ティアナ、神堂、シャルロットが宇宙戦士訓練学校(宇宙防衛大学)に入学してから数か月の月日が経過した。
この日、古庄クラスの面々は宇宙空間における実地研修を行うこととなっていた。
太陽系 内惑星系金星宙域
「あっ、見えてきましたよ」
シャルロットの声にクラスの面々は窓に集まった。
そこには複数のコロンブス級やコロンブス級を基にしたアンティーンタム級、金剛型宇宙戦艦を基に建造されたアーガス級、そして次期空間正規空母のテストヘッドとして建造されたカサブランカ級が存在していた。
コロンブス級・アンティーンタム級
アーガス級
カサブランカ級
「あの艦が、私たちが実習を受ける艦ですか?」
美咲が古庄に尋ねる、
「その通りよ、美咲候補生」
美咲の言葉に古庄は肯定した。
「今日から数日間、諸君らは新鋭艦であるカサブランカ級二番艦『ガンビア・ベイ』にて実習を受けてもらう」
そう、今日から古庄クラスの面々は配属先が決まる前に『ガンビア・ベイ』にて宇宙空間における実地研修を受けることとなっていたのだ。
「私は学校でまだやることがあるので同行出来ないが、鯨伏 慶五郎(いさぶし けいごろう)教官が諸君たちに同行する」
「うむ。諸君!!貴様らはこれから防人として地球の為に貢献していくこととなるが、その前に知識しかないのでは役に立たん!よって『ガンビア・ベイ』にて多くの実際の経験を積んでもらうぞ!!」
『はい!!』
鯨伏教官からの一喝に古庄クラスは気合を入れなおした。
カサブランカ級大型護衛空母 『ガンビア・ベイ』
やがてシャトルは古庄クラスが研修を受けるガンビア・ベイに接舷し、鯨伏教官と訓練生たちガンビア・ベイに乗艦する
「では、本日より数日間よろしくお願いしますぞ?」
鯨伏教官は乗艦名簿をガンビア・ベイの艦長に手渡す。
「はっ、はい!!う、承りました!!」
鯨伏教官の報告に艦長のグッドウィン・スミスはガチガチで返答しながら乗艦名簿を受け取る。
「‥‥噂には聞いていましたが、スミス艦長は艦長としてもう少しビシっとした方が良いですぞ?あまり頼りない様子ですと部下から舐められますから」
スミス艦長の態度に対して、これには鯨伏教官も苦言を呈するほどだ。
スミス艦長は空母の艦長としての指揮能力は高いのだが、この極度のビビりな性格や方向音痴が有名なのだ。
なんせ、この『ガンビア・ベイ』を月面の臨時基地にて預かった直後に金星に進路を指示したのだが、何をどう間違えたのかいつの間にか反対方向の冥王星宙域に到着していたのだ。
おかげで、金星基地から「『大型護衛空母『ガンビア・ベイ』は何処にありや?何処にありや?全世界は知らんと欲す!』」と通信兵が昔の無線文を引用して発信してようやく復旧作業中の冥王星基地側が把握。
秋月型駆逐艦『ブリストル』が護衛兼先導役についてようやく火星基地に到着する有様であったのだ。
なので、内惑星艦隊の管轄内にある艦隊の中でも特に荒事がない艦隊である『金星宙域警邏空母艦隊』で旗艦に『ガンビア・ベイ』を据えて迷子で変なところに単艦で向かわせないようにしたのだ。
アーガス級やアンティーンタム級等を中心に結成された試験的な完全な空母で編成された機動部隊なので、運用試験や実習試験先ということになっているのだ。
この艦にてティアナは戦術長に美咲は艦長候補生という形で艦橋を担当し、他の面々は機関部やCIC、無重力状態でありハッチが開いた際には無酸素状態の格納庫で勤務することとなっていた。
「あら?ティアナ!?」
「えっ!?ギンガさん!?」
ちなみに、月村ギンガも武御雷から実習に来ていたので意図しない再会が発生していた。
「どうして此処に!?」
「束さんとディアーチェさんから、『指揮官研修を受けて来い』って言われてこの艦に研修に来たのよ‥‥ティアナこそどうして此処に?」
ギンガは美咲よりも上級職‥司令官の研修のために訓練生と共に今回の研修を受講していた。
「束さんたち、ギンガさんには言っていなかったんですね‥‥実は、私たち、宇宙戦士になろうって決めて、先日から宇宙戦士訓練学校に入校したんです」
「えっ!?そうだったの!?」
(ティアナがミッドに戻らず、この地球に残ってやりたい事って宇宙戦士だったんだ‥‥)
自分の時は、ガミラスと言う外宇宙からの侵略を受けていた事で、もう二度とミッドチルダには戻れず、もう一つの地球で暮らしていかなければならない中で、この星の人たちを守るために自分は宇宙戦士になると決めた。
一方、ティアナは念願だった執務官になる一歩手前まで来ていたのに、それを敢えて蹴り、ミッドチルダへの帰還を辞めてこの地球に残留したのだが、そこまでしてこの地球でやりたい事は一体何なのかと思ったのだが、それがまさか宇宙戦士とは思わなかった。
こうしてギンガ、そしてティアナたち訓練生の実習が始まった。
しかし、ガンビア・ベイにおける実習は各々が大変である。
「候補生!出力を上げろ!第二戦速だ!」
「はっ、はい!!」
「馬鹿野郎!!そのレバーじゃなくて隣のレバーだ!!それにその前にバルブを解放しろ!!そしてレバー下げた後に安全弁を解放するんだ!!」
「ひっ、ひぃ~~~!!」
(か、管理局時代よりも大変~~!!)
(これまでの経験で少しは出来ると思っていたんだけど、やっぱり管理局と軍との違いはこんなにも差があった訳か‥‥)
神堂はかつて時空管理局の次元航行艦機関員をしていたが、そんな彼女でも防衛軍艦艇の機関員は大変なようだ。
そもそも管理局時代は戦闘に関わる事態はほぼなかった上、そんな即座に機関を動かすようなケースはめったになかった。
あったとしても宇宙気象に巻き込まれてそれから脱出するくらいなのだから‥
しかし、防衛軍艦艇は軍艦だ。
即応することが求められる。
一分一秒の遅れが艦‥ひいては自分たちの運命を決定づける事になるからだ。
おまけに波動エンジンも改良が続けられているとはいえ、多数の人員が連携して動かす必要があるのだ。
つまり、細かい作業を手早くかつ、他の機関員との連係プレーで確実に遂行しないといけないのだ。
「候補生!!第五安全弁のエラーが発生したぞ!応急修理だ!手順は覚えているか!?」
「はっ、はい!!」
「バッカ野郎!!データ表示だけで確認するな!!スパナの使い方くらい習っているだろう!!床板外して潜り込んで直接手で直せ!!」
「ひぃ~~!!」
機関部はこんな状態であるが、格納庫も地獄である。
『第一飛行隊三号機帰還します!』
『弾薬・エネルギーの補給を急げ!!』
『IS隊も即応体制への移行を完了!』
『ばか野郎!!十分もかかっただぁ!?そんなの三分以内に終わらせろ!!』
「「「「「ひぃ~~~!?」」」」」」
格納庫‥‥特に空母の格納庫でも即応性と確実さが重要だ。
それにIS隊を含めて空間騎兵隊も即座に動けるようにならなければならない。
『ヴォルホッグ改飛行隊、右舷下段格納庫に帰還します!!』
『あれか‥‥あの機体結構整備が大変なんだよなぁ‥‥』
『候補生共!ぼやいている暇があったらさっさと道具を持って作業に掛かれ!!』
『『う、うっす!!』』
おまけにこの『ガンビア・ベイ』を筆頭とした『金星宙域警邏空母艦隊』では基本は旧型のコスモファルコンやセイバーフィッシュを運用しているが、『ガンビア・ベイ』には一飛行隊分だけであるものの超旧型の『警備戦闘機ヴォルホッグ改』も配備されているのだ。
技術科の候補生たちでも教科書で習った程度なので、整備が滅茶苦茶大変なタイプなのだ。
衛生科では、ダミー人形を使用しての応急手当て、負傷者の搬送作業が行われた。
ガンビア・ベイ 艦橋
「上方より敵機及び敵艦!!距離‥‥」
「ランスター候補生!主砲で迎撃しろ!」
「はい!」
艦橋では、ティアナが訓練標的として用意された標的用バルーンに対して艦の上部に二門と両舷に一門ずつ、計四門の主砲を指向させ、
「っ、撃てぇ!!」
そして主砲の照準を自分で合わせた彼女は、発砲を指示。
「命中!標的全機撃破!!有効!!」
全標的を撃破せしめた。
「くっそ!次は俺がやってやるぞ!!」
「やれやれ‥‥」
ちなみに、標的用バルーンを動かしていたのは土門と揚羽であり、土門はティアナ同様に負けず嫌いな性格なので、両者はいつの間にかライバル関係となっていた。
揚羽はそんな感じの親友でヤレヤレと呆れていた。
主計科も訓練の最中、艦内の各部署へ戦闘配食を作り、その部署へと運ばなければならない。
O・M・C・Sがあるとはいえ、一度に大量で尚且つ同じ食事を用意するには一台の機械よりも多数の人間の手の方が早かったりする。
それに宇宙では何が起こるか分からない。
万が一、航海中にO・M・C・Sが壊れた場合は人の手で食事を作らなければならないので、こうした訓練は必要なのだ。
「出来上がった部署から配れ!!」
「はい!!」
みやこも主計科の訓練生として戦闘配食の運搬を行っていた。
「えっと艦橋には‥‥えっ?何?この量‥‥?」
しかし、艦橋に運ぶ戦闘配食の量を見て戸惑う。
「は、班長!!艦橋に運ぶ量なんですが、間違っていませんか!?」
みやこは班長に艦橋に運ぶ戦闘配食の量が間違いではないのかと確認をとる。
「いや、間違っていないぞ」
しかし、班長からの返答はその量で間違っていないと言う。
「えっ?で、でも‥‥」
班長からの返答を聞いてもみやこは釈然としない。
「何でも物凄く食べる人がいるらしい」
「いや、いくら沢山食べるって言ってもこの量は‥‥」
「何でもいいからさっさと運んで来い!!仕事は沢山有るんだぞ!!
「はっ、はい!!」
みやこは班長からどやされ、慌てて艦橋へ戦闘配食を運んだ。
(誰よもぉ~こんなに沢山食べる人は~)
流石に量が多いので、戦闘配食は台車で運ばれるのだが、みやこはこんなにも沢山の食事を一体誰が食べるのかを愚痴るのだった。
みやこがその正体を知るのはもう少し先の事であった‥‥
さて、ここで一旦視点を銀河系の別の宙域に移そう。
銀河系の約半分を領土とし、かつてゼニー合衆国という星間国家と銀河系の支配者を争っていた国家があった。
その名は『ボラー連邦』
この国家はかつて地球に存在し、冷戦の主役の一つであった『ソビエト社会主義共和国連邦』こと『ソビエト連邦』に非常によく似ていた。
ボラー連邦は銀河系北部と中心部を始めとして各地の惑星を植民・保護惑星として保護という名の苛烈な支配を行っていた。
その中の一つである『ガルマン星』
このガルマン星は銀河系中心部・核恒星系に存在する星であり、その星にはガルマン民族が住んで居た。
このガルマン民族こそ、かつて地球と戦ったガミラスと同一の民族であった。
遥か昔、この星に居たガルマン星人の一部が大マゼラン星雲へと移民し、そこでガミラス星を発見し、ガミラスを建国した。
ガミラスが高い科学技術を有していた様にガルマン星もガミラス星同様の高い科学技術を有していた。
ボラー連邦はその高い科学技術に目を付け、ガルマン星に電撃戦を仕掛けると、あっという間にガルマン星を支配下に置き、ガルマン星人を科学奴隷とした。
ガルマン星を支配下に置いた事により、ボラー連邦は高い性能の兵器を保有する事が出来たのだ。
そんなガルマン星にてガルマン星人たちが一斉蜂起したのである。
この知らせにはボラー連邦の最高指導者であるベムラーゼ首相も慌てた。
どこの誰か分からないが、ガルマン星はボラー連邦にとって兵器開発に必要不可欠な星であった。
現地の治安維持及び統治を行っている駐留軍は何をしていたのかと問い詰めたが、これに関しては駐留軍に落ち度は全くなかった。
まぁ、落ち度が全く無かったのかと問われれば、油断・慢心をしていたりした程度はあったが今回は仕方ないと擁護できる。
なんせ、ガルマン星に突如、あのデスラー率いるガミラス艦隊が襲来したからだ。
暗黒星団帝国によって母星であるガミラスを破壊されたデスラー率いるガミラス帝国軍艦隊は帝国市民の生き残りを各地の植民惑星などから出来うる限り収容しつつ、新天地を求めて宇宙を彷徨っていた。
そんな折、かつてガミラス帝国人の祖先の星であり、かつての先祖が大マゼランへと旅立った星と言われていた『ガルマン星』を偶然にも発見することとなった。
これにはデスラーたちガミラス人も喜んだが、それはすぐに憤りへと変わった。
その星は『ボラー連邦』による苛烈な統治によって荒れ果て、ガルマン人たちは奴隷と同じような扱いを受けていた。
これに激怒したデスラーの命を受けたガミラス艦隊は一挙にガルマン星への侵攻を開始して、ガルマン星の解放を目指した。
駐留軍艦隊は当初、ガミラス艦隊を『宇宙海賊』程度としか考えておらず、本国から払い下げられていた初期型のクロトガ型戦艦やそれ以前に運用されていた旧型戦艦を主力とした艦隊を一個艦隊で向かわせた。
宇宙海賊程度この戦力さえ過剰戦力とさえ思っていた。
だが、ガミラス艦隊は地球連邦軍(当時は国連統合軍)、ガトランティス、暗黒星団帝国と格上との戦いを繰り広げてきた上、地球と戦う前から多数の星間国家と戦争を繰り広げ、勝利を収めて大マゼラン星雲を中心とし周辺の星系を支配してきた強者たちだ。
おまけにヤマトによるガミラス本星侵攻やそれに伴う混乱、暗黒星団帝国軍との交戦さえも生き延びてデスラーの元に馳せ参じた猛者たちは実力も士気も高い。
そんなガミラスの猛者たち相手に地方の駐留軍一個艦隊程度は容易く蹴散らされた。
これに慌ててガルマン星の駐留軍司令部は近隣の惑星に存在する駐留艦隊にも協力を要請し、了解が得られると同時に総動員をかけて数の暴力で押し切ろうとした。
だが、数の暴力に頼る程度の艦隊でデスラーの艦隊を撃退することは到底かなわず、ガミラスでは既に十八番となっている瞬間物質移送機を使用してのドメル戦法はボラー連邦にとって初めての遭遇で瞬く間に瞬殺されてしまった。
これには、地球・ガミラス戦争を経験してその後の戦いにも従軍したあるガミラス軍人も、
『地球(テロン)人の初期の艦隊(俗に言う第一世代艦)の方がかなり手ごわかったぞ?』
と呆れるほどだったという。
その後、ガルマン星を解放したデスラーは現地のレジスタンスたちをもまとめ上げ、星の名を『ガルマン・ガミラス』と改め、新帝国の建国を宣言した。
新帝国の建国と同時にデスラーは周辺の惑星へ独立を促す声明を発してボラー側の動揺を誘った。
これまでの統治があまりにも過酷すぎて、デスラーの声明に賛同する星間国家が続々と続き、ガルマン・ガミラス側に寝返る星間国家が同盟を結び、反ボラー連邦の機運が銀河系中心部で高まった。
「アベルト・デスラー‥‥おのれぇ~!!よくも我がボラー連邦の聖域に土足で入り込んでくれたなぁ~!!」
「首相閣下」
憤慨しているベムラーゼに参謀総長のゴルサコフが恐る恐る声をかける。
「なんだ!?」
「ガルマン星の駐留軍、統治省に勤めていた者たちが帰還いたしました」
「帰還?帰還だと!?」
「は、はい」
「我がボラー連邦にとって重要な星を死守せずにどこの馬の骨とも分からない連中に盗られたあげくおめおめと戻って来たと言うのか!?」
「ど、どうやらその様です」
「そんな無能者どもは、ボラー連邦には要らん!!情報を聞き出した後、即刻処分せよ!!」
「はっ!!」
ガルマン星と周辺の星間国家の反逆の知らせにベムラーゼは怒り狂い、逃げ帰って来た駐留軍将官を敵前逃亡罪で粛清と言う名の処刑にしたことは無論、ガルマン星統治政府の官僚で逃げて来た者たちにも同様の処分を下した。
「それと、反逆者どもには懲罰が必要だ‥‥本国の第三主力艦隊をガルマン星へ差し向け、反逆者どもを皆殺しにしろ!!」
「承知しました。直ちに本国の第三主力艦隊を出動させます!!」
その後、ガルマン星を奪還するために本国から艦隊を派遣することを決定した。
勿論ベムラーゼは処刑した駐留軍からの事情聴取から決して舐めてかからない。
「それと、銀河系中心部の星間国家にこれ以上の造反組を出さぬよう監視と警備を強化しろ」
「はっ!!では、今回のガルマン星奪還作戦にも参加させ、ボラー連邦への忠誠を試すことにいたしましょう」
「うむ、それはいい。早速ガルマン星周囲の星に命令を伝達したまえ」
「承知致しました」
同時に長期戦による継戦能力の不安から近隣の隷属惑星の自治政府が有する艦隊に参戦を命令した。
結果、近隣に存在しガルマン星駐留司令部から艦隊の動員要請に参加していなかった『リベリア星』から艦隊が今回のガルマン星奪還作戦に参加することとなった。
これが、後に発生する二大星間大国による銀河系の支配権を巡った大規模な戦争に地球が巻き込まれることとなるなど、この時は誰も知らなかった。
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