内惑星艦隊の奮闘   作:島田愛里寿

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第百七十九話 次元世界探査艦隊編成会議

さて、宇宙戦士訓練学校を新たな防人たちが卒業していた頃、

 

防衛軍司令部では、各方面の担当者や司令官たちが集められ、とある会議を行っていた。

 

「では、ただいまより第一次次元世界探査艦隊の編成会議を開始する」

 

司会を務める幕僚の言葉に参加者たちは頷く。

 

それは内惑星艦隊代表として参加していた束も同様だ。

 

司会は現在のところガルマン・ガミラスとの外交交渉が難航に次ぐ難航な状態なので、今次元世界を探査することが重要であると熱弁して席に着いた。

 

そこから始まった会議は熱のこもった意見が飛び交うこととなる。

 

なんせ、第一次、第二次内惑星戦争とそれに伴う地球と火星の復興、地球及び火星の宙域の掃海作業によって遅延し、果てはガミラス帝国、彗星帝国、暗黒星団帝国との接触によって完全に途絶えてしまった太陽系外への本格的な開拓事業の足がかりになりえる計画だ。

 

軍部だけでなく、政治、経済界の思惑が交差するわけだ。

 

「ラボラトリー・アクエリアス、グラーフ・ツェッペリン、ジュピター級のマーズの参加はほぼ決定しているからな、後は護衛として長波型駆逐艦数隻で良くないか?」

 

「何を言うか!?時空管理局という連中の他にも次元世界には海賊が居るとのうわさだ!ここは多数の戦艦も動員するべきだろう!!」

 

「そんなことをしたら、対ボラーへの警戒がおろそかになるだろう!?貴重な熟練の将兵を未知の探査任務で、そこまで裂けんぞ!!」

 

まぁ、こうなるわけだ。

 

そもそも、ジュピター級超大型調査採掘艦はサイズがデカすぎて、艦載機ならぬ艦載艦を二隻搭載可能としているのだ。

 

その為、ジュピター級二番艦マーズには二隻のバラクーダ級砲艦が搭載されており、『エレバス』『ロバーツ』を搭載している。

 

また、艦載機を二個飛行隊搭載可能としている上に艦載艇としてパブリク突撃ミサイル艇を複数隻搭載しているのだ。

 

言わば移動型前線採掘武装基地と言っても過言ではない。

 

それに加えて船団旗艦兼マーズの直掩としてアンドロメダ級を元にしつつも船体規模の拡張及び武装強化を図った探査戦艦のラボラトリー・アクエリアスと新鋭の戦闘空母グラーフ・ツェッペリンも加わるのだ。

 

しかもグラーフ・ツェッペリン所属の飛行隊は各国のエース級のパイロットばかり‥‥

 

多数の人員と予算を割くこの計画。

 

下手をしたら時空管理局に拿捕されたり、次元世界の別の星間国家に撃沈・拿捕される危険性を考慮したら、参加艦艇数を増やしたいと言うのが軍部の意見だ。

 

しかし、暗黒星団帝国との戦いから復興が進んでいるとはいえ、結構な予算を掛けた最新鋭艦を出したくない、出すとしても少数でという政府の意見も一理ある。

 

おまけに空母を主体とすべしという意見と、戦艦を主体するべきだと言う意見まで出てきて会議は結構カオスじみて来た。

 

文字通り、会議は踊るされど進まずや小田原評定、 ウィーン会議と言った中々決まらない会議とまで一部の参加者が内心突っ込み始める始末だったので一時会議は休憩となった。

 

 

休憩室

 

「やれやれ…まさかあそこまで決まらないとはねぇ~」

 

束は自販機からジュースを買って飲みつつ、ディアーチェに愚痴る

 

「ううむ‥‥各方面の意見も分からんでもないのだがなぁ~‥‥星野艦長、貴官はどう考える?」

 

ディアーチェは各方面の懸念や意見も分からなくはないが、ある程度の妥協案を見つけないと一向に話が終わらないと思い、マーズの艦長に内定している星野ルリに意見を聞いた。

 

「現場の意見としてならですが、特定の艦種に集中すると言う方が危険だと思います。しかし、打撃力のある艦艇は必須。よって各種補助艦艇の他にある程度の戦艦や空母が必要だと具申します」

 

そしてその意見が反映された結果、第一次次元世界探査艦隊はこのような形にまとまった。

 

・探査戦艦ラボラトリー・アクエリアス

【挿絵表示】

 

・長門型次期主力戦艦『長門』・『マサチューセッツ』

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・改クレイモア級超弩級自動戦艦BBB-14『草薙(くさなぎ)』

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・グラーフ・ツェッペリン級装甲戦闘空母『グラーフ・ツェッペリン』

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・ちはや級次元潜航艦救難艦『ちはや』

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・改ドレッドノート級多目的艦『おうみ』

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・改ドレッドノート級超質量物質捕獲艦『神威』

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・ジュピター級調査採掘艦『マーズ』

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・長波型次期主力駆逐艦『長波』『清霜』『陽炎』

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【挿絵表示】

 

・金剛改型装甲巡洋艦『アドミラル・グラーフ・シュペー』

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・晴風型重雷装駆逐艦『晴風』『沖風』『時津風』『天津風』

【挿絵表示】

 

・アルフェナッツ級防空巡洋艦『アルフェラッツ』『パスカルメイジ』

【挿絵表示】

 

・次元潜行艦『伊400』

【挿絵表示】

 

次元潜航艦まで動員することには賛否が飛び交ったが最悪に備えるということからも決定されたのだった。

 

ふたたび再開された会議室の大型スクリーンには、先ほど決定されたばかりの重厚な艦艇リストが映し出されていた。

 

「――以上の編成をもって、第一次次元世界探査艦隊とする。なお、総旗艦には予定通り探査戦艦『ラボラトリー・アクエリアス』を据えるものとする」

 

司会役の幕僚が告げると、議場にはようやく安堵にも似たどよめきが広がった。

 

軍部としては『長門』や『草薙』、さらには装甲戦闘空母といった強力な打撃力を確保できたことで不測の事態への備えは十分だと判断し、政府側も調査や救難、物資捕獲といった多目的・支援艦艇が多く組み込まれたことで「単なる軍事侵攻ではなく、あくまで平和的な探査と開拓が主目的である」という建前を維持できたからだ。

 

「やれやれ、ようやくまとまったね」

 

束はホッと息をつきながら、背もたれに深く寄りかかった。

 

その瞳には、これから自分たちが飛び込んでいく未知の世界への強い好奇心がキラキラと輝いている。

 

(まったく、お偉いさんたちの綱引きには付き合いきれないけど……でも、これだけの最新鋭艦と未知の技術が揃うなんて、私でもワクワクしちゃうなぁ!)

 

一方、ディアーチェは腕を組み、スクリーンに並ぶ艦名とスペックを鋭い視線で吟味していた。

 

「うむ。特化しすぎず、かといって器用貧乏にも陥らない……攻守、そして支援のバランスが見事に取れた布陣だ。未知の次元海山を越え、無限に広がる大宇宙を往く我らの先陣として、これ以上ないほど相応しい」

 

そう口にする彼女の表情は自信に満ちているが、内心では強い警戒心を抱いていた。

 

(時空管理局、か。かつて断片的に得た情報によれば、決して侮れる相手ではない。我々はあくまで友好的な探査を望むが、向こうが武力をもって排斥もしくは拿捕しようとするならば、この布陣で護衛の者達は確実に仲間を守り抜かねばならん)

 

そして、大型調査採掘艦『マーズ』の艦長としてこの大艦隊の中核を担う星野ルリは、手元のタブレット端末に送られてきた編成表を淡々とスクロールさせていた。

 

「星野艦長。貴官の具申が見事に通った形になったな」

 

ディアーチェが声をかけると、ルリは静かに顔を上げ、小さく首を傾げた。

 

「……ただの、合理的な判断です。未知の宙域では、何が『正解』になるか誰にも分かりませんから。あらゆる事象に対応できる手札を揃えておくのが、一番生存率が高いだけです」

 

淡々とした口調の裏で、ルリは少しだけ重いため息を飲み込んでいた。

 

(バカばっか……とは言いませんけど。これだけの戦力を一箇所に集める以上、指揮系統の連携と情報共有の徹底が急務になりますね。特に『マーズ』は非戦闘員も多数乗艦する巨大な的。護衛の皆さんには、しっかり働いてもらわないと)

 

「あははっ! ルリちゃんってば相変わらずクールだねー!」

 

束が身を乗り出してルリの肩をポンポンと叩く。

 

「でもでも、これでようやくスタートライン! 次元世界にはまだ見ぬエネルギーや、未知のテクノロジー、もしかしたら私たちの常識を覆すような超科学が眠っているかもしれないんだから! しっかりデータを取って来てね!」

 

「ええ、期待しています。月村司令の技術サポートがあれば、マーズの解析能力も飛躍的に向上しますから」

 

ルリの冷静な返答に、束は満足げに笑う。

 

議場では、各艦の艦長任命と、出撃に向けた最終スケジュールの調整が始まっていた。

 

これまでの激しくも辛い戦乱を乗り越えて地球人類が次なる希望を見出すための大いなる一歩。

 

未知の勢力「時空管理局」や、次元海賊が跋扈すると噂される次元世界へ向けた、かつてない規模の探査艦隊。

 

防人たちの新たなる航海へのカウントダウンが、今、静かに、しかし力強く刻まれ始めていた。

 

「本音を言えば、束。お前も今回の調査には同行したかったのではないか?」

 

ディアーチェが束に尋ねる。

 

束が艦長を務め、ディアーチェも副長を務める武御雷は今回の調査任務には不参加であり、地球圏に居残りとなる。

 

勿論、幾度も地球の危機を救ったあのヤマトもだ‥‥

 

ディアーチェの問いかけに、束は少しだけ唇を尖らせて、大げさに肩をすくめてみせた。

 

「う~ん、まぁね!私としては、未知の次元世界のテクノロジーなんてヨダレが出るほど直接バラして……ゲフンゲフン、解析してみたいところだけどさ」

 

冗談めかして笑う束だったが、その瞳には一瞬、研究者としての純粋な欲求と、それを抑え込む理知的な光が交差した。

 

(そりゃあ本音を言えば行きたかったよ。時空管理局のデバイスとか、質量兵器とは違う魔法陣のようなシステムとか……。でも、ね)

 

「お留守番だって重要な任務でしょ? ヤマトと私やディアーチェの『武御雷』、それに他の主力艦隊がごっそり抜けちゃったら、ボラー連邦が『あ、地球圏ガラ空きじゃん!ラッキー!』ってちょっかいかけてくるかもしれないし‥‥真田君や大山君も今回の調査任務にヤマトが選ばれなかった事にきっと残念がっているだろうね」

 

束の言葉に、ディアーチェも深く頷く。

 

「うむ。覇道を歩むには、まず足元を盤石にせねばならんからな。ヤマトや武御雷は、いわば今の地球圏における最強の『抑止力』だ。我らが睨みを効かせているからこそ、星野らも安心して次元の彼方へ進撃できるというもの」

 

「そういうことです」

 

ルリがタブレットから視線を外し、二人の方へ向き直った。

 

「ヤマトと武御雷が健在であるという事実が、現在の危うい勢力均衡を保っています。今回の探査艦隊は確かに大戦力ですが、それはあくまで『地球圏の絶対防衛線を維持した上での編成』でなければならない……バカばっかの政治家たちも、その辺りの計算だけはしっかりしていたみたいですね」

 

相変わらずのルリの毒舌に、束は「あははっ」と声を上げて笑う。

 

「ルリちゃんの手厳しいところ、嫌いじゃないよ。まっ、そういうわけだから! 次元世界でのデータ収集はルリちゃんたちに任せるよ。何か面白い技術やヤバそうなオーパーツを見つけたら、真っ先に私にデータを送るのよ! 約束だからね!」

 

「了解しました。月村司令の知的好奇心を満たせるよう、せいぜい『バカばっか』な事態に巻き込まれないよう善処します」

 

「フッ、頼もしいことだ。貴様ら探査艦隊の征く道に、いかなる障害があろうとも、必ずや輝かしい成果を地球に持ち帰ってくるだろうな!」

 

ディアーチェが力強く励まし、ルリが静かに頷き、束が満面の笑みでエールを送る。

 

次元調査の参加艦艇が決まり、それらの艦艇には次元調査の為の特殊コーティングが施される事が決まった。

 

会議から数日後‥‥

 

地球圏防衛の要の一つであり、束の実家である月村邸のサロンにて。

 

束はソファに寝転がりながら、タブレット端末で各艦艇への次元コーティングの施工スケジュールの確認を行っていた。

 

「ふふふーん♪ なかなか順調に進んでいるじゃないか。これなら予定通りに出航できそうだね」

 

そこへ、カチャリと控えめなノックと共にサロンの扉が開いた。

 

「束さん、今よろしいですか?」

 

姿を見せたのは、同じく月村邸で暮らすギンガであった。

 

その表情はどこか緊張しているような、戸惑っているような、複雑な色を浮かべている。

 

「ん? どうしたの?そんな難しい顔して。もしかして、夕飯の量が足りなかったとか?」

 

束が冗談めかして笑いかけると、ギンガは苦笑しながら首を横に振った。

 

「いえ、そうじゃありません……実は、先日軍司令部から正式な異動辞令が届きまして」

 

ギンガは手元のデータ端末を開き、束の前に提示した。

 

「私、今回の第一次次元世界探査艦隊の総旗艦……『ラボラトリー・アクエリアス』の副長に任命されたんです」

 

その言葉に、束は「おや」と少しだけ目を丸くしたものの、すぐにニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「へぇ~アクエリアスの副長ねぇ~大役じゃない!おめでとう。職場が離れてしまうのはちょっと寂しいけどね」

 

(うんうん、やっぱり上がってきたねぇ。真面目で面倒見が良くて、実戦経験も豊富なギンガちゃんなら、あの探査戦艦のクルーをしっかりまとめ上げられるはずだ)

 

束が内心で納得していると、ギンガは少しだけ身を乗り出して、真剣な眼差しを束に向けた。

 

「束さん……この人事、もしかして先日私が参加させられた『艦長講習』に関係しているんですか?」

 

ギンガの脳裏に、数週間前に受けた地獄のような……いや、非常に高度で密度の濃い艦長・高級士官向けの特別講習の記憶が蘇る。

 

本来ならもっとベテランの将校が受けるべき内容に、なぜか若手の自分がねじ込まれていたのだ。

 

「あの時は『将来の為のスキルアップ』としか聞かされていませんでしたが……今思えば、次元探査という未知の領域へ赴く旗艦の副長として、私を抜擢するための布石だったのでないかと思えるのですが‥‥?」

 

ギンガの鋭い指摘に、束は「あははっ」と声を上げて笑い、起き上がってポンポンと彼女の肩を叩いた。

 

「ご名答! いやぁ~流石ギンガちゃん。勘がいいねぇ。まぁ、私だけの差し金じゃないよ? 軍部のお偉いさんたちも、総旗艦の副長には『どんな不測の事態にも冷静に対処できて、かつ現場の兵士たちの心に寄り添える優秀な人材』を求めていたんだよ」

 

「……それは、買い被りすぎです。私なんて、まだまだ……」

 

「謙遜しないの!」

 

束はビシッと人差し指を突き立てる。

 

「未知の次元世界には、時空管理局とかいう面倒そうな組織もいれば、得体の知れない海賊もいるんでしょ? ルリちゃんみたいなトップがゴリゴリ作戦を進めていく中で、艦内の空気を引き締めて、時には緩めてくれる『副長』の存在は絶対不可欠なんだよ。だからこその、あの特別講習だったってわけ」

 

(それに……向こうの世界の連中と交渉になった時、ギンガちゃんみたいな誠実で裏表のない子が矢面に立った方が、無用な警戒を抱かれずに話がスムーズに進みそうだしね)

 

(それ以前にギンガちゃんは元時空管理局の管理局員だからそれなりに知り合いだっている筈だから、交渉が全くできない訳じゃない)

 

束は心の中でそんな打算的な計算も働かせていたが、それはあえて伏せておいた。

 

「……そういう、ことですか」

 

ギンガは小さく息を吐き、改めて自分が背負うことになった責任の重さを噛み締めた。

 

ラボラトリー・アクエリアス‥最新鋭の探査戦艦であり、調査艦隊の要である艦。

 

その副長という重責を務めることに不安がないと言えば嘘になる。

 

しかし、選ばれたからには全力で期待に応えたいという強い意志が、彼女の瞳に真っ直ぐな光として宿っていく。

 

「分かりました。束さんたちが留守を預かってくれるこの地球圏の期待を裏切らないよう、アクエリアスの艦長を全力でお支えします」

 

「そうそう、その意気だよ! 真田君たちが作った次元空間を越えるための特殊コーティングの施工は天才的なこの私がバッチリ管理しておくから、ギンガちゃんは安心して荷造りでもしておきなよ!」

 

元気よくサムズアップする束を見て、ギンガの顔にもようやく柔らかな笑みが浮かんだ。

 

「そうそう、その顔。すっごく良い顔しているよ、ギンガちゃん!」

 

束は嬉しそうに頷くと再びソファにごろりと横になりながら、少しだけ真面目なトーンに声を落とした。

 

「……でも、冗談抜きで向こうの世界に行ったら、かつての職場である時空管理局と顔を合わせることになるかもしれない。元局員として、色々とやりにくい場面も出てくると思うけど、覚悟はできてるかな?」

 

束の問いかけに、ギンガは自身の左手――かつて管理局のデバイスを握り、今は地球圏を守るために振るうその手――を強く握りしめた。

 

(時空管理局‥‥私の妹や父さん‥‥かつての仲間たちがいる場所。けれど、今の私は地球防衛軍の軍人であり、この艦隊の副長なんだ)

 

迷いを断ち切るように、ギンガは顔を上げて真っ直ぐに束を見つめ返した。

 

「はい。私はもう、迷いません。もし彼らが私たちの探査を阻み、理不尽な要求を突きつけてくるようなことがあれば……かつての同僚が相手だろうと、地球と仲間を守るために毅然と対応します。それが、私に与えられた『副長』としての責任ですから」

 

「そっか‥‥ギンガちゃんなら絶対に大丈夫。何か困ったことが起こらない様に今の内に様々なシミュレーションをしてありとあらゆる事態を想定し、それに対処できるように万全の準備を私の方でもサポートするから」

 

「はい、ありがとうございます」

 

和やかな笑い声がサロンに響く。

 

未知の海へ漕ぎ出す不安は、確かな決意と信頼によって、力強い推進力へと変わっていた。

 

和やかな笑い声がサロンに響く。

 

未知の海へ漕ぎ出す不安は、確かな決意と信頼によって、力強い推進力へと変わっていた。

 

その心地よい空気の中、ギンガはふと思い出したように、タブレット端末に視線を落とした。

 

「そういえば、束さん。一つお聞きしてもいいですか?」

 

「ん? なあに? 探査艦隊の食糧事情? それとも時空跳躍時の酔い止め薬の有無?」

 

おどける束に対し、ギンガは少しだけ姿勢を正して尋ねた。

 

「いえ、私が補佐することになる『ラボラトリー・アクエリアス』の艦長についてです。私の手元に届いた辞令には、まだ艦長の名前が記載されていなかったもので……アクエリアスの艦長がどんな方なのか、事前に知っておきたいんです」

 

その問いを聞いた瞬間、束はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべた。

 

「あぁー そっか、そっか!ギンガちゃんにはまだ最終的な人事名簿が回ってなかったね。ふっふっふ‥驚かないでね? 今回、あの超弩級探査戦艦の舵取りを任されたのは……藤堂早紀 一佐だよ」

 

「藤堂……!? それって、まさか……!」

 

ギンガの目が大きく見開かれる。

 

『藤堂』という名に、地球防衛軍の将兵であれば誰もが思い浮かべる偉大な人物がいる。

 

防衛軍のトップであり、これまでの激戦において常に地球の防衛を導いてきた藤堂平九郎長官だ。

 

「そう、そのまさか‥‥あの藤堂長官の娘さんだよ」

 

そこに映し出されていたのは、切り揃えられた髪と父親譲りの意志の強さを感じさせる凛とした瞳を持つ、若くも威厳のある女性だった。

【挿絵表示】

 

「実はね、早紀ちゃんってば、士官学校時代の私の可愛い後輩なんだよ」

 

「えっ? 束さんの士官学校の後輩ですか?」

 

ギンガは予想外の繋がりに思わず声を上げた。

 

「彼女は私やディアーチェのニつ下の期にいたんだよ。早紀ちゃんってば昔からすっごく真面目でさぁ。私が学校の規則をちょっとばかり『天才的な発想で独自解釈』して実験室を爆発……ゲフンゲフン、ボヤ騒ぎを起こした時なんか、いっつも眉間に皺を寄せて飛んできて、長々とお説教してくれたんだよねぇ~」

 

どこか懐かしそうに、それでいて面白そうに語る束。

 

(……あの束さんを相手に、ディアーチェさん以外に真っ向からお説教できる人……)

 

ギンガは心の中で、その藤堂早紀という人物の胆力に深く感心してしまった。

 

相手が天才科学者であろうと士官学校の先輩だろうと物怖じせず、規律を重んじる厳格な姿勢。

 

それは軍人として、そして探査艦隊の旗艦を預かる艦長として、これ以上なく頼もしい素質に思えた。

 

「でもね、腕は確かだよ。戦術指揮能力はトップクラスだし、何よりあの藤堂長官の娘さんだけあって、どんな非常事態にも動じない肝の据わった子だから」

 

束の声音から冗談の色が消え、後輩の実力を認める確かな信頼がこもる。

 

「まぁ真面目すぎてたまに思い詰めちゃうところがあるのが玉に瑕だけど……だからこそ、ギンガちゃんが副長に選ばれたんだよ。厳格に艦を引っ張る早紀ちゃんを、元管理局員としての広い視野と、その優しさでしっかりフォローしてあげてね」

 

「……はい。それにしても束さんの後輩であり、長官の娘さん……プレッシャーがないと言えば嘘になりますが、私にできる全力で、藤堂艦長をお支えします」

 

ギンガはホログラムの早紀の写真を見つめ、静かに、しかし力強く頷いた。

 

「うんうん! 二人なら絶対に良いコンビになるね! さーて、そうと決まれば、早紀ちゃんにも『うちの可愛いギンガちゃんをよろしくね!』って通信入れておかなきゃ!」

 

「えっ!? 束さん、あまり過剰にハードルを上げるような通信はやめてくださいね!?」

 

「あははっ! 大丈夫、大丈夫、ちょっとした先輩からのプレッシャーだよ!」

 

笑い合う二人の声がサロンに響き渡った。




次回 探査艦隊出航準備
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