内惑星艦隊の奮闘   作:島田愛里寿

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すみません!遅れました!


第百六十四話 魔導師の正体

金星宙域で宇宙戦士訓練学校の訓練生たちを乗せ、演習を行っていたガンビア・ベイは突如、発生したワームホールによって並行世界の惑星に降下し、修理を行っていた。

 

そこに何者かが艦内へと侵入し、逃走を図った。

 

訓練生たちと共に指揮官研修に来ていたギンガは仮面を被った謎の魔導師を追跡し、ティアナと協力して謎の魔導師の確保に成功したのだが‥‥。

 

確保時に破損した仮面の下にあった素顔は、死んだはずのギンガの母‥‥『クイント・ナカジマ』の素顔であった。

 

 

ガンビア・ベイ 格納庫内

 

謎の魔導師を確保した後、魔導師の身体検査や調査の為にガンビア・ベイ艦内に搬送したのだがギンガの心境は複雑であった。

 

「ギ、ギンガさん。大丈夫ですか?」

 

恐る恐るギンガに声をかけるティアナ。

 

「え、えぇ‥大丈夫よ‥ティアナ‥‥」

 

ギンガは気丈にも『大丈夫』と言うが、ティアナから見ても憔悴しているのが明らかであった。

 

「月村一等宙尉。貴女には一時的な休養を命じます」

 

「す、スミス艦長!?」

 

そこへ、スミス艦長がやって来てギンガに一時的な休息を命じる。

 

「今の貴女は冷静な判断が出来そうにないと判断します。それに貴女と例の侵入者との戦闘を私は見ていました。一方的な不利な状況でしたし、あんな激しい戦闘の後なんですから、今の貴女はかなり疲弊と負傷をしていると見ます。一旦、休んで落ち着いてからまた来てください」

 

「は、はい‥‥」

 

普段はナヨナヨしているスミス艦長であるが、やはり一艦の長に選ばれるだけあって、ここぞと言う所はしっかりとしていた。

 

その為、スミス艦長からの命令で休養を命じられることとなり、居住区で休むことになった。

 

「さて、彼女をどうすれば良いと思う?ランスター候補生」

 

スミス艦長は事前に元管理局組の三人の事情についても司令部経由で知らされており、元管理局員であるティアナに意見を求めた。

 

「その前に例の侵入者について何ですけど‥‥」

 

「そう言えば、月村一等宙尉も侵入者の顔を見て動揺していたみたいだけど、知り合いなの?」

 

「この世界‥ではないのですけど‥‥」

 

「ええ」

 

「あの侵入者は月村一等宙尉のお母さんなんです」

 

「えっ?」

 

ティアナの言葉に目が点になるスミス艦長。

 

「あっ、でも正確に言えばこの世界における‥ですが‥‥」

 

「それで、この世界の月村一等宙尉のお母さんがどうして此処に?」

 

「その理由は分かりません。元々私の知っている月村一等宙尉のお母さんは死亡している筈なんです」

 

「死亡!?」

 

「はい。任務中に殉職している筈だと‥‥それに‥‥」

 

「それに?」

 

「‥スミス艦長は私が元時空管理局の局員である事は知っていますよね?」

 

「ええ、知っているわ」

 

「私がまだ時空管理局に所属している時、ある大規模なテロ事件があったんです」

 

「ええ」

 

「その際、主犯格のテロリストに付き従う兵士‥‥が居ました‥‥そして、その兵士が着ているスーツと月村一等宙尉のお母さんが今、身に纏っているスーツが同じデザインなんです」

 

そう、今クイントが着ている服‥ボディスーツはかつてナンバーズのメンバーが着ていた物であり、管理局が広域指名手配犯として指名手配していたジェイル・スカリエッティがかかわっていることは明白である。

 

「それって月村一等宙尉の母親がテロリストだった‥ってこと?」

 

「いえ、少なくとも私の知る事件の中ではテロリストのメンバーの中に月村一等宙尉のお母さんは含まれていません。なので、私自身も困惑しています」

 

(ギンガさんとスバルのお母さんがスカリエッティに協力するなんて考えにくい‥‥)

 

(そもそもJS事件後にスカリエッティのラボは徹底的に調べたけど、ギンガさんとスバルのお母さんの痕跡はなかった‥‥)

 

(此処が並行世界だからギンガさんとスバルのお母さんが生きていてスカリエッティに協力していた?)

 

今自分が居るのは自分が知っている世界ではなく、並行世界なので自分の知らない可能性がある。

 

「それを含めて、貴女はどうするべきだと思う?」

 

「あの人の今の状態は不明ですし、もしかしたら私の知る事件で月村一等宙尉のお母さんの存在や痕跡が無かったのは、私たちがあの人を連れて行ったことが原因かもしれません」

 

JS事件前、JS事件当時の頃、自分はミッドチルダに居た。

 

そのミッドチルダから離れた世界で未来から来た自分たちがクイントを倒して連れて行ったのであるならば、JS事件時の自分がクイントの生存を知らないのも頷ける。

 

「このまま彼女をこの惑星に放置するのは危険ですし、詳しい状態の確認を含めて、医務室でコールド・スリープ状態にして、しかるのち、本土の医療機関に任せた方がよろしいのではないでしょうか?もしかして、あの人は一種の洗脳状態にあったのかもしれませんし‥‥」

 

「そうね‥そうしましょう」

 

この艦は最新鋭艦であることもあって最先端の医療装置と解析機器も搭載しているが、医務官だけでは現在のクイントの状態を判断する事は難しい。

 

なので、クイントをコールド・スリープ状態にして地球に戻り、本土の医療施設にて詳しい検査を行い、クイントの状態を診断してもらおうと結論に至った。

 

戦闘機人の解析だって出来るだろうし、下手をしたらロストロギアの調査すら出来るのではないかとティアナは思っていた。

 

その為には艦の修理とサンプルの調査を急がせて宇宙に上がった方が良いスミスは判断した。

 

 

ガンビア・ベイ 医務室

 

「なるほど、コールド・スリープですか‥‥まぁ、また起きて艦内で暴れられたりしてはかなわんからな」

 

医務長はスミスからの命令を聞き納得する。

 

「ただ、ランスター訓練生の話では、彼女は洗脳されていた可能性もあるみたいです」

 

「洗脳!?」

 

「ええ‥仮に洗脳状態だったとして、それを元に戻す事は出来ますか?」

 

「うーん‥洗脳されていた期間にもよるな‥‥時間が長ければ長い程、それを解除するには時間がかかる」

 

「現代医学をもってしても‥ですか?」

 

「医学が進歩しても人の身体と言うのは全てを解明する事はまだ出来ていないと言う事ですよ」

 

「そうなんですか‥‥」

 

医務官の話を聞き、神妙な面持ちになった。

 

それから医務室を出たスミスは技術解析室へと向かう。

 

そこでは回収されたサンプル鉱石の解析が進められていた。

 

「解析は出来ましたか?」

 

「うーん‥これは、地球上はもちろんの事、これまで地球が確認して来た惑星には無い特殊鉱石ですね‥‥」

 

その結果、クイントが持ち出そうとしていた結晶が『ロストロギア』と管理局が読んでいる代物であると断定された。

 

「それともう一つ、面白い事実があったんですよ」

 

「面白い事実?」

 

「はい。これは握った者の記憶を投影する物の様です」

 

「えぇ‥‥」

 

「先ほど、素手で握った技術班の隊員の過去が突如浮かび上がったんですよ」

 

「そんな非科学的な事ってあるんですか?」

 

「記憶すると言う行為は何も生き物だけではないんですよ。万物において残留思念と言うモノがあり、それを読み取れる超能力‥サイコメトリーと言う能力を昔、アメリカの神霊研究家が提唱しましたからね。そしてこの鉱物はまさにサイコメトリーの能力を持つ鉱物なんですよ」

 

「残留思念を読み取る‥‥それじゃあ、あの魔導師に握らせて過去の記憶を確認する事も‥‥」

 

「出来るかもしれませんが、他人の過去を勝手に見る行為になりませんかね?」

 

「それでもあの人を助けるための手掛かりが分かるかもしれません」

 

報告を受けたスミスは唖然としたが、クイントの状態を打開するための策を見つけた。

 

その直前に機関の修理が完了したという事情もあった。

 

 

衛星軌道上まで浮上したガンビア・ベイ艦内では、クイントの診断が再開されようとしていた。

 

コールド・スリープを解除する前に麻酔処置をし、コールド・スリープを解除。

 

未だに眠っているクイントに技術解析室から持って来た例の鉱石を近づける。

 

勿論、鉱石を持っているスミスは手袋を着用している。

 

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ‥‥」

 

ただ、その現場にはスミス、医務官、ティアナ以外にギンガの姿もあった。

 

ティアナは元管理局員と言う事、クイントが所属していたゼスト隊事件について執務官補佐時代にその報告書に目を通した事があるので、解説役としてこの場に来たのだ。

 

医務官にはスミスが事情を伝えてある。

 

医者には守秘義務があるので、ティアナ、ギンガ、そして今回の件に関しての重要人物であるクイントの事情を他言無用の条件の下にこの場に居る。

 

そしてギンガは自分の母親の過去を確認するという重要な話を聞き、無理を押して参加したので、ティアナたちは心配していたのだ。

 

自分の母親がどうしてスカリエッティ側の兵士‥ナンバーズのスーツを身に纏ってあの星に居たのか?

 

ギンガ自身も管理局の捜査官時代にゼスト隊事件についての報告書は見た事がある。

 

しかし、当のゼスト隊の隊員が全滅したので詳細は不明だった事から母親の身に一体何があったのか?

 

それをどうしても知りたかった。

 

自分が管理局員になったのも元々は母親が関わった事件の真相を知るためであった。

 

不幸にもその事件の真実を知る前にギンガはミッドチルダからもう一つの地球に次元遭難してしまった。

 

一応、事件の真相については同じく次元遭難をしたティアナとフェイトから聞いたが、それも大まかな事‥‥

 

母親の過去の記憶からあの事件の出来事を知る事が出来る。

 

「でも、握らせなくて大丈夫なんですか?」

 

今、クイントは深い眠りについているので、手に握らせることは難しい。

 

「素肌に置けば大丈夫みたい」

 

しかし、この鉱物は手に握らなくてもどこか素肌と接触すれば見る事が出来るのだ。

 

「ギンガさん」

 

「ん?なに?ティアナ」

 

「ギンガさんのお母さんの過去を見る前に一ついいですか?」

 

「うん」

 

「以前、ギンガさんにJS事件で身柄を抑えたスカリエッティ側の戦闘機人たちの事を説明しましたよね?」

 

「ええ‥確か家と聖王教会が引き取ったって‥‥」

 

「‥‥実は、ギンガさんの実家‥ナカジマ家に引き取られた戦闘機人の中にあのゼスト隊事件に関係した戦闘機人が居るんです」

 

「えっ?」

 

「でも、その戦闘機人は少なくともギンガさんのお母さんと接触はしていないみたいです。これはJS事件後の取り調べでも確認がとれています」

 

「信用できるの?その証言は‥‥」

 

「彼女‥チンクって名前なんですけど、彼女はその事件でゼスト隊の隊長であるゼスト・グランガイツと戦って右目を失う怪我を負ったそうです。今も彼女は右目に義眼を入れる事も無く、眼帯をつけています‥過去を忘れない様に‥‥」

 

「‥‥」

 

ギンガはティアナの話を聞き神妙な面持ちとなる。

 

例え、自分の母親と対峙していなくても母親が所属していた部隊を全滅に追いやった戦闘機人を父親であるゲンヤはそれを受け入れたのだ。

 

ゲンヤも当然、チンクがゼスト隊事件に関与している事を知っている筈だ。

 

(まぁ、母さんならきっと受け入れたでしょうね‥‥)

 

(だからこそ、父さんもそれを分かって、そのチンクって子を受け入れたのね‥‥)

 

普通の人間ではない自分たち姉妹を受け入れた両親なのだから、スカリエッティ側の戦闘機人たちも受け入れたのだろうと思うギンガだった。

 

「それじゃあ‥始めるわね」

 

「は、はい」

 

「はい‥‥」

 

胸の上に両手を組ませてそこへ例の鉱物を入れて接触させる。

 

すると眠っているクイントの上にパネルで表示するかのように彼女の過去が映し出される。

 

 

当時、スカリエッティのアジトとされる地下研究所‥‥

 

しかし、そこはAMFが充満し、ゼスト隊の魔導師たちは上手く魔法が使えない。

 

そこへ、AMFに関係なく魔導師とは違う戦闘機人特有の能力‥‥インヒューレントスキル(通称:IS)を駆使して当時のナンバーズ‥‥ドゥーエを除いた四人と無数のガジェットが襲い掛かる。

 

ナンバーズとガジェットの襲撃で一人、また一人と命を落としていくゼスト隊隊員たち‥‥

 

クイントも同僚のメガーヌ・アルピーノと共に周囲をガジェットに囲まれて瀕死の重傷を負った。

 

やがて、事が全て終わり‥‥

 

『ふむ、さすが地上でもエースと名高い部隊‥ゼスト隊だ‥‥まさかチンクに重傷を負わせるとは‥‥ふむ、しかも人造魔導師素体としての適応度が高いじゃないか‥‥これは今後のナンバーズ開発にも役立ちそうだ‥‥』

 

そこへ、白衣を身に纏い、紫色の髪、金色の目を持つ一人の男が現れる。

 

「あの男が‥‥」

 

「はい。間違いなくあの男が、管理局から広域指名手配をされていた男‥‥ジェイル・スカリエッティです」

 

「目が完全に逝っちゃっているサイコパスだ‥‥」

 

スミス艦長もスカリエッティの目を見て常人ではないと判断した。

 

『ふむ、この女性の魔導師‥クイント・ナカジマ‥‥素晴らしい遺伝子を持っている様だ‥‥彼女の遺伝子を使用したナンバーズを製造できればナンバーズ強化に繋がるな‥‥それにこの素体自体も捨てがたい‥‥まだかろうじて生きている様だ。ウーノ』

 

『はい、ドクター‥‥』

 

スカリエッティが背後に控えているウーノと呼ばれる人物に声をかける。

 

するとウェーブがかった薄紫の長髪をした女性がスカリエッティの背後から姿を現す。

 

『この三人は他の魔導師と比べて貴重なサンプルだ‥‥死ぬ前に治療を』

 

『承知しました。あっ、それとドクター二つご報告があります』

 

『なんだね?』

 

『こちらのメガーヌ・アルピーノですが、乳飲み子の娘がおります。それとこちらのクイント・ナカジマにも娘が二人‥‥八歳と六歳の娘が‥‥』

 

『ふむ、クイント・ナカジマの娘たちは既に八歳と六歳か‥‥』

 

『はい。クイント・ナカジマは既婚者ですが、メガーヌ・アルピーノはシングルマザーだったようです』

 

『それで、その子は何処に?』

 

『地上本部の託児所です』

 

『では、ドゥーエに言ってその娘を回収しておきたまえ‥メガーヌ・アルピーノの血を受け継いでいる子だ。その子も凄腕の魔導師に違いない‥今の内に我が陣営に確保しておくのだ』

 

『はい。クイント・ナカジマの娘たちはどうしますか?』

 

『流石に八歳と六歳では自我が育ちすぎているし、こちらにはクイント・ナカジマの本体がある。彼女の遺伝子情報でクローン体は生成できる‥危険な橋を渡る必要もないだろう』

 

『承知致しました。直ちにドゥーエには連絡を入れておきます』

 

この時、スカリエッティはまだナカジマ姉妹の正体が自分以外の人物が誕生させていた戦闘機人である事を知らなかった。

 

(ルーテシアがスカリエッティの所に居たのは、赤ん坊の時に誘拐されていたのね‥‥)

 

JS事件を経験したティアナは何故、戦闘機人では生粋の魔導師であったルーテシアがスカリエッティの下に居たのかその原因を知った。

 

『クイント・ナカジマの家族にはどのような対処をなさいますか?』

 

『彼女の家族の下には彼女のクローン体のご遺体を返還すれば、ご家族も彼女が死んだと思うだろう』

 

「なっ!?」

 

スカリエッティのこの発言にギンガは息を吞む。

 

(あの時の母さんの遺体が偽物!?)

 

ゼスト隊が全滅した後、経緯は不明であるがクイントの亡骸は自分たち家族の下へと戻って来た。

 

棺の中で白いフューネラルドレスを身に纏った母に自分とスバルは縋り、泣いた記憶がある。

 

その遺体が実はクイント本人ではなく彼女のクローンで出来た遺体だった可能性が出て来た。

 

流石にこれはギンガだけでなく、ティアナを始めとするこの場に居た全員が驚愕すると同時にスカリエッティに対しての憤りを覚える。

 

 

それから場面が一気に飛んだ‥‥

 

 

『やはり、クイント・ナカジマの遺伝子は素晴らしい‥‥おかげで強力なナンバーズを作れそうだ』

 

(きっとノーヴェの事ね‥‥)

 

ティアナはスカリエッティの言うクイントの遺伝子を使用してのナンバーズがノーヴェの事を指すのだと察した。

 

『となると、遺伝子情報の素体となる彼女はもっと強くなる筈だ‥‥騎士ゼストはどうも私の指示には従わない不誠実な部分があったから、同じ轍を踏まぬよう、クイント・ナカジマには精神操作を施し、私の命令に従う忠実な駒になってもらおう‥‥コードネームはそうだな‥‥ナンバーズの素体となったから「オリジン」だ!!』

 

「あいつ、母さんになんてことを!?」

 

我慢ならず、ギンガは声を荒げ叫ぶ。

 

「ちょ、落ち着いてください!!ギンガさん!!これは全てこの並行世界における過去の出来事ですから!!」

 

「でも、これで彼女があのサイコパスの手によって洗脳状態である事が分かったわね」

 

スミスはこれ以上、クイントの過去を見るとギンガの血圧が沸点を越えると判断し、鉱物をクイントの手から抜く。

 

「母さんが私の知らぬ間にこんな目に遭っていたなんて‥‥それで、母さんに施された洗脳は解けるんですか?」

 

「さっき、医務官とも話したんだけど、一度施された洗脳を解くには個人差もあるだろうけど、時間が必要みたい」

 

「そんな‥‥」

 

「なにより、先ほどの彼女の行動を見る限り、目を覚ました途端また暴れる可能性もあるし、戻れたら本土の医療施設で治療をした方が良いのではないかと医務官とも相談したのよ」

 

「‥‥」

 

クイントの過去を知った一同は、彼女を地球へ連れて帰ることを決定した。

 

「艦長、前方にワームホールの再出現を確認しました!」

 

スミスはその報告を聞いて迷った。

 

このまま突入して帰還できる保証はないが、かといって時には決断が必要である。

 

今、ワームホールに入らなければ自分たちは確実に帰れない事は分かっている。

 

ギンガとしても元の世界へ戻ってクイントを治療したい。

 

「皆さん‥‥ここは皆さんの命を預からせてもらいます!総員!対ショック姿勢!!本艦はこのままワームホールに突入します!!」

 

その言葉に乗員・候補生全員が、驚きつつも反発する声は一つも上がらなかった。

 

彼女のことをこれまでの騒動で信頼していたからだ。

 

「機関、最大船速へ!」

 

『了解!機関、最大船速!!』

 

「さぁ!行きましょう!!」

 

そうして、ガンビア・ベイはワームホールに突入していった。

 

その頃、この世界におけるミッドチルダの某所では‥‥

 

「ドクター、オリジンの反応がロストいたしました」

 

「なにっ!?ロストだって!!」

 

「はい。あの所属不明艦の魔導師との戦闘データも完全ではなく不明瞭で‥‥」

 

「オリジン単独での行動や戦闘データを取ろうとしたのが仇となったか‥‥こんな事になるならトーレあたりをお目付け役として同行しておくべきであった」

 

「申し訳ございません!」

 

「君が謝る事ではないよ、ウーノ。これは『オリジン』自身の油断に近いが、これからのナンバーズ製造においては重要な要素となった訳だな‥‥」

 

この世界線のスカリエッティはそう言う。

 

ナンバーズの中でセインやドゥーエなど、身を隠す事が出来るIS能力を持たぬ他のナンバーズが単独ではなく複数で行動するのはこの出来事が要因になったのかもしれない。

 

「今後、製造する予定のナンバーズには格闘性能はもちろんだが、周辺索敵能力を高めることが重要だろうね?『オリジン』は最初から戦闘機人として製造された存在ではないし、これは私自身の落ち度でもあるし、実戦を経て知り得た貴重なデータだよ」

 

「はぁ…」

 

「むしろ良い勉強代になったと思おうじゃないか。それに『オリジン』は、元々は死んだ人物だ。いなくなったところでさしたる損害ではないし、索敵能力を高めた個体を用意して格闘戦用と狙撃用の個体と共同運用させれば管理局の魔導師相手にも活躍できるだろうしね」

 

彼はノリノリでそう言うが、倫理的にはかなりヤバイことを言っているのは明白である。

 

しかし、彼はそんなことは気にしない。

 

元々、『オリジン』ことクイントだって管理局の協力者を通じて意識不明だった彼女をクローン体と交換し、精神操作をしてとして新たな駒としたのだ。

 

遺族感情等を無視した彼にとって、試験体に近かったクイントが二度と戻ってこないことはどうでもよいことなのだ。

 

そうして、クイントにとっては別の形で良い方向に運命が動き始めた。

 

 

金星沖 暗礁宙域

 

 

「あ~も~!どこに行ったんだか‥‥」

 

束の武御雷とカチューシャのジェルジンスキーはガンビア・ベイの捜索の為に暗礁宙域で捜索に駆り出されていた。

 

「こんなことになるんだったら、ギンガに指揮官研修を受けさせるんじゃなかったな…」

 

「ええい、今更言っても仕方あるまい!どっちにしても指揮官不足から誰かしら送らなければならなかったのだからな!」

 

束がギンガを指揮官研修に送ったことに対して後悔していたが、ディアーチェは彼女なりに束を励ました。

 

そんな時、

 

「艦長!前方の宙域にワームホールが発生!」

 

「「っ!!」」

 

ワームホールが二隻の眼前に出現した。

 

そしてそこには‥‥

 

「あ、あれはっ‥‥!ガンビア・ベイです!!」

 

必死に帰還してきたガンビア・ベイがいた。

 

こうして、訓練生たちにとってはとんでもない経験を積むことになった実地研修は終了となった。




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