※挿絵を変更しました!
欧州、そして月面での宇宙艦船の建造ラッシュが続く中、ドイツ軍区の管轄内、キールにある宇宙艦船の造艦所にして、一隻の戦闘空母が就役した。
防衛軍はこれまで戦艦、巡洋艦、駆逐艦、護衛機などの戦闘艦艇を中心に建造し、空母への建造はやや消極的であった。
それは戦艦にもある程度の艦載機を収容できるからだった。
しかし、彗星帝国、暗黒星団帝国との戦いから艦載機を専門とする運用母艦‥空母の不足にも着目し始めた。
そこで、独自の航宙母艦(宇宙空母)の建造を模索していたドイツ軍区であったが、建造ノウハウがなかった事からドイツ軍区の建艦技師たちは建艦技術を学ぶために極東管区との技術交換の際にアンドロメダ級戦艦やドレッドノート級主力戦艦を基に建造された赤城型戦闘空母双方の設計を学びドイツ軍区に帰国後に設計が開始された。
その設計思想はドイツらしく長大な航続距離と武装を兼ね備えた設計の空母となり、艦影はアンドロメダ級と赤城型を合わせたようなモノとなった。
船体と武装はアンドロメダ級と踏襲しつつ艦橋構造物は赤城型の物が採用された。
これは横に飛び出ているアンドロメダ級の艦橋よりも垂直に近い造りのドレッドノート級の艦橋の方が艦載機の離着艦に邪魔にならないのではないかと言う考慮である。
なお、装甲戦闘空母の名の通りアンドロメダ級の船体を活用した設計によって赤城型には引けを取らないレベルの重装甲であり、船体も長い為に赤城型以上の艦載機運用能力を有している。
艦名には第二次世界大戦時に未完成で終わってしまった『グラーフ・ツェッペリン』が採用された。
ドイツは空母建造においてリベンジを果たしたのだ。
また、その設計の優秀さから技術交換の恩を返す形で極東管区にライセンス生産が許可されており、日本でも同型の空母の建造が多数行われている。
とはいえ、完成まで大きな障害がいくつもあった。
初めての宇宙空母建造と言う新機軸さ故かドイツ軍区でも建造が遅延してしまい、あと少しで船体が完成するというタイミングで暗黒星団帝国の地球占領が発生。
空襲の際に船体に多数の被弾を受けた上に建造が行われていたドック周辺ではパルチザンやレジスタンス組織と暗黒星団帝国軍の交戦が発生しており、損傷が増加し、地球解放後の調査で就役が遅れることが確定してしまった。
そうした困難な出来事があったが、やっと完成にこぎ着ける事が出来た。
完成当日、キールの造艦所を覆っていた薄雲が晴れ、真新しい装甲を祝福するかのように陽光が差し込んでいた。
「やっと完成したわね」
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐が完成したばかりのグラーフ・ツェッペリンの船体を見上げながら呟く。
「ああ、此処まで長い期間だった」
ミーナと同じく真新しい中佐の階級章をつけた女性士官‥坂本美緒もしみじみとした様子でグラーフ・ツェッペリンを見上げる。
「ええ、そうね‥‥それに‥‥」
「ん?それに?」
「その恰好、よく似合っているわよ。美緒」
「なっ!?」
ミーナの指摘に美緒は頬を少し赤らめて絶句する。
ミーナは防衛軍の女性隊員服の上に航空隊ジャンパーを羽織っている格好だが、美緒は階級章同様、真新しい白い女性用艦長服を着ていた。
「わ、私よりもミーナ、お前の方が艦長に相応しいのではないか?そもそも私はドイツ軍区の人間ではないのだが‥‥」
美緒はグラーフ・ツェッペリンの艤装委員としてドイツに居たのだが、完成後に司令部から中佐に昇進と同時にグラーフ・ツェッペリンの艦長に親補された。
ミーナはふふっと上品に笑い、自らが羽織っている航空隊ジャンパーの襟を軽く指で摘んでみせた。
「私は艦長席でふんぞり返っているより、前線で部下たちを束ねる方が性に合っているからね。それに、この『グラーフ・ツェッペリン』はドイツと極東管区の技術協力の結晶よ。その象徴として、建造からずっとこの艦を見守り続けた貴女が艦長を務めるのは、両軍区の上層部も全会一致で承認したことなの」
「上層部が‥‥?そうか‥だが、いくらなんでも私が‥‥」
「それにね、美緒」
ミーナは一歩歩み寄り、美緒の肩にそっと手を置いた。
その瞳には深い信頼の光が宿っていた。
「暗黒星団帝国の占領下、あの激しい空襲とレジスタンス活動での戦闘の中で、この艦の心臓部たる波動エンジンと艦載機区画を死守したのは、他でもない貴女が指揮した部隊じゃない。この艦の命を繋いだ貴女以外に、誰がこの艦を任せられるっていうの?」
その言葉に、美緒は当時の過酷な戦いの記憶を脳裏に蘇らせた。
焦げた鉄の匂い、飛び交うレーザー、そして未完成のこの艦を盾にするようにして戦い抜いた日々。
美緒は小さく息を吐き、少しだけ照れくさそうに、しかし誇り高く口角を上げた。
「ふっ、相変わらずお前には敵わんな、ミーナ。お前がそこまで言うのなら、この大任、受けて立つしかないだろう」
「ええ、頼りにしているわよ、坂本艦長。私はこの艦の航空隊隊長兼副長として、貴女の背中を全力で守るわ。艦載機の運用はすべて私に任せて、貴女はどっしりと前を向いていればいい」
「ああ、頼むぞ、ミーナ副長。……よし!」
美緒は白い艦長帽を深く被り直し、その表情を軍人の、そして一艦の主としての厳格なものへと引き締めた。
彼女の視線の先には、陽光を反射して威風堂々と鎮座する、全長400メートル級の巨大な戦闘空母が待っている。
「さあ、私たちの新しい『城』が待っているわ。行きましょう」
「ああ。これから本艦は公試運転を経て、防衛軍の月面基地へと向かうのだったな」
二人は連れ立って、タラップへと歩みを進めた。
艦内に入ると、真新しいグリスとオゾンの匂いが漂っていた。
すれ違う乗組員たちは、ドイツ軍区の者も極東管区から派遣された者も皆一様に若々しく、そして誇りに満ちた顔で新任の艦長と副長に敬礼を送り、美緒とミーナも返礼する。
エレベーターを乗り継ぎ、たどり着いたグラーフ・ツェッペリンの第一艦橋。
ドレッドノート級を踏襲した垂直に近い構造は、視界を遮るものが少なく、眼下には広大な飛行甲板と、そこに並ぶ最新鋭の宇宙戦闘機群がはっきりと見て取れた。
確かにこれなら、艦載機の離着艦管制において、横に張り出したアンドロメダ級の艦橋よりも遥かに運用がしやすい。
美緒は艦橋の中央、一段高くなった場所に設置された真新しい艦長席の前に立ち、ゆっくりとそのシートに腰を下ろした。
その瞬間、艦橋内の全クルーの視線が彼女に集中した。
「艦長、出航準備完了しています。いつでもいけます」
副長席に座ったミーナが、コンソールを確認しながら報告する。
美緒は真っ直ぐに前方のメインスクリーンを見据えた。スクリーンには、雲一つないキールの青空と、その先にある無限の星の海が映し出されている。
「波動エンジン、始動」
美緒の凛とした声が艦橋に響き渡る。
直後、ズゥゥゥン……という重低音と共に、巨大な船体が静かに脈動を始めた。アンドロメダ級と同等の出力を持つ双発の波動エンジンが、産声を上げたのだ。
「機関、正常。フライホイール接続、重力アンカー解除!」
「各部異常なし。飛行甲板、クリア!」
クルーたちの報告が次々と飛び交う中、美緒は力強く右手を前方に振り下ろした。
「装甲戦闘空母グラーフ・ツェッペリン、抜錨! これより本艦は、月面基地へと向かう。 前進微速、発進!」
メインスラスターから眩い閃光が放たれ、重力制御によって巨体がゆっくりと宙に浮き上がる。
かつて未完成のまま歴史の波に飲まれた悲運の名を受け継いだその艦は、国境を越えた絆と最新鋭の技術をその身に宿し、今度こそ大空へ、そして宇宙へと力強く飛び立っていった。
月面基地には各管区のエースパイロットたちがグラーフ・ツェッペリンの航空隊隊員として乗艦して来る。
更にその基地のドックにて、新たな装備が追加されるらしい。
地球の重力圏を離脱した装甲戦闘空母グラーフ・ツェッペリンは、漆黒の宇宙空間を滑るように進んでいた。アンドロメダ級譲りの高出力波動エンジンは、その巨体を感じさせないほど静粛かつ力強い推進力を生み出している。
やがて、メインスクリーンに巨大なクレーター群と、そこに建造された防衛軍・月面基地の無機質ながらも頼もしい威容が映し出された。
「本艦はこれより月面基地の管制空域に入ります。第一から第三までの全自動接舷システム、起動」
オペレーターの声が艦橋に響く。
「よし、入港態勢だ。各員、着陸するまで気を抜くなよ」
艦長席では美緒が鋭い視線をスクリーンに向けながら指示を飛ばし、副長席では、ミーナがコンソールを操作しながら微笑んだ。
「初めての航宙としては完璧な滑り出しね。機関の出力も安定しているし、艦体制御も極東管区のデータ通り。本当に優秀な艦だわ」
「ああ。だが、本当の勝負はこれからだ。月面基地で合流する『連中』と、例の新しい装備……あれを積んで初めて、このグラーフ・ツェッペリンは完成する」
「ええ。航空隊の受け入れ準備は既に整っているわ。みんな、待ちきれないでしょうね」
ミーナは月基地で待っている仲間たちの事を思った。
防衛軍月基地へ着陸したグラーフ・ツェッペリン。
船体を巨大なガントリーロックで固定する。
隣のドックには建造中のラボラトリー・アクエリアスの姿があった。
「あの艦は‥‥」
「新造艦みたいね」
「ああ、アンドロメダ級に似ているが、通常のアンドロメダ級よりもデカいな」
美緒もミーナも隣のドックで建造中の新造艦が気になりつつもまずは月基地で待っているパイロットたちとの合流を計る。
やがて待機していたエースパイロットたちが次々と艦内に足を踏み入れてきた。
その先頭を歩く、そして見知った顔ぶれを見て、美緒の口元に自然と笑みがこぼれる。
「ゲルトルート・バルクホルン少佐、以下11名! 現時刻をもって本艦の航空隊に着任しました! 艦長、副長、再びお仕えできることを誇りに思います!」
生真面目な顔つきで、一糸乱れぬ完璧な敬礼をしてみせたのは、ドイツ軍区が誇るトップエース、ゲルトルート・バルクホルンだった。
そのすぐ後ろから、飄々とした態度の金髪の女性士官がひょっこりと顔を出す。
「エーリカ・ハルトマン大尉もいまーす。いやぁ、月面は重力が軽くて歩きにくいですねぇ。あっ、坂本艦長、この新しい艦のベッドの寝心地はどうですか?」
「貴様、ハルトマン! 艦長と副長の前だぞ、少しはシャキッとせんか!」
バルクホルンが即座に雷を落とすが、ハルトマンは「あはは」と笑って受け流している。
「相変わらずだな、お前たちは」
美緒は二人のやり取りに声を上げて笑った。「だが、頼もしい部下が揃ってくれた。これで、どんな過酷な宙域でも戦い抜ける」
「ええ、本当に」
ミーナも優しく頷き、パイロットたちを見渡した。
「貴女たちを迎え入れて、このグラーフ・ツェッペリンの航空隊はついに完全なものとなったわ。これからよろしく頼むわね」
『了解!!』
「坂本さん!!」
「おぉ、宮藤。元気だったか?」
「はい!!」
パイロットと合流した際、美緒に声をかける女性パイロットが居た。
声をかけたのは宮藤芳佳。
元は武御雷の内惑星艦隊総旗艦直属の第二航空隊に隊員として所属し、パイロット兼衛生兵として活躍していたが、今回のグラーフ・ツェッペリン就役で、武御雷の航空隊からグラーフ・ツェッペリン航空隊に転属となった。
美緒とは同じ軍人であるが、それ以前に家が互いに近所だった事から交流があった。
「おめでとうございます」
「ん?どうした?」
「昇進と艦長就役のお祝いをまだ言っていなかったので」
「そうか、ありがとう」
美緒と宮藤が和気あいあいと会話をしている様子を見て、
「うぅ~あのおチビ、坂本艦長とイチャイチャと‥‥」
と、妬ましそうに見ている女性パイロットが居た。
彼女はペリーヌ・クロステルマン。
美緒とは一時的ながらも臨時教官を務めた仲であり、美緒を尊敬・崇拝している人物であった。
「よぉ~しぃ~かぁ!!」
「きゃっ!!」
美緒と話している宮藤の胸が突如誰かに揉まれる。
「うぅ~ん‥‥あんまり成長していないね」
「ちょっ、ルッキーニちゃん!!」
宮藤の胸を揉んだのはフランチェスカ・ルッキーニ。
破天荒な性格ながらもパイロットとしての腕前はエース級な女性パイロットだ。
「こら、ルッキーニさん!坂本艦長とミーナ副長の前でなんという破廉恥な振る舞いを‥‥!」
顔を真っ赤にしてルッキーニを咎めたのは、先ほどまでジェラシーの炎を燃やしていたペリーヌだ。
彼女はツカツカと歩み寄ると、宮藤からルッキーニを引き剥がそうとする。
「あはは、ごめんねー艦長さん、宮藤。こいつ、月面基地での待機が退屈でウズウズしていたみたいでさ」
ペリーヌより先にルッキーニの首根っこをヒョイと掴んで持ち上げたのは、長身でグラマーな女性パイロット、シャーロット・E・イェーガーだった。
「むぅー、離してよーシャーリー! 芳佳の柔らかいところで癒やされようと思ったのにー!芳佳だって揉まれて胸が大きくなるなら互いにwin-winじゃない」
空中をジタバタと泳ぐルッキーニ。
「はっはっは! 相変わらず賑やかで型破りな奴らだ」
美緒は腹の底から笑い声を上げた。
軍の規律としては褒められたものではないかもしれないが、この個性の強さと結束力こそが、かつて幾多の絶望的な戦場を生き抜いてきた彼女たちの最大の武器であることを誰よりも知っているからだ。
「ええ、本当に‥でも、これでようやく私たちの『家』に家族が揃ったわね」
ミーナも優しく微笑みながら頷いた。
「大丈夫?芳佳ちゃん」
「う、うん。大丈夫だよ。リーネちゃん」
ルッキーニの奇襲を受けた宮藤に心配そうに声をかけるのはリネット・ビショップ。
そんなリネットに返答する宮藤であったが、その視線は彼女の胸に向いている。
(リーネちゃん、また大きくなったような気がする‥‥)
(触って確かめたいけど、この空気の中で触るのはダメだよね‥‥)
(でも、この先、リーネちゃんと同じ艦内で生活できるなら、チャンスも来るよね)
宮藤もルッキーニ同様、女性の胸に興味がある特殊な趣味の持主であったが、流石に空気を読んだのか、この場ではリネットの胸を揉むことはなく、チャンスを待つ事にした。
やがて、グラーフ・ツェッペリンに彼女たちの愛機が次々と搬入される。
各国で独自の宇宙艦船が設計・建造されているように、航宙機も独自の設計思想で設計・製作されていた。
ドイツの爆撃機、コスモ・スツーカ&コスモ・スツーカG型
日本の戦闘機、コスモパルサーにコスモタイガーⅢ
ドイツの戦闘機、コスモ・ヴュルガーにコスモ・ウルフ
イギリスの戦闘機、コスモ・グラスパーにコスモ・イーグル
アメリカの戦闘機、コスモ・マスタング
日本の偵察機、コスモ・セイデン
制作した国はそれぞれ異なるが、ライセンス契約があれば、他国でも使用できる事となり、日本人ではない外国人パイロットでも日本の機体を使用しているパイロットが居た。
「それで、グラーフ・ツェッペリンの任務は一体なんですか?」
宮藤が美緒にグラーフ・ツェッペリンの任務を尋ねる。
「グラーフ・ツェッペリンは此処で最後の艤装を行う予定となっているが、その件でこの後、私とミーナは此処の技術者との会議がある。折角合流してもらってすまないが、その艤装が終わるまでグラーフ・ツェッペリンはこのドックで待機だが、出航までにこの艦に慣れてもらいたい」
「まだ、完成していなかったんですか?」
「いや、追加の新しい装備があるらしい」
「新しい装備‥‥」
「ああ。詳しい内容はこの後の会議で分かるだろう」
そう言って美緒とミーナはドックを後にして月面基地の会議室へと向かった。
次回 月面での一幕