内惑星艦隊の奮闘   作:島田愛里寿

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第百六十九話 新型艦たち

ボラー連邦の属国からの亡命希望者からの情報で、現在銀河系中心部で、ガルマン帝国とボラー連邦の二強が覇権を争っている戦乱状況であることが判明し、地球連邦政府・地球防衛軍としてはわざわざ戦争の渦中に首を突っ込んで太陽系を戦乱に巻き込むのは愚策とし、銀河系中心部への調査・開拓は見送られ、太陽系外周の監視・警戒に留まった。

 

そして、新たな調査・開拓として、地球連邦政府・地球防衛軍は次元世界への調査を行う事を決めた。

 

血で血を洗う銀河系中心部の覇権争い‥‥ガルマン帝国とボラー連邦という二大超大国による激戦に巻き込まれる愚を避けるため、外宇宙への進出ベクトルを「三次元宇宙の水平方向」から、未踏の領域である「次元の垂直方向」へと転換したのだ。

 

未知の次元断層、あるいは並行宇宙への扉を開く「次元世界調査計画」が、極秘裏かつ急ピッチで立ち上げられた。

 

これらの計画には鹵獲・回収された時空管理局の次元航行艦のデータが多いに役立った。

 

司令部の会議室では、中央に浮かぶ巨大なホログラムモニターを囲むように、防衛軍の幕僚たち、そして真田と大山を始めとする気鋭の艦船設計技師や研究者たちが集結していた。

 

議題は未知の次元世界へ突入し、そして確実に生還するための「次元探査艦艇」の設計案選定だった。

 

「時空管理局の艦と防衛軍の艦の装甲は使用している素材が異なり、太陽系には時空管理局が使用している資源は存在しません。なので、装甲を一から作るのではなく、未知の次元流体からの侵食を防ぐため、波動防壁を常時展開しつつ、浸食防止用の特殊コーティングを採用した『プランC』を推奨します」

 

真田が、厳しい表情でデータを示しながらシミュレーション結果を語る。

 

藤堂が、投影された艦影を見つめながら静かに口を開く。

 

「武装は自衛戦闘および次元障害物の排除に足るもので構わない‥と言いたいところだが、これまでの外宇宙からの侵略者や時空管理局が居るのでは、そんな事を言っていられないな‥‥しかし、この艦の主目的は補給の望めない別次元の宇宙を単独で長期間航海し、未知のデータを持ち帰るための、文字通りの『移動する科学都市』でなければならない」

 

藤堂の言葉に、出席者たちは深く頷く。

 

「艦のクラスおよびコードネームは『ラボラトリー・アクエリアス』とする。生命の源である水を司る星座、水瓶座を我々はこの探査戦艦で、次元の海という新たな命の源流を探索するのだ」

 

こうして、満場一致で基本設計案が承認され、人類史上類を見ない特殊艦艇の建造計画が幕を開けた。

 

 

それから数ヶ月後‥‥

 

 

太陽系の厳重な監視網のさらに内側、月面裏側に秘匿された巨大地下ドック。

 

眩い溶接の火花が散り、無数の作業用ドローンと工兵たちが絶え間なく動き回る中、超大型次元探査戦艦『ラボラトリー・アクエリアス』の竜骨(キール)が据えられた。

 

全長は最新鋭の主力戦艦をも凌駕する規模となり、艦体中央部には巨大な円筒状の「高解像度・次元観測モジュール」と、未知の環境下での生態系維持および長期航海を目的とした「自己完結型バイオプラント」が組み込まれる予定となっている。

 

建造計画時は宇宙探査を主な任務にする為に搭載兵器は最低限のモノとして艦首波動砲は外殻のみを残し撤去して、波動砲の薬室にも探査機器を詰め込む設計となっていたが、暗黒星団帝国や時空管理局などの外宇宙に存在する星間国家の宇宙艦隊から乗員の生存率の向上を図るために艦首には従来のアンドロメダ級と同じ波動砲が搭載される事となり、代わりに船体下部に艦橋を上下逆さまにし、コンパクトにまとめた第三艦橋と第四砲塔が設置された。

 

このため、外観はアンドロメダ級に似ている船体であるが、その大きさはアンドロメダ級よりも大きく、武御雷・春藍級に匹敵する大きさとなった。

【挿絵表示】

 

 

そして最深部の機関区画では、次元の壁を穿ち、空間のうねりを推進力へと変換する次世代型機関「次元潜航式波動エンジン」のプラント据え付けが始まっていた。

 

足場から見上げる巨大な鋼鉄の塊は、まだ骨組みの段階でありながら、次なる時代を切り拓く圧倒的な存在感を放っている。

 

銀河の戦火を背に、太陽系の防人を外周に配しつつ、地球は密かに、しかし確実に、誰も見たことのない未知なる「次元世界」への扉を叩こうとしていた。

 

けたたましい金属音と溶接の閃光が交錯する中、ヘルメット越しにも伝わる熱気の中で、二人の男が巨大な主機『次元潜航式波動エンジン』を見上げていた。

 

「どうだ、大山。時空管理局の異世界テクノロジーとやらと我らが波動エネルギーの相性は?」

 

作業服姿の真田が腕を組みながらラボラトリー・アクエリアスの建造主任となっている大山に声をかける。

 

大山は携帯端末から目を離さず、しかしその声には確かな熱を帯びて答えた。

 

「正直に言えば、悪戦苦闘の連続だ。彼らの『次元航行』の概念は、空間の層を"滑る"様なものだ。だが、波動エンジンは空間を"穿つ"。この二つの異なるベクトルを融合させ、次元の波の底へ潜るための推進力へと変換する……口で言うのは簡単だかな」

 

「だが、それでもお前はやり遂げる。違うか?」

 

真田がニヤリと笑うと、大山もようやく口元を緩め、端末をポケットにしまう。

 

「当然だ。鹵獲・回収した次元航行艦のデータ・コアから得られた『質量減衰』と『次元断層の予測アルゴリズム』は、すでにこのエンジンのメインフレームに統合済だ。次元の境界を突破する際に生じる超重力負荷も、計算上は完全に想定内に収まっている」

 

「それは頼もしいな。地球がこれから漕ぎ出すのは、ただの星の海じゃない。地図も座標もない、次元の深淵だ。頼りになるのは、お前が組み上げたその心臓部と、この巨大な観測機器の塊だけなんだからな」

 

真田は、頭上に広がる巨大な円筒形の区画——高解像度・次元観測モジュールを見上げた。

 

「ああ、分かっている。だからこそ、この艦には一切の妥協を許してはいない」

 

大山は誇らしげに胸を張り、言葉を続ける。

 

「それに、艦央部に据え付けた自己完結型バイオプラントの試験稼働も順調だぞ。補給なしで十年……いや、理論上は半永久的にクルーの生存が可能だ」

 

大山と真田が話していた頃、北米管区のあるドックでも新たな艦の設計が極東管区と共同で始まっていた。

 

「う~む…。では、この際武装は春藍型等と同じものにまとめます?」

 

「いや、そしたらただでさえ運用に難が出ている四連装砲を使うことになるだろうが。新型の50㎝三連装砲で十分だよ」

 

ここでは新型の主力戦艦の設計が始まっていたのだ。

 

そもそも、今現在でも現役かつ主力のドレッドノート級主力戦艦は欧州管区が主導となり、極東管区の南部重工が設計案をまとめた艦だったが、暗黒星団帝国との戦いを経験してからは少々能力不足が目立ち始めたのだ。

 

内惑星戦争以前のマゼラン級戦艦や小改良型のアナンケ級指揮型戦艦は核融合炉機関や波動エンジン到来以前の設計だった関係で船体がデカかったので、波動エンジン換装後も長距離航海が可能となっていたが、ドレッドノート級は元々太陽系防衛の為に設計された艦である。

 

そのせいで、暗黒星団帝国の本拠地である二重銀河への航海の際にも修理や乗員の負担が大きくなってしまい、遠距離作戦能力の欠点が露呈してしまったのだ。

 

今後、銀河系中心部の戦争に巻き込まれる可能性や次元世界への探査を行う探査艦隊の護衛任務も発生することも考えると、ドレッドノート級主力戦艦やドレッドノート級を基にした艦だけでは不安があると、上層部や現場双方から圧力が掛かったのだ。

 

その為、北米管区が進めていたアリゾナ級護衛戦艦を原型とした次期主力戦艦建造計画を採用するとともに極東管区の技術も取り入れることで何とか完成されようという方針が決まったのだった。

 

とは言え、

 

「じゃあ、対空砲はドレッドノート級準拠の方がいいですかね?」

 

「バッカやろう!!ドレッドノート級の対空火力の不足は白色彗星帝国との戦いでも露呈しただろうが!対空砲は片側八基の合計十六基、計三十二門だ!!」

 

「いや、乗せすぎでしょ!?」

 

「乗せ過ぎではない!!あのヤマトだってそれくらい乗せているだろうが!!」

 

極東管区と北米管区の設計思想の違いから設計段階から揉めているのが現状なのだ。

 

拡大波動砲の正式化や搭載に関する議論はスムーズに行ったのだが、対空火器の思想に関して方向性の違いが出たのだ。

 

北米管区はかつての米軍譲りの制空権は味方の航空隊が確保するものであり、対空兵装はミサイルや少数の対空砲で十分と言う考えであったが、極東管区としては二次大戦時に米航空戦力にハチの巣にされたことや、これまでの敵勢力の航空戦力にボコボコにされた経験。

 

さらにヤマトに搭載した多数の対空パルスレーザー砲塔が大活躍していた経験からも主力戦艦にも大量の対空パルスレーザー砲塔の設置を求めたのだ。

 

艦橋も最新型に変更となり、ドレッドノート級では不足していた通信能力の強化と、無人艦隊管制能力、さらにはプレシア・テスタロッサ博士が防衛軍技術研究所と共に開発中の次元通信装置を搭載できる余裕がある設計に変更された。

 

そして遠距離航海能力確保と強靭な耐久性確保を狙って設計された巨大な船体はアリゾナ級やヤマト、アンドロメダ級に匹敵し、春藍級に次ぐレベルである関係から建造工程の複雑さが懸念されたが、ブロック工法を採用することで通常の建造よりも時間を短縮することに成功した。

 

なお、その後に艦種名の選定に移ったのだが、揉めに揉めたので結局じゃんけん勝負で決めることとなり、極東管区の案である長門型主力戦艦に決まった。

【挿絵表示】

 

 

ちなみに、その極東管区では次期主力宇宙突撃駆逐艦の設計案が進行しており、これまでのオマハ級・改オマハ級巡洋艦レベルのサイズの駆逐艦が設計されていた。

 

とはいえ、主砲が二連装砲一基のみで、あとは大型魚雷発射管四門、八連装ミサイルランチャー一基、あとは艦橋基部の両舷に二連装対空パルスレーザー砲塔を計四基のみという潔い設計思想であり、長波型駆逐艦と呼称されていた。

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他にも、新型の巡洋艦の設計が始まったが、北米管区が戦艦、極東管区が北米管区と協力しつつ戦艦に関わりつつも次期駆逐艦の設計を担う関係から、欧州管区が抜擢されたのだが、大揉めとなっていた。

 

何故なら、イタリア・ドイツが策定した設計案とイギリスが策定した設計案が真っ向から対立したからだ。

 

船体や艦橋、機関部、両舷計四基の二連装対空パルスレーザー砲塔と言った基本設計に関しては事前の協議で決まっていたのだが、武装の問題で方向性の違いが発生したのだ。

 

イタリア・ドイツは対空・対艦用VLSを船体前部に斜め向きに設置するとともに船体後部にも三連装主砲を装備するという火力重視の設計思想であり、いわば艦隊決戦思想全振りの設計であった。

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一方のイギリスの設計は、VLSは普通に船体に沿うような平面に設置し、主砲は前部二基のみ、艦橋後部には艦載機搭載用の格納庫と一基のカタパルトを装備する設計であった。

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これには欧州管区自治政府も頭を抱えた。

 

 

双方の設計案は似たり寄ったりだが、互いに利点があって判断に迷うのだ。

 

 

艦隊戦を想定すれば、イタリア・ドイツの案が最もありがたい。後方にも砲塔を指向できる点も魅力的だ。

 

しかし、艦隊の随伴艦という点からみればイギリスの案も捨てがたい。

 

一応、極東管区の長波型次期主力宇宙突撃駆逐艦にも格納庫は搭載しているので、要らないのではないかという意見もあったが、駆逐艦は駆逐艦で、宙雷戦隊として突撃を行ったり、艦隊周辺の哨戒任務に艦載機を使うことを想定したら、巡洋艦の艦載機を使って敵艦隊の捜索に使うことが出来る。

 

おまけに遠距離航海能力は双方共に良いものであるので、決められなかったのだ。

 

結果、欧州管区は双方を採用して現場での運用を見て判断するという先送りすることに決めた。

 

ちなみに、欧州管区では新型の戦闘空母の就役も間近であることも影響しており、その性能の結果を待ってみたいという節もあった。

 

欧州各国で新たな宇宙艦船の建造が進んでいる頃、極東管区では‥‥

 

 

メガロポリス東京 防衛軍 司令部

 

司令部にある会議室では、藤堂長官を中心に、山南や土方といった歴戦の将官たちが、続々と上がってくる新型艦艇の報告書に目を通していた。

 

「欧州管区も北米管区も随分と気合が入っているようだな」

 

土方が報告書の束を机に置きながら、口元に微かな笑みを浮かべた。

 

「ええ。各管区のプライドと設計思想がぶつかり合って、現場の調整はてんてこ舞いですがね。長門型主力戦艦に、長波型駆逐艦、そして二つの新型巡洋艦に新型の戦闘空母‥‥これらが『ラボラトリー・アクエリアス』の直掩として次元の壁を越えるとなれば、かつてない大艦隊になります」

 

山南がホログラムで投影された新鋭艦たちのリストを指し示しながら答える。

 

藤堂は深く頷き、窓の外——青い地球の空を見上げた。

 

「ガルマン帝国とボラー連邦。彼らの覇権争いに巻き込まれれば、太陽系は焦土と化す。我々が選んだ『次元の海』への進出は、逃避ではない。人類が生き残り、さらなる進化を遂げるための、前人未踏の挑戦だ。各管区の熱意は、そのまま人類の生存への渇望でもある」

 

「長官の仰る通りです。しかし、その次元の向こう側で何が待ち受けているか……時空管理局の連中のように、話が通じる相手ばかりとは限りませんからな。強力な護衛艦隊の存在は必須と言えます」

 

土方の言葉に、同席していた幕僚たちも顔を引き締める。

 

同じ頃、防衛軍技術研究所の特別ラボでは、真田がホログラムモニター越しに一人の女性と対峙していた。

 

長い黒髪をもつ怜悧な美貌の女性――イスカンダルからスターシア一家と共に娘のアリシアと一緒に地球へと赴く事となり、現在は防衛軍の客員技術研究員として協力しているプレシア・テスタロッサ博士だ。

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『……メインフレームへの次元通信プロトコルの統合はこれで完了よ。真田技術長』

 

モニター越しのプレシアが、手元のコンソールを流麗な指先で叩きながら言った。

 

『それにしても、貴方たちの操る「波動エネルギー」というのは本当に規格外ね。私たちの世界の魔力駆動による次元航行とはまるでアプローチが違う。空間を滑るのではなく、莫大なエネルギーで強引に次元の壁をこじ開けて、縫い留めるなんて……野蛮だけれど、理にかなっているわ。こんなやり方、時空管理局の中では思いつかないわね』

 

魔力炉、ヒュードラの暴走事故後の記憶を失っているプレシアであるが、事故前までの記憶は有しており、管理局でも大魔導師兼技術・研究者である彼女の頭脳と経験はこれから次元の海へと乗りだそうとしている防衛軍にとっては真田、大山並に貴重な人材であった。

 

そして、時空管理局を始めとする管理世界には無かった波動エネルギーとそのエネルギーを使用する波動エンジンはプレシアにとっては格好の研究テーマであった。

 

「いえ、貴女から提供された『次元断層の予測アルゴリズム』と、魔力理論に基づく質量減衰の基礎データがあったからこそ、ここまで早く実用化できた。感謝する、プレシア博士」

 

真田が淡々と、しかし確かな敬意を込めて礼を言うと、プレシアはふっと自嘲気味に笑った。

 

『感謝には及ばないわ。私はただ、私の目的のためにあなたたちの技術力が必要なだけ……そしてあなたたちは、未知の次元を切り拓くための「羅針盤」が必要だった。利害が一致しただけの契約よ』

 

「それでも構いません。我々は今、同じ船に乗ろうとしている。……『ラボラトリー・アクエリアス』への次元通信装置の搭載は、予定通り明日行います」

 

『ええ。次元の海の底からでも、この地球と通信を繋いでみせるわ。……期待しているわよ、地球の技術者たち』

 

プレシアとの通信を切り、ラボに静寂が戻る。

 

「ふぅ~‥‥さて、もうひと踏ん張りだな」

 

真田は安堵の息を吐き、再び膨大な設計データの海へと向き直った。

 

そして、月面裏側の巨大地下ドックでは‥‥

 

「よぉし!!第三ブロックの接続完了! 波動防壁発生器の出力テストに移行する!!いいか!!最後まで気を抜くんじゃねぇぞ!!」

 

大山の野太い声が、けたたましい作業音を切り裂いて響き渡る。

 

彼らが見上げる先には、威容を現しつつある『ラボラトリー・アクエリアス』の巨大な船体があった。

 

艦首には、アンドロメダ級の系譜を受け継ぐ二門の巨大な波動砲口が口を開け、その背後には未知の生命圏を維持するための広大なバイオプラントドームが青鈍色の光を放っている。

 

地球は今、かつてない規模での宇宙艦船の造艦ラッシュに沸いている。

 

それは血塗られた銀河の覇権争いから距離を置き、誰も知らない並行宇宙、未知なる次元の海へ漕ぎ出すための、壮大な「方舟」の建造であった。

 

人類の新たなる希望を乗せた探査艦隊の抜錨の時は、もうすぐそこまで迫っていた。




次回 新型戦闘空母就役











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