ボイロ探偵W   作:放仮ごdz

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どうも、お久しぶりです放仮ごです。長い間放置してました申し訳ない。更新頻度はだいぶ下がりますが必ず完結させて見せます故。

ついに本格的に動き出すホワイトアウトの話。楽しんでいただけたら幸いです。


第五十三話:凍り付いたW/悪夢の続き

 杏璃万結さん…ブリュンヒルデ・ドーパントの事件が終わり一週間。猫探しや浮気調査など通常の探偵業務を行いながら無作為に現れるドーパントの対処をする日々を送る私達紲星探偵事務所だったが、やはり寂しい。窓を開けながら思わず曇天の空を見やる。

 

 

「ついなさん…今どこに…」

 

 

 あの事件以来、ついなさんが一度も顔も出さないし連絡も寄越さなかったのだ。ドーパントの事件で遭遇する警察は花さんや有阿刑事だけで、花さんたちもついなさんがどこに行ったのか知らないらしい。刑務所の杏璃万結さんに心当たりを聞きに行ってみたものの、心当たりはないと言う。きりたん曰くあの事件の黒幕だった月読アイにも話を聞いたが、彼女も捜しているという。私達も手分けして水都中を探してみたが見つからない。

 

 

「ついなさん…心配です」

 

「せめて痕跡があれば検索できるんですけどね…」

 

 

 いつもより食欲を失って白飯三杯目を黙々と寂しそうに食べるあかりの呟きにきりたんが肩を落とす。手がかりすら見つけられなくて申し訳ない。すると扉が開いてリリィさんが顔を出した。

 

 

「おう、見つけたぞ」

 

「リリィ。手がかりを見つけたんです?」

 

 

 おのずと視線が集まると、リリィは手を外に伸ばして何かを引っ張ってきて、中に入れたそれを見て驚愕する私達。

 

 

「いや、本人だ」

 

「ううっ……お前たちは誰や、ここは、この街は何処なんやー!」

 

 

 リリィに首根っこを掴まれたその人物は、髪を下ろしていて滅多に見ない涙目でじたばたしているけれど、如月追儺その人だった。え、え?なにがあったんです?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今頃、ついなちゃんは探偵事務所に保護されてる頃ですかねえ」

 

 

 東北家の屋敷の一室にて。自分に割り当てられた書斎の机に向かって新作を執筆しながらフフフッと笑うのは、水都が誇る人気小説家にしてミュージアムの幹部である女性、東北奏楽(とうほく そら)

 

 

「あれ、拷問してたあの子、解放したんです?」

 

 

 その近くの椅子に座って小説を読んでいた同僚である東北星香が気になったのか本から視線をずらして尋ねると、東北奏楽は嬉々として筆ペンを走らせながら答える。

 

 

「ホワイトアウトの力で私が戦友の仇だという情報を漂白させて聞けることは全部聞いたんで、あとは面白くなるかなと期待を込めてメモリに関する記憶を全部漂白して送り出しておきました。ダブルとの関係も一からやり直しです、どうなりますかね?」

 

「うわあ…鬼畜ですねえ。記憶がないってのはつまりドーパントも知らない状態でこの欲望の街にほっぽり出したってことじゃないですか」

 

「もしなにもできなければそれまで。でも、私は確信してます。苦難を乗り越えて私の下に再び訪れると…!それは絶対面白い!最高傑作になるでしょう!そのために彼女を招いたのですから」

 

 

 そう言って指を鳴らす東北奏楽の合図を引き金に、隣の部屋への扉が開いてその人物は顔を出す。

 

 

「……本当に悪趣味だね」

 

「貴方にはこのガイアメモリとメモリ施術装置、ガイアメモリ強化アダプターを授けます。受け取って、くれますよね?」

 

「……わかった。でも、その代わり…!」

 

「約束は守りますよ、ええ。私は最高に面白い物を見るために動いているだけでそこまで外道(げどう)ではありませんので」

 

「どの口が…!」

 

 

 笑顔でいけしゃあしゃあとほざく東北奏楽に、怒りのまま殴りかかろうとするその人物。その眼前に人差し指が立てられ、幼子をたしなめす様にゆっくりと振られる。

 

 

「おや。逆らうのですか?それもいいでしょう、面白い!そのメモリを強化すれば私のメモリに勝つことも可能だと思いますよ?」

 

「っ…!」

 

 

 その言葉を受けて、決意したのかメモリを挿入したメモリ施術装置を自身の右掌に押し付けるその人物は、引き抜いたメモリを生体コネクタに突き刺してその姿を変えた。

 

 

《フレア!》

 

「うおおおおおっ!」

 

 

 『太陽風』の記憶により燃え盛る人型の火の玉とも言うべき姿に変貌したフレア・ドーパントは燃え盛る掌を東北奏楽に押し付けんとするも、東北奏楽はあっけなく砕け散ってしまい大きく空ぶってしまう。

 

 

「え…!?」

 

「あはは、氷人形ですよ。まさか、私が何も対策せずに貴方にメモリを手渡すわけがないじゃないですかー。どれぐらいの精度で動かせるかもついでに試してたんですよー」

 

 

 そう言って真っ白な壁から染み出す様に姿を現すホワイトアウト・ドーパントの頭部を掴まれるフレア・ドーパント。咄嗟に自身の炎をさらに燃やして迎撃せんとするが、ホワイトアウト・ドーパントから吹き荒ぶ冷気がそれを許さない。脳に侵食してくる「白」に絶叫が上がる。

 

 

「うあああああああっ!?」

 

「あらごめんなさい。直接これをやると冷えちゃうんですよ。少しだから我慢してくださいね?」

 

「相変わらず悪趣味ですねえ奏楽さんは。さっきのは肝が冷えましたよ」

 

「おや、心配してくれたのですか?」

 

「まさか。で、どうするんです?」

 

 

 四肢の力を失い変身が解けて崩れ落ちたフレア・ドーパントだったその人物を見やりながら尋ねる東北星香。するとホワイトアウト・ドーパントは変身を解いて、凍り付いた(・・・・・)己の腕を取り出した高そうなライターで炙りながら東北奏楽は嗤った。

 

 

「そりゃあもちろん。怖気づいてガイアメモリ強化アダプターも使えないその理性含めて漂白してやるのですよ。面白いでしょ?」

 

「いや、趣味悪いです」

 

「ええー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はとりあえずついなさんを客席に座らせ、なんとか状況説明をしていた。

 

 

「ここは水都という場所で、ドーパントとかいう怪物が暴れていて、うちはそれを倒す仮面ライダーでお前たちはその仲間?なんの特撮や、そんなん鬼だけで十分や。人をおちょくるのも大概にせい」

 

「いや本当なんですよ…」

 

「こいつ頑なに信じないな、鬼やらは覚えてるのに鬼=不完全なドーパントというのも忘れてやがる」

 

 

 うがーっと威嚇するついなさんを相手しながら溜め息を吐く私とリリィ。あかりなんか涙目でついなさんもそれを見てビビって一考してる。そしてきりたんはというと、検索していた。

 

 

「どういうわけかメモリやドーパント関係を忘れてしまったようですが……きりたん、なんかわかりました?」

 

「記憶を奪うことや消すことができるメモリは数多くありますが……この感じ、一番可能性があるのはこれですね。ホワイトアウト……神威岳の命を奪い、赤井快子をメモリの毒素で死なせたミュージアムの幹部、東北奏楽のメモリです」

 

「東北奏楽の…!」

 

「ああ、オレが知らない幹部か」

 

「ちょっと待ちぃや」

 

 

 私が驚き、リリィがあまりピンと来ないのか首を傾げる中、反応したのはついなさん。怒りに満ちた表情を浮かべている。

 

 

「…岳と快子が死んだ?そのメモリとドーパントとやらのせいでか?それは本当か」

 

「嘘は吐きませんよ。…貴方の中では生きていることにでも?」

 

「いいや。なんでか分からんが過程をすっ飛ばして、二人が死んでしまったことは覚えとる。なのに、今の今までおかしいとも思わんかった……今一度教えてくれ、メモリのこと、ドーパントのこと。うちはそいつを許せへん」

 

「…いいでしょう」

 

 

 きりたんが頷き、私とリリィも顔を見合わせて一緒に知ってる限りのことを話すことにした。如月追儺、仮面ライダーアクセルのことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくかくしかじか。知る限りのついなさんの過去とこれまでを語った私達。しかしついなさんはしっくりこないようで腕を組んで目を細め、首を傾げていた。

 

 

「岳を殺し快子を唆した挙句に見殺しにした怨敵、ホワイトアウト・ドーパント……駄目や、思い出せへん。怒りはあるのに、全然そいつに対して何の感情もわかへん。なんやこの感覚」

 

「ふむ。どうやらホワイトアウト・ドーパントへの悪感情も漂白されてしまったようですね。0はいくら足しても増えることはないと言う事でしょう。これは厄介だ、自分から戻らないと「他人事」として認識してしまうようです」

 

 

 ついなさんを観察したきりたんの説明に首を傾げる。リリィは理解したのか「なるほど」と頷いているがさっぱりだ。それに気付いたのかきりたんが溜め息を吐く。

 

 

「いいですか、つまり0×5=ってことです」

 

「ああ」

 

 

 その説明でさすがに分かった。さすがきりたんと称賛しているとまた溜め息を吐かれる。馬鹿な相棒ですみません。

 

 

「ではどうすれば?」

 

「やはりホワイトアウトを見つけてメモリブレイクするしか手はないでしょうね」

 

「だったらもうミュージアムに乗り込むか?」

 

「そうしたいですけどねえ…」

 

 

 きりたんを見る。やはり、父親は姉弟たちのことを吹っ切れてないらしい。もう少し時間を置きたいところだ。

 

 

「とりあえず警察に行って見つかったと花さんたちに……」

 

 

 そう言った瞬間、結構近場から聞こえてくる爆音と悲鳴。思わず顔を見合わせる私ときりたんとリリィ。

 

 

「あかり!ついなさんとここで待機していてください!」

 

「あ、はい!」

 

「なんや?ドーパントって奴が出たならうちも…」

 

「大丈夫です!アクセルの変身も忘れてしまったあなたに戦わせることはできません!」

 

 

 あかりとついな、きりたんを事務所に置いて飛び出して、リリィと共にそれぞれハードボイルダーとミダスホイーラーを走らせて急行する。この方向は、千絵美尾大学…!?あの煙は、火災ですか…!

 

 

「きりたん!」

 

【救助ですね!ヒートメタルで行きましょう!《ヒート!》】

 

《メタル!》

 

《ゴールド!》《ルーラー!》

 

 

 私は片手で運転しながらメタルメモリを取り出して鳴らし、あらかじめつけておいたダブルドライバーに、転送されてきたヒートメモリも押さえて装填。リリィも片手で運転しながら二本纏めて鳴らして器用に装填、ポーズをとることなく両手でバイクのスロットルを上げながら突き進む。

 

 

「【「変身!」】」

 

《ヒート!メタル!》

 

《ゴールデンルーラー!》

 

 

 そして私は仮面ライダーW、ヒートメタルに。リリィは仮面ライダーエルドラゴ、ゴールデンルーラーに変身、そのままバイクから飛び降りて炎上するキャンパスに飛び込んだ。

 

 

「よし、これで全員ですかね…!」

 

「聞こえてきた声的にはそうだな」

 

 

 ルーラチェインで要救助者を何人も持ち上げたエルドラゴと共に、四人の人間を担いで外に飛び出すと同時に今の今までいたキャンパスの一棟が崩壊。救助した人間を下ろしつつ警戒する。

 

 

「…エルドラゴ、犯人を見ましたか?」

 

「いいや。…なあおい、火元は見たのか?」

 

 

 私の問いかけに首を振ったエルドラゴが助けた人間に問いかけると、咳き込みながら燃えるキャンパスの残骸を指差した。

 

 

「いや、だから…」

 

「…どうやら中にまだいたみたいです」

 

「なんだって?」

 

 

 振り向く。そこには、燃え盛るキャンパスの残骸を踏みつけながら歩いてくる、燃え盛る火達磨の様なドーパントがいた。

 

 

「ウゥアアアアアッ!!」

 

 

 私達を見つけるとドーパントは唸って両手を翳し、凄まじい熱風を放って来たので私は救助した人間を庇って両手を伸ばして受け止め、エルドラゴはルーラチェインを壁の様に展開して逃げる時間稼ぎをするも、吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ぐうっ…あっづ!?」

 

「いったい何のメモリなんですか…」

 

『今のはおそらく太陽風……フレア・ドーパントだと思われます』

 

「普通にやばいやつだなそれ!?ふん縛ってやる!」

 

 

 そう言ってルーラチェインを伸ばして拘束せんとするエルドラゴだが、フレア・ドーパントは炎を手の中に集束させて太刀の様な形状にすると両手で巧みに振り回してルーラチェインを弾き飛ばしてしまった。変身者の技量が高いのはウェブ・ドーパントを思い出した。

 

 

「中々の手練れみたいですね…あれ、でもこの動き、どこかで……」

 

「ちっ、ならこいつだ!」

 

《ゴールド・マキシマムドライブ!》

 

 

 エルドラゴが手にしたルーラテインの先端にあるスロットに引き抜いたゴールドのメモリを装填、波紋が出現してその中にルーラチェインが飛び込み、フレア・ドーパントの四方八方に波紋が現れて雁字搦めに拘束。

 

 

「オレの名前を覚えて逝きな!仮面ライダーエルドラゴ、ってなあ!」

 

 

 完全に身動きが取れなくなりギシギシと両腕を引っ張るフレア・ドーパントの前でエルドラゴは跳躍、右足に黄金の光を纏い、ルーラチェインを戻す勢いで急降下して飛び蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ゴールデンジャッジメント!」

 

「ウゥウアァアアアアアッ!」

 

 

 するとフレア・ドーパントは全身から熱風を放ってルーラチェインを融解させることで解放され、着地と同時に再び炎の太刀を出現させて刀身を伸ばし、勢いよく振り下ろすことでエルドラゴを撃墜した。

 

 

「なっ!?ぐあああっ!?」

 

「大丈夫ですか!?この…!」

 

『水や氷属性のメモリはありませんしこれしかありませんね…!』

 

《メタル!マキシマムドライブ!》

 

 

 ならばとこちらもメタルシャフトにメタルメモリを装填、両端に炎を噴き出させてそれを推進力に突撃、振りかぶる。

 

 

「『メタルブランディング!』」

 

「ウゥウアアアッ!!」

 

 

 しかしフレア・ドーパントは炎の太刀の刃を地面に突き刺し、それを蹴り上げることで勢いをつけてメタルブランディングと相対、私達を吹き飛ばす。つ、強い…!

 

 

「この感じ…ウェブ・ドーパントの時のような……まさか」

 

 

 太刀。ウェブ・ドーパント。そのキーワードから連想した人物にそんなはずないと首を振る。本当にそうなら、なんて酷な……

 

 

「そんな、その技は……」

 

「え?」

 

 

 聞こえてきた呟きに思わず振り向く。そこにはエンジンブレードを慣れない手つきで持ったついなさんがいて、信じられない様な表情を浮かべていた。…そのまさかですか、クソッたれ。

 

 

「なんで、なんでなんや。お前までそんな……恵!」

 

 

 神威恵。神威岳の妹にして赤井快子とついなさんの親友だ。




怨敵ホワイトアウトに捕まり、メモリに関する記憶を漂白され解放されたたついな。そんな彼女の前に現れたのは最後の幼馴染が変貌したフレア・ドーパント。まさに悪夢の続きです。

相変わらず厄介なホワイトアウトこと星香。シャークこと星香とは犬猿の仲です。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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