なんかゆかりさんもきりたんもリリィも触れたく無さそうだったので、新参者である私がパーティードレスを着た眼鏡の女医者、釘崎檀に聞き込みすることにした。
「あの…釘崎、さん?少しよろしいでしょうか」
「あら。私に何か用かしら?担当したことがあったかしら…」
「あ、いえ初対面です」
馬鹿正直に答えてしまった、と口を押さえる。知り合いのふりをして聞き込みすればよかった……まだ頭が探偵じゃなくて姉さんの妹であろうとする私のままだ、しっかりしろ。なんのために生き延びたんだ、私。すると釘崎檀はクスクス笑って手にしていたシャンパングラスを机に置いて向き直った。
「素直で真っ直ぐな人みたいね。なのに担当って言葉に疑問を抱かなかったってことは私の職業を知ってるのかしら?詐欺とか宗教の勧誘とかじゃなさそうだし、話しぐらいなら聞いてあげるわよ?」
「あ、それじゃあ…医者と言う話ですがどこのお医者様なのですか?」
「水都総合病院よ。ここには船医として初峯九王に雇われたの。…そう、あの殺人精神科医を出した病院。知ってるかしら?」
「話だけなら…」
たしか、ゆかりさんたちが解決した事件が起きた水都で一番大きい病院だ。精神科医が犯人で、治療と称して己の患者を何人も手にかけたという凶悪事件。アベルーニが調べてドン引きしていたのを、お前が言うなと思ったのを覚えている。
「おかげで評判が地に落ちちゃってね。少しでも取り戻そうとしている最中なのよ。今回の仕事もその一環と言う訳。お気に召したかしら?」
「船医がお酒なんて飲んでていいんですか?」
「ああ、これ?ノンアルコールのシャンパンよ。さすがに仕事はちゃんと果たすわ。それより…もしかして、あなた紲星探偵事務所の探偵だったりする?」
「っ!」
無難な質問をしていたらいきなり言い当てられてビクッと反応してしまう。まさかこの人、財団X…!?
「図星みたいね。あ、警戒しないで。同僚の
「あ、それはすみません……苦手な人と顔が似ているみたいで…」
「それは残念ね。せっかくだし話してみたかったのだけど。それで?探偵さんが話しかけて来たってことは何かの捜査かしら?」
「あ、えっと……詳しい事は言えないんですけど、怪しい人って心当たりありますか?」
「怪しい人?……そうねえ、さっきすれ違った人に違和感を感じたぐらい?なんと言えばいいか分からないけど」
「そ、それは誰の事ですか!?」
「生憎と忘れちゃったのよね…ごめんなさいね?」
「そうですか…ありがとうございます、参考にします」
そう言って釘崎さんと別れる。…違和感のある人、か。誰の事なんだろう。とりあえずゆかりさんに報告かな。
初見久遠、鳴子芽衣と情報交換をし終えて、煉さんに警備状況でも聞こうかと歩いていると、視界に楽しそうにチョコレートケーキを頬張るIAさんと、不安そうについていくキクさんの姿が入った。そういえばIAさんもあからさまに目立っていたか。疑いようもないですが。
「あ、あの…IAさん。私なんかをボディーガードになんて正気ですか…?」
「さん付なんてやめてよ。前みたいに呼び捨てにして、苅奈さん」
「わ、私はキクです…私もさん付けは恐れ多いですし、その名前は偽名なので…それに私、貴方を利用して……」
負い目からかしどろもどろになってるキクさんが気の毒になってきた。あれだけされて気にしてないIAさんもすごいが。さすがは水都が世界に誇る歌姫だ。
「じゃあ、キク。私は気にしてないわ。貴方が私で儲けるためにとはいえ、本気でマネージメントしてたのは事実だもの。歌姫「IA」は私とあなたがいてこそ成り立つの。お願い、戻って来る気はない?」
「いえ、いえ……IA。貴方が世界の歌姫となれたのは貴方の実力故です。私は何も……ただおこぼれをいただいてただけで……」
「その自虐的な性格、素だったのね……私が貴方の事が欲しい、じゃ駄目?」
「あうあう…」
真っ直ぐ目と目を合わせて見つめるIAさんに、キクさんはたじたじだ。思わず助けようとすると、その背後から近づく人影を見て止まる。…アレは任せた方がいいか。
「わ、私なんかが……それに私は、リリィさんの部下で…」
「よう、うちの腹心に何か用か?歌姫サマ」
「わっわわっ!?」
キクの肩に己の肩を組みながら笑顔で話しかけるリリィ。キクは顔を赤らめて慌てて、リリィはその様子が気に入ったのか上機嫌に口元に笑みを浮かべる。対してIAさんはあからさまに警戒の態度を取るが、それでも離れずにその場にとどまった。
「まったく。歌姫さんよ、お前がキクを恨んだりしない性格だと思って快く送り出して見守っていたら…油断も隙もないな」
「…リリィ金堂、さんでしたっけ。探偵さんから報告を受けてましたが本当に出所したんですね。ご無沙汰してます」
「なんだ、ゆかりのやつ伝えてたのか。まあ誘拐犯が出所したんだ、探偵として伝えないわけにはいかないよな?そうそう、今はオレもその事務所の探偵なんだ、依頼があったらよろしくな?」
キクさんと肩を組みながらにんまり笑って挑発するリリィ。逃げようとするキクさんの肩をガッシリ掴んで逃がしはしない。それを見てムッと不機嫌になるIAさん。ヤバい、修羅場だ。リリィに任せるのは駄目だったか。
「また依頼ができても貴女にだけは頼んだりしませんよ。…それに、キクは私のマネージャーだった人よ。また勧誘しようが自由では?」
「生憎とこいつはオレの所有物でな?人にやる気はねえ。マネージャーとしてお前の所に送ったのもオレだしな。二度とこいつを送ることはないから、安心して適当なマネージャーでも雇え。金なら迷惑料としてくれてやる」
「リリィさん!?」
「そんなものいらないから、キクを私にください。私にはキクが必要なの」
「IA!?」
「うちのキクが欲しければオレを倒してからにするんだな!」
「あわ、あわわわわわっ」
徐々に喧嘩腰になっていくIAさんと、売り言葉に買い言葉でヒートアップしていくリリィに、顔を赤らめて目を回して慌てるキクさん。可哀想に。そういやリリィって美しいものに目が無いんだったか。キクさんは裏切られても手元に置いているぐらいだからお気に入りなんだろうなあ。
「こっちは面白いことになってますねえ」
「まるでラブコメでヒロインを取り合うイケメンたちみたいですねえ」
どうしたものかと見ていると、ショートケーキをいただいているきりたんと、フライドチキンに齧り付いているあかりがいつの間にか傍にいた。二人とも食い意地はり過ぎです。美味しそうなのは分かりますけど。
「あれ、きりたん。ミラ・マリンはどうだったんですか?」
「特に何も?あ、あれ美味しそうですね」
よく見えないけど子供たちを相手にマジックを披露しているミラ・マリンに視線を向けながら尋ねるとなんでもない言いたげにきりたんはずんだ餅を食べに行った。なんでずんだ…?あ、「提供:ずん子」と書いている。純子さんのずんだ広報アイドルとしての名前だったはずだ。提供:東北家ってことですか。やはり東北家の血なのか、ずんだ餅好きなんですかねきりたん。
「あかり、伊藤廻は?」
「あ、あの人怪しいです!私が探偵だと知ったらあからさまに逃げて行きました!」
「…それだけじゃあ裏がある政治家ってだけの可能性もありますよあかり…」
それはそれで問題だが、迂闊に踏み込めるものじゃないな。どうしたものか、他のメンバーの帰りを待つか…そんなときだった。いきなり視界がブラックアウトした。
「わ、わ、なんですか!?」
「停電…!?」
どよめく客たちに、私は見えないながらも周囲を警戒する。怪盗か…!?
パンッ!
「ぐあああああああっ!?」
バタリ!
乾いた銃声と男の断末魔、なにかが倒れる音。同時に明かりが点灯し、断末魔が聞こえた方向を見れば心臓に開いた風穴から血を垂れ流して倒れている伊藤廻の姿が。
「キャアアアアアアアッ!?」
轟く悲鳴。パニックになった客たちが慌てて逃げ出そうとして警備に止められるのが見えた。
「Really…!?」
そして、オークショニアの信じられないとばかりにこぼれた声。振り返れば、檀上にて展示されていた美術品がひとつ、消えていた。
「そんな、馬鹿な…」
私はあまりの一瞬の犯行に、戦慄するしかなかった。
リリィとIAのキクの取り合いは書いていて楽しかったです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。