警戒しつつやってきたのは、私の自宅のすぐ近くの一見平凡な家。二週間ぐらい前に私が杏璃万結に誘拐されたあの家の一室。私を引き止めるために年代物のタイプライターまで完全再現した事務所とそっくりの部屋だ。とりあえず意気消沈しているあかりは杏璃万結の寝室に寝かせてきた。今はゆっくり眠って休んでほしい。
「ゆかりの誘拐犯、まさかこんな目と鼻の先で監禁してたんか…」
「そう言えばついなさんはホワイトアウトに捕まってて知らなかったんでしたね」
「ここは杏璃万結の意向で事務所と全く同じ造りです。立派な拠点になるかと」
「まさかこんなところにいるとはアリアルたちも思わないわね」
「鳴花―ズに修繕は頼んでおいた。事務所の方は大丈夫だろう」
ビートルフォンで電話していたリリィが頷いてそんな旨を伝えてきたので頷き、とりあえず杏璃万結の部屋から持って来たパソコンに打ち出していく。
「私達は数多くのT2メモリを集めましたが、襲撃の際に置いて来てしまいました。現在所有しているT2はついなさんがウララから回収したTの
言われて机に置いて行く三人。あれだけあったのがこれだけだと思うと悲しい。
「せっかく集めたT2メモリを全部奪われたのは痛いな…」
「奴は他のメモリも使いこなすんやろ集めたメモリすべてが奴の戦力になったも同然や」
「奴等に回収されたと思われるメモリは…えーっと、きりたん、お願いします」
「しょうがないですね…言っていくので欄を分けて書き足してください。Aの
「エターナルの能力は?」
「財団Xが作成した二本しか存在しないメモリで、全てのガイアメモリを支配する究極のメモリ…ということしか」
「私も詳しくは知らないわ」
リリィの質問に答えたきりたんとキリエさんの言葉に頷き、私は作成したAtoZの一覧を確認する。
「足りないのはBとFとJとPとLとMとZ、残り7本ですね。詳細は分かりますか?」
「…ごめんなさい。T2メモリは財団Xでも機密の兵器。末端の私じゃAからZまで存在する事しか…」
「それなら仕方ありませんね。…もしも襲撃を受けた際のために二手に分かれましょう。私とキリエさん、ついなさんとリリィで分かれて迅速に探します。きりたんはあかりと共にこの家に待機していてください。キリエさんの話が正しければ、奴らの目的はきりたんも入ってます」
「わかりました。何時でも連絡できるようにしておきます」
「二人一組なら逃げることぐらいできるはず。情報屋の鳴花ーズとネルさんを頼りましょう。ついなさんたちはネルさんを。恐らく水都タワー前公園にいるはずです。T2メモリがドーパントになる前に確保しましょう」
JKコンビもT2メモリの被害に遭っていて頼れないが、幸いなことにネルさんと鳴花ーズは無事だ。鳴花ーズ…つまり事務所に直接出向くことはできないが、連絡で情報を聞くことはできるはずだ。
「このT2メモリは念のためにここではなく、それぞれが所持して守った方がよさそうです。私がヒートを、ついなさんがトリガーを、キリエさんがサイクロンを持ちましょう。サイクロン・ドーパントもこうなれば貴重な戦力の一つです」
そしてそれぞれの持ち主の元に戻るT2メモリ。ここに残して襲われたら元も子もない。分散させておいた方がいいだろう。
「了解や。リリィ、一応聞いとくんやがお前んとこの情報網は使えるか?」
「無理だな。二人とも意識不明だ。水都総合病院で他のT2メモリの被害者と一緒に寝かされているはずだ」
「あの二人はもしもの時に戦力になるから抜けたのは痛いな…うちらで頑張るしかないか。きりたん、あかりは任せたで。…あいつはあいつや、うちはあかりの元気に助けられとる。起きたらそう伝えてくれ」
そう言い残してついなさんはリリィを伴って出て行った。見送った後、私はキリエさんと共に家を出つつスタッグフォンでヒメさんの携帯電話に連絡を入れる。
《「あ、ゆかりちゃん!?一体何ごと!?いつの間にか事務所が吹っ飛んでて、ミコトが文句を言いつつ直してるんだけど…」》
「あ、ヒメさん!近くに怪しい奴はいませんか!?」
《「こんなことになってるんだし人っ子一人いないよ!こっちは商売あがったりで・・・「ヒメ!馬鹿言ってないで本題を聞く!」ひゃい!…それで、なにかな?」》
いつもはヒメさんがミコトさんを振り回しているが、シリアスな空気は苦手なのかミコトさんに怒鳴られてしゅんとなってる。話が早くて助かる。
「…T2というガイアメモリが水都にばらまかれました。ミュージアムではありませんが、敵にその大半を奪われてしまった。残りのメモリを回収したい。何か知ってることがあれば教えて欲しいんです」
《「…ガイアメモリ。……情報はないけど、ちょっと待ってね」》
そう言って黙るヒメさん。情報が無い上に人が近くにいないらしいのにどうするつもりなのだろうか。そう考えてながらも待っていると、30秒ぐらい後に荒い息が聞こえてきた。
「ど、どうしました!?」
《「すーっ、はーっ……えっとね、ここから北東と、南西。喫茶「弦巻」近くと、歩色町の万宵川沿いの工場地帯。それと…凄い近くに気配を感じたよ。どこかまでかはわからないけど」》
「け、気配ですか?」
《「詳しいことは言えないけどそこにあるのは確かだよ。急いで!」》
「キリエさん」
《サイクロン!》
その言葉に、キリエさんに視線を向けると頷いてサイクロンメモリを取り出して鳴らし、サイクロン・ドーパントに変身すると緑色の竜巻を発生させ私を取り込んで空に舞い上がる。
「目指すは一番近い喫茶「弦巻」です!」
「奇遇ですね、仮面ライダー…と、姉さんの期待を裏切った脱走者」
喫茶「弦巻」近くの道路に辿り着くと、傍らに赤いバイクを置いた見覚えのある人物…とは色違いの人物がそこにいた。アリアルと瓜二つの黒づくめ…あれがミリアルですか。たしか、リリィが倒して消滅したはずでは。
「ミリアル……やはり、復活したのね」
「復活…どういうことですか、キリエさん」
「CLEARはクローンよ。専用の培養機から生まれる。特に“死にやすい”戦闘員は、頭に埋め込まれたチップを介して死んだ瞬間の意識データが保存されて転送され、新たな肉体を持って生誕する。それがCLEARの恐ろしさよ」
「それを早く言ってほしかったですね…!」
するとミリアルは見覚えのあるロゴのFと書かれたメモリを取り出してガバッと広げた自分の胸に押し当てるも、何が気に入らないのかそのまま懐にしまい込んだ。
「ファングメモリ…私と合うかなと思いましたがやはり駄目ですね。やはり私の姉さんへの熱き思いを受け止められるのはヒートです。持っているのでしょう?気配を感じます、渡しなさい!」
「っ…!?」
ダブルドライバーを取り出した右手を、一瞬で距離を詰められ鋭い蹴りを受けて吹き飛ばされダブルドライバーを手放してしまう。
「この…!」
サイクロン・ドーパントが疾風を放つも、ミリアルは逆に風に乗って壁を蹴って宙返り、私にのしかかり押さえこむと懐に手を突っ込んできた。
「なっ…やめっ…」
「のこのこと持ってきていただきありがとうございます。これは返してもらいます」
《ヒート!》
私から奪い取ったヒートメモリを取り出してボタンを押し、ガバッと広げた胸元に突き刺してヒート・ドーパントに変貌し、サイクロン・ドーパントを脚を振るって放った炎で吹き飛ばすミリアル。持って来たのは裏目に出た…。
「改めて名乗りましょう。私はミリアル、アリアルの妹。そして…私達はCOEFONT。水都を解放する者です」
「水都を、解放…?」
四肢に炎を燃え上がらせるヒート・ドーパント相手に、ダブルドライバーを拾い上げながら身構える。やるしか、ない!
謎の力を持っているヒメ。何者なんでしょうね?
そして復活のミリアル。CLEARはクローン故の不死身性が特徴の兵士です。死者蘇生とはまた違うのだ。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。