さて、予定外の客を三人乗せたものの、第一次次元世界探査艦隊は予定通りに次元空間を通過し、とある星系に出た。
ラボラトリー・アクエリアス 艦橋
「転移終了、座標65.987。十分に許容範囲です」
「各部に異常を認めず、次元波動エンジン正常」
「藤堂司令、最初の調査星系であるエラトラ星系です」
ギンガは艦橋要員達の報告を聞きながら藤堂早紀にそう話す。
エラトラ星系、この星系は時空管理局も把握していたが、管理局側としては豊かな自然の他には惑星の周囲に多数の小惑星帯が存在することからろくな調査をしておらず、自然保護世界としてほぼ放置している星系であった。
その為、初回の調査対象としては最適であると防衛軍参謀本部が判断し、予定に入れていたのだ。
「予定通り、マーズは小惑星帯で資源惑星の探査を行います。他の艦は周辺警戒と宇宙成分の調査、本艦は惑星へ降下して各種調査を行います」
「結構、まずは惑星の大気の調査を行ってください。さらに各種偵察衛星を打ち上げ、惑星の地図の作成をお願いします。その後に調査の仮拠点の設営を行います」
「了解しました!」
藤堂からの指示を受けたギンガは早速各部に指示を伝達し、偵察・観測衛星の射出と戦闘艦を星系各所に進出させて時空管理局や次元海賊の警戒、宇宙生物や鉱物資源の捜索をするように指示をした。
ラボラトリー・アクエリアス 艦内廊下
『戦術科第五分隊は船外服を着用!大気解析が終了次第、惑星上での調査に入る!準備を急げ!!』
ドタドタドタ!!
「うわぁぁ~艦内も大忙しですねぇ…」
「ええ。あまり迷惑にならないようにしましょう」
現在、ラボラトリー・アクエリアスの展望室で宇宙を眺めていた星奈とリンネ、愛里寿は艦内の乗員達が船外服を着た状態で走り回っていたり、ある隊員が小銃を持って艦内の各所に移動している光景を見てあんまりあっちこっちに行って迷惑にならないようにしようと話し合う。
「‥‥あれ?マーズが艦隊から離れていきますね」
「おや?本当ですね?…小惑星帯に向かっていますから小惑星の鉱物資源を探しに行ったのではないでしょうか?」
その際に愛里寿が超大型艦のマーズが護衛の『晴風』『沖風』『天津風』『時津風』を引き連れて艦隊を離脱し、別の進路を取っているのを発見し、それを、見た星奈も直ぐにその行動の意味を理解する。
星奈は元々、月村家に預けられてから束の自室にあった作戦理論書や戦術書、艦隊作戦行動例、過去の戦闘教訓教本等を時々読んでおり、なんとなく行動の真意を理解していた。
愛里寿に至っては元々、頭が良い為に世界有数の大学の卒業試験すらすぐに卒業できるほどの才能の持ち主だ。
直ぐに察することが出来たのだろう。
「あっ、皆ここにいたのね!」
「あっ、ティアナさん!」
そこに艦橋から星奈たちを探しに来たティアナがやって来た。
「ちょうど外を眺めていたのです」
「そうだったの‥‥でも部屋から連絡もなしに居なくなっていたからあわてたわよ?」
「あはは…ごめんなさい」
星奈が展望室にいた理由を話すが、誰にも言わずに来たことを少し怒られることにリンネは少し苦笑いしながら謝罪する。
そんな会話の最中、ラボラトリー・アクエリアスの船体は惑星への降下を開始した。
ラボラトリー・アクエリアス 展望室
「少し揺れるから、どこかに掴まっていてね!」
ティアナが叫ぶと同時に、艦体は小刻みな振動を始めた。
星奈、リンネ、愛里寿の三人は慌てて窓際の手すりにしがみつく。
ラボラトリー・アクエリアスは惑星の大気圏、そしてこの惑星の分厚い雲を抜けて、手つかずの豊かな自然が広がるエラトラ星系の惑星へと降下していく。
初めて見る異星の広大な景色に、三人の少女たちは目を輝かせながら窓の外を見つめていた。
エラトラ星系 惑星地表・原生林
一方その頃、ラボラトリー・アクエリアスの降下地点からほど近い広大な原生林の中では、緊迫した追走劇が繰り広げられていた。
「逃がすな! 希少な幻獣生物だ、確実に捕獲しろ!」
「くそっ、すばしっこいぞ! 回り込んで退路を断て!」
時空管理局の制服に身を包んだ数名の局員たちが、魔導師の杖(デバイス)を片手に息を切らしながら木々を掻き分けて走っていた。
保護世界に密かに生息するとされる、二体の希少な『幻獣生物』である。
「ハァッ……ハァッ……!」
息を乱して逃げ惑うそのうちの一体は、頭部に角を持ち、チャイナドレスのような衣服を身に纏った竜人の少女であった。
竜人とは言え、その大きさはピーターパンに登場する妖精のティンカーベル位の大きさである。
彼女の背中には大きなドラゴンのような翼が生えており、腰からは立派な鱗に覆われた太く長い尻尾が伸びている。
少女は靴を履かず、裸足のまま必死に大地を駆けていた。
そして、竜人の少女の傍らを飛ぶようにして逃げているもう一体は、背中に鳥のようなふさふさとした翼が生えた小熊の姿をした幻獣である。
小熊の額には明確なバツ印(十字)の模様が刻まれており、クリクリとした大きな瞳に怯えの色を浮かべながら、少女に寄り添うように飛んでいる。
この子熊も外見は熊の容姿をしているが、その大きさは地球の豆柴くらいの大きさである。
そして、額の十字傷からは血が流れていた。
この傷は自分たちを追いかけている管理局員からつけられたモノだった。
「キュー……ッ!」
小熊が悲痛な鳴き声を上げる。
局員たちの放つ捕獲用のバインド魔法が、背後の木々を次々と薙ぎ払っていく。
「くそっ、何処に行った!?」
「捕獲できれば、かなりの値で売れそうなのだが‥‥」
「だからこそ、草の根を狩ってでも捕獲するんだ!!」
管理局員たちの物騒な発言が聞こえる。
(あんな奴らに捕まるわけにはいかない……!)
竜人の少女は絶望的な表情を浮かべた。
あんな人間たちに捕まったらどうなるか分かったモノではない。
しかし、逃げ場はすでに無くなりかけている。
その時だった。
上空から耳を劈くような轟音が鳴り響き、凄まじい突風が原生林を吹き荒れた。
ラボラトリー・アクエリアスが降下し、仮拠点確保のために地表近くまで降下して来たのだ。
猛烈な砂煙と巻き上がる落ち葉の嵐によって、局員たちの視界が完全に遮断された。
「うわっ!? なんだ!?この強風は!」
「目を、目が開けられない……っ!」
(今だ……!)
管理局員たちが砂と落ち葉にまみれて絶叫する中、竜人の少女は咄嗟の判断で小熊を抱き抱え、再び逃亡を開始する。
「キュー……ッ、キューッ」
腕の中の小熊が、額の十字傷から血を流しながら、怯えたように鳴き続けている。
(あの連中に、これ以上傷つけられるわけにはいかない……!)
竜人の少女は、背中の翼を羽ばたかせ、突風を裂くようにして地面を這うように飛んだ。
惑星に降下したラボラトリー・アクエリアスは巨大な湖に着水し、船体側面のスライド式のハッチが開くとそこから探査艇であるコスモハウンドが垂直離陸する。
ラボラトリー・アクエリアスを発艦したコスモハウンドは湖の岸辺に着陸すると、ハッチを開きそこから調査に必要な機器を下ろしていく。
コスモハウンド周辺にも人間の作業員たちが慌ただしく動き回っている。
だが、その人間たちの服装は先ほどまで自分たちを追いかけていた人間とは異なる服装をしていた。
茂みの中からそれを見ていた竜人の少女怪訝そうにその様子を見ている。
(あいつらとは……違う人間?)
竜人の少女は、茂みの奥からジッと作業員たちの動きを観察していた。
先ほどまで自分たちを執拗に追い回していた時空管理局の局員たちは、白と青を基調とした制服を着て、手には杖のような武器(デバイス)を持っていた。
しかし、目の前で忙しなく動いている人間たちは、実用性を重視した全く別の作業服や防護服に身を包み、手には見たこともない機械の箱や工具を握っている。
何より、彼らからはあの局員たちが発していたような『魔力』の気配が全く感じられなかったのだ。
「キュー……、キュゥウ……」
腕の中で、小熊がひときわ弱々しい声で鳴いた。
ハッとして視線を落とすと、額の十字傷から流れる血が止まらず、小熊の体温が少しずつ下がっているのがわかる。
(このままじゃ、この子が死んじゃう……!)
焦りが少女の胸を締め付ける。
森に戻れば、またあの恐ろしい人間たちに見つかるのは時間の問題だ。
かといって、目の前の未知の人間たちを信用するわけにもいかない。
だが、迷っている時間はなかった。
「……ごめんね、少しだけ我慢して」
竜人の少女は小熊をしっかりと抱き直すと、背中の翼を静かに広げた。
作業員たちが大きな機材の運搬に気を取られ、大声で指示を出し合っている隙を突く。
彼女は地を這うような低空飛行で茂みを飛び出し、コスモハウンドの開け放たれたハッチへと一直線に向かった。
「おい、そっちのコンテナの降ろす準備は終わったか!?」
「はい! これから機外へ搬出します。空のコンテナは奥へ押し込んでおいてくれ!」
作業員たちの怒号がすぐ頭上を通り過ぎる。
少女はピタリと息を止め、機内の奥へと押しやられた空の資材コンテナの影へと滑り込んだ。
ティンカーベルほどの小さな彼女と、豆柴サイズの小熊が隠れるには、ほんのわずかな隙間があれば十分だった。
ガコンッ!
鈍い音と共にコンテナが固定され、周囲が薄暗くなる。
どうやらコスモハウンドの貨物スペースの死角に、うまく身を隠すことができたようだ。
「ふぅ……っ」
安堵の吐息を漏らすと同時、少女はすぐさま自分のチャイナドレスの裾をさらに強く引き裂き、即席の包帯を作った。
「痛いよね……もう少しの辛抱だからね」
涙目で怯える小熊の頭を優しく撫でながら、傷口を丁寧に縛って止血を試みる。
見知らぬ鉄の空間の中、いつ見つかるか分からない恐怖に震えながらも、竜人の少女は必死に小さな命を繋ぎ止めようとしていた。
その頃、湖に着水したラボラトリー・アクエリアスの展望室では、
「わぁ~……すっごく大きな湖ですね! 水がとっても綺麗!」
「ほんとだ。あっちの森も、地球のジャングルみたいに木がいっぱいだよ!」
展望室の強化ガラスにへばりつくようにして、星奈とリンネが下界の景色に歓声を上げていた。
愛里寿も背伸びをして、興味深そうにコスモハウンドが展開していく調査拠点の様子を見下ろしている。
「三人とも、あまり窓に近づきすぎないでね。まだ周辺の安全が完全に確認されたわけじゃないんだから」
後ろからティアナが苦笑いしながら注意を促すが、未知の惑星への好奇心に満ちた三人の耳には、半分ほどしか届いていないようだった。
「でもティアナさん、あんなに自然がいっぱいなら、きっと珍しい動物とかもいるんじゃないですか?」
星奈が振り返り、目を輝かせて尋ねる。
「そうね。宇宙生物や現地の生態系調査も今回の任務に入っているから、後でデータが送られてくるかもしれないわね」
彼女たちはまだ知らない。
自分たちのすぐ足元、惑星の調査拠点として展開中のコスモハウンドの片隅に、傷ついた小さな『密航者』がもう二組、息を潜めていることなど知る由もなかった。
数十分後‥‥
湖畔での仮拠点設営の第一段階を終えた探査艇コスモハウンドは、機材を下ろして空になったコンテナを回収し、母艦であるラボラトリー・アクエリアスの広大な格納庫へと帰還していた。
『コスモハウンド、着艦完了。作業班はこれより一時休憩に入れ』
艦内アナウンスが響き渡り、忙しなく動いていた作業員たちが三々五々、格納庫から離れていく。
静寂が戻りつつある格納庫の片隅で、回収された空コンテナの中に潜んでいた竜人の少女は、暗闇の中で息を殺していた。
(ここは……どこ? さっきの船ごと、もっと大きな鉄の箱の中に吸い込まれちゃった……?)
外の様子は全く分からない。ただ、微かな機械の駆動音と、人工的な空気の匂いがするだけだ。
腕の中では、小熊が荒い息を吐きながら震えている。
即席の包帯には赤い血が滲み、これ以上の我慢は限界に近いことは明白だった。
(どうしよう……。このままじゃ、本当にこの子が……!)
竜人の少女の瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
その時だった。
「ねえねえ、さっき戻ってきた船、すっごくかっこよかったね!」
「うん! ティアナさんたちには内緒だけど、ちょっとだけ近くで見てみようよ」
「……見つかったら、また怒られちゃいますよ?」
コンテナの外から、鈴を転がすような高い声が聞こえてきた。
先ほどの大人たちとは違う、幼い子供の声。
しかし、竜人の少女にとっては「人間」であることに変わりはない。
彼女はビクッと肩を震わせ、小熊を庇うようにさらに身を縮こまらせた。
ラボラトリー・アクエリアス コスモハウンド格納庫
探検と称してこっそり格納庫に忍び込んできた星奈、リンネ、愛里寿の三人は、停泊しているコスモハウンドの機体を興味津々に見上げていた。
「すごいなぁ~……宇宙船って、近くで見るとこんなに大きいんだね」
リンネが感嘆の声を漏らす。
「でも、機材は全部あっちの湖に降ろしてきたみたいですね。コンテナの中は空っぽみたいですし」
愛里寿が、コスモハウンドの横に無造作に置かれた空コンテナの列を指差した。
その時、愛里寿の耳がピクリと動く。
「……ん? 今、何か聞こえませんでしたか?」
「えっ?何も聞こえなかったけど?……機械の音じゃない?」
「いえ、違います。動物の……鳴き声みたいな……」
愛里寿は首を傾げながら、音のした方――薄暗い影に置かれた空のコンテナへとゆっくり近づいていく。
星奈とリンネも顔を見合わせ、その後を追った。
コンテナのわずかに開いた隙間から、愛里寿がそっと中を覗き込む。
「――っ!?」
愛里寿は息を呑み、思わず目を丸くした。
「どうしたの、愛里寿ちゃん?」
星奈が隣から顔を出し、同じように中を見て……絶句する。
そこには、自分たちの手のひらに乗ってしまいそうなほど小さな、角と翼の生えたチャイナドレスの少女と背中に羽が生えた豆柴サイズの小熊がうずくまっていたのだ。
(み、見つかった……っ!?)
竜人の少女は恐怖に顔を強張らせた。
相手が子供とはいえ、人間だ。あ
の恐ろしい杖を取り出し、自分たちを捕まえるに違いない。
彼女は震える足で立ち上がり、小熊の前に両手を広げて立ちはだかった。
「こ、来ないでっ……! お願い、この子には何もしないで! 捕まえるなら、私だけでいいからっ……!」
必死の形相で威嚇する竜人の少女。
その悲痛な叫びに、星奈たちはハッと我に返った。
そして、少女の足元で苦しそうに丸まっている小熊の額から、痛々しく血が流れていることに気がつく。
「怪我をしているの……!?」
リンネが焦ったように声を上げる。
「ひっ……!」
リンネの大きな声に驚き、竜人の少女がさらに後ずさる。
「リンネちゃん、声が大きいよ……この子を怖がらせちゃっている」
星奈はリンネを優しく制すと、コンテナの隙間から自分たちの両手を見せ、武器などを持っていないことをアピールした。
「ごめんね、びっくりさせちゃって。私たち、何もしないよ。捕まえたりもしない」
星奈はしゃがみ込み、極力視線を下げて、優しく、語りかけるように言った。
「そのクマちゃん、すごく痛そう。血がいっぱい出ている……私たち、怪我の治し方を知っているの。助けさせてくれないかな?」
「た、助ける……?」
竜人の少女は信じられないといった表情で星奈を見た。
今まで自分たちを追いかけてきた人間は、皆一様に欲望に塗れた目をしていた。
「高く売れる」 「希少だ」 と言って、傷つけることも厭わなかった。
しかし、目の前の三人の人間の子供たちの瞳には、純粋な心配と、温かな思いやりしか浮かんでいない。
「……私たちもね、実は『迷子』みたいなものなの。だから、困っているなら放っておけないよ」
愛里寿もふわりと微笑み、星奈の隣にしゃがみ込む。
竜人の少女は、星奈たちの真っ直ぐな瞳と、足元で苦しむ小熊を交互に見つめた。
(この人間たちは……違うの?)
「キュゥウ……」
限界を迎えた小熊が、ガクンと頭を落とす。
「っ! お、お願い……っ! この子を、助けて……っ!」
ついに警戒を解いた竜人の少女が、涙をポロポロと流しながら頭を下げた。
「任せて!」
三人は力強く頷くと、急いでコンテナの隙間を広げ、傷ついた二体の『密航者』をそっと外へと助け出すのだった。
予定外の子供たち三人を乗せて出航した艦は、さらなる「予定外の小さな客」を迎え入れ、未知の調査任務は思わぬ方向へと動き出そうとしていた。
原生林。
砂煙が晴れ、静寂が戻った森には、咳き込みながら辺りを見回す管理局員たちが残された。
「チィッ! どこへ消えたんだ、あの幻獣たちは!?」
リーダー格の局員が、泥のついた制服を苛立たしげに払いながら叫ぶ。
「索敵魔法の反応は!?」
「ダメです! スクリーニングに全く引っかかりません! まるで空気に溶けたみたいに、気配が消え失せました!」
「まさか、あの短時間で転移魔法でも使ったというのか……? いや、そんな高度な知能があるとは報告されていないはずだ……!」
男たちは、幻獣たちが先ほど自分たちの頭上、空高くへと通過したラボラトリー・アクエリアスの艦内にいるとは夢にも思わず、無意味に森の中をくまなく彷徨い続けるのだった。
ラボラトリー・アクエリアス 艦内通路
「急ごう! 医務室なら、きっと怪我を治せるお薬や道具があるはずだよ!」
星奈は、自分の服が血で汚れることも厭わず、ぐったりとした小熊をそっと両腕に抱き上げた。
リンネも、ティンカーベルほどの小さな竜人の少女に両手を差し出す。
「あなたは私の手に乗って。急いで走るから、落ちないようにしっかりしがみついているんだよ」
「あ、ありがとう……っ」
竜人の少女は戸惑いながらもリンネの手のひらに乗り、その温かさに少しだけホッと息をついた。
(この人間たちは、本当に私たちを助けようとしてくれている……あの怖い人間たちとは違うんだ……)
三人は急いで格納庫を飛び出し、入り組んだ艦内の通路を小走りで医務室へと向かった。
ラボラトリー・アクエリアス 医務室
「すみません! 誰かいませんか! 急患です!」
医務室の自動ドアが開くや否や、愛里寿が焦った声で呼びかける。
「どうしたんだい? 君たちは確か、さっき艦長が言っていた例の……」
当直の医務官がカルテから顔を上げた。
民間人の子供たちが慌てて駆け込んできたことに驚きつつも、星奈の腕の中にある『それ』を見て、さらに目を丸くした。
「なっ……!? そ、それは、一体……!?」
医務官は椅子から立ち上がり、信じられないものを見るような目で硬直した。
星奈に抱かれた翼の生えた豆柴サイズの小熊、そしてリンネの手のひらで不安そうにこちらを見上げている、角と翼を持つ極小サイズの竜人の少女。
長年軍医として多くの怪我人を見てきた彼にとっても、今回の患者はまったく未知の幻獣生物だったからだ。
「お、お願いです! このクマちゃん、頭から血がいっぱい出ていて……っ!」
星奈が涙声で訴えかけると、小熊は「キュゥ……」と弱々しい鳴き声を漏らし、意識を手放しかけていた。
医務官はハッと我に返った。
未知の生物に対する探究心や驚きよりも、目の前で失われかけている命を救うという、医療従事者としての本能が勝ったのだ。
「……こっちの処置台に寝かせなさい! 早く!」
「はいっ!」
星奈が急いで小熊を清潔なシーツの上に寝かせると、医務官はすぐさま止血用の医療機器と消毒液を手に取った。
「ひどい傷だ……鋭利な刃物か、あるいはレーザーのような高エネルギーで切り裂かれたような痕だな。バイタル低下、すぐに止血と縫合処置をする!」
医務官の素早く的確な手つきによって、小熊の額にある十字の傷口が丁寧に洗浄され、特殊な医療用ジェルと微小なレーザー縫合器で素早く塞がれていく。
さらに、失われた体力を回復させるための栄養剤が、小さな体に負担をかけないよう慎重に投与された。
子熊の治療の間、竜人の少女はリンネの手から処置台の脇へと飛び移り、祈るように両手を組んで小熊を見つめていた。
(お願い、助かって……! 置いていかないで……!)
やがて、ピピピ……という医療モニターの安定した電子音が医務室に響く。
「……よし。止血完了だ。傷は深かったが、なんとか一命は取り留めたよ。あとは安静にしていれば、徐々に回復するだろう」
医務官が額の汗を拭いながらそう告げると、小熊の荒かった呼吸はすっかり落ち着き、スースーと穏やかな寝息へと変わっていた。
「よかったぁ……っ」
星奈、リンネ、愛里寿の三人は、ふにゃりと安堵の笑みを浮かべてその場にへたり込んだ。極度の緊張が解け、どっと疲れが押し寄せてきたのだ。
「キュー、キュー……」
眠りながらも少しだけ安心したように小さな翼と尻尾を動かす小熊を見て、竜人の少女の目から再び大粒の涙が溢れ出す。
「よかった……本当によかった……! あなたたちのおかげであの子は助かりました。本当に、本当にありがとう……っ!」
竜人の少女は三人の顔と、素早い治療を施してくれた医務官を順番に見つめ、小さな体で何度も何度も深くお辞儀をするのだった。
次回 侵入者?との面会