内惑星艦隊の奮闘   作:島田愛里寿

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第百八十一話 密航者発見

次元世界への航行を開始した第一次次元世界探査艦隊。

 

とはいえ、旗艦であるラボラトリー・アクエリアスの艦内に運搬された物資のコンテナの内の一つに数十キロの重量異変は見過ごせず、司令兼艦長の藤堂早紀は副官となっている月村ギンガに再検査を命じた。

 

 

ラボラトリー・アクエリアス 倉庫区画

 

「えっと…これですか?ゆかりさん」

 

「はい。記録上ではそのようですね」

 

ギンガはゆかりと共に倉庫内に運搬されていた多数のコンテナを点検していったが、その中からやっと異常があったコンテナを発見し、

 

「では‥あ、空けますね」

 

ギンガは警戒しつつコンテナの扉を開ける。

 

 

ギィ!

 

鈍い金属音がしてギンガがコンテナの中を見ると、

 

そこには‥‥

 

「あっ!?」

 

「や、やっと空いた…」

 

「へ!?」

 

コンテナの中から出て来た三人の少女にギンガは仰天した。

 

数十後‥‥

 

ラボラトリー・アクエリアス艦橋

 

「はい?副長の知り合いの子供が三人?」

 

「は、はい…」

 

艦長である藤堂早紀は頭を抱えながらギンガからの報告を聞いていた。

 

「出航式典に参加していたとは聞いていたのですが‥なんでも式典開始まで基地でかくれんぼをしていた時、コンテナエリアに隠れたそうなのですが、その際にどうも本艦に搬入される予定だったコンテナ内に入り込んでしまい、そのまま本艦に‥‥」

 

「搬入されてしまったと…」

 

陸戦隊の隊長も兼任しているゆかりは艦内の管理を担当していた管理部に電話でどうなっているのかと問い合わせていたが、担当官曰く出航作業に大忙しだった為に管理が一部ずさんだったと判明する。

 

「とんだ失態ね…でも、今から艦隊を地球に戻すわけにもいきませんし…」

 

「ど、どうしましょうか‥‥?」

 

「この際、我々と一緒に同行…させるほかないでしょう」

 

藤堂早紀はギンガとゆかりと共に話し合ったが、結局このままつれて行くほかないと判断した。

 

この艦隊は地球の複数の勢力の意向もあって編成された大艦隊だ。

 

ささいなことで艦隊を戻したらいろいろと厄介なことになるのは明白だ。

 

「とはいえ、一応は報告を行っておきます。地球でもきっと三人が行方不明と言う事で大騒ぎになっている筈ですから‥‥」

 

「ですね」

 

案の定というか、ラボラトリー・アクエリアスからの急報を受けた防衛軍司令部は頭を抱えた。

 

まさか、第一次次元世界探査艦隊の旗艦に密航者が出て、おまけに民間人の子供。

 

更には月村財閥と島田財閥の関係者であると言うのだ。

 

軍部の担当官は島田家と月村家、リンネの実家に急行して事態を説明。

 

「大変申し訳ございません!!」

 

担当官は文字通りの土下座をして謝罪する事態になった。

 

それもそのはず‥本来であれば出向前に検査を行うべきだったのだ。

 

しかし、今回はまさに大忙しだったこともあってドックの作業員たちも手が回らずにラボラトリー・アクエリアスの主計科がやってくれるだろうと放置。

 

主計科もドック作業員たちや保安部がやっているだろと放置。

 

保安部は保安部で式典の警備に大忙しで検査等まったく考えていなかった。

 

という、なんともまぁ言えない管理体制のずさんさが原因のせいで民間人が入り込んでしまったというのだ。

 

謝罪してもしきれないわけである。

 

「お、落ち着いてください…!」

 

「うちの子たちがかくれんぼを軍事基地内でしていたことも悪いですから…」

 

そんな謝罪を受けた忍と千代は担当官に頭を上げるように必死に説得していた。

 

そもそも危険が多い軍事基地でかくれんぼをしていたことが悪いのは事実だ。

 

実際問題、かくれんぼをしていた昴はディアーチェからこっぴどく説教を受けた。

 

「そ、それで愛里寿たちはいつ頃、帰れますか?」

 

「そ、それなのですが…」

 

千代は愛里寿がいつ頃帰れるかと聞いたが、担当官からの話に頭を抱えざるを得なくなった。

 

なんでも、今回の次元世界探査艦隊は長期の航海を予定しているので、下手したら半年から一年は帰国しないとのことなのだ。

 

まぁ、しっかりとした安全確保は艦隊司令藤堂早紀が確約すると言っていたと伝えられ、リンネの両親も安堵したのは言うまでもない。

 

さて、ここで一旦視点をボラー連邦へ移そう。

 

ボラー連邦 本星

 

「ベムラーゼ首相は一体どうされたのだ…?」

 

ボラー連邦軍の総参謀長であるバルコムは最近のベムラーゼの違和感に頭を傾げていた。

 

普段は傲慢な性格を表に出しているベムラーゼだが、ここ最近は物静かとなり、何かに思いふけっていることが多くなったのだ。

 

おまけにここ最近は部下も信頼のおけるもの以外は執務室に呼ばず、伝える際にも補佐官であるリュドミ・ダーリヤに耳打ちで伝えてダーリヤが伝えることが多いと言う。

 

全てはボローズが送って来たとあるメールを見た時からベムラーゼは変わったと思うバルコムは

 

「ボローズ政治将校…貴様、一体何を送ったのだ?」

 

さて、ここでとある事実をお伝えしよう。

 

かつて存在し、ボラー連邦の前身であり、星間国家であったボラー帝国では「『魔女』を恐れよ」という戒律が存在し、それを良いことに侵略行為を繰り返していた。

 

若き日のベムラーゼは、そんな腐敗したボラーを“科学と合理の国家”として再建することを夢見て同志たちと共に革命を起こし、帝政を打破した。

 

しかし、幾度となく暗殺や謀殺の危機に見舞われた結果、かつての憂国の士は自身が打倒した帝政の無能な指導者たちと同様、拡大政策を続けざるを得ず、帝政時代から国に仕えている旧帝政派を威圧するためにも自身を大きく見せる為に圧政と権威主義体制を敷かざるをえなかったのだった。

 

とはいえ、本人はこのボラーの体質を何とかしたいと思いつつ、何とか魔女の迷信を否定こそ出来たが、部下たちの間ではいまだに恐れるものが居て頭を抱えているのだ。

 

そんな彼はボローズが送って来た地球に関する報告を聞いて、どうするべきかと言う考えが常に先行してしまい、普段演じていた強権的な独裁者という顔を表に出せずにダーリヤに代行してもらっているのだ。

 

「ウラリアの魔女‥‥」

 

ベムラーゼはそう言いながら天の川銀河の中心部を見ながら思いふけっていた。

 

(かつての私は…若かった。かつての学友は私のことをどう思っているのだろうか…)

 

「閣下」

 

そこにダーリヤが声をかけて来た。

 

「地球なる星間国家への対応はいかがいたしましょうか?」

 

「うむ…。まずは威圧行動を行わせろ」

 

こうしてボラーの意思は簡単に決まった。

 

 

此処で再び視点はラボラトリー・アクエリアスへ戻る。

 

 

ラボラトリー・アクエリアス ブリーフィング室

 

ギンガは目の前にちょこんと座る三人の少女――星奈、リンネ、愛里寿に向き合っていた。

 

「というわけで……本当にごめんなさいね。今から艦隊を地球に引き返すことはできないの」

 

ギンガの申し訳なさそうな言葉に、三人は顔を見合わせた。

 

「つまり……しばらくはお家に帰れないってことですか?」

 

愛里寿が不安そうに首を傾げる。

 

「ええ。この艦隊はこれから次元世界の調査に向かうの。だから、短くても半年、長ければ一年は地球に戻れないかもしれないわ」

 

「次元世界の調査……未知の世界に行くってことだよね。なんだか、すごいことになっちゃったね」

 

リンネは驚きつつも、予想外の展開をどこか受け入れようとしている様子だった。

 

星奈もコクコクと頷き、

 

「いえ、私たちもかくれんぼで絶対に見つからないようと奥に入ってしまい、反省しております」

 

とシュンと肩を落とした。

 

「ううん、軍の管理体制にも大きな問題があったから、あなたたちだけの責任じゃないわ。ご両親にはちゃんと事情を説明して連絡が行っているから安心してね」

 

ギンガは優しく微笑み、三人の頭を順番に撫でた。

 

「ただ、これからの航海は未知の領域だから、何があるかわからないわ。だから、いくつか約束してほしいの。まずは、これからの居住区画を含めて艦内を案内するわね」

 

ギンガの先導で、三人はラボラトリー・アクエリアスの広大な艦内を歩き始めた。

 

巨大な通路、整然と行き交う乗組員たち、そして窓から時折見える不思議な次元空間の景色に、三人は目を丸くして感嘆の声を漏らす。

 

「一応、この艦には顔見知りとして私とティアナがいるわ。だから、何か困ったことや不安なことがあったら、遠慮せずにすぐに私かティアナに言ってね。二人とも、あなたたちの味方だから」

 

「はいっ! ギンガさんやティアナさんがいるなら安心です!」

 

リンネが明るい声で返事をした。

 

その後、ギンガは三人を艦内の生産工場区画へと連れて行った。

 

「ここは艦で必要な物資や資材を瞬時に作り出すところよ。かつてフェイトたちやヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃんが乗艦した時と同じように、万が一の事態に備えて、あなたたちにも専用の装備を作ってもらったの」

 

ギンガが担当官から受け取ったのは、三人のサイズにぴったりの艦内着、頑丈なヘルメット、そして防護手袋だった。

 

星奈

【挿絵表示】

 

リンネ

【挿絵表示】

 

愛里寿

【挿絵表示】

 

「これが、私たち専用の服……!」

 

愛里寿が真新しい艦内着を手に取り、目を輝かせる。

 

「もちろん、あなたたちを戦闘や危険な作業に参加させるわけじゃないわ。でも、自分の身を守るための最低限の装備よ。非常時には必ずこれを身につけること。約束よ?」

 

「はい、わかりました!」

 

リンネも真剣な表情でしっかりと頷いた。

 

「それじゃあ、最後にあなたたちの部屋を案内するわね」

 

案内されたのは、清潔だがコンパクトな居住スペースだった。

 

ベッドが三つ並んで配置されている。

 

「ごめんなさいね。流石に一人一部屋の余分な空き部屋は用意できなかったの。当分の間、三人でこの部屋を使ってもらうことになるわ」

 

「いえ、構いません。 三人一緒の方が寂しくないですし、お泊まり会みたいで楽しいですし」

 

星奈が笑顔で言い、リンネと愛里寿も同意するように微笑み合った。

 

こうして、ひょんなことから始まった三人の次元世界探査艦隊での日々が幕を開けたのである。

 

 

一方その頃、地球では――。

 

軍からの報告と謝罪を改めて受けた忍は、すぐさま箒と昴を呼び出し、事の顛末を伝えていた。

 

「……というわけでね。星奈とリンネちゃん、そして愛里寿ちゃんの三人は、そのまま次元世界探査艦隊に同行することになっちゃったのよ」

 

「ええっ!?」

 

忍の言葉に、真っ先に悲鳴のような声を上げたのは箒だった。

 

「た、探査艦隊の旗艦に密航だなんて……! 今頃、次元の彼方じゃないか! あんな小さな子供たちが、未知の世界で危険な目に遭ったりしないんでしょうか……っ!」

 

箒は両手をギュッと握り締め、オロオロと視線を彷徨わせながら三人の身を案じていた。

 

真面目で面倒見の良い彼女にとって、子供たちが軍の最前線の任務に巻き込まれたという事実は、気が気でないのだ。

 

しかし、その隣では全く違う反応を示す者が一人。

 

「えーっ!? 本当!? いいなぁーっ!!」

 

昴は目をキラキラと輝かせ、バンッと机を叩いて立ち上がり、

 

「未知の次元世界を探検!? しかも最新鋭の宇宙艦で!? うぅ~、私もかくれんぼの時、鬼じゃなかったら、リンネたちと一緒に宇宙に行けたのにー!!」

 

と、三人を羨んで、あの時鬼だった自分を悔やんだ。

 

「おい、昴! 不謹慎なことを言うな! これは深刻な事態なんだぞ!?」

 

「でもぉ、絶対ワクワクする大冒険じゃん! ずるいなぁ、リンネたちだけ!」

 

心底羨ましそうに地団駄を踏む昴に、箒は頭を抱え、忍は「やれやれ」と呆れたように苦笑するしかなかった。

 

次元の彼方へ旅立った三人の少女たちへの心配は尽きないものの、残された地球の日常もまた、いつも通り騒がしく回っていた。

 

 

ラボラトリー・アクエリアス 士官用ラウンジ

 

三人をそれぞれの部屋へ送り届けた後、ギンガはすぐさまこの艦に同乗している顔馴染みのメンバー――ティアナ、神堂、そしてシャルロットの三人を士官用ラウンジに呼び出していた。

 

ギンガから伝えられた「アクシデント」の全貌を聞き、三人は一様に目を丸くして絶句した。

 

「……はぁ!? かくれんぼの最中にコンテナに入り込んで、そのままこの艦に運ばれちゃったって!?」

 

最初に沈黙を破ったのはティアナだった。オレンジ色の髪を揺らしながら、信じられないといった様子で声を上げる。

【挿絵表示】

 

「ええ。嘘のような本当の話よ。さっき、当面の居住区画を案内して、非常時用の艦内着やヘルメットなんかの装備品も渡してきたところなの」

 

ギンガがため息交じりに頷くと、隣で聞いていたシャルロットも困ったように眉を下げた。

【挿絵表示】

 

「あの三人らしいというか……なんというか。私たちがかつて遭難して艦のお世話になった時とは違って、かくれんぼで密航だなんて。子供らしいと言えば子供らしいですけど……」

 

「そうね。でも、この先の次元世界の調査において、そんな理由で民間人の子供たちが乗り込んでいるなんて、正直言って不安が残るわ」

 

神堂が冷静に状況を分析しながら、少しだけ険しい表情を浮かべる。

【挿絵表示】

 

また、ティアナも腕を組み、深く息を吐き出した。

 

「全くだわ。しかも一番の問題は、あの子たちがただの子供じゃないってことよ」

 

そう、星奈、リンネ、愛里寿の三人は、いずれも高ランクの魔導師としての素質と実力を兼ね備えているのだ。

 

ただでさえ未知の次元世界の調査は危険と隣り合わせ。

 

それに加えて、ティアナたちの脳裏にはある「厄介な組織」の存在がちらついていた。

 

「もし、調査の途中で時空管理局の艦隊と接触して、臨検でもされたらどうなるの? こんな幼い高ランクの魔導師たちが無登録で乗っているなんて知られたら、最悪の場合、保護という名目で管理局に連れて行かれてしまうかもしれないわよ」

 

ティアナの懸念に、シャルロットと神堂も息を呑んだ。

 

時空管理局は次元世界の秩序を司る強大な組織だが、その強引な手法や法解釈にはこれまでも度々振り回されてきたのだ。

 

しかし、ギンガは迷いのない、強い意志を込めた瞳で三人を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「勿論、その時は私が……いいえ、私たちが全力で阻止するわ。あの子たちは、私たちの大切な家族みたいなもの。どんな理由があろうと、管理局の勝手な真似はさせない」

 

ギンガの頼もしい言葉に、ティアナたちは少しだけ安堵の表情を見せた。

 

「わかりました。もし、管理局が絡んできたら、その時は私も全力で追っ払ってあげる」

 

「ふふ、頼もしいですね。私も微力ながらサポートしますよ」

 

ティアナの力強い宣言に、シャルロットも優しく微笑む。

 

「……ありがとう、みんな。それと、もう一つだけ頼みたいことがあるの」

 

ギンガは少しだけ表情を和らげ、懇願するように三人に頭を下げた。

 

かつての職場であっても今の自分たちは地球防衛軍の軍人であり、星奈たちは自分たちが守るべき地球連邦の市民なのだ。

 

彼女たちを守るのは軍人である自分たちの義務であるから当然だった。

 

問題は時空管理局だけではない。

 

ギンガはもう一つの問題を口にする。

 

「管理局の他に今回の調査は、最低でも半年から一年はかかる長期の航海になるわ。今は『お泊まり会みたいで楽しい』なんて言ってくれているけれど……時間が経てば、きっとホームシックになったり、不安に押し潰されそうになったりするはずよ」

 

「三人のメンタル面での問題、ですね」

 

神堂の言葉に、ギンガは深く頷いた。

 

三人は未成年の一般人‥‥

 

自分たち軍人と違って家族や慣れた環境から長期間離れれば精神的な問題も起きる可能性が高い。

 

「ええ。だから、気づいた時には色々とフォローしてあげてほしいの。私一人じゃ、どうしても手が回らない時があるかもしれないから」

 

「水臭いこと言わないでよね、ギンガさん。あの子たちのことは私たちにも任せてよ!」

 

「ええ、私たちも暇を見つけて、いっぱいお話ししたり遊んだりしましょう」

 

「私も、あの子たちが少しでも安心して過ごせるように気を配るわ」

 

ティアナ、シャルロット、神堂の三人が心強い返事を返すと、ギンガの顔にようやく心からの安堵の笑みが浮かんだ。

 

未知の次元世界へと進みゆく艦の中で、大人たちは密かに、そして力強く、幼い密航者たちを守り抜く決意を固めていた。




次回 初めての調査

ちなみに、本作におけるベムラーゼは3199版のベルム・フォン・ベムラーゼの姿と服装をしており、本性も3199版ですが、普段は旧作版のベムラーゼの性格と言う仮面をかぶっています。
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