ガトランティス残党艦隊による第二次地球侵攻から一日が経った翌日。
防衛軍はその後始末に追われていた。
宇宙空間ではタグボートと工作艦がせわしなく損傷した防衛軍の宇宙艦艇を曳航し、地球では連邦政府からガトランティス残党の脅威が去った事が正式に発表され、地下都市へ避難していた市民たちは地上へと戻って行った。
「北米管区第五艦隊、戦艦インディアナに中破判定が出ました!」
「欧州管区イギリス管区所属の第八艦隊はルナツーに寄港!応急修理等を行え!」
「ジャブロー基地第一ドックから第八ドックまですべてドック入りしている艦が占領していて修理が進みません!」
「ああ~もう‥‥!!」
束指揮下の内惑星系艦隊も作戦に参加した艦の八割が大なり小なりの損害を受けているので直ちに修理したいが各管区から招集した管区直轄艦隊もほとんどが損傷していてそちらの修理が優先されているせいで後回しになっていた。
「やれやれ‥‥やっぱり寄せ集めた艦隊じゃあ統率がうまく取れなかったから損害が増えたのかなぁ?」
内惑星系艦隊の損害表を見ながら束は今回の戦いの反省点を口にする。
「まぁそれもあろうが、そもそも相手も残党とは言え強力だったのだ。この程度の損害で済んで良かった方なのではないか?」
「まぁねぇ。あっ、そうだ。ギンガちゃん」
「はい?」
「あとで護衛艦猿島の艦長と副長にアンドロメダへの出頭命令が来ているって伝えといて」
「わ、分かりました」
「追伸で多分鬼竜に叱られるから覚悟しといてってね」
「は、はい‥‥」
(ご愁傷様です。猿島の艦長さんと副長さん)
ギンガはまだ会った事の無い猿島の艦長と副長‥明乃とましろに心の中で合掌すると同時に彼女たちが今乗艦している白浪へ通信をいれた。
そう、いくら死者なしとはいえ貴重な艦を無茶な操艦で結果的に沈めてしまったのは事実なので猿島の艦長である明乃と副長であるましろは後で土方にきついお叱りを受けることだろう。
「あっ、そう言えば確か昨日管理局との交信があってそれを真田君に任せたんだった。どうなっているかな?」
束は昨日行われたであろう管理局との交信で真田に任せていたのだが、ガトランティス残党艦隊の侵攻時に管理局からも別方向で領海侵犯が行われ、しかも臨検に向かった防衛軍の艦艇に対して発砲までしてきたのだから、管理局側も真田からその件を突きつけられたらきっと顔を青くしただろう。
「変なことにはなっていないといいがな‥こっちは管理局艦を鹵獲してしまっているし」
「まぁ、そっちは領海侵犯だから別にいいとして‥‥あっ!?」
管理局の艦を不本意ながら鹵獲したがそれは管理局側が領海侵犯をしたのだから、管理局に文句は言わせない。
そんな中、束は何かを思い出したかのように声を上げる。
「ん?どうした?」
「いや真田君に管理局の実情を説明してなかった気がしてさぁ」
「‥‥あっ‥そうだったな」
ディアーチェも束の指摘に思い出したかのように呟いた。
ここで時系列は第二次土星沖海戦が始まった頃に戻る。
「さて、これから管理局との通信を行うが大丈夫か?」
現在、地球へガトランティスの残党艦隊が迫っているので、何か影響があるかもしれないが、管理局側はこちらの事情を知らないので、こちら側からコンタクトを取るしかない。
「大丈夫だろう。ただ軌道上にて交戦が始まった場合はノイズが入るかもしれないがな」
「そうか。まぁあの件についてもしっかりと管理局とらやには問いたださなければならないからな」
「まったくだな」
「あちらの人間とは俺が話すから大山、お前は機器の操作を頼む。念の為に逆探知とかされていないかのチェックを含めてくれ」
「おう、任せろ」
通信室に居たのは真田と大山であった。
実は古代も束の代理で出る予定だったのだが時空管理局次元航行艦が領海侵犯した件で他にも来ている可能性が否めないと判断した地球防衛軍上層部からの指令によって地球本土に点検中で居残りとなっていたドレッドノート級主力戦艦のうちの一隻の『比叡』にヤマトメンバーの大半が乗って即応待機態勢にいることになってしまった為に大山が代理の代理できたのだ。
「では頼む」
「あいよ」
大山は機械を操作して管理局との通信回路を開く。
時空管理局・次元航行本部
コンソールに着信を知らせるシグナルが点灯し、アラーム代わりの着信メロディが流れる。
今回の着信メロディは束がこの日の会談の際にネタに使おうとしてこっそりセットしておいた某怪獣王のマーチであった。
「こちら、時空管理局・次元航行本部です」
「こちらは地球連邦・地球防衛軍です。お手数ですが、交渉役のクロノ・ハラオウン提督をお願いします」
「は、はい!!直ちにお呼びしますので少々お待ちください!!」
管理局側のオペレーターは防衛軍から交信が来たことで急いで交渉役のクロノを呼び出した。
「お待たせしました。クロノ・ハラオウンです」
「私は地球防衛軍所属、宇宙戦艦ヤマト副長兼技師長の真田志郎です。今回は月村束がどうしても外せない用事の為に私が代理として交信の席に着かせてもらっています」
「用事‥ですか‥‥」
「ええ」
「もし、差し支えがなければどのような用事なのかお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
クロノは束が今回の交信の席に来ることが出来ない程の用事とは一体どんな用事なのかを尋ねる。
「現在、太陽系内にはガトランティスの残党軍がまだ存在しており、その残党軍が地球へ侵攻してきまして、防衛軍の主力艦隊はその迎撃に向かっており、月村束が乗艦している艦もその迎撃に向かっているのです」
「そ、そうだったのですか‥‥なるほど、その様な事が起きているのでは月村司令が今日の席に着けないですね。分かりました」
クロノも真田から事情を聞き、束が今回の交信の席に来れない理由に納得する。
「それで、ハラオウン提督。早速ではありますが、ガトランティス残党軍の地球侵攻の他にもう一件、防衛軍の管轄内で事件が起きていまして、その事件に時空管理局が関わっているので、ハラオウン提督にはその件についてのご意見をお聞きしたいのですが‥‥?」
真田はクロノに早速、クライスラーの領海侵犯の件を伝える。
「か、管理局が関わっている事件‥‥」
クロノは防衛軍の管轄内で管理局が関わっている事件と聞いて声が裏返る。
「そ、それは一体どんな事件なのでしょうか?」
クロノとしてはフェイトたちの時の様に管理局の艦が遭難して防衛軍の艦艇に救助されたと言うモノを期待していたが、真田から聞かされた内容はクロノから血の気を失わせる程の事件だった。
「管理局の艦が地球連邦の領海内に無断で侵入し、臨検に向かった防衛軍の艦に対して発砲しました」
「‥‥」
(だ、誰だ!?誰の艦だ!?そんなバカな事をしたのは!?)
「これが公海上ならば、防衛軍の艦が管理局の艦を臨検する事もなく、恐らく管理局の艦も発砲する事もなかったのかもしれませんが、何分領海内で起きた事なので‥‥どうしました?顔色が悪いみたいですが?」
「さ、真田副長‥‥こ、今回の件に関しては‥その言い訳になるかもしれませんが‥じ、自分の方でも‥あ、預かり知らぬ事で‥‥」
クロノは震える声でまさか、管理局の艦が防衛軍の領海を侵犯してましてや防衛軍の艦に対して発砲するなんて戦争になってもおかしくはない行動をしたなんてまさに寝耳に水の出来事であり、事実確認が出来ていない事を真田に言うが、クロノ自身でもそれは言い訳にしかならないと思っていた。
「し、しかし、その件は‥じ、事実なのですか?」
疑うつもりではないが、本当に管理局の艦が防衛軍の艦に対してそんなバカな真似をしたのか確認をしたかった。
クロノとしては当然その様な事は間違いであってほしかった。
管理局の艦に似せた宇宙海賊が防衛軍の艦に捕まったと言う誤認ならば管理局は無関係と胸を張って言えた。
「‥‥」
真田はクロノが言う事も最もであると思い、タブレット端末を取り出しクロノにある映像を見せる。
それはホワイトアーチャーⅠとホワイトアーチャーⅡが地球連邦の領海内に無断で侵入している管理局の艦‥クライスラーを臨検しようとしている映像で、クライスラーは接近して来るホワイトアーチャーⅠとホワイトアーチャーⅡに対してアルカンシェルを撃ち込んだ。
しかし、ホワイトアーチャーⅠとホワイトアーチャーⅡは小ワープにてアルカンシェルを躱し、反撃と言わんばかりにクライスラーの機関部とアルカンシェルに対してピンポイント砲撃を行い航行能力と攻撃能力を奪った。
その後、クライスラーは成す術無くホワイトアーチャーⅠとホワイトアーチャーⅡの牽引ビームで防衛軍の要塞ソロモンへと連行されて行った。
「そして、此方がこの艦に乗っていた乗員たちの顔写真です」
ソロモンへ連行された後、クライスラーの乗員たちはソロモンに駐屯していた空間騎兵隊員たちの手で武装解除され、全員が顔写真を記録として撮られていた。
「‥‥」
(あっ、コイツは!?)
一連の動画と管理局の制服を着たクライスラーの乗員たちの写真を見てクロノはまさに顔面蒼白となっている。
しかもクライスラーの乗員たちの中にクロノが知る局員の顔があったので、管理局の艦が領海侵犯をして防衛軍の艦に発砲したのはやはり事実であった。
(お、終わった‥‥管理局はもう終わりだ‥‥)
(管理局は自らの足でドラゴンの尻尾を踏みつけ、自らの手で逆鱗をペタペタと触りぬいた‥‥)
クロノの脳裏には管理局の艦が防衛軍の艦に蹂躙され、ミッドを始めとする管理世界にはコスモタイガー隊が都市部を爆撃する光景が浮かんだ。
(それにフェイトたちも今頃は軍刑務所に収監されているんじゃあ‥‥)
(もう、フェイトたちのミッドへの帰国もかなわないだろう‥‥なのはやはやてに何て言えば良いんだ‥‥)
管理局の艦が防衛軍の艦に対してこんなバカな真似をしたのだから、当然管理局員であるフェイトたちも身柄を拘束されているのではないかと予測するクロノ。
恐らくこれがもう一つの地球との最後の交信になるのではないかとさえ思ってしまう。
当然、フェイトたちがミッドに帰国する事は無く、異世界の軍刑務所で終身刑を言い渡されるのか?
いや、終身刑ならばマシな方でそのままスパイ容疑を掛けられて拷問の末に処刑される可能性だってある。
こんな話をなのはやはやてたちにどう説明すれば良いのかと頭を抱えたくなるクロノ。
なのはやはやてが知れば、『フェイトちゃんを助けに行く!!』とか言い出して地球連邦の領海内へ強引に艦を侵入させて管理局と地球連邦と問題を更に拗らせる可能性が高い。
「あの‥‥」
「は、はい!!」
真田の声にクロノは我に返るが、声が相変わらず裏返っている。
「ご確認を頂きましたが、ハラオウン提督のご意見を聞かせていただきたいのですが‥‥?この艦、そして乗員たちは管理局の所属で間違いありませんか?」
「‥‥」
クロノはゴクッと固唾を飲み込み、
「は、はい‥‥管理局の所属で間違いありません」
クロノは今回領海侵犯をして防衛軍の艦に対して発砲したのは管理局の艦、そして管理局所属の人間であることを認めた。
「‥‥そうですか」
真田は静かに頷く。
(ま、まずい!!此処で何とか弁明しなければ!!)
(フェイトたちの帰国は叶わず、管理局も管理世界も滅ぶ!!)
クロノは管理局‥‥引いては管理世界とフェイトたちを救うために何とか弁明して罪を軽くしなければならないと頭をフル回転させる。
「あ、あの、真田副長!!確かに今回の件は間違いなく管理局が仕出かした事です!!しかし、先に救助されたハラオウン執務官らは今回の件とは無関係であります!!領海侵犯の件も自分の預かり知らぬ事でありますが、無関係とは言えません!!故に領海侵犯をした艦の乗員たちの処分に関してはそちらの法律に則って処罰をして構いません!!なので、ハラオウン執務官らの処遇に関しては何卒寛大な処置をお願いします!!」
クロノはクライスラーの乗員たちを防衛軍‥地球連邦政府へ売り渡す決断をして、彼らの代わりにフェイトたちの安全を真田に深々と頭を下げて嘆願した。
管理局側のオペレーターはクロノの態度に驚いている。
「ハラオウン提督。時空管理局の規模を考えますと組織である以上一枚岩ではない事は承知しております」
地球を守ると言う共通の認識を持つ筈の防衛軍も様々な思惑を抱いている事を真田も理解している。
防衛軍よりも規模が大きい時空管理局ならば、防衛軍以上に様々な思惑を抱いている人間が大勢居るであろう事は簡単に予測できるので、クロノの心中を理解していない訳ではない。
「しかし、ハラオウン提督。提督の言う通り、領海侵犯を起こした艦の乗員たちを此方の法律で処罰した場合、管理局が報復や乗員たちを奪還しようと艦隊を太陽系に派遣するのではないでしょうか?」
真田は地球連邦の法律で今回領海侵犯をした管理局員らを処罰した場合、管理局が地球連邦に対して報復処置や乗員たちの奪還行為をするのではないかとクロノに質問した。
「い、いえ、今回の件はどう見ても管理局側に非があります!!私の全責任をもってそちらの太陽系に無許可で管理局の艦を向かわせるような真似は今後一切させません!!」
クロノはクライスラーの乗員たちの行為は自業自得であり、彼らを処罰する代わりにフェイトたちや管理局、管理世界を救う事が出来るのであるならば、安いモノだと思っていた。
「‥‥分かりました。実はハラオウン執務官らは今回管理局が行った領海侵犯について一切知りません。よって、ハラオウン提督のおっしゃる通り、ハラオウン執務官らは今回の領海侵犯の件については無関係でありますし、領海侵犯の件について口外は致しません」
「あ、ありがとうございます」
「そして、管理局側を抑える役目についてはハラオウン提督にお任せするしか術がありませんが、もし今後、管理局の艦が無許可で地球連邦の領海内を侵犯する行為が続くのであるならば我が防衛軍も防衛行動の一環でそちらの艦を撃沈する強硬手段を取らざるを得ません」
「分かりました。真田副長のご厚意に感謝いたします。それでは‥‥」
クロノにとっては生きた心地がしない交信となった。
「すまないが、君も先ほどの地球との交信内容については一切口外をするな」
「は、はい」
クロノはオペレーターに緘口令を命じた。
そして、地球との交信が終わると同時にクロノはまさに般若の様な形相で今回管理局の艦が引き起こした地球連邦への領海侵犯の件を母親であり、統括官であるリンディの下へ報告しに行った。
さて、地球と管理局との交信の場でも問題となっていた領海侵犯した管理局艦‥クライスラーの乗員たちであるが彼らは全員ソロモン要塞に移送されて尋問を受けていた。
なんせ彼らはタイミングが悪すぎた。よりにもよってガトランティス残党による侵攻の真っ最中に領海侵犯した挙句、接近していったホワイトアーチャーにアルカンシェルのよる攻撃を仕掛けてしまったのだ。
普通の軍隊相手なら即刻銃殺されてもおかしくないのだ。
「えぇい!!汚い手で私に触れるな!!離せ!!魔法も使えない蛮族共が!!」
「さっさと我々を解放しろ!!このような犯罪者と同じ扱いをしておいて管理局が黙っていると思っているのか!?野蛮人共が!!」
「はぁぁぁ~‥‥もう、ピーピーとうるさいなぁ~‥‥」
「す、すみません」
「ああ、君の事じゃないからね?それにしても選民思想の塊かこいつらは‥‥?私が元居た世界の女性権利団体の無能なクズ共と同レベルだな」
ここはソロモン要塞の独房エリアのそばにある尋問室である。
今ここでは、出雲が拿捕した管理局の次元航行艦の戦術長から話を聞きつつ調書をまとめていたが、戦闘エリアではない関係上壁が薄いせいで独房エリアから聞こえてくる管理局強硬派の局員の怒声が丸聞こえであり、聴取どころではなかった。
なお、何故内惑星系艦隊総旗艦でIS担当としで勤務しているはずの出雲がソロモンにいるのかというと、内惑星系艦隊での運用の結果を受けて防衛軍全体にISを配備する計画が持ち上がり、その準備会議に出席するためにソロモン要塞に来ていたためにアマテラスに乗れず、その結果拿捕した管理局艦に一番詳しかったこともあってこの聴取をやることになっていたのだ。
尋問を受けるクライスラーの乗員の中には元々防衛軍の艦艇への攻撃に反対する者もおり、そうした乗員は尋問にもすんなりと受け答えしている。
何より出雲の声が管理局のエース・オブ・エースである高町なのはとそっくりな声であるのも一因していた。
しかし、彼らはフェイトたち救助者、そして自らの職場である管理局、数ある管理世界の安定の為に管理局が地球連邦へ売り渡した事を後に知る事になる。
次回 閑話 何気ない日常
銀河鉄道物語の小説を一話試し書きしたのですが読みたいですか?
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読みたい!
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