終わりましたか。そうですね、森の中なのでさっぱり】
「そうですか…」
周りを見渡す。目印になりそうな高い物はない。あるのはいせいぜい、アルテミス・ドーパントの矢を受けた木々から立ち上ってる煙ぐらいで……あ。
「ゆかりさん、煙です!煙が見えませんか!?」
【太陽の位置からして…西にそれっぽいのは見えますけど】
「なら東に向かえばよさそうですね。ずん姉さま、飛べましたよね。私を運んでもらっても?」
「いいよ、ここにいる間は協力する。外に出たらまた敵同士だけど…」
《アルテミス!》
「それは嫌ですけど……ゆかりさん、今から飛んで東に向かいます。私達が見えたら教えてください」
弓と矢でAと描かれたメモリを取り出して腰に付けたガイアドライバーに挿入、アルテミス・ドーパントに変身したずん姉さまに抱えられ、東に向かう。
【わかりました。では私も西に…ってえ!?】
「ゆかりさん!?」
「その無粋な鎧を脱げ!脱げ!脱ぐのだ旅人よ!」
「脱げ脱げうるさいわボケナス!どんな変態が読む話やねん!」
暴風をエンジンブレードで斬り裂き、熱線をジェットで相殺し、水流をエレクトリックで防ぎ、冷気をスチームで掻き消す。そんな攻防を繰り広げるが、雷撃だけはどうしようもない。速すぎる。何度も装甲で受けてきたがもう保たない。ならば、とトライアルメモリを取り出してアクセルメモリをドライバーから引き抜いた。
《トライアル!》
「雷の速度すら、振り切るで!」
《トライアル!》
そしてアクセルトライアルに変身。雷の攻撃を避けて突撃し、エンジンブレードで斬り飛ばす。
「ぐあぁああ…なんて頑固な旅人だ…」
「旅人でもないわい!」
トライアルメモリを引き抜き、ストップウォッチ型に戻して即面のボタンを押すとタイマーが作動し、放り投げると同時に最高速度で突撃。ウェザー・ドーパントは雷を放って迎撃せんとするが、それを全て回避して目前まで迫る。
「はああ!」
「ぐっ!?ああっ!?」
速すぎて気付いていないウェザー・ドーパントにエンジンブレードで斬撃を繰り出し怯ませるとそのまま連続斬りに移行。T字を描く様に連続で斬撃を叩き込み、何度も何度も斬撃を浴びせて行き、落ちてきたトライアルメモリをキャッチしタイマーを止める。
《トライアル!マキシマムドライブ!》
「8.7秒、それがお前の絶望までのタイムや!」
「そこまでして脱ぎたくないのかァアアアアア!?」
爆散するウェザー・ドーパント。出てきた太陽は空に浮かぶでかい太陽と一体化し、雲はどこかに飛んで行った。どんな断末魔やねん。…うん?すると平原から見下ろせる森から大きな土埃が舞っていた。
「森で…爆発?行方不明だって言うミュージアムか?いや、もしかしてゆかりたちもこの世界に…?」
《アクセル!》
一度通常形態に戻り、バイクフォームとなって平原を駆け抜ける。とりあえず誰かと合流せなな。
「アハハハハハ!グレーテル!楽しいのだ!?楽しいのだ!?妹ができて嬉しいのだ!」
「お兄ちゃん止まって!?いや、お兄ちゃんじゃないけど、落ち着いてー!?」
「おっ、人がいたのだ!珍しいのだ!おーい!」
「待って!止まって!?」
きりたんと会話しつつ森の中を西に歩いていたらなんか聞こえてきた。なんだ?と思って上空を見れば、薄汚れた金髪の少女を左手に抱えた筋肉モリモリマッチョの変態が落ちてきて……って、エクスタシー・ドーパント!?
《ジョーカー!》
「そういや東北蛇門ってこいつでした…!」
「お?お前、誰だっけ?見覚えがないのだ、すまぬのだ」
「え、あ、はい」
咄嗟にジョーカーメモリを構えたが、こちらがダブルだと気付いてない様なのでそそくさにしまう。ダブルドライバーを見て思い出さないことを祈ろう。
「もしかしてお前があのドーパントなのだ?」
「え?」
「否定しないってことはそうなのだな!」
「いやいや、違いますって!?」
しかし話を聞かないエクスタシー・ドーパントはその巨体で木々をなぎ倒しながら迫り、私は慌てて踵を返して逃げ出した。ドカーンと背後で大地が爆ぜる音が聞こえて頭に土がかかってくる。
「きりたん!どこですかきりたん!?」
【ゆかりさん、私は抱えられてるので変身です!《サイクロン!》】
「もうなんでもいいので助けてください!?」
《ジョーカー!》
「【変身!】」
もう情けなく叫びながら逃げながらきりたんの言う通りメモリを鳴らしてドライバーに装填、変身。振り返ってエクスタシー・ドーパントの振るってきた右の巨拳を両手で受け止める。まるでトラックを受け止めた様な衝撃が伝わり、足を踏みしめて耐える。
「重たい…!?」
「お前、仮面ライダーだったのだ!?ここで会ったが百年目なのだ!」
『待ってください!私たちは、貴方たちを助けに……お姉さんだって今ここに向かってます!』
「ずん子がここに来るのだ!?わーい、やったのだー!」
「ぎゃああああ!?」
きりたんが伝えた言葉に喜んで、私達が掴んだまま両腕をバンザイしたため上空に投げ出されて木に落っこちて引っかかる。……話が分かったならよかったですけど。
「きりたん…貴方の弟すごいですね…色んな意味で」
『お恥ずかしながら…私が死ぬ前はそんなことなかったそうなんですけど』
「ぐえっ」
木から落ちて頭から地面に激突。変身してなかった死んでた。頭を押さえながら変身を解くと、エクスタシー・ドーパントも腰のガイアドライバーからメモリを引き抜いて変身を解いて私に手を差し出してきたのでありがたく手に取り立ち上がる。それは、双葉の様な髪型の黄緑色の髪を持つ、シャツと緑色のオーバーオールを身に纏った少年だった。中学生じゃないか。こんな子供がメモリを…。左手に抱えた金髪の少女が暴れているけど大丈夫なのか?
「どうも、探偵の結月ゆかりです…」
「助けに来てくれたなら仲間なのだ。東北蛇門なのだ、よろしくなのだ。いたい、痛いのだグレーテル」
「お兄ちゃんじゃないお兄ちゃんの癖に私の名前を気安く呼ぶなー!」
「グレーテルってことは貴方はヘンゼルとグレーテルのヘンゼルの役割なわけですね?」
「そうなのだ!お菓子の魔女は親子丼みたいなのになったからブッ飛ばして食べてやったのだ!」
「えっこわっ」
脱出したグレーテルに首を絞められながら笑顔で語る東北蛇門にドン引きした。魔女が親子丼に変身したってのもよくわからないし、それを食べたのもよくわからんし、グレーテルに首を絞められながら笑っているのも理解できないのだが。
「あの…助けなくていいんです?」
「末っ子の僕にできた妹なのだ!何しても許せるのだ!」
「お前の妹じゃない~~~~!」
…これあれだ、理解したダメな奴だ。気にしない様にしよう。するとどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…さーん!ゆかりさーん!」
「ん?あ、きりたん!」
振り向くと、アルテミス・ドーパントに抱えられたきりたんが空からやってきて着地。きりたんと手を握って再会を祝する。
「爆発が起きたからわかりやすかったです」
「よかった、この世界は通じていたんですね。バラバラの世界だったらどうしようかと…」
「同じ作者の物語は舞台が地続きだったりするので、フェアリーテイル・ドーパントと言う作者の生み出した物語の世界は地続きだということですね。ついなさんもどこかにいると思われます。あ、ゆかりさん紹介します。私の姉、東北純子ことずん姉さまです」
「ずん姉さま?」
「昔からずんだ餅が好きで食べてたらずん子と呼ばれるようになりまして…」
「なるほど?あ、紹介します。恐らくきりたんの弟の東北蛇門……どうしたんです?」
「あわ、あわ、あわわわわわわ」
グレーテルすら心配して離れるぐらいに青ざめた顔をしている蛇門に首を傾げる。まるで幽霊を見た様な顔ですね?とか思っていたら、次の瞬間衝撃的なことを言い出した。
「あ、ありえないのだ!きりたんはあの時、父様に…!」
「はい?」
「ええ!?」
「…え?」
泣き喚く東北蛇門。言葉の意味を理解して驚く私と純子さん。理解できなくて目を見開いて口をポカーンと開けるきりたん。夢いっぱいのお伽話の国で、辛い現実が明かされた瞬間であった。
実は正義の味方になりたかった純子の語った至子の思惑。そして蛇門の言葉の真意とは。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。