第四十二話:Tを止めろ/噛み砕かれた友情
路地裏で、東北星香に大金を支払ったその人物は震えて、ガイアメモリを両手で握って青ざめた顔で見つめていた。
「こうするしかないんだ…こうするしか…!」
焦点が合わない目で複数の歯でTと描かれたガイアメモリを見つめ、カタカタと震える手でガイアメモリを取り落として慌てて拾い上げるその人物に、東北星香はほくそ笑む。上司である至子が不機嫌だったので、オクトパス・ドーパントことメモリ売買成績ナンバー2であった巡寧瑠夏が抜けた分を埋めることも含めて仕事に出たが、至子が満足しそうなドーパントが生まれることを長年の経験による直感から確信する。
「お買い上げありがとうございます。しかし面白いですねえ」
「なにが…!」
「傾いた店を守るために大金を支払ってメモリを買う…矛盾してるじゃないですか」
「これは私の個人的な貯金だ!」
「それ削って資金にした方がいいと思いますけど。あ、別にいいんですよ気にしなくて。こちらとしてはなんでも。では頑張ってくださいね?」
ガイアメモリと私の手柄のPRをね、とほくそ笑む星香の去り際の言葉はその人物に届いていなかった。
《トゥース!》
おそるおそると「歯」を意味するガイアウィスパーを鳴らしたガイアメモリをおしゃれのために露出させているお腹に浮かび上がった生体コネクタに挿入するその人物の姿が、不気味な異形の怪物へと変わる。三本指に変わった己の両手をわなわなと眺めるトゥース・ドーパント。
「…お父さん。私、やるよ」
そう覚悟を決めて拳を握ると変身を解き、誰もいないことを確認するとそそくさとその場を後にした。
フェアリーテイルの事件から数日。ついなさんが東北家に踏み込もうとしたが、上の圧力で止められたらしく、実質手出しできない状況の中。私達はできることをやっていた。私は資料集め、きりたんは鍵がかかってない東北家関連の記憶を探るらしい。
「え?「金堂」が襲われた?」
「ああ。キクも軽傷を負った」
東北外道について個人的に調べていると、リリィからそんな話を聞かされた。資料を纏めて直しながら話を聞く体勢となる。猫探しの依頼の報告書を作っていたあかりは憤慨していた。
「許せません!あんなに美味しいラーメン屋を襲うだなんて!」
「なにに襲われたんですか?」
「いやなんというかな……歯、らしい」
「は?」
リリィの差し出した紙に描かれたのは、歯の怪物としか形容できないドーパント。はあ、これは確かに「歯」だ。
「トゥース・ドーパントでしょうか?」
「指から歯を飛ばして人を追い払った後、屋台に噛み付いてバリボリと砕いてしまったらしい。オレが駆けつけた時にはもう既にいなかった」
「人を追い払ってからだなんて律儀なドーパントですね」
あかりのぼやきに頷く。キクさんは軽傷を負ったらしいが、できるだけ人を巻き込まないようにしているのが分かる。狙いは屋台…?
「で、今西友に調べさせている。…お、言ってる傍からメールだ」
ビートルフォンを取り出してメールを確認するリリィ。頷くと、紙の空いている余白の部分に書き足していく。
「ラーメン屋台「金堂」だけじゃなく、出水洋菓子店、オムライス専門店「オムライFOU」、水花饅頭店、レストラン「人魚の饗宴」、飯処「鴎の声」、ファーストフード店「歩色バーガー」なども似た様な被害を受けたらしい」
「有名店ばかりですね。何が目的なのでしょうか」
「食べ物に恨みがあるとかじゃないか?」
「太りすぎたか虫歯か…どっちにしろ自分が悪いのに店を襲うなんてひどいやつです!」
「いやそう決まったわけじゃないですから…」
ふんすっ!と憤るあかりを宥める。相変わらず、食のことになると情熱が凄いなこの子は。するとリリィが札束を机に置いてこちらに視線を向ける。
「オレからの依頼だ。うちの店を滅茶苦茶にしてくれた馬鹿野郎を見つけて捕まえてくれ」
「…あかり?いいですか?」
「もちろんです!お金払われなくてもやりますよ!」
所長もそう言ってることですし、やりますか。東北外道については後回しです。東北外道の若い頃の写真とか出てきたんですが確認は後ですね。
ネルさん。JKコンビ。鳴花ーズ。西友の情報網。使える情報源を全部当たったが、被害が出た飲食店の名前は出てくるも、犯人であるドーパントの目撃証言だけで犯人の手掛かりが一切ない。犯行を終えたら威嚇しながら逃げるらしい。あと怪我したのはキクさんだけだともわかった。ドーパントを知っている分、反撃しようとしたせいだろうか。
「となると、犯行現場を押さえるしかありませんね!」
「共通点は全部、最近話題になってる飲食店ですか…」
「となると、近いのは安くて美味い寿司屋「海坊寿司」だな」
「詳しいですね」
水都好きの私でもさすがに全部の店の詳細までは知りませんよ?と視線を向けると自慢げに語るリリィ。
「金は天下の回り者。エル・ドラード時代に金をかけずに美味い飯食うのは大事だったからな」
「ああ、料理できないんでしたっけ」
「……炊事できるからって調子に乗るなよ!」
「いや女子力ぐらい頑張りましょうよ…」
ぼやきながら、あかりを後部座席に乗せてハードボイルダーを駆り、ミダスホイーラーを駆るリリィの後を追う。歩色町の水都アウトレットモール近くの店らしい。遠目からでも多くの客がいることが分かる。
「うん?あれは…」
近くの建物の屋上に立つ金髪ロングヘアーの人物が見えた。後ろ姿しか見えないが、あの手に握られているのはメモリ…!?咄嗟にドライバーを取り出し腰に取りつける。…あの後姿、見覚えがあるような。まさか…?
「リリィ!上です!」
《ジョーカー!》
【状況は分かりませんけどドーパントですか。《サイクロン!》】
「ん?早速お出ましか!」
《ゴールド!》《パイレーツ!》
「【「変身!」】」
屋上の人物がトゥース・ドーパントへと変貌し、「海坊寿司」の駐車場に降り立つのと同時に私達も変身。両手を掲げて放たれた歯の弾丸を、間に割り込むことで防ぐと驚くトゥース・ドーパント。黒づくめのボディの胸部と両肩にピンクの歯茎の入れ歯の様な装甲がつけられ、歯のような爪がついている指は三本。頭部は歯でYを描いている様な頭部で聊か不気味だ。後部座席から降りたあかりが先導して仮面ライダーとドーパントが現れたことで周りの人間が逃げて行く。
「もしかして、仮面ライダーか!」
「なにがしたいのかわかりませんが、これ以上はさせません」
「オレたちが相手だ。バキボキに折って歯医者にぶちこんでやる」
「っ、私の邪魔をするなあ!」
殴りかかってくるトゥース・ドーパント。歯のような爪の引っ掻きを避けて胸部に拳を叩き込むが、とんでもない硬さで弾かれてしまう。
「いったあ!?」
「なら!」
《ゴールド!マキシマムドライブ!》
エルドラゴがアスファルトを黄金化させて右腕に装備しパンチを肩に叩き込むが、信じられないことが起こった。金のグローブの方が砕け散ったのだ。そのまま両手からの歯弾丸の一斉掃射を受けて吹き飛ばされるエルドラゴ。
『なんて硬さ…!』
「ならメタルです!」
《メタル!》《サイクロン!メタル!》
サイクロンメタルに変身してメタルシャフトを装甲に覆われていない黒い身体部分を狙うが、信じられないことが起きた。何もなかった部位に歯が出現して弾いたばかりか、メタルシャフトに噛み付いてバリボリと噛み砕いて飲み込んでしまったのだ。しかも食べ終わったらまた何もない状態に戻っている。
「なあ!?」
『メタルシャフトをいとも簡単に…』
「ならば!」
《トリガー!》《ルナ!》
《ルナ!トリガー!》
物理が効かないならとルナトリガーに変身。光弾を連続で発射するも次々と体中に現れた歯で噛み潰されてしまい、トゥース・ドーパントは突進。両肩を掴まれて押し付けられた胸部の巨大な口で何度も噛み付かれて火花が散り、ダメージに崩れ落ちたところを蹴り飛ばされてエルドラゴに激突、もみくちゃになる。今の蹴りは…高校時代に見覚えが。
「私はもう止まれないんだ…邪魔をするな!」
「くそっ、なんてやつだ…」
「今まで戦ったどのドーパントより硬い…エルドラドが柔軟性の防御力ならば圧倒的硬度の防御力です…」
『全方位からマキシマムです!リリィ、手伝ってください!』
「了解だ。破壊力に特化しているこれで行こう」
《サンダー!》《ゴールデンサンダー!》
ゴールデンサンダーに変身したエルドラゴと並び立つ。きりたんの提案した同時にマキシマムならば…!
《トリガー!マキシマムドライブ!》
《サンダー!マキシマムドライブ!》
「『トリガーフルバースト!』」
「サンダーバッシュ…!」
エルドラゴは刃を高速回転させ大電流を放出させたイナズマサカリを手に突撃して、トゥース・ドーパントの腹部に横一閃。それを援護する様に、トゥース・ドーパントの正面以外の全方位にぶつけるようにして複数の光弾を同時に発射。一瞬臆するトゥース・ドーパントだったが全身に口を開いてトリガーフルバーストを文字通り全て噛み潰し、さらに腹部に出現した口の歯でイナズマサカリの刃に噛み付いて白歯取り。
「なんだと!?」
「そんな馬鹿な!?」
『体中に口を展開できるなら打つ手がありません!』
「私の邪魔を…するなあ!」
さらに、エルドラゴがイナズマサカリを引き抜こうとしているところに、頭部の歯の部分で頭突きを繰り出しエルドラゴを昏倒、変身解除させてしまった。
「今のは、効いたぁ…」
「お前は…!?」
倒れ伏したリリィに駆け寄り爪を振りかぶってとどめを刺そうとしたものの、踏み止まるトゥース・ドーパント。それをチャンスだと踏んでリリィを助けるべくトリガーマグナムを突きつけるも、胸部の歯に噛み付かれて噛み砕かれてしまう。
「そんなわけない…そんなはずがあ!」
「くっ!」
《ジョーカー!》《ルナ!ジョーカー!》
何やら怒鳴りながら突進してくるトゥース・ドーパントに、後退しながらルナジョーカーに変身。腕を伸ばして拘束を試みるが、拘束しようとした腕にも口が出てきて噛み付かれ、たまらず腕を元に戻したところを掴みかかれる。掌に口が出てきた両手で肩を掴まれて、逃げられずにもがいていたところに頭突きを喰らった後に大きく投げ飛ばされて、駐車場を転がり停められていた自動車の一つに背中から激突。
『このドーパント、異様に戦闘慣れしている…』
「この、喧嘩殺法は……がはっ」
あまりのダメージに変身が強制解除されて、車の残骸に寄りかかる。全身痛くて動けない。いや、それよりも……心が痛い。まさか。まさかとは思っていたが、今の戦い方を、私は知っている。高校時代、まだやんちゃしていた頃の私がコンビを組んで、茜さんのストーカーや不良をぶちのめしていた頃の、親友の戦い方にそっくりだ。
「そんな、まさか……仮面ライダーの正体が、ゆかりんだったなんて……」
「…マキさん、なんで」
【え?マキさん!?】
私が信じられないとばかりにその名を告げると、腹部に手を当ててガイアメモリを引き抜くトゥース・ドーパント。そして現れたのは、事件ばかりで全然行けてなかった喫茶「弦巻」の看板娘にして私の幼馴染にして一番の親友。
「マキさん、そのガイアメモリは悪魔の小箱なんです……それは麻薬も同然です。お願いですから手放して…」
「…ゆかりんに今の私の気持ちは分からないよ。私はもう、これを使うしかないんだ…!」
《トゥース!》
ハイライトの消えた目でガイアメモリを鳴らして露出したお腹に浮かび出た生体コネクタに、注射を打つかの様に勢いよく突き刺すマキさんの姿がみるみるうちに歯の化け物へと変貌。突進して「海坊寿司」の店内に飛び込むと数分もしないうちに倒壊させてしまった。店から出てきて私を見つめて去って行こうとするトゥース・ドーパントに手を伸ばす。
「マキさん…!」
「ゆかりん、私たち友達だよね?友達なら私を見逃してよ。それとも、私に仮面ライダーだってことを隠していたってことはもう友達じゃない?……もしも、仮面ライダーとしてまた立ちはだかるなら、ゆかりん相手でも容赦しないから」
そう言ってトゥース・ドーパントは歯の弾丸を地面に飛ばして煙幕を張ると、その場から去って行った。…まさか、マキさんがメモリに手を出すだなんて……私は、どうすれば。
「…なんでなんですか、マキさん…!」
立ち上がれもしない体で私はどうしたらいいか分からない感情を地面にぶつけるしかなかった。
過去編でさらっとゆかりの幼馴染として登場していたマキさん。ドーパントになることは必然だったのだ。
↓蒼ニ・スールさんに書いていただいたトゥース・ドーパント。
【挿絵表示】
ポジションはTレックスだけどイメージはジュエル・ドーパント+親子丼・ドーパント。そりゃ強いよね。
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