突如起きた殺人事件と盗難事件。私たち紲星探偵事務所の面々は三手に分かれて捜査していた。私ときりたんが殺人事件、あかりとリリィが盗難事件、ミリアルと西友とキクさんが聞き込みだ。
「検死の結果はどうですか?釘崎さん」
「相変わらずよ。胸部の心臓を撃ち抜かれ風穴を開けられたことによる即死。凶器はおそらく銃、ということ以外には、この場ではなにもわからないわ。専用の設備があればまだわかりそうなものだけど」
「銃、なんですよね?でも弾痕がどこにもないんですよね…」
私がマユさんにトラウマがあるため、きりたんが医者である釘崎さんに尋ねるが進展はないらしい。せめて弾さえ見つかればとメモリガジェット総動員で探しているのだが、全然見つからない。
「加賀さん、どうですか?」
続けて警備主任の加賀煉さんに尋ねるも、表情は芳しくない。
「警備員総動員で探させたが、やはり弾痕と同じで凶器と思われる拳銃はどこからも発見されてない。「真実の愛」もだ」
「やはり拳銃は犯行後に海に捨てたのでしょうか?」
「あの騒動の後すぐ抜け出してそんなことをしようとすれば目立ちます。そんな話は聞いていません。つまり、この会場のどこかにあるか……」
それか、最初から存在しなかったか。それこそありえない、私たちはたしかに聞いた。銃声を。この矛盾はいったい…?すると、あかりとリリィが戻ってきた。
「ゆかりさん、こちらの調査もひと段落しました」
「パーティー会場の外の船中の怪しいところを探したが「真実の愛」はなかった。怪しいとしたらあの狐女だが……証拠がないから手出しができない。ミリアルとオレの部下に期待だな」
「新入りのミリアルはともかくあの二人は本当に頼りになりますからね……蔑ろにしてはいけませんよ?」
「当たり前だ。二人とも、オレの大事な宝だ、死んでも離さないさ。ここの警備員たちと違ってな?」
「なに…?」
リリィの言葉にカチンと来たのか詰め寄る加賀さん。身長が低い加賀さんが高身長のリリィを見上げる形となり、リリィはどこ吹く風といった様子。
「依頼を守れなかった探偵が俺達警備の人間を馬鹿にするのか…!」
「事実を述べたまでだ。そもそも宝を守るのはあんたらの仕事で、頼りないからオレたちに依頼が来たんだろう。それだけの数を揃えて置いて一体全体なにをしてた?お前たちの中に犯人がいるといわれた方が納得するまである無能っぷりだな」
「り、リリィ言い過ぎです…」
「言わせておけば…!」
止めようとするも加賀さんは怒りに顔を歪ませて握った拳を振るおうとして、リリィは不敵な笑みで挑発すらする始末。しかし、その拳を受け止めたのはリリィではなく、キクだった。殴り飛ばされ、リリィに受け止められるキク。
「っ…うちの上司の非礼をお詫びします」
「キク!?お前、なにを…」
「リリィさん。犯人にしてやられて焦っている気持ちはわかります、わかりますが仲間にあたってもなんにもならない…!」
「ぐっ、ぬっ…」
キクさんに窘められてぐうの音も出ないらしいリリィ。加賀さんも申し訳なくなったのかおろおろしてる。…自分の上司のために体を張れるの、すごいですね。するとあかりも頭を下げた。
「加賀さん、うちの部下が申し訳ありません。ですが…リリィさんの言うことももっともです。ここまで手掛かりが見つからないとなると……」
「身内に犯人がいる、か。…すまない、熱くなった。確かにその可能性も否めない……」
「となると……私たちも含めて調べなおした方がよさそうですね」
姿かたちもわからない怪盗Iと、侵入した財団Xの構成員、そして今回の事件の犯人たちが必ずどこかにいる。絶対見つけ出してみせる。
そんなゆかりたちの様子を物陰から見つめる男が一人。西友蒼司だった。その横にはもう一人、人物がいて。
「キク……やはりお前は邪魔だ……」
「――――」
「わかっている。東北至子から頼まれたのはあんたの手伝いだ。この船が陸地についてあんたを逃がすのと、怪盗Iとやらが盗んだ宝の奪還だろう。協力はする、財団X。あんたたちとも仲良くしたいからな」
もう一人の人物の言葉に、頷きながらイタコから渡されたガイアメモリを取り出して、別の方向に視線を向ける。
「あんたが矢面に出られないのは分かっている。…歌姫の勧誘と行こうじゃないか」
そう言ってもう一人と別れ、接触したのは今回、ライブを披露するために初峰九王に招待された人物。
「あなたは……あの女の……?」
「話がある。ついてこい」
「貴方は私を誘拐した組織の一員でしょう?そんな怪しい話に乗るわけが…」
「キクのことについてもと言ってもか?」
「っ……ついていけばいいのね」
「そうだ……趣味は悪いが聞き分けのいい女は嫌いじゃない」
黄金の輝きに魅入られた男は笑い、赤色に心を奪われた女を連れて多くの人が集まるパーティー会場を後にするのだった。
「あれ……ここどこですか…?」
一方、甲板にて辺りをきょろきょろと見渡して首を傾げている黒づくめの少女がいた。ミリアル・ボルコフ。絶賛迷子の元テロリストである。
「客から話を聞いてたはずがなぜここに…?」
聞き込みをしてたはずがこんなところまでやってきて首を傾げて腕を組み真剣に考えるミリアルが歩いていると、甲板の奥に人が黄昏ているのを見つけた。
「おや、こんなところに人が……もしかしたら何か見てるかも。あの、すみませーん」
「おや、どうしたんですか?ミリアル」
「え、あれ?きりたん?」
振り返ったその顔は仲間のきりたんで、身長も全然違うため「見間違い…?」と首を傾げるミリアル。確かにここに、きりたんではない誰かがいたはずなのだ。
「きりたんこそどうしてここに?」
「ああ、これをどうしようかなと思いまして」
そう言ってきりたんが手に取ったのは、件の緑色の輝く鉱石の彫像だった。それを見て目を見開くミリアル。
「そ、それって「真実の愛」!?さすが名探偵の片割れ…もう取り戻したんですね!?いったいどうやって!?」
感動し、興奮するミリアルに対し、きりたんは憂いに満ちた表情で海に視線を向けたので、ミリアルもそれにつられて視線を向ける。何もない、穏やかな水平線がそこにあった。
「なにがあるんで…す?」
ひょいっと。次の瞬間、ミリアルはきりたんに片手で持ち上げられていて。慌てて手足をばたつかせるがビクともしない。
「え…え?きりたん!?いったいなにが……」
「見つかってしまったならしょうがない。今度は君になるとしよう」
そう言ったきりたんの姿が一瞬細長いドーパントに変わると、溶け込むようにしてその姿がミリアルそっくりに変わり、口元を三日月の様に歪ませてにんまりと笑う。
「ドーパント……ま、まさか怪盗I…!?」
「すこし眠っていてもらいます。なに、私は殺しはしないから安心してください」
口調もそっくり真似られて、自分自身に首を絞められて意識が遠のいていくミリアル。
「姉、さん…」
意識が途絶える直前に見たのは、最愛の姉の姿だった。
凶器の謎。動く西友。そしてミリアル絶体絶命。
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