キリエさんが変身したサイクロン・ドーパントの竜巻に乗せられて連れて来られたのは、かつて若者強盗団「REX」の溜まり場だった水都歩歌路町の廃線の建物の一つだった。サイクロン・ドーパントを中心に、私、きりたん、あかり、ついなさん、リリィが転がる。
「…ここまでくれば大丈夫かしら。知ってる人間にすぐばれる本拠地を対策もなくそのままにしておくのはどうかと思うわ」
「いや待て待て待てい!」
サイクロンメモリを引き抜いて人間態に戻りながらそう言ったキリエさんに、Tのメモリ…トリガーメモリを手にしたついなさんが物申す。気持ちは凄いわかる。
「こちとら敵さん倒したと思ったらゆかりのそっくりさんだわ、ようわからんチップが出てくるわ、消滅するわでいっぱいいっぱいやったのになんや!?あんさんまでドーパントかいな!?」
「同感だ。アンタは何者だ?あいつらについて何を知っている?」
ついなさんに続いてリリィも腕を組んで問いかけると、キリエさんは観念しながらきりたんと同じ顔で溜め息を吐くと、メモリを手にした右手を懐に突っ込み、代わりに大きめの手帳を取り出した。
「アリアル…彼女たちの名乗るCOEFONTは、自称でもなんでもない。彼女たちの正体を現している言葉の略字よ。
「アベルーニとは白黒の男の事ですか?」
「財団X…!」
「二種類の生体兵器?」
きりたんとあかりと私がそれぞれのワードに反応する。財団Xといえばあかりの遺伝子検査をしたとかいう研究機関の名前と同じだ。
「ええそうよ結月ゆかり。死者蘇生兵士ネクロオーバー…通称
「あれはそういうことだったんですか…」
「クローンってのはマジだったのか…」
「…おいまさか、うちの倒したゆかりのそっくりさんはその…」
「ええ。ウララは結月ゆかりのDNAを元に作られたCLEARよ。覚えがない?血を流すほどの激闘を。財団Xは優秀な兵士を生み出そうとその血液サンプルを確保していたの。アベルーニはその血液サンプルから抽出したDNAデータをもとにCLEARを生み出した。それがウララよ」
「そんな…」
「待ってください!」
私のクローンが作られているという信じがたい言葉に放心していると、あかりが割り込んできた。その顔は、今にも泣きそうで。信じられないとばかりに、視線を彷徨わせている。
「なにかしら?」
「じゃ、じゃあ!私が、アリアルに姉妹と呼ばれて…COEFONTの資格があるってのは、まさか……」
「……ご推察の通り。貴方も、CLEARよ。COEFONTの一員であるブロッサは貴方の同型機。生まれた順番としては妹ってことになるのかしら」
衝撃的な事実があっさりとキリエさんの口から語られる。一気に血の気が引いて行くあかり。
「嘘だ!私は、紲星あかり!虚音
「それは貴方の元になった紲星あかりのパーソナルデータよ。貴方は、幼い頃に事故で亡くなった紲星あかりのDNAから生み出され代わりとして育てられたCLEARよ」
「そんな、そんなの!名探偵のおやっさんが気付かないはずがありません!そんなの嘘です!」
「なら知っていて黙認してたんでしょうね。…CLEARは人造人間、本当の人間と異なり塩基配列に欠陥が存在する。だからメモリブレイクされると消滅してしまう程に構成が希薄なの。…貴方、何時も腹ペコなんじゃない?それは、初期型CLEARの特徴。肉体を維持するべくエネルギーを本能的に求めているからよ。嘘だと思うのなら、当時の記事を調べれば見つかる筈よ。貴方の名前が」
思わず反論するが心当たりあり過ぎる言葉に思わず黙り、あかりはその場にへなへなと崩れ落ちる。理解が追い付いてないながらも納得してしまった様だ。それを冷めた目で見ながらキリエさんは続ける。
「そして奴等はフリーの傭兵団だと言われているけど、その実態は財団Xの掃除屋。だけど今回、主従関係にあった財団Xを裏切り、この新型type2ガイアメモリ…通称T2メモリを強奪しようと目論んで襲撃、財団Xの抵抗でT2メモリが水都中にばら撒かれた。それが今回の事件の真相よ」
「…そこまでの情報と、あかりのことまで知っているなんて…貴方は何者なんです?」
「何を隠そう、私もCLEARなの。お察しの通りそこにいる東北記理子のね。国際警察というのは財団Xに与えられた役職。本業は…COEFONTの痕跡を消去する情報操作係。それが私」
その言葉に、私ときりたん、ついなさんとリリィは身構える。キリエさんも…キリエもCOEFONT。きりたんにそっくりだとは思っていたが…。すると両手を振って降参の意を示すキリエ。
「待って待って!私は逃げ出したの!財団Xの裏切者のCOEFONTの裏切者!貴方達に協力を頼みたいと言ったのは本当の事よ!」
「…そういえばアリアルは貴方を殺そうとしていましたね」
「だがそれが演技だと言う可能性もあるやろ」
「ああ、あるな。マスカレイドに化けて死んだ風に見せかけていた奴もいたしな」
リリィ、それは皮肉か?そんなジト目を向けていると、キリエは自らの顔を指差して訴える。
「見て分からない?私と東北記理子、全然違うでしょ!私は、東北至子から財団Xに渡された東北記理子のDNAデータで作られた「運命の子」の予備だったけど結局失敗して肉体年齢は本来のもの、中途半端にしか地球の記憶に接続できないできそこないなの!それでも今回のアイツらの目的に必要だったようで無理やり連れだされたから逃げ出して、貴方達に助けを求めようとしたのよ!信じて!」
色々気になるワードは出ていたがその言葉に嘘は感じなくて。
「…わかりました。信じます。でも、どうすれば?」
「ゆかり!?いいんか!?」
「今は反撃するためにも少しでも情報は必要です」
「奴等は全てのT2メモリを集めようとしている。残りのメモリを奴等より早く手に入れることはできないかしら」
「…まずは拠点がいりますね。事務所は破壊されてしまいましたし…」
あかりを助け起こしながら考える。あかりもこの状態だし、こんな廃墟じゃない場所で休ませなければ。するときりたんが何か思いついたようだ。
「ならいいところがありますよ。もう一つの事務所です」
「もう一つの?」
「事務所?」
「ああ、あそこか」
「…まさかと思いますけどそれって」
「はい。杏璃万結の残した、偽の事務所です」
まさかこんな形で役に立つとは…首をかしげているついなさんとキリエさんに説明しなければならないじゃないか、もう。
「やあお目覚めかな?ミリアル、ウララ」
「…うう、悪い夢でも見た気分です…」
「慣れないものだな…」
水都のどこかで目覚める病衣の少女二人を両手を掲げて迎えるアリアル。死んだはずの二人の名を口にした少女は、不敵な笑みを浮かべていた。
今作は死者蘇生兵士NEVERとクローン兵士CLEAR、合わせてCOEFONTという生体兵器の事をさします。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。