とんでもないことが起きる今回、楽しんでいただけると幸いです。
「探偵です。現場を見せてもらえませんか」
一度八階までルナメタルで戻ってから変身を解き、あかりにはいろはさんが戻ってくるまで待機してもらって改めて一階の待合室まで急ぐと人が集まって騒ぎになっていて、近くのナースに名刺を見せて中に入れてもらう。改めて数えると24人もの犠牲者が出ていた。止められなかったことがこれほど悔しいとは。おや?私以外にも死体を見て回ってる人がいる?
「ラピスの事件だけでも大変なのに、こんなに同じ死体が出るとはねえ。ついさっきまで生きてたはずが仏さんに早変わりとは、やってらんないねえ美来?」
「…死者の中には私の患者もいた。やりきれない」
「だよねえ。っと、アンタ何者だい?刑事?」
やってきたのは白衣を着てはいるもののミニスカートの赤いワンピースを身に着けた短い茶髪のドクターと、逆に白衣の下が露出度の低い服を着た長い黒髪をツインテールにした碧眼のドクター。後者は先程の葉常海斗ドクターと印象が似ていた。兄妹だろうか。
「刑事ではなく探偵です。ここの研修医に蒼姫ラピスさんの事件を解決してほしいと依頼を受けまして。来た矢先にこんなことに」
「あー、いろはちゃんかあ。あの子も熱いねえ。アタシは
「葉常っていうと…葉常海斗さんの?」
「海斗は兄。もしかしてなにかご迷惑をおかけした?何分、堅物なので…」
「いえいえ、お気になさらず。ドクターならちょうどよかった。貴女方の見解を聞きたい」
警察が来る前に調べておきたい。改めて亡骸のひとつを見てみる。ここに来たときに見た顔だ。たった一時間近くでここまで痩せ細るとは。ライオンのドーパントはどうやってこんな芸当を、しかも短時間で…。
「アタシから言わせてもらうと、「ありえない」としか言えないね。ラピスの時は胃内の中身が干からびて残っていた。そして肉体は衰弱死も同然。死ぬ前日まで生きていた人間がそうなるのはありえない。あり得るとしたら肉体の養分を根こそぎ奪い取られた…としか言いようがない」
「養分を奪い取られた…?」
「全員服の心臓近くに小さな穴が開いてるから、そこから何かを刺されて吸い取られたんじゃないかってのがアタシの見解だ」
もしかしてライオンのドーパントではない、のか?吸血鬼と言われた方がまだしっくりくる。
「この犠牲者たちに共通点はありますか?」
「…私の患者が八割、あとはまちまち。今日往診に来なければこうなることはなかった…残念でならない」
「美来の責任じゃないっての。もう、アンタはまじめだねえ」
「義姉さんは適当過ぎる。ドクターなら自分の患者に責任を持つべきだ」
「あたしゃ監察医だからね。自分の患者がいないのさ」
芽衣子さんを姉と呼ぶ美来さんに、関係性を察する。つまり芽衣子さんは海斗さんの恋人なのか。あの厳格な人の恋人がこんな人だとは意外だ。
「あえて言うなら異常死したこの仏さん方が患者さね」
「…そう。ならしょうがない」
「あ、ゆかりさん!いろはさんを連れて来ました」
「これは…ひどい…」
そこにあかりがいろはさんを連れてやってきた。いろはさんはこの惨状を見て口元を抑えてる。正常な反応だろう。達観している芽衣子さんと美来さんの方が珍しい。
「おや、いろはじゃないか。海斗んところで研修じゃなかったっけ?」
「海斗さんからは納得するまで調べていいと許可を得ました…」
「兄さんが…珍しい」
するとあかりがこそこそと私の耳に口を寄せてきたので耳を寄せる。
「ゆかりさん、ドーパントは…」
「逃げられました。その結果がこれです…」
「ゆかりさんたちは悪くありません。悪いのは犯人です!」
「ありがとうございます…」
あかりに元気づけられていると、自動ドアが開いて警官たちがやってきた。それを率いているのは見覚えのある刑事二人。
「水都警察署の有阿です!怪事件が起きたと聞いて…って、探偵!?」
「ゆかり。君も来てたのか」
「あ、ワンちゃん刑事に花さん。こんにちは」
「誰が犬だ!?」
きゃんきゃん喚く有阿刑事は無視して花さんと情報を共有する。いつも通り、何か分かったら教えると言うことで特例で調べさせてもらえることになった。
「ありがたい、助かります花さん」
「怒りに震えてるみたいだからね。止めても勝手に調べるんだろ?なら許可しておいた方がいい」
「…さすが。花さんには敵いませんね」
警察は待合室を調べるらしいので、なにかあるという確信を持って屋上への階段に向かう。いろはさんは事情聴取を受けるらしいのであかりと二人行動だ。
「…もしかしてですけど、いろはさんを疑ってます?」
「まさか。依頼人は信じ抜くのが探偵です。…ですが、あの場にいなかった人間全てが容疑者ですね」
いろはさんだけじゃない、芽衣子さん、美来さん、海斗さんも容疑者だ。あの場からすぐに逃げられたということは病院を知り尽くしてる人物、つまり患者ではなく医者やナースたち病院関係者ということになる。
「養分を吸い取る………もしかして噛み付いてきたのは私から養分を吸い取るため…?でも、あの行動からそんな意図は見られなかった…」
あの時の戦いを思い出しながらもう一度踊り場を観察する。壁の汚れはカビの様だ。
「カビが消えた……ってことですかね。でもなんで?」
「ドーパントがカビ掃除したとか?」
「なんのために?」
「せざるを得なかった……とか」
養分を吸いとられたかのような死体。白いなにかに覆われたかと思えば大量に犠牲者が出た待合室。何故か消えたカビ汚れ。そしてライオンのドーパント。なんだろう、なにかが足りない。一度事務所に戻ってきりたんと一緒に整理した方がよさそうだ。
「一度帰りますよあかり。きりたんに「検索」してもらいましょう」
「あ、私はここに残って聞き込みします。情報は多い方がいいでしょう?」
「…危険ですよ、と言っても残るんでしょうね。気を付けてくださいね。一応、これを預けときます。それとこれも」
懐から取り出したバットショットとギジメモリ、手首のスパイダーショックから取り外した発信機をあかりに渡す。使い方は教えてるから問題はないだろう。
「護身用です。バットショットは撮った画像をスタッグフォンに送れるのでなにか見つけたらそれで」
「わかりました。きりたんによろしく」
ハードボイルダーに搭乗し事務所に戻ろうと水都総合病院の門を通り過ぎた時、黒塗りの高級車とすれ違う。一瞬だけ後部座席に見えた黒髪に枝豆?の髪飾りを付けた女性と目があった気がした。
「これ以上被害を出させたくありません、急いで検索を」
「そう言うと思って待ってましたよ」
ガレージに入りながらきりたんに呼びかけると自信満々な返事が返って来て。見てみればガレージに設置してあるテレビに向かってゲームしていた。
「ゲームしながらってのが、らしいですね!」
「これでも他の事に集中しないための気遣いなんですが?…今回はゲーム仲間の依頼ですからね」
「ほう。きりたんが私以外のために本気になるとは、珍しいですね?」
「さ、さあ始めますよ。検索開始です。知りたいのは敵のメモリ」
手を広げて意識を地球の本棚に飛ばすきりたんを見届け、メモに書いたことを言っていく。
「最初のキーワードは「ライオン」です」
「当たり前ですが、ライオンのドーパントにあの様な力はありませんね」
「では次。「飛行」どうです?」
「グリフォン、キマイラ、マンコティア、アメミット、スフィンクス、ヒッポグリフ、ムシュフシュ、アンズーなどが残りましたがまだ絞り切れません」
「そんな感じはしませんでしたし、何より一瞬で大量に殺害する方法が分かりませんね。では次が本命のキーワードです。「養分」あの病院の監察医から得た死体の特徴です」
「…あっ。なるほど…納得しました。ビンゴです、ゆかりさん」
答えが分かったのか、手にした白紙の本をめくって行くきりたん。そして我に返ると、ホワイトボードに何やら書き込んでいく。大きく描かれたのはdandelionという文字。
「ダンディライオン?ライオンの一種ですか?」
「いいえ、違います。ダンデライオン、日本語で…タンポポのことです」
「た、タンポポ!?」
ようやく判明したメモリの正体に、私は度肝を抜くしなかった。
「ダンデライオンは綿毛の鬣と葉っぱの様な翼を固有能力として持ってます。あの時飛んでたのは翼ではなく、綿毛で浮いて翼で推進力を得て飛んでたわけです」
「はえー、納得です」
ホワイトボードに分かりやすく図を描きながら教えてくれるきりたん。そしてホワイトボードの「養分」と書いた部分をグルグルと円で囲んだ。
「そして特筆すべきは養分を吸い取ること。飛ばした綿毛は触れた人間・生物にくっ付いて養分を根こそぎ吸い取りタンポポに成長、ダンデライオンはそれを食べることで力を得るようです。そもそもタンポポは外来種もありまして、勝手に他の植物の養分を吸って成長するものもあります。またタンポポは料理すると美味しいそうです」
そう言って書き記したのは、被害者たちの服の胸に残った謎の穴。あれが蒲公英が咲いて食べられた跡らしい。
「生物……あっ、カビ汚れ」
「そうです。あの写真はU字に綺麗になってましたが…実際は円形だったんじゃないですか?恐らくダンデライオンは自らの綿毛を円形に飛ばします。綿毛が飛んでくっ付き、偶然生物であったため一緒に根こそぎいただいたのでしょう」
「じゃあ待合室の惨劇も…」
「あの時私達も受けたあの白い煙が飛ばした綿毛だったのです。生体装甲のダブルだったおかげで吸われるまでタイムラグがあって変身を解くことで種子を消し去りましたが、あのまま変身し続けるとゆかりさんの身体はラピスさんの二の舞になっていたことでしょう。気を付けてくださいね。いくらダブルでもあの量の綿毛を喰らえばただではすみませんよ」
「む…心得ました。それで、対処法は?」
「タンポポが咲いても諦めては駄目です。食べられる前にダンデライオン・ドーパントを倒すことができれば…」
「…つまり、犠牲者を蘇生することはできない…」
「そうなります」
「くっ…!」
たまらず壁を殴りつける。鋭い痛みが走るが気にしたものか。私達が追い詰めたから、ダンデライオン・ドーパントはあの凶行を行った。その事実が重くのしかかる。
「あれは私達のせいじゃないです」
「でも…!」
「だって、逃げるなら外に逃げればいい。ああしたのは、犯人がそうしたかったからに他なりません。あの場にいた誰かを殺したかった…もしくは、あの場にいた全員を殺したかったか。私達の責任じゃありません」
「きりたん…」
「それに…ひゃい!?」
「ん?どうしました?」
まだ何か話そうとしたきりたんが肩を跳ねさせる。どうしましたかと条件反射で言ったが、普段冷静沈着なきりたんがこの反応になるのは一つしかない。きりたんの視線の先を見ると、物陰からそれは出てきた。
「ふぁ、ファング…来ないでください!」
ファングメモリ。他のメモリと異なり、恐竜型の特殊なメモリ。このメモリで変身できるファングジョーカーは強力なのだが…理性を失ってしまうため、きりたんはなによりも恐怖していた。ファングは一声吠えて姿を消し、きりたんは胸を撫で下ろす。
「…きりたん」
「なんですか?」
「もしかしたら今回はファングを頼ることになるかもしれません」
「な、なぜ?」
「もうこれ以上、奴に凶行をさせないためです。とりあえず水都総合病院に戻りますね」
そう言って私はガレージを後にした。ある覚悟を胸に秘めて。
今頃、ゆかりさんたちは敵のメモリを暴いているところだろうか。そんなことを考えながら聞き込みを続ける。つい今芽衣子さんに聞いて分かったことだが、ラピスさんも美来さんの患者だった。不眠症だったらしい。美来さんは自分の患者を沢山一気に失ったことになる。やりきれないだろうなあ。
「ありがとうございました芽衣子さん。美来さんにも話を聞いて…」
「俺の妹がどうかしたか?」
「ひい!?葉常海斗さん…」
そこに背後から話しかけてきたのは海斗さんだ。すると笑顔になって海斗さんの肩に手をかける芽衣子さん。海斗さんは珍しく照れていた。
「ほらほら~そんな仏頂面してるから怖がられるんだよ~ピースピース」
「き、きみは!彼女といえどやっていいことと悪いことが!」
「これはやっちゃ悪いことなのかなー?」
「い、いや…うむ」
すごい、海斗さんがたじたじだ。というかこの二人やはり付き合っていたのか。美来さんが芽衣子さんを姉と呼んでいたからなあ。
「じゃ、じゃあ私は失礼します!」
なんか毛恥ずかしくなってその場を去る。なんとなく、現場の階段に足を向けた。
「うーむ…」
あのとき気になったことは、足音は遥か下ではなく、横…八階の廊下からやってきたように見えた。この先に犯人がいるのだろうか。
「…あれ?」
廊下の突き当たりの部屋をそーっと覗きこむと、いろはさんがベッドから身体を起こした少年に寄り添い、少年がゲームをしている光景があった。見るからに重病人、だろうか。咳をしながらも熱中している。いろはさん見ないなと思ってたらこんなところに……。
「見なかったことにしましょう」
恐らくルール違反だが、いろはさんなりの治療なのだろう。なら私が口を出すことはない。そう思いながら次の部屋を覗こうとして、何か激しい音が聞こえてきた。これは…!?その方向を見やると、階段の上から三日月の様な弓を左手に装備した熊の毛皮を被った女性の様な見知らぬドーパントと、あのライオンのドーパントが出てきた。しかし様子が可笑しい。あの時見た時よりもライオンのドーパントのボディが筋骨隆々になってるような…。それになんでドーパント同士が争って…
「よくも、騙したわね!」
「ウオォオオオン!」
なにかに怒っている熊のドーパントの弓から放たれる光の矢を、雄叫びを上げてその衝撃波で叩き落すライオンのドーパント。明らかに強くなってる、なんで…?
「と、とりあえず写真を…」
ちょうどよく空き部屋だった病室に入り、バットショットを構えてその様子を隠し撮る。これでゆかりさんに送られたはずだ。一緒にスマホで事細やかにメールを送る。すぐ近くにいろはさんと重病人の少年がいることも書いておいた。
「何で私を怒らせるの!」
熊のドーパントの鹿の様な足の蹴りがライオンのドーパントに突き刺さり、廊下をこちらに転がってくる。運が悪すぎませんかね!?
「【変身!】でやああああ!」
すると、廊下の突き当たりの窓を蹴破ってサイクロンジョーカーのダブルがゴロゴロと転がって受け身を取った。窓の外を見れば飛行ユニットのハードタービュラーが飛んでいた。あれで飛んできたのか。
「これ以上ここで凶行を起こさせません、ダンデライオン・ドーパント!『さあ、お前の罪を数えろ!』」
「貴方達も私を怒らせるの!?」
「貴方はミュージアムの…!?」
すると怒鳴り散らした熊のドーパントが適当に光の矢をばらまき、廊下がどんどん壊れて行く。まず優先すべきはダンデライオン?らしいライオンのドーパントよりもあの熊のドーパントと見たのかダンデライオンの横を駆け抜けて行くダブル。
《サイクロン!トリガー!》
風の弾丸をばら撒き牽制しながら突進、右のハイキックを叩き込むダブルだったがしかし、熊のドーパントは腰に巻いた犬?の様な毛皮を投げつけ、それは大型犬に実体化して何度も何度もダブルを噛み付いて行く。その間に熊のドーパントは跳躍して窓から逃れて行った。なんだったんでしょう…?
「くっ…」
《ヒート!ジョーカー!》
炎を纏った拳で犬を殴り飛ばし消滅させるダブル。それと対峙するのは、明らかにパワーアップしてるダンデライオン・ドーパント。
「…貴方は一体誰ですか」
「ウオォオオオン!」
咆哮して四つん這いとなり、高速で突進するダンデライオン・ドーパント。ダブルの胸部に噛み付いて振り回しつつ廊下を何周も爆走して壁にダブルを叩きつけつつこっちまで突進してくる。
「ちょっ、こっちはいろはさんたちが…!?」
「…させ、るか…!」
私の悲痛の叫びを聞いて奮起したのか炎を纏った拳を顔面に叩き込んで解放されるダブル。しかしダンデライオン・ドーパントの勢いは止まらず、突き当りの部屋の扉を突き破ってダブルと共に中に入ってしまう。
「え、怪物!?」
『ゆかりさん、駄目だ!』
隣の部屋だからよくわからないけどいろはさんの驚いた声ときりたんの悲鳴が聞こえる。
《ジョーカー!マキシマムドライブ!》
そして必殺の音声と共に鬣が消えたダンデライオン・ドーパントが吹き飛んできて壁に激突。かなり効いたのか、その姿が最初に見た時と同じ貧弱な姿に戻り、よろよろと歩いて去って行ってしまった。一体何が起こって…
「っ、ゆかりさん!?」
「あかりさん!どうしよう、ゆかりさんが…!」
慌てて隣の部屋に入ると、明らかに衰弱し胸からタンポポを生やして倒れ伏しているゆかりさんの姿があった。そんな……。
猫村彩羽、葉常海斗、葉常美来、阪井芽衣子。あと一応蒼姫ラピス。これで容疑者が出揃いました。そして判明、ダンデライオン・ドーパント。タンポポモチーフの怪人は珍しいんじゃないかな。
熊のドーパントはミュージアムの幹部だったり。なんで戦ってたんでしょうね?
・ダンデライオン・ドーパント
『蒲公英』の記憶を宿したドーパント。白いふわふわした鬣を生やして黄色い牙が特徴の雄ライオンの様な巨大な顔から鋭い爪しか特徴がない胴体が生えている滑稽な姿をしている。緑色のギザギザした翼を生やして飛ぶことが可能。最初はライオンのドーパントだと思われていたがタンポポのドーパントであり、黄色い牙は花弁を模していて緑色の翼は葉っぱ、鬣は綿毛。綿毛の鬣を飛ばして目くらましして逃げながら、綿毛がくっ付いた人間から生命エネルギーを奪ってタンポポの花を生やさせ、それを食べることで殺害していた。溜め込んだ養分で己を強くすることが可能。
そしてゆかりさんまさかの敗北。どうやって逆転するのか、次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
キャラの詳細設定はいる?
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