今回は敗北のその後。楽しんでいただけると幸いです。
完全敗北し、ホワイトアウトの時と同じ…いや、あの時と違い漂白されてないもののメモリが無力化された状態で力なく倒れた私達の元に近づいてくる大型車両があった。リボルギャリーだ。
「見つけた!いったいなにが、きりたんは……!?」
リボルギャリーから降りてきたのは、月読アイ。降りるなりとある一人に視線を向けて驚愕に目を見開く。それは、気を失っている東北至子だった。
「
「待っ……」
憎悪に満ちた表情と共に気を失っている東北至子の首に小さな手をかける月読アイ。そのままギリギリと首を握りしめようとしたので何とか起きて止めようとするが、それはある声に止められる。
「至子姉様に、なにしているの…?」
「……純、子」
目を覚ました純子さんの信じられないものでも見ているような視線に、首を絞める手が止まる。そして同時に東北至子の寝顔を見て、目を見開いて手を放しフラフラと後退する月読アイ。その目には涙が湛えられていた。
「…だめだ、わたしに、至子までころせない……なんで、そんなおとこをれいばいしたの……!」
「もしかして、母様…?」
「…!」
純子さんの問いかけに応えることなく、取り出したスタッグフォンを操作し、リボルギャリーで私とついなさんとリリィを回収しその場を去る月読アイ。意識のあった私が見たのは、リボルギャリー内部でまるで子供の様に泣きじゃくる月読アイの姿だった。
ゆかりたちがCOEFONTに敗れたその日の午後、水都タワーは花火大会というイベントの真っ最中だった。大人も子供も多くが集まり、水車を模した水都のマスコットキャラクターである「すいとくん」が屋内ステージに上がってショーを行っている、そんな最中だった。
ターン
気の抜けるような乾いた破裂音に人々が振り向くと、そこには少女四人と男一人という奇妙な集団が。そのうちの一人で中心に立つ、ハンドガンを手にしたアリアルがそれを突きつける。
「やあ。お楽しみのところ悪いが、ここは我々が占拠させてもらうよ」
「う、うわああああああ!?」
不敵な笑みを浮かべ、ターンと乾いた破裂音を立てて目の前の床に着弾した弾丸にパニックになった男を中心に、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す人々。その波に逆らうように十数人の警備員がやってきて警棒を構えるも、アリアルの不敵な笑みは崩れない。
「仲間をやったのはお前たちか!好きにできると思うなよ!」
「怖気付かずに立ち向かってきたのは評価しよう」
十数人の警備員が取り囲み、いっせいに制圧しにかかるも、アリアルが手を振るうと大きな袋を担いだアベルーニ以外の頷いた面々が各々構えて迎撃にかかる。
「GAME START…!」
ハンドガンを手にしたウララが、足払いで転倒させた警備員の頭に銃口を突き付け脳幹を撃ち抜き、それに怯む他の警備員に次々と狙い撃っていく。
「お前たちじゃ全然、物足りないの!」
鉄の棒を握ったブロッサが、先端を握ったそれをグルングルンと振り回して警備員を薙ぎ倒し、両手で持ち替えると突きを繰り出し警備員の腹をぶち抜いて天井にぶん投げて叩き付け、落下してきたそれをまるで野球ボールかのように打って他の警備員を吹き飛ばす。
「姉さんに敵意を向けたな?」
殺意に満ちた目のミリアルが、スカートであるにも関わらず宙返りしてスパッツに包まれた足を全開にして警備員の首に組み付いて締め上げるとそのままグルングルンと回転して頭から床に叩き付け、器用にもその場で逆立ちして竜巻の如く回転、制圧しようと囲んできていた警備員たちを蹴りつけ弾き飛ばす。
「ただの人間じゃ相手になるわけがないさ。どうしてそれがわからないんだろうねえ…」
「油断するな、兄さん。ドーパントがいる街で警備員をやっている連中だ、根性はある」
きりたんとキリエ、何かの機材を担いだルナ・マスカレイド三体を率いながら先に進もうとするアベルーニを押さえこもうとした警備員を、容赦なく発砲して頭部を撃ち抜いたアリアルがナイフを手に、突撃してくる警備員の持つ警棒を容易く斬り裂き、呆然としている警備員たちを拳の一撃で首を折り心臓を潰して冷酷な目を向ける。その目には、人を殺したことなど何も感じていなかった。
「諸君。準備はいいな?始めよう。我々のビギンズナイトを。この日が、この街にとって新たな門出となる」
――――「やあ。アリアルさんだ」
声が聞こえる。聞くのも恐ろしい、残酷な真実を告げてきた死神の声が。
――――「ミリアルの能力を応用して君の心に語りかけている。あかり。君は私の姉妹で我々の同胞だ。共に来い。如月追儺とリリィ金堂が回収したT2メモリを持って紲星探偵事務所まで来てくれ。……
そんな勝手にも程がある甘言は、私の心に溶けて行った。
「……ここは?」
目を覚ますと、知らない部屋のダブルベッドの上で。同時に思い出す。キリエさんから伝えられた真実。私が人間ではなくクローンで、両親もお爺様もそのことを知っていて……私は、幼い頃に事故で亡くなった本当の「紲星あかり」のDNAから生み出され代わりとして育てられたCLEARだということ、を……。
「……はは、そうだ…私、人間じゃないんだ……」
そうとは知らずに20年近くも……呑気に過ごしてきたのか。思い返してみれば運動もしてないのにすぐお腹が空いて、なのにいくら食べても太らなくて、他の人より成長も遅くて、力も強くて……変なところだけじゃないか。
「…きりたんもこんな気持ちだったのかな」
東北記理子が既に死んでいたことを知らされた際のきりたんの顔は覚えている。多分、私も似た様な表情を浮かべたのだろう。…人間じゃない私が生きていていいのだろうか。
――――「聞こえてるかは知りませんがついなさんからの伝言です。「あいつはあいつや、うちはあかりの元気に助けられとる」……私もそうですよ、あかりさん。貴方の屈託のない笑顔に元気づけられてます。…いってきますね」
そんな何時聞いたのかもわからないきりたんの声がフラッシュバックする。…寝ているときに聞いて、脳が覚えてたのかな……。
「…とりあえず現状把握しよう」
訳も分からず部屋を出て階段を降りると、何故か事務所そっくりの部屋で、ゆかりさんとついなさんとリリィさんがお通夜もかくやというぐらいに沈んでいた。もう夜らしく照明もつけずに月明かりに照らされている。
「ゆかり、さん…?」
「…あかり。起きましたか」
「きりたんと、キリエさんは…?」
この場にいない人たちの名前を呼ぶと、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべるゆかりさん。その顔に、察しはついた。
「…攫われたんですね」
「面目ない……完全敗北です、メモリも機能停止させられて変身まで封じられてしまいました…」
「そんな……」
「アリアルは怪物や。今まで相手してきた誰よりも強かった」
「NEVERとCLEARの力も予想以上だった。あそこまで化け物じみているとは………」
「リリィ!」
「あ、いや、あかりのことを言ってるわけじゃないぞ?」
CLEARが化け物呼ばわりされて私の表情が強張ったのに気付いたのだろう、ゆかりさんの注意する声にリリィさんがしどろもどろになって言い訳する。
「いいんですよ、ゆかりさん。私、人間じゃないCLEAR…化け物なのは事実ですから」
「あかり……そんなことは!」
するとそのタイミングでかかってくる電話。私に何か言おうとして、呼び出し音に我関せずと言った様子でスタッグフォンを開くゆかりさん。
「ヒメさんですか?今は忙しくてですね……」
《「大変大変!テレビつけて!」》
「テレビ?」
こちらにまで聞こえて来たぐらい大きな声で言われるままテレビをつけるゆかりさん。地方局「水都テレビ」のチャンネルが映し出されるも、そこには見覚えのある人物たちが映っていた。
《「やあ。我々はCOEFONT。このたび水都タワーをジャックさせていただいた、この水都を浄化する者だ」》
赤・青・緑・金・銀…キリエさんだったはずのサイクロン・ドーパントも含めた色とりどりのドーパント五体を引き連れた件の白づくめの少女、アリアルがにこやかに手を振ってそこに映っていた。
悲願を果たそうとするもできなかった月読アイ、水都タワーで警備員を殺戮するアリアルたち、そして苦悩するあかり。科学に翻弄された者達の三者三様でした。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。