今回からの舞台は水都総合病院。楽しんでいただけると幸いです。
いい風が吹く水都の昼下がり。事務所の留守をあかりに任せて知り合いの店に昼食を食べに来た私こと、ハードボイルド探偵結月ゆかり。いきなり所長になった我が後輩ではあるが、自由に外を出歩けるようになったのはいいことだ。おかげで一年前の様に親友の店に食事に行ける。…おやっさんがいなくなる前はこうしていつも来てたのだが、あかりが来る前まではコーヒー豆を買って軽く食事をするぐらいしかできてなかった。
「マキさん。カルボナーラといつものを一つ、頼めるかな?」
「はいはい。かっこつけてないで店では帽子を取って待っててね」
「…はい」
カウンター席に座り帽子に手を当てながら注文してみたが、軽くあしらわれてしまった。高校時代から敵わないなあ、マキさんには。
「マスター、カルボナーラひとつ!あとブレンドコーヒーも!ゆかりんブレンドね!」
「…いい加減そのブレンド名やめてほしいんですけど」
「ゆかりん好み五月蠅いじゃん。それよりどうしたの?ゆっくり食べてくなんて珍しいね?」
カウンターから私ににこやかに話題を振ってきたのは金髪のロングヘアーが特徴のウェイトレス、弦巻マキさんだ。私の中学時代からの親友で同級生。ギタリストを目指していたが父親一人の店を手伝うことにした家族思いのできた女である。
「それがですね、聞いてくださいよ。あのあかりがうちの事務所の所長になったんです」
「あのあかりって…食いしん坊ご令嬢の?何故かゆかりんに懐いてた」
「何故かってなんですか。そうです、そのあかりですよ。まあおかげでこうしてゆっくり喫茶店「弦巻」に来れてるわけですが」
「まあ、結果オーライなんじゃないの?はいお待ち、「弦巻」特製カルボナーラとゆかりんブレンドのコーヒーだよ」
「ありがとうございます。いただきます」
よく麺にチーズが絡まったそれをフォークで巻き取り口に入れる。うむ、美味い。自炊もいいですがやはり安くて美味い店が一番ですね。
「そうだ、ゆかりんは怪物騒ぎ専門の探偵だから知ってるかな?例の噂」
「例の噂?ですか?」
「そう、水都総合病院でね、お化けが出たんだって」
「…お化けですか」
ドーパントだろうか。それなら聞き捨てならない話である。
「そう。重病人の子供が入院している病室でね。激しく点滅する光が窓から見えて、確認しに行くと寝静まってる子供しかいないんだってさ」
「…それだけ?」
「それだけ。人魂かな?怖いよね~」
…マキさんには悪いが大したことなさそうだ。病院というのは学校と同じでホラーの舞台になりやすいからそういう噂を誰かが流したのだろう。
「ごちそうさまでした。また来ますね」
食事を終えて帰路につく。事務所から徒歩で移動できる距離にあるというのがありがたい。そうして紲星探偵事務所と名を改めた事務所に戻ると、異様な光景が広がってた。
「そこです!きりたん砲…fire!」
「ここで迫撃砲!?にゃああああああ!?」
「……なにしてるんです?」
「あ、ゆかりさん。お帰りなさい」
珍しく事務所で携帯ゲーム機で熱中しているきりたんと、同じゲーム機をプレイしている見知らぬ少女。大興奮のきりたんと対照的に頭を抱えて涙を流している少女にあかりが何とも言えぬ笑みを浮かべてる。
「えーと、今回の依頼人です。ゆかりさんを待ってました」
「何でその依頼人ときりたんが遊んでるんです?」
「なんでも、ネット対戦でライバル関係だったようでして。きりたんが事務所でゲームしていたためいろはさんが気付いて意気投合って感じですね」
「いろはさんとは…依頼人ですか?」
「はい。
ふむ。白衣を着ていて、猫耳の様なカチューシャを付けてる赤髪の少女…に見間違うほど年若い。20になりたてと言ったところだろうか?
「いえいえ。うちの偏屈娘の相手をしていただいてありがとうございます」
「誰が偏屈娘ですか」
「それで、ご依頼はなんでしょう?」
きりたんは無視して席に座り本題に入る。きりたんがこの場に同席して依頼人の話を聞くのは何気に初かもしれない。
「私、水都総合病院の研修医をやってるんですけど……面倒を見てくれていた看護師の蒼姫ラピスさんが先日変死体として発見されて…」
「それは、ご冥福を祈ります…」
「変死体、とは?」
空気を読まずにずかずか聞いてくるきりたんを睨みつけながらいろはさんに話を促す。
「亡くなる先日までは元気だったのに、一晩でまるで衰弱死したような状態で発見されたんです…」
「衰弱死、ですか」
「はい…警察もまともに調べてくれなくて、単純に病気かなにかで衰弱してたところに転んで事故死したと判断して…これ、私が見つけた時に一応撮っておいたもののコピーです」
「え、第一発見者なんですか?」
「はい……いつも通り指示を仰ごうとしたら全然来なくて、おかしいなと探し回ったら屋上への階段の踊り場で見つけて…」
「なるほど。拝見します」
いろはさんが鞄から取り出したホッチキスで纏めた書類を受け取って順番に捲って行くと、後ろから覗き込むあかりとその手に抱えられたきりたん。いやまあ気にしませんけどさ。
一枚目。被害者の顔のアップ写真。黒髪を短く纏めた、瑠璃色の瞳が恐怖に苛まれて見開いたまま亡くなってる。痩せこけて衰弱しているように見える。
二枚目。動揺故なのか結構ぶれているが水色のナース服を着た上半身が映っている。外傷らしい外傷は見られないし、床に血の跡もない。腕部がやはり痩せている他、胸部に小さな穴が開いてるのが気になる。この位置は心臓か?
三枚目、階段の下側から踊り場を横から撮った写真。踊り場の下に降りる方に頭があるらしい。背中側に外傷らしいものは見えない。
四枚目。恐らくは階段の上から踊り場の遺体を撮った写真。全体から見てもまるで老人か枯れ枝の様になってる。写真はこれで全部か。…あれ?
「…きりたん、気付きましたか?」
「おや、ゆかりさんも気付くとは。さすがは探偵ですね」
「え?なにかわかったんですか?二人とも」
あかりが困惑してるが明らかにおかしい場所がある。屋上付近ということで壁がうっすら汚れてるのに、ある程度の高さから一定の範囲だけ綺麗に拭き取られている。それも、見える限りU字に。明らかに不自然だ。
「…ドーパント、ですかね?」
「まだ確証はありませんが、十分ありえますね」
「それでいろはさん。私達にどうしてほしいのですか?」
「ラピス先輩がなんで死ぬことになったのか…その真実を調べて欲しいんです。もし誰かの仕業なのだとしたら…私、悔しいんです。あんなにいい人な先輩が…」
「わかりました。その依頼、お受けしましょう」
こうして私達は水都総合病院に向かうことになった。
「きりたんさんはついて来られないのですか?」
「あの子は身体が弱くて外に出られないんですよ」
「そうなんですか…」
いろはさんの質問に用意していた言い訳を答えながら彼女の案内で正面玄関からあかりと共に水都総合病院に入る。廊下を通り、北側の階段を上って現場に。その向かう途中でいろはさんが立ち止まった。
「猫村彩羽。こんなところでなにしている?研修の時間はとっくに過ぎているぞ」
「は、葉常ドクター…」
上から降りてきたのは、白衣の上に青く長いマフラーを首に巻いた下に青のスラックスと茶色いズボンを身に纏った黒髪碧眼で眼鏡をかけた男。すると反応したのはあかりだった。
「葉常海斗さん…!?」
「知ってるんですか?」
「はい、ここ水都総合病院を代表する天才外科医です。私の知り合いの令嬢も彼の手術を受けて癌から助かったとか」
「なるほど。凄い人なんですね」
「そちらはどなたかな?」
怯えてしまったいろはさんを庇うように前に出て帽子を取って一礼する。横であかりも慌てて頭を下げた。
「失礼。私、紲星探偵事務所の探偵、結月ゆかりと申します。こちらは所長の紲星あかり。猫村彩羽さんの依頼でここまで来ました」
「…ああ、蒼姫ラピスの事件か。あれは衰弱による事故死だと警察が判断したはずだが?」
「そんなわけないです!前日までラピス先輩は元気いっぱいで……」
「猫村、君以外のナースからはここ最近顔色を悪くしていたとも聞いているぞ。大事な後輩のために空元気でいたのだろう。体調管理もままならんとは、医療関係者として失格だな」
「っ、そんなこと…!?」
「いろはさん。落ち着いて。…残念ながらこの事件、奇妙な部分がいくつかあります。その謎を解いていろはさんが納得するまで、私達に捜査させてもらえないでしょうか?」
「……わかった。俺から院長に通達しておこう。俺も忙しい、猫村。その人たちが変なところに迷い込まない様にしっかり見張ってろ」
「は、はい!」
そしてマフラーを靡かせて去って行く葉常ドクターだったが、私に前に立たれて分かりやすく眉間にしわを寄せた。不機嫌を隠すことなく睨み付けてくる。
「…何か?」
「いえ、どうして現場がある上から降りてきたのかなー、って。参考までにお聞かせいただいても?」
「……屋上で一服していた。これで満足かな?」
「………いいえ、お手数おかけしました。では」
前からどくと今度こそ去って行く葉常ドクターを私が睨み付けているのが気になったのか心配そうに覗きこんでくるあかり。それで私も怖い顔をしていたことに気付いて笑顔をとる。
「ゆかりさん、なにか気になる事でも?」
「一服したにしては煙草の匂いがしなかったのと、……彼、外科医なんですよね?それがウソでも煙草を吸ったなんて言うほど、動揺してたことになります」
「なるほど?」
「現場が気になります、見に行きましょう」
いろはさんが先導して階段を上って行く。二階分上ると、件の踊り場についた。
「寂しい場所ですね…」
「…やはり、汚れに違和感を感じますね。何者かが意図的に汚れを取って行った…?なんのために?」
「あ、私お花を摘みに行ってきますね。お恥ずかしながらさっきの緊張で…」
「ああ、ゆっくりしてきてどうぞ」
申し訳なさそうないろはさんを見送り、バットショットで写真を撮る。ふむ、角度が悪いですね。
《バット!》
「おお、それは確か、ギジメモリ?」
「よく覚えてましたねあかり。正解です」
バットのギジメモリを装填、蝙蝠に変形したバットショットに上から写真を撮ってもらう。
「これで何か分かればいいですが…む、足音?」
「あ、いろはさんが帰ってきたのかな?」
バットショットを手に取りながらあかりと一緒に階段の下を見やる。しかしその足音は鈍重で。階段を上って現れたのは、異形の怪物であった。
「ら、ら、ら、ライオン!?」
「ドーパント…!」
白いふわふわした鬣を生やしている雄ライオンの様な巨大な顔から鋭い爪しか特徴がない胴体が生えているという、一見滑稽な姿をしているがそれは間違いなくドーパントで。咆哮を上げて威嚇するそいつに、咄嗟に取り出したダブルドライバーを腰に付けてジョーカーメモリを手に取る。
《ジョーカー!》
「きりたん、出ました!やはりドーパントです!」
【《サイクロン!》やはり出ましたか】
「【変身!】」
《サイクロン!ジョーカー!》
そしてメモリを装填すると同時にドライバーを展開しダブルに変身。あかりを守るために踊り場から飛びかかり、ドーパントと共にゴロゴロと階段を転がり落ちて行き、八階の廊下で受け身を取り、よろよろと立ち上がったドーパントと対峙する。
『ライオンのドーパントですか、随分と不恰好ですが』
「ホワイトライオンですかね…とりあえず、殴る!話はそれからです!」
跳躍して拳を繰り出すも、鋭い爪の手で叩き落される。さらにその巨大な口で頭から胸部まで噛み付かれ、がぶがぶと何度も噛まれてペッと吐き出されて壁に叩きつけられる。その時気付いたが、牙が黄色だった。黄ばんでいるのだろうか、などと現実逃避に考える。
「いたた…変身してなかったら食いちぎられてたかも…」
『さすがは百獣の王。厄介極まりないですね。獣には火で行きましょう』
「同感です…」
《ヒート!》《ヒート!ジョーカー!》
ヒートジョーカーに変身し、炎を纏った拳を鼻面に叩き込む。
「でりゃあ!」
「グオン!?」
すると大きく怯み、続けて胴体、顔と連続で叩き込んでいく。するとドーパントはたまらないと言わんばかりに背中から緑色の翼を生やして窓から外に…って、ええ!?
「飛んだ!?」
『グリフォンかなにかですかね!?』
2人して驚いている間に下降するドーパント。あの先は…正面玄関!?
「まずい、あそこには沢山の一般人が…」
《メタル!》《ルナ!》
『これで降りますよ!』
《ルナ!メタル!》
慌てているときりたんがメモリを入れ替えてくれて金と銀のルナメタルに変身、メタルシャフトが伸縮して手すりに引っかけ、窓から飛び出してメタルシャフトを命綱にするすると降りて行く。そして玄関から急いで入ると、自動ドアを開けた瞬間視界が真っ白になる。白いなにかが溢れ出てきたようだ。
「な、なんですかこれ!?」
『煙ですかね?誰か消火栓でも…』
人がいるかもしれないのでメタルシャフトを振ることもできずぶんぶんと両手を振り回していると視界が開けたかと思えばとんでもない光景が広がっていた。
「こ、これは…!?」
『そんな、馬鹿な…』
二十数人はいて和気藹々としていたであろう待合室は客やナースにドクター問わず全員まるで衰弱しているかのような姿で倒れ伏して死屍累々となっていた。無事な人間が、この場に誰もいない。そしてドーパントは何処に…?
『病院でこうなっちゃ世話無いですね』
「一つだけわかりました。ドーパントは、この病院の人間です」
外には私達がいたので、逃げ道はこの建物内しかない。こんなひどいことを簡単にしでかす外道、必ず追い詰めて見せる…!
謎のライオンドーパント登場。その能力とはなんなのか。この時点で分かった人は結構すごい。
今回の容疑者は次回出る二人も合わせて出揃います。地味に一話から存在を醸し出していたマキさんも登場。ゆかりさんの親友です。翔太郎の親友というと風都探偵で一悶着ありましたね。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
キャラの詳細設定はいる?
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いる
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いらない