目を覚ましたら事務所の寝床で。寝ながら涙を流していたらしく大きく濡らした枕から顔を上げて目元をこする。
「私、なんで眠って……そうだ。ゆかりさんが…」
いつもデスクにいるはずのゆかりさんがいないことで、現実を思い出す。あのドーパントに敗れて、ゆかりさんが攫われたんだった。ゆかりさんの意識が飛んでも私はなんとか意識を保ってたのに、途中でダブルドライバーを無理やり外され、更にはルナメモリまで奪われてしまった。サイクロンとヒートが手元に残ってたのは不幸中の幸いだが、ダブルドライバーごとゆかりさんを攫われたのは不味い。
「…ダブルドライバーが装着されないということはゆかりさんがダブルドライバーを奪われたということですか……」
いや、え、どうすればいいんですか!?ゆかりさんがダブルドライバーを取り返すのを信じて待つ…?いや、あのドーパントは最初からゆかりさんを狙っていたように見えた。ストーカーだと貞操が危ない。ゆかりさん喧嘩は強いが押しに弱いし。
「あ、きりたん起きましたか!丸一日寝たきりで心配しましたよ!」
「恐らくダブルドライバーを無理やり外されたのが原因ですかね…。あかりさん。ゆかりさんは!?」
「捜索してますけど手がかり一つ…」
事務所に帰ってきたあかりさんによると、現在ついなさんとその部下二人、リリィとその部下二人、情報屋たちが総動員でゆかりさんを捜索しているらしい。しかしかなりド派手なドーパントのはずなのに、ネットにすら足取りが存在せず。ネットに置いて無敵とも言っていいネルさん曰く、彼女すら上回るハッキング能力で自分の足取りを消している…ということぐらいしかわからないらしい。
「ネルさんってゆかりさん曰くネットの、特に掲示板に精通しており9つのニュースサイトの管理人でさらには140のツィッターアカウントを持ち合わせ、着火や火消などを自在に行えるやべーやつ…でしたよね?それすら越える…?」
「ネルさん曰く「ありえない」とのことです。ドーパントの力なんですかね?」
「いや、あのドーパントにそんな細かいことができる様には見えませんでしたが……」
思い出す限り、馬の下半身による機動力と槍を利用した騎馬戦、炎を操ることに長けているように見えた。明らかに戦闘タイプだ。そんなネットを操る能力がある様には……だとすると、それだけの技術力がある人間?
「…まさか」
「きりたん?」
犯人がストーカーだとするならばあるはずだ。ストーカーが使う仕掛けが…!いきなりソファの下や机の裏側を始めに普段死角になっている場所を確認する私に首を傾げるあかりさん。説明している暇もないし説明したらばれてゆかりさんになにされるかわからないから言えない。事務所内には見当たらなかったので窓を開き、窓枠の下を覗きこんで…見つけた。不自然にくっ付いたテープに包まれた小型の機械を。
「やはり…!」
摘み上げる。テープは触った限り防水でさらに粘着性が高い物、機械は恐らく盗聴器。高性能の代物だが手作り感が凄い。技術力から見てゆかりさんを攫ったであろうケンタウロスの仕掛けたものとみて間違いないだろう。ハンカチにくるんでそっと事務所の机に置く。
「それは…?」
「しー。盗聴器です。これを逆探知して居場所を……きゃっ!?」
しかし、突如盗聴器が爆発。木端微塵に砕け散ってしまう。…くっ、異常があれば自爆する機能…?無駄に高性能ですね!?
「くっそ…!」
「大丈夫ですかきりたん。火傷…今氷を!」」
バタバタと冷蔵庫に向かうあかりさんを見ながら思考する。ネットの目撃情報などはハッキングして証拠隠滅し、さらには盗聴器まで…。相当な技術力を持っている。だが、自爆させるためにセンサーを使っていた形跡はなかった。何らかの手段でこちらが盗聴器を見つけたことを察知し、自爆させたことになる。あるとすれば……外か。
デンデンセンサーを手に窓から周囲を見渡してみる。人影、見たところ真下で箒を手に掃除している鳴花ヒメ一人ぐらいしか見えない。車の類……何台か道路脇に止められているが、デンデンセンサーで後部座席まで確認するがおかしいところはない。近くの建物類は、仕事している人間がちらほらと見えるが特に違和感ない。あとは…………うん?
「電柱の上に……フクロウ?」
両翼をお腹の前に置いているこげ茶色のフクロウがジーッとこちらを見つめている。昼間だと言うのに珍しいな。…うん?翼の間に……6の文字…?変だなと思いデンデンセンサーを向けると飛び立つフクロウ。慌ててデンデンセンサーで見ると、機械仕掛けのフクロウだった。メモリガジェットの様に置時計型フクロウらしい。アレで間違いない!
「逃がしません!」
「きりたん!?」
小さな体を利用して窓枠に跳び乗ると後ろから氷嚢を持って来たあかりさんの驚いた声が聞こえたが、気にせず飛び降りるとそのまま走って追いかける。エクストリームメモリを呼ぶのも、入る時間も惜しい。しかしちゃんと羽ばたいて飛ぶのはバットショットを思い出す。ゆかりさんのストーカーだとしたらまさか見ただけでメモリガジェットに類似したものを作ったとでもいうのか。すると後ろからエキゾーストノートが聞こえて振り向くと、ミダスホイーラーに乗ったリリィがやってきた。
「きりたん、どうしたんだ?事務所に戻ろうとしたら走って行くお前が見えたからついてきたが」
「いいところに!多分ですがあの機械仕掛けのフクロウがゆかりさんを攫った犯人の手先です!あれを追いかければ…」
「なるほど。ゆかりが捕まってる場所まで案内してくれるってことだな。乗れ!」
そう言ってヘルメットを投げ渡してきたので受け取り被るとリリィに襟元を掴まれて持ち上げられ、後部座席に乗せられる。
「しっかり掴まってろよきりたん!」
「逃がさないでください!」
そのまま全速前進でフクロウを追いかける。ゆかりさん、待っていてください…!
私の服を丁寧に脱いで金庫にしまったマユさんにドン引きしつつ、マユさんが普段着であろう服に着替えている間、部屋の中を見渡したがダブルドライバーもガイアメモリもメモリガジェットもない。…普通に考えれば金庫の中だろうがさすがに番号は覚えられなかった。そのまま彼女に言われるまま家を移動する。
「…で、私を捕らえてどうしたいんですか。ミュージアムにでも売る?そんな価値ないと思いますけど」
マユさんにリクエストされて台所で料理しながらそう問いかける。あのあと手放して床に落ちていた包丁を手に脅そうとしたら普通に取り上げられてしまった。今も普通に包丁を使わせてもらっているところから、もし刺されそうになっても返り討ちにできる自信があるのだろう。かなりハイスペックである。
「まさか。ミュージアムなんかに渡したりしません。紲星探偵事務所の人間にも。私と一緒にこの家で暮らしてくれたらいいんです」
私が差し出したチーズハンバーグを美味しそうに食べながら答えるマユさんからは純粋な好意と、敵意が見えた。私の事が好きだと言う言葉に嘘はないのだろうが、ミュージアムや紲星探偵事務所に敵意を抱いているのも間違いない。でもそうはいかないんだ。
「でもきりたんには私が必要で…!」
「そのきりたんの母親から頼まれたんですよ。ゆかり様がこのまま戦い続けると殺されてしまうから、このメモリを渡すから貴方が救ってやりなさい、と」
「え…?」
そう言って炎を纏った槍を手にした女でBと描かれたメモリを取り出し、机に乗せて見せるマユさん。まさかそのメモリを渡したのはミュージアムではなくて、月読アイ…!?
「私は嫌です。あなたが殺されるのを見るのは嫌です。ボロボロに傷付きながらも立ち上がるゆかり様はかっこいいですが、命を落とすのは駄目です。このまま見守っていてもよかったですが、このままでは死んでしまうぐらいなら……ねえ、私と暮らしましょう?何一つ不自由はさせないことを誓います」
「…貴方の愛はわかりました。だけど、私は探偵で、きりたんの相棒なんですよ」
「あのナインテイルフォックスやホワイトアウトのドーパントに挑んだら貴方は殺されます。私にはわかりますわ。今までの貴方達の戦いを、見て来ましたから」
「…確かにサイクロンジョーカーエクストリームでも手も足も出ませんでしたが、だからって諦める理由にはなりません!私は大好きなこの水都と言う街を守りたい!」
「その気持ちは分かりますわ。だけど、大好きな貴方に死なれたくないと思っている私の様な人間もいるとわかってくださいまし!」
真剣な目で私を見据えて声を荒らげるマユさんに、思わず怖気づく。本気で私を思ってくれているのだとわかる。だけど、だけど。ここで終わるのは嘘だろう。
「貴方の心配は分かりましたけど…それでも、私は」
「まあいいですわ。ゆかり様が諦めてくれるまでずっと愛を育むことができるのですから」
「…いやまあ、キスはしてしまいましたけど…」
考えろ、考えろ私。机の上にあのメモリが置かれている。玄関の外の炎の壁はドーパントの能力によるもののはずだ。メモリブレイクする事さえできれば外に出られるかもしれない。ならばと、注いだ牛乳を入れたコップを置くふりをしてメモリをこっそり奪い取るが、次の瞬間にはすり返されてしまった。……本当にハイスペックですねこの人は。
「メモリを奪い取ればなんとかなると思いました?貴方が望むならさしあげますが、力づくなんていかが?」
「いいんですか?喜んで!」
ハンバーグを美味しそうに食べ終え牛乳を飲み干すと立ち上がり、スカートの裾を掴んで持ち上げてぺこりと挨拶するマユさん。メモリを取らんと手を伸ばすが、手で払いのけられマユさんはくるりと回転。足払いを仕掛けてきたのでバックステップで回避。廊下まで後退すると台所の入り口に立ったマユさんがつまんだメモリをひらひらと揺らして挑発してきた。
「こんの!」
「はい、さしあげますわ」
「えっ」
手を伸ばして突進するも、メモリを放り投げられて硬直。目でメモリを追ってしまうと顔に掌底を受けて怯んでしまい、メモリをキャッチしたマユさんに壁まで追い詰められて顔と顔がすれすれ間近に追い詰められ、顔の横に壁をドンと叩かれる。いわゆる壁ドンだった。
「っ!?」
「あら。まっすぐ見つめられると顔を赤らめるのですね。新発見ですわ。しかしメモリがなくともこの身のこなし、さすがはゆかり様ですわ」
「…むしろなんで貴方はこんなに動けるんですかね…」
「わたくし、愛する者の為なら努力は惜しみませんわ!」
「答えになってません!」
メモリを奪い取ろうと手を伸ばすが、マユさんはひらりと回転しながら距離を取り、ブラウスの胸元のボタンを外して大きく開くとメモリを鳴らす。
《ブリュンヒルデ!》
「ああ、滾ってきましたわ!あのゆかり様が私だけを見て!私だけのために考えてくれている!滾るなと言う方が無理ですわー!」
そして左胸の上部に刻まれた生体コネクタが浮かび上がるとメモリを突き刺し、その姿が件のドーパント……ただし屋内だからか下半身がハイヒールの白銀色の鎧を身に纏った二本脚のものになっている形態に変身する。あのケンタウロス形態は形態変化だったと…!?
「これ以上騒がれたら近隣住民に気付かれそうなので、申し訳ないですが眠っていただきますわ」
「ぐっ!?」
膨大な熱気を当てられ、平衡感覚を狂って倒れてしまう。これは熱失神…?そこらへんの知識まで潤沢ですか、全く才能の無駄遣いと言うか……くそっ、変身できないとなにもできないんですか、私は……
「おやすみなさい。私だけの騎士様」
目覚めるきりたん、相変わらずゆかりより優秀な推理力でクロックロウを発見。自力の移動手段がエクストリームメモリかリボルギャリーしかないのがたまにきず。
割と平穏に過ごすマユとゆかり。メモリは「ブリュンヒルデ」今回の黒幕が月読アイとも判明です。ついに本気を出してきたきり×ゆか反対過激派。
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