ゆかりさんの家を後にし、事務所に帰還する私。マシンハードボイルダーには乗れないので徒歩だ。歩いて十分の近場だ。ミュージアムに襲われるかもしれないが、念のためにエクストリームメモリが近くを飛んでいるし、ファングメモリも先程ちらりと見かけた。まあ大丈夫だろう。
「あとはマキさんとどう出会うかですが…」
ゆかりさんから電話しても出ないだろう。そもそもなんでミュージアムがマキさんを連れ去ったのか。…恐らくはオクトパスの穴埋めにミュージアムに勧誘するつもりなのだろう。トゥース・ドーパントの通常の戦闘能力はともかく、覚醒したブラックトゥース・ドーパントの能力と、変身者であるマキさんの戦闘センスが合わさった戦闘能力は異常の一言だ。サイクロンジョーカーエクストリームでも歯が立たず、アクセルのマキシマムドライブですら通用せず、ハイドープで頑丈なエルドラゴを昏睡させた。
「…一応作戦は考えましたけど勝てますかねこれ?」
改めて戦績を並べたら勝てる気がしない。コーティングされている幹部専用ガイアメモリではない、一般ガイアメモリの中ではオクトパスと並ぶ、いやそれ以上の強さだろう。ミュージアムの構成員、いや幹部に勧誘されていてもおかしくない。ただ、条件もなしに幹部にするとは考えづらい。幹部になるための昇級試験かなにかがあるはずだ。
「恐らく、正体を明かした上で逃げられないようにするはず…」
…あの「面白いこと」が大好きなホワイトアウト・ドーパントもいる組織だ、趣味の悪いことで、さらに確実に遂行できる条件を提示するはず。と、事務所に帰ってくると、扉が不自然に開いていた。あかりかリリィか、どちらかが帰ってるのかな?と思って中を見てみるも、誰もいない。隠し扉を開けてガレージも覗いてみると、私の作業台を使って月読アイが工具を手にしてエンジンブレードを修理していた。
「月読アイ。あの扉は貴方ですか?不用心ですよ」
「なんのこと?わたしはいつもどおり、鳴花ーズにつながってるかくしとびらからはいったんだけど」
顔を上げて私だと確認するとすぐに視線をエンジンブレードに戻して、作業を続ける月読アイ。小さな手を使って細かい所の配線を弄っていた。やはり大人の頭脳と子供の身体を有しているらしい。
「そんなものがあったんです?初耳なんですけど」
「もともとはイフがかいとったよるのBAR兼ひるの探偵事務所を、わたしがつれてきたこたちのかくれみのとわたしのひみつきちとしてゆずってもらってかいぞうしたばしょなんだ。イフが紲星財閥のざいりょくをかりたらしいよ」
「あかりさんの実家もここに関係していたんですね……なるほど。それで、少し開いていた事務所の扉は貴方じゃないんですね?」
「わたしはそこからはいってないし…さっきかえってきたかなってけはいがあったけどすぐでていったよ」
「そうですか、ありがとうございます」
ガレージから出て、事務所に戻って考える。この嫌な予感はなんだろう。胸騒ぎがする。ゆかりさんを捜そうとした私が不用心に鍵をかけずに出ていったとはいえ、「close」の掛札はちゃんと掛けてあった。客ではない筈だ。休みだとわかっていて尋ねる人がいた、と考えるのが自然だ。そんな人物は………一人だけ。
「……まさか!」
慌てて外に出て扉に鍵をかけて階段を駆け降りる。外に出ると飛来したエクストリームメモリに体を預け、空を駆って目的地へ急ぐ。もしも、訪ねてきたのがマキさんなのだとしたら。もしも、あの悪趣味な連中が提示した条件が、ゆかりさんの始末だとしたら。次に向かう場所なんて、決まっている。
「急いでください、エクストリーム!ゆかりさんの家へ!」
ピンポーンとインターホンのチャイムの音が鳴る。また来客か、きりたんが戻って来たんでしょうか、などと自室でベッドに寝込みながら考える。ガチャッという扉を開ける音と同時に雫の悲鳴と
「強盗?いや、開けたってことはインターホンで誰なのかを見たはず……なのにあの二人が開けたってことは……まさか、マキさん!?」
「そうだよ、ゆかりちゃん」
ガチャリと部屋の扉を開けて、メモリを手にしたマキさんが姿を現した。縁ちゃんと雫の声が聞こえない。まさか…!?
「大丈夫、雫ちゃんはドーパントしての私の姿を見て気絶、縁くんは立ち向かってきたけど変身を解いて戸惑ったところを腹パンして気絶させといたよ。あの二人まで傷つけるのは本意じゃない」
「…何をしにきたんですか。まさか、自らを姿を現して絶交するために…!?」
そう尋ねると、マキさんは苦虫を噛み潰した様な表情のあとに悲壮感と決意を漂わせた顔となるとメモリを構え、私も咄嗟にダブルドライバーを装着する。
「…ううん。だけど、うん。絶交してくれていいよ。されて当然のことを今から私はするから」
《トゥース!》
メモリを腹部に突き刺してトゥース・ドーパントに変貌し、まるで涙を流す様にして漆黒の液体に包まれてブラックトゥース・ドーパントに姿を変えるマキさん。ジョーカーメモリを取り出すも一瞬で扉からベッドまでの距離を詰められ、三本指の右手で首を締め上げられ持ち上げられる。
「ぐっ、あっ……!?」
「ごめんね、ごめんね……ゆかりちゃん。ミュージアムは金を援助する代わりに幹部になれ、幹部になりたいならゆかりちゃんを殺してきりたんを連れ去れって……!」
涙の様に頭部の目に当たる歯の隙間から黒い液体を流しながら声を荒らげるブラックトゥース・ドーパント。手首を掴んで握りしめて拘束をほどこうとするがビクともしない。息が、できない……意識が……。
「私は親友の命よりも店を、私の夢を選んだんだ。軽蔑していいよ。こんな親友、絶交だよね?恨んでいいよ、私は地獄に落ちて当然だ。…あんな奴等と戦うんでしょ?駄目だよ、私にも勝てなかったのに、ゆかりちゃんたちが勝てるわけがない。惨たらしく殺される、その前に死んだ方がいいよ。安心して、毒は使わない。あんな悪魔の手で殺されるぐらいなら私が一思いに殺してあげるから…!」
「ぐぅ、あぁあああ!?」
せめて誰かに届けと苦悶の声を上げる。ああ、私は昔の相棒に殺されて一生を終えるのか。きりたん、私の死を乗り越えて、ついなさんかリリィを相棒にして、ミュージアムを倒せることを祈ってます……。
「ぐっ?」
すると視界の端、カーテンに遮られた窓を何か小さな鳥の様な物の影が飛来してきたのが見えた。さらに鳥の影から人影が窓に向かって飛び込んでくるのも見えた。確信する、私の「今の」相棒が来てくれたのだと。ならば、やることは一つだけ……!
《ジョーカー!》
「無駄だよ、変身してもそんな状態じゃなにも……」
「ぐっ…そう、いえば……あなたは、しり、ません、でしたね……」
【《ファング!》】
手にしたままだったジョーカーメモリを鳴らして何とかドライバーに装填。脳内でもう一本のメモリの音を聞きながらブラックトゥース・ドーパントの注意を引くことに集中する。
「…ダブルに変身できるのは、私だけじゃない」
「なにを…!?」
「「変身!」」
《ファング!ジョーカー!》
意識が私の身体から飛んで、次の瞬間にはきりたんの身体でダブルに変身して自室の窓を突き破るところだった。
ゆかりさんの家に飛来、空から玄関の扉に挟まれる形で倒れている縁さんの姿が見えて遅かったのだと確信。ならばと加速したエクストリームメモリから飛び出す形で、腕を交差して顔を守りながらゆかりさんの部屋の窓を突き破らんとすると、いつの間にか腰に装着されていたダブルドライバーにジョーカーメモリが転送されてきて咄嗟に左手で装填。同時に右手にメモリーモードになりながら飛び込んできたファングメモリを掴んで起動させながらドライバーに装填。窓を突き破る瞬間にドライバーを展開する。
「「変身!」」
《ファング!ジョーカー!》
部屋の中からの声と重なりながら、変身して窓に飛び込むと、そこにはゆかりさんの首を掴んで持ち上げているブラックトゥース・ドーパントがいた。
「お前は……まさか、きりたん!?」
『貴方に見せた姿とは逆で、私がきりたんの身体に入ってるんですよ、マキさん』
「まさかと思って急いだ甲斐がありました。焦っていたのか、事務所の扉を閉め損ねたのはやらかしましたね。『さあ、お前の罪を数えろ!』」
「今更だよ、罪なんていくらでも被るさ!」
ファングジョーカーの、サイクロンジョーカーエクストリームよりスペックの高い身体能力をフルに使った右拳と、ゆかりさんの身体を手放して即座に構えを取ったブラックトゥース・ドーパントの凄まじい速度で放たれた右拳が激突。
『今の私達は牙の切札、ファングジョーカー!』
「目には目を、歯には歯……否、牙を!」
「私の歯は、決して砕けない!」
拮抗するも双方弾かれ、私達は割れた窓から飛び出して道路に着地。次の瞬間、闘争心に飲まれてしまう。
「ヴァアアア…!」
『落ち着いてきりたん。私が殺されかけて怒ってるのはわかりますけど、平常心を保たないと勝てません!』
「ヴァアァアア!……なんとか、落ち着きました」
「私に勝てるとでも思っているの!?」
同じく割れた窓を乗り越えて飛び降りてきたブラックトゥース・ドーパントが目の前に着地。飲まれないようにした闘争心を上手く調整して、タクティカルホーンを一回叩いて荒々しい動きで飛びかかる。
《アームファング》
「ヴァアアッ!」
「無駄だよ!」
アームセイバーを展開して斬りかかった右腕に口が展開。噛み付かれてさらに毒で浸食され、ぽっきりとアームセイバーを折られてしまう。やはり接近戦は厳しいか。ならばと大きく跳躍して距離を取る。
《ショルダーファング》
「ヴァアッ!」
「こんなもの!」
ショルダーセイバーを展開して手に取り投擲する。旋廻して何度か斬りつけることに成功するも、やはり噛み付かれて噛み砕かれる。やはりあの口は自分の意思で展開していて、自動的に展開するわけではないようだ。…やはり、あの作戦しかないか。ジョーカーメモリを引き抜いて腰のマキシマムスロットに装填する。
「ゆかりさん、怒らないでくださいよ?」
『きりたん…?』
《ジョーカー!マキシマムドライブ!》
「でやぁあああああ!」
事前にゆかりさんが決めてるわけでもないので、腰のマキシマムスロットを叩いてマキシマムドライブを発動後、何も考えずに叫びながら跳躍して、紫の炎を纏った右足を突き出して飛び蹴りを放つ。
「正気!?噛み砕いてやる!」
ブラックトゥース・ドーパントは両腕を広げ、胸部の口を開いてむしろ招き入れるように胸部に飛び蹴りを受けて、私の右足の脛を噛み付いて受け止めた。装甲越しに血が溢れて、毒が沁み渡り激痛が走り着地した左足でアスファルトを踏み込む。
「ぐあぁああああああ!?」
『きりたん!?』
「私が罪を受け入れて、なにもせずに受け止めると思った?残念だけど、そんな甘くは…」
「ああああああ……いえ、甘いですよ。だって、噛み切らなかった。信じていましたよ、貴方が優しさを捨てきれていないのだと」
「え…?」
呆けるブラックトゥース・ドーパントに肉薄しながら、タクティカルホーンを三回叩く。作戦通り、これで決まりだ。
《ファング!マキシマムドライブ!》
「貴方が硬いのは表面だけです、内部はそうでもない!ゆかりさん!」
『なんて無茶を……はい、きりたん!』
「『ファングストライザー!』」
そしてブラックトゥース・ドーパントの胸部の口の中にある右足にマキシマムセイバーを展開。そのまま左足で踏み込んで、ブロック塀にブラックトゥース・ドーパントを背中から激突させ逃げられないようにすると右足をちぎりかねない勢いで振り抜いて内部を引き裂いてく。
「グアァアアアアアア!?」
血だらけの右足をアスファルトについて着地して振り返ると、同時に背後でブラックトゥース・ドーパントは爆散。ガイアメモリの残骸と共に倒れ伏したマキさんを見下ろした。
「…今の相棒として負けられませんでした。それに、ゆかりさんが犯した罪は相棒である私が一緒に償わないと」
「なんの、こと…?ゆかりちゃんは、何も悪くないよ……」
『マキさん…私は知っていて黙っていたことがあります』
「貴方のお父さんは、貴方の本当の夢を応援するために喫茶店をやめようとした。それが真実です」
「…へ?」
真実を告げると信じられないとばかりに黒焦げの姿で呆けるマキさん。終いには涙を流し始めた。
「そんな、じゃあ、私はなんのために……」
「一人で抱えて、罪を犯してまで解決しようとした。それが貴方の本当の罪です。…貴方のお父さんが貴方のギターを用意して、待っています」
『マキさん……罪を償って、帰ってきてください。幸いなことに誰も死人は出ていません。マキさんがわざわざ人を遠ざけてから襲撃していたおかげですよ』
「…私を許してくれるの、ゆかりちゃん」
そう涙ながらに問いかけてくるマキさんに私達は頷いて答える。
『はい……だって、マキさんはいつだって私の親友です』
「そっ、か……」
その言葉を最後に気絶したマキさんを抱えて、私達はその場を後にしたのだった。
気絶したマキさんを警察に送り、この事件は終わった。ついなさんと、目を覚ましたリリィは未だに入院中だ。だけど誰も死人は出なかった。それだけでも救いだと思う。
「きりたんはエクストリームメモリに入って治療を終えましたし、便利な身体ですね…」
そんなことをぼやきながら東北外道の資料を漁る。きりたんは何を思ったのかガレージに籠って何か作業している、新しいガジェットだろうか?と首を傾げながら資料を手に取り、資料の間に挟まっていた写真が床に落ちたので拾い上げて…驚愕した。
「…弓弦伊織?」
東北外道の若い頃と記されている写真に写っていたのは、犯罪者だった知人と瓜二つの青年の姿だった。
無敵のトゥースの弱点は内側でした。過去最強の一般ドーパントであった。自滅覚悟の右足を犠牲にしたファングストライザーで決着です。
地味にアイの事情もちょっとだけ判明。きりたんも何やら作業を始めた模様…?そして明かされたのは、まさかの人物との関連。
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