礼拝堂と思われる赤いカーペットやカーテンが目立つ広間にて。弦巻マキはその中央で、ナインテイルフォックス・ドーパントから発せられるプレッシャーに縮こまっていた。
「ようこそ、ミュージアムへ。ガイアメモリの力を引き出す強いドーパント、歓迎したしますわ」
正面にはナインテイルフォックス・ドーパント。右前方にはアルテミス・ドーパント。右後方にはシャーク・ドーパント。左前方にはエクスタシー・ドーパント。左後方にはホワイトアウト・ドーパント。ミュージアムの主要メンバーである幹部ドーパント五名に囲まれ、メモリをナインテイルフォックス・ドーパントを握られているため変身することもできず話を聞くしかない。
「あの……私の家の店を救ってくれるとは本当ですか…?」
「本当ですわ。我がミュージアム、表の顔は水都でも有数の名家、東北家。そしてわたくしはその家長にしてミュージアムの首魁、東北至子。ここまで明かすのだから信用してほしいですわ」
「東北家……そんな名家から出資してもらえれば立て直せる……!」
「そういうことですわ」
条件に釣られてついて来たが、現実的な解決法を提示されて沈んでいた気分が高揚する。親友の気持ちを裏切ってまでついてきた、目を逸らせる理由がそこにある。
「条件は……!」
「簡単です。ミュージアムに入ってください」
「え…?」
そう言ってきたのはシャーク・ドーパント。続けてホワイトアウト・ドーパントが演技の様に仰々しく身振り手振りで大袈裟に語る。それを黙って見守るアルテミス・ドーパントとエクスタシー・ドーパント。
「実は先日、うちの構成員でも有能だった売人が倒されまして。埋・め・合・わ・せ、が必要だと話してたんですよぉ」
「私の部下だった人間なんですけどね。仮面ライダーに手を出してしまったばかりに……」
オクトパス・ドーパントこと巡寧瑠夏。彼女が抜けた穴はミュージアムにとってかなりの痛手であり、メモリ売買の結果がすこぶる落ちている。シャーク・ドーパントこと星香も久々に現場に出てマキにトゥースのガイアメモリを売ったのはそれが理由だった。
「そんな仮面ライダーを、貴方は一人で戦い一方的に叩きのめした。一人だけでなく三人とも、それも最強のメモリと呼ばれるエクストリームメモリを使ったサイクロンジョーカーエクストリームさえも、簡単に退けてしまいました。それも一般のメモリで。これは凄いことです、偉業です」
パチパチパチと拍手を送るホワイトアウト・ドーパントに委縮するマキ。言ってることはチンプンカンプンだったが、褒められていることは分かる。自分じゃ想像もつかない巨悪に、正義の味方をぶちのめしたことを褒められていることを理解してしまった。親友への申し訳なさと恐怖でおかしくなってしまいそうだった。
「貴方のことは調べました。弦巻マキ。喫茶店「弦巻」の看板娘。潮風高校のOBで元軽音部、仮面ライダーWの片割れである結月ゆかりの幼馴染。必死に止めてくる幼馴染を返り討ちにするとは。覚悟は決めているようですね」
シャーク・ドーパントの、自分にガイアメモリを売った女であろう声の言葉に余計なお世話だと心の中で毒づくマキ。覚悟なんて決まってなかったが、ラーメン屋「金堂」の女主人を傷つけ、知り合いだった仮面ライダーたちを次々と重症に追い込んで、嫌でも覚悟を決めてしまったのだ。
「特筆すべきはその戦闘センスでしょうか。結月ゆかりと組んで不良の一団、総勢47名を相手にして壊滅させる。流派は
「は、はあ……」
興奮しながら顔を近づけ捲し立ててくるホワイトアウト・ドーパントに、マキは引きながら苦笑いを浮かべて頷く。
「それで、どうしますか。…残念ですが姉様が名乗った以上、後戻りはできませんが」
「もし断ったら死んでもらうのだ。ついて来た以上、その覚悟はあったのだ?」
そう言って弓を突きつけてくるアルテミス・ドーパントと、拳をパキポキと鳴らすエクスタシー・ドーパントに、死の恐怖を感じたマキは、きっと睨み付ける。
「私は、お父さんの店の為なら何でもする!もう悪魔にだって魂を売ったんだ!親友の信頼を裏切って、傷つけもした!ミュージアムに入ることも、悪の手先になることも異論はない!教えて、私はなにをすればいいの!?」
「話は簡単ですわ」
必死の訴えに、幹部四人を一歩下がらせマキに歩み寄って屈み、視線を合わせたナインテイルフォックス・ドーパント……否、実の娘の身体を乗っ取った悪魔は妖しく笑みを浮かべる。
「目障りな邪魔者である結月ゆかりを始末し、その相棒であるきりたんと呼ばれている少女を連れてくること。それを成し遂げたら幹部として高待遇で貴方を迎え、貴方の店が一生困らない援助を約束いたしますわ。弦巻マキ、貴方なら簡単でしょう?」
「始末って……私の手で、ゆかりちゃんを殺せって!?」
嘘だよね?とでも言いたげに震えて己を見上げるマキの顔がお気に召したのかにんまりと三日月の様な笑みを浮かべるナインテイルフォックス・ドーパントは、人差し指を立てて揺らしながらたしなめるように続ける。
「結月ゆかりは正直目障りなだけでどうでもいいのですけど、手を汚す覚悟は決めたのでしょう?親友だろうが手にかける覚悟を見せて欲しいのですわ」
「じゃあ、なん、で…きりたんを……」
「我々の計画に必要不可欠だからですわ。まだ準備ができてないのですけど、まあ回収が早くても問題ないでしょう」
「…そんな」
父親の店の、己の夢の存続のために親友を始末しなければいけない。五分間、葛藤し続けたマキは立ち上がり、眼前のナインテイルフォックス・ドーパントに口を開く。
「私は……」
「…ゆかりさん」
ブラックトゥース・ドーパントにズタボロにされたものの、ゆかりさんとついなさんに比べて比較的軽症で済んだ私は、相棒である結月ゆかりの自宅の自室の扉前に立っていた。あのあと、駆けつけた月読アイの乗ったリボルギャリーに回収された私達は水都総合病院まで運ばれ、打ち身などの手当てを受けた。その後に私は一人で突破口を掴むべく捜査していたが、あかりさんからゆかりさんが手当てを終えるなり病院から抜け出したと聞いて捜し、ここまで来た。
「姉ちゃん…」
「姉さん…」
ゆかりさんの双子の弟の
ゆかりさんとその
「…一応報告です。ついなさんは右足が骨折した上に爛れて戦闘不能。リリィは未だに昏睡中です。あかりさんと、元エル・ドラードの二人がつきっきりで看病してます。戦えるのは、マキさんを止められるのは私達だけです」
返事はないが現状報告に留める。ちなみにエンジンブレードは月読アイが回収して修理と強化を行っているらしい。そんなことを考えていると、返事があった。
「…止められなかったじゃないですか」
泣いていたことが分かる震えた声が扉越しに聞こえてきた。返事がしたことが嬉しくて、用意してきた言葉を続ける。
「ナインテイルフォックスに攫われたんですよ!?マキさんを助けられるのは私達だけです!方法なら、私が見つけます!だから……」
「攫われたんじゃありません、自分からついて行ったんです!私の制止の声も聞かずに、ですよ!?それに絶交だなんて……嫌ですよ、私は。マキさんと絶交だなんて考えたこともなかった。私はもう、なにもできない……」
声を荒らげたかと思えば泣きじゃくる声が聞こえる。二度も手痛い敗北を喫し、エクストリームですら返り討ちにされて、マキさんに拒絶されて……ゆかりさんは完全に心が折れてしまったらしい。いつもは仲間を勇気づけるゆかりさんがこうなったなら、私が何とかしないといけない。
「…わかりました。ここからは独り言です、いいですね」
調査した結果が記されたメモを手に、私は言葉を紡ぐ。
「私が喫茶店「弦巻」に向かうと閉まっていて、変だと思った私は無理やり侵入して、今にも首を吊ろうとしていた弦巻誠人を発見。慌てて取り押さえました」
「親父さんが…!?」
「警察からマキさんがメモリに手を出し水都の飲食店を次々と襲ったことを知らされたそうです。自分の存在が「呪い」になったのだと確信し、マキさんを解放するために死のうとした…そう語ってました。とりあえずフロッグポッドを置いて見張ってもらってます。そして、事情と真実を聞きました」
「なにを……ですか?」
そう尋ねてくるゆかりさんに、私はある確信を抱きながら続けた。
「気付いていたはずです、ゆかりさん。誰よりもマキさんの傍に、彼等親子のことを見てきた貴方なら」
「………」
「経営難も理由の一つですが……喫茶店「弦巻」はもともと、そろそろ閉店する予定でした。そのことをマキさんには黙っていた。マキさんはそれを知らずに経営難を何とかするべく暴走に至った。だけど、閉店させる理由は……」
「…マキさんのためですね」
「…やっぱり。わかっていたんですね。そしてそれを知ってしまったらマキさんが壊れると思った、だから言えなかったのでしょう。そして言えなかったせいでマキさんが暴走を続け、終いにはミュージアムの手に渡って、ゆかりさんの罪悪感は限界を迎えてここにいる。そうなんでしょう?」
「…だって、だって、言えるわけないじゃないですか!!」
怒号が響く。泣き叫ぶゆかりさんの姿を幻視する。
「言えるわけがない!マキさんの本当の夢のために、あの店を閉めるだなんて!親父さんの店を守るために、そのためだけに、自分の夢を諦めたマキさんに!言えるわけがない!」
ドンッ!と、行き場のない慟哭を壁をぶつける音が聞こえた。
「確かにマキさんは未練たらたらでしたが、大事なギターを売って未練を断ち切った!マキさんなりに納得した結果なんです!いまやあの店はマキさんの生きがいなんですよ!?ガイアメモリに手を出すほどに大事な、マキさんが守りたい夢そのものだ!それがマキさんのために無くなるだなんて……言えるわけがない」
「…弦巻誠人もそれをわかっていて、責任を取ろうとしてました。自分が死ねば娘は止まるのだと信じて。娘のために、父親のために。それぞれへ向けた思いが空回りしてすれ違ってしまったのが今回の事件です。だけど……娘に夢を追ってほしいのだと、マキさんの背中を押すのだと、そう思った弦巻誠人の思いも本物です!だって、マキさんのギターを買い戻して渡そうとした、矢先だったんですから」
「……え?」
信じられないという声が聞こえてきたので、メモをちぎって扉の隙間から部屋の中に入れて続ける。
「虚音イフに依頼していたそうなんです。ゆかりさんに知られないように、マキさんのギターの行方を追ってほしいと。ビギンズナイトの直前に行方が分かって、弦巻誠人が今の持ち主を必死に説得して、買い戻したはいいけど楽しそうに喫茶店の仕事にいそしむマキさんを見て言い出せなくて、ようやく覚悟を決めた……その矢先にこんなことに。本当に間が悪かっただけなんですよ。この思いは、伝えるべきだと思いませんか」
「………でも、次邪魔したら絶交だって……」
「絶交されるのとマキさんが悪の道に堕ちて手遅れになるのと、どっちが嫌ですか」
「…そんなの、後者に決まっているじゃないですか!」
扉が開く。そこにはいつもの男装ではなく、私服の黒のウサミミパーカーを被り紫のワンピースを身に着けたゆかりさんが、覚悟を決めた顔で立っていた。
「吹っ切れましたか?」
「いいえ!だけど、マキさんに嫌われることよりもマキさんが戻ってこなくなる方が嫌だと、私の心が叫んでいる!」
「まったく、貴方は本当にハードボイルドなんだかハーフボイルドなんだか…」
「行きますよ、きりたん……ぐうっ」
「姉ちゃん!?」
「無理しないで!」
先陣切って外に出ようとするゆかりさんだが、私に比べて重症な身体で廊下を歩こうとしてすぐ倒れてしまい、縁さんと雫さんが駆け寄ってくる。辛そうなゆかりさんに視線を合わせて、私は不敵に笑う。
「今回は私に任せてください。ゆかりさんの「昔」の相棒は、「今」の相棒である私が止めて見せます。だから……いつも通り半分だけ、力を貸してください」
「…わかりました、きりたんを信じます」
悔しげながらも私を信じてくれたゆかりさんに頷き、私は結月家を後にした。
ミュージアムの幹部候補になってるマキさん。オクトパスが抜けた穴は結構痛手だったという、至子さんの采配ミス。マキの選択は…?
地味に登場したゆかりの弟妹。両親いないのも初出かな?親を失ってるから親の夢を叶えようとするマキさんの苦しみを理解できずに苦しんだゆかりさんでした。
夢ってのは呪いと同じなんだそうです。つまりそういうことだった今回の真相。相棒として負けられないとばかりにきりたん出陣です。
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