星彩とヴォイテクの名前づけと星奈、愛里寿との契約が完了した頃、
第一次次元世界探査艦隊は次の探査目的地である星系に到着していた。
その星系の名前はハキノタ星系
かつては次元世界の工業系企業が鉱山を有していた惑星系だが、既にその企業は完全に撤退しており、今は星全体が完全な無人星系となっていた。
その為、今回は完全に大手を振って堂々と調査を行えるというわけだ。
藤堂は全艦隊に星系の調査を命じた。
ジュピター級超大型調査採掘艦『マーズ』
「艦長、第五エリアに展開した探査艇より、小惑星帯に存在する小惑星より未知の鉱物資源を確認したとのこと」
「艦長、第三エリアの第二調査隊より通信、接近中の大型小惑星の排除完了とのこと」
「ふぅ~…」
多数の地球連邦量産型多用途アンドロイド…通称、イリスシリーズと呼ばれる多数のアンドロイドから報告を受けた星野ルリ艦長はため息をついた。
今回、彼女が指揮を執っている『マーズ』には試験的に大量のアンドロイドが乗員兼作業員として配置されていると、事前に説明は受けていたが、それでも艦橋要員の四割、乗員全体でも六割強がアンドロイドというのはいささかやりすぎではないか?と頭を抱えていた。
「ふぅ~…確かに事前に話は聞いてはいましたけど、我が軍の上層部は馬鹿ばっかなんですかね?」
『まぁまぁ、艦長。愚痴っていても仕方ないですよ』
そうルリに無線で話すのは、マーズの艦載機でもあるパブリク大型ミサイル艇の艇長であるルミである。
彼女は他の艇の艇長であるメグミやアズミと共にバミューダ三姉妹と呼ばれており、卓越した操舵技術と度胸で三位一体のスピーディな動きで敵に接近し、敵に三機のパブリク艇…合計六発の大型対艦ミサイルを叩き込む戦法を得意としている。
そんなルミも現在はマーズから発艦した多数のコスモハウンドの護衛をかねてパブリクにて周辺宙域をパトロールしている。
「ルミ‥そうは言いますがね?艦内にいる人員がほとんど同じ姿のアンドロイド兵が過半と言うのは中々来るものがありますよ?」
『いや、それはこっちも同じですよ?副艇長や通信長はともかく、艇内の雑務はアンドロイドがやっていますからね?』
どうも、アンドロイドの実戦投入は現場の兵士たちからは賛否両論のようだ。
アンドロイド兵の存在は連邦軍内では地球・ガミラス戦争時のガミラスのガミロイド兵の存在から知られていたが、連邦では宇宙戦艦ヤマトのアナライザータイプが一般的だったのだ。
その為、人間に近いイリスシリーズは中々違和感があるのだ。
おまけに、表情を現すことが出来る顔も人間に近い物になっているが、データ不足が祟って基本的に無表情なことが多いのだ。
一般の隊員達からしたら余計に休まる機会がないのだ。
顔も同じなので、判断がつきにくいと言うのもある。
しかし、人材不足の解消という面があるのも事実だった。
さて、視点を少し移そう。
晴風型重雷装駆逐艦 晴風
「沖風、天津風、時津風。三隻ともに問題なくついてきています」
「周辺に異常は見受けられません」
「そっか!よかった!」
艦長の岬明乃は艦橋要員達からの報告にほっとしていた。
なんせ、晴風型の四隻は以前の時空管理局次元航行艦との戦闘の際に時津風が中破してから、時津風を筆頭に晴風型の四隻は修理を兼ねた長期の改修を行っていたために、今回の次元世界探査艦隊に編入されるまでまともな訓練をできなかったのだ。
その為、現時点で問題がないことに明乃は安堵していたわけだ。
「しかし、艦長」
「ん?どうしたの?シロちゃん」
「なんで両舷の予備艦橋まで撤去されたんですかね?」
副長兼航海長の宗谷ましろは明乃に両舷の予備艦橋が撤去された理由を聞く。
元々、晴風型は原型の一つとなったレパント級ミサイルフリゲートが有していた両舷の予備艦橋を装備していたのだが‥‥
時津風の修理の際に艦底部の放熱フィンの機能撤去を行ったのだが、その際に航続距離の改善や艦内の居住区の確保、高速性の確保の為に艦形状の改良を行うことが司令部から唐突に通告された結果。
徹底的な改修が決定し、艦首の延長、波動エンジンを次元波動エンジンに換装、放熱フィンの機能のみ撤廃、そして両舷の予備艦橋の撤去と、艦内の両舷側に観測室を設置することとなったのだ。
そのせいで左舷予備艦橋の観測担当だった山下秀子と右舷予備艦橋の観測担当だった内田まゆみから「個室」が無くなった!とクレームが来ていたのだ。
「まぁ、実質個室状態だっただけで、あそこは別に彼女たちの個室ではないわけですが‥‥」
「あはは…まぁ、高速性が改善された結果、両舷の予備艦橋が邪魔になって高速航行の障害になっているって設計部門から苦情が来ていたしね‥‥」
そう。束が重雷装駆逐艦構想を提言した際に秋月型空間突撃駆逐艦とレパント級ミサイルフリゲートを合わせた物が設計部門で設計されたのだが、そのせいで航続距離や高速性が犠牲となっていたのだ。
その為、余裕が出来たタイミングで設計の修正を予定されていたので、これ幸いと設計の修正と改装を行ったわけだ。
「そうですね。実際、正面からの被弾の可能性が高いので撤去を以前から要請されていましたから…」
「時々、操艦の時に小惑星にぶつけていたもんね・・・・」
明乃はましろと愚痴り合いつつも、小惑星帯の警戒を続けていた。
さて、その頃、太陽系ではかなり面倒な事態が発生していた。
『こちらは地球連邦、地球防衛軍冥王星基地第五警邏艦隊!!貴艦隊は地球連邦の領海を侵犯している!!直ちに停船し、所属を明らかにせよ!!』
オールトの雲の近くの宙域にて、地球防衛軍の警邏艦隊、編成は
・アルフェナッツ級防空巡洋艦×一
・パシフィック級軽装甲巡洋艦×二
・プランツ級護衛艦×四
となっており、この艦隊は普段通りに任務をこなしていたが、今回は訳が違った。
ボラー連邦の艦隊と思われる艦隊が領海を侵犯しつつも、領海と領海の外の境界線を航行してきており、警告もほぼ無視されているのだ。
相手は‥‥
・ガノンダ型航宙母艦×一
・バックスロット級戦闘空母×二
・新型クロトガ型戦艦×八
・アマンガ型ミサイル戦艦×六
・パトゥーリア型巡洋艦×四
・ベレチューシャ型火力投射艦×二
というかなりの大艦隊だ。
第五警邏艦隊では艦隊戦を挑んでも勝ち目が無いし、そもそもこっちから撃ったら開戦の理由にされてしまう。
おまけにここのところ、これと同規模のボラー連邦と思われる艦隊による領海侵犯が多発しており、地球側も結構疲弊してきているのだが、それでも領海侵犯を見逃すわけにはいかず、警邏艦隊が警告しつつも監視を継続するしかないのだ。
これはボラー連邦が地球とガルマン・ガミラスの外交交渉を察知して圧力をかけてきているのではないかとの意見もあり、地球連邦政府はガルマン・ガミラスとの外交関係の構築を行うべきとの意見が多くなっており、外交関係の構築の為にヤマトをガルマン・ガミラスの本星に向かわせるべきではないか?との意見も出始めたのだった。
第五警邏艦隊旗艦、アルフェナッツ級防空巡洋艦の艦橋には、胃がキリキリと痛むような重苦しい緊張感が漂っていた。
「艦長! ボラー艦隊のベレチューシャ型火力投射艦二隻、主砲にエネルギー充填の兆候を確認! 砲口をこちらに指向してきます!」
レーダー手の悲鳴のような報告に、艦長は奥歯を強く噛み締めた。
額からは冷や汗が滝のように流れ落ちている。
(撃ってくるか……!? いや、奴らの目的は威圧だ。ここで我々が先に手を出せば、それこそ奴らの思う壺だ……!)
「各艦、絶対に先制攻撃はするな! 防御シールド最大出力、フェイズド・アレイ・レーダーの出力を上げて牽制しろ!!だが、絶対にトリガーは引くなよ!」
艦長は通信機越しに、全艦へ向けて血を吐くような声で命令を下した。
もし、ここで一発でもビームが発射されれば、それを口実にボラー連邦の大艦隊が太陽系になだれ込んでくる。
今の地球の戦力では、この大艦隊をまともに迎え撃つことなど到底不可能なのだ。
モニターの向こう側で、巨大なクロトガ型戦艦が、まるでこちらの怯えを楽しむかのように、領海ラインの境界を舐めるようにゆっくりと旋回していく。
「……ボラー艦隊、エネルギー反応低下。反転し、領海外縁部へ離脱していきます」
「……っ、助かったか?」
艦長は大きく息を吐き出し、指揮官席に深く沈み込んだ。
だが、安堵の時間は短い。
このようなギリギリの挑発行為が、この数週間で何度も繰り返されているのだ。
現場の兵士たちの疲労とストレスは既に限界に達しつつあった。
地球・防衛軍 司令部
その頃、地球の防衛軍司令部では、重苦しい会議が開かれていた。
巨大なメインスクリーンには、第五警邏艦隊が撮影したボラー連邦軍の大艦隊の映像が映し出されている。
「ボラーの奴ら、完全に我々を試していますな」
防衛軍幹部の一人が、忌々しそうにテーブルを叩いた。
「地球がガルマン・ガミラスと水面下で接触を図っていることを、既に察知していると見て間違いないでしょう。彼らにとって、地球とガルマン・ガミラスの同盟結成は何としても阻止したいはずです」
藤堂平九郎長官は、腕を組みながらじっとスクリーンを見つめていた。
その表情は険しい。
(このままでは、いずれ偶発的な戦闘が起きる。いや、ボラーが意図的に仕掛けてくる日も近いだろう。今の地球には、ボラーと全面戦争を行うだけの余力はない……)
藤堂は静かに目を閉じ、そして力強く目を見開いた。
「もはや、一刻の猶予もない。ガルマン・ガミラスとの正式な国交樹立、および安全保障条約の締結を急ぐ必要がある」
「では、長官……!」
「うむ。ヤマトの出港準備を急がせよ。古代艦長には、ガルマン・ガミラス本星へと向かい、デスラー総統へ直接親書を届けてもらう。これは我々地球の未来を懸けた、極秘にして最重要の外交任務となる」
司令部の空気が一段と張り詰めた。
ヤマトをガルマン・ガミラスへ送り出すということは、地球が正式に星間政治の荒波に打って出ることを意味していた。
ボラー連邦の威嚇行動は逆に地球とガルマン・ガミラスとの同盟を早める結果となった。
ハキノタ星系 ・ 第一次次元世界探査艦隊
太陽系での危機的状況から遠く離れたハキノタ星系。
ジュピター級超大型調査採掘艦『マーズ』の艦橋で、星野ルリは手元のコンソールに送られてきた地球からの暗号化された最新情報に目を通していた。
「……なるほど。ボラー連邦の度重なる領海侵犯に、ヤマトのガルマン・ガミラス派遣決定ですか‥‥」
無表情のままディスプレイを見つめるルリの瞳に、微かな憂いのようなものがよぎる。
(だから、私たち探査艦隊に、この無人星系での「未知の鉱物資源」の採掘と調査をこれほど急がせているわけですね。来るべきボラーとの戦いに備えて、少しでも多くのエネルギー資源と新素材を確保するために……ふぅ~、本当に大人の都合ってやつは……)
「ホント、バカばっか」
ルリの口から、小さく、しかしはっきりとした呟きが漏れた。
周囲で作業をしているイリスシリーズのアンドロイドたちは、その言葉に反応することなく黙々とコンソールを叩き続けている。
「……艦長? 今、何か言いました?」
通信機から、パブリク艇で哨戒中のルミの声が聞こえた。
「いえ、独り言です」
ルリは小さくため息をつき、居住まいを正した。
「全艦、および哨戒中の全機へ通達。地球圏の状況が芳しくありません。上層部より、本星系における資源採掘のスケジュール前倒しが命令されました。これより、本艦隊は警戒レベルを一段階引き上げつつ、採掘作業のピッチを上げます」
『了解しました、艦長。こっちも気合入れてパトロールしますよ!』
通信を切り、ルリは続けて別回線を開いた。
「マーズより、晴風型各艦へ。通信聞こえますか?」
『はい! こちら晴風、岬です!』
モニターに、元気のいい岬明乃の顔が映し出された。
その後ろでは、宗谷ましろが真剣な表情で控えている。
「本星系における我々の任務の重要度が上がりました。小惑星帯での作業中、不測の事態に備えて、晴風型四隻はマーズおよび作業艇の直掩防衛ラインを縮小し、より密度の高い警戒網を敷いてください。未知の星系です、何が潜んでいるかわかりません」
『了解! 晴風型四隻、防衛ラインを再構築します。……みんな、聞いた通りだよ! シロちゃん、各艦にデータリンクの再設定お願い!』
『ええ、わかっているわ。航海長、面舵微速。マーズの右舷側へ展開。沖風、天津風、時津風にも指定ポイントへの移動を指示して』
モニター越しにテキパキと指示を出す明乃とましろの姿を見て、ルリは少しだけ口角を上げた。
(アンドロイドの無機質な報告ばかり聞いているよりは、彼女たちの賑やかなやり取りの方が、少しは安心できますね)
「……さて、私たちも与えられた仕事をこなしますか」
未知の鉱物資源が眠るハキノタ星系。
その静寂の宇宙で、地球の運命を左右するかもしれない資源確保の任務が、静かに、しかし確実に加速していった。
此処で視点はラボラトリー・アクエリアスが先日調査をしていたエラトラ星系に移る。
時空管理局が指定する自然保護世界、エラトラ星系。
その静寂に包まれた宙域に、突如として空間の波紋が広がり、一隻の流線型の美しい艦艇が姿を現した。
時空管理局・本局に所属する、XV級次元航行艦『クラウディア』である。
時空管理局 XV級次元航行艦『クラウディア』 艦橋
「本艦は、エラトラ星系への次元跳躍を完了。これより通常航行へと移行し、周辺宙域の観測態勢に入ります」
オペレーターの落ち着いた報告が響く艦橋で、艦長席に座る黒装束の青年――クロノ・ハラオウン提督は、静かに頷いた。
「うん‥‥センサーの感度を最大に設定。光学、魔力探知、および次元断層の走査を並行して開始してくれ」
「はっ!」
指示を出し終えたクロノは、メインスクリーンに映し出される緑豊かな惑星へと視線を向けた。
あそこが、先日問題となった「密猟事件」の舞台である。
(一部の局員が、私欲のために保護世界の幻獣を密猟か‥‥)
クロノは内心で冷たく吐き捨てた。
母であるリンディ・ハラオウンからの報告書を読んだ時、彼もまた強い怒りを覚えた。
次元世界の平和と秩序を守護するべき時空管理局の人間が、あろうことか自分たちが決めた法を堂々と犯し、貴重な生き物を傷つけたのだ。
現在、関与した局員たちは全員が懲戒免職となり、特別査問委員会で厳しい追及を受けていると聞く。
懲役刑は免れないだろう。
(管理局の理念を泥で汚したんだ。当然の報い……完全に自業自得だな。同情の余地もない)
クロノの瞳に迷いや憐憫はない。
己の立場と力を履き違えた者たちへ下された厳しい処分は、当然の結果だと断じていた。
「ハラオウン提督。周辺宙域および、該当の惑星地表の一次スキャンが完了しました」
副官の声に、クロノは思考を切り替えてモニターのデータへと向き直った。
「ご苦労。それで……ハラオウン統括官が気にしていた『謎の現象』の痕跡は何か見つかったか?」
今回、クロノがクラウディアを駆ってこのエラトラ星系へと派遣された最大の理由は、密猟事件の事後処理ではない。
逃げ場を失っていたはずの幻獣たちを覆い隠し、忽然と姿を消させた「耳を劈くような轟音と凄まじい突風」――その正体を調査するためであった。
「それが……非常に奇妙な結果が出ています。該当座標の気象データや魔力残滓を解析したのですが、高度な転移魔法や隠蔽結界が使用された痕跡は『一切』検出されませんでした」
「一切、だと? では、ただの局地的な自然現象だったとでも言うのか?」
「いえ、そうではありません。魔力的な痕跡はないのですが……その代わり、空間そのものに『物理的な大質量の移動』と『未知の推進機関による熱源反応』の微かな名残が検出されたんです」
副官の報告に、クロノの表情が険しくなる。
「未知の推進機関……?」
「はい。魔力を動力源とする我々の次元航行艦とは、根本的に異なるエネルギーの波長です。ごく僅かですが、次元の境界面を強引に削り取ったような、奇妙な空間の歪み(次元断層)が残されています」
クロノは顎に手を当て、鋭い視線でスクリーン上の解析データを睨みつけた。
(魔力を使わず、これほどの空間の歪みを生み出すほどの巨大な「何か」が、あの時エラトラ星系にいた……?)
リンディの感じていた「胸騒ぎ」は的中していた。
幻獣たちは自然現象で消えたわけでも、自らの魔法で逃げたわけでもない。
管理局の探知網を完全にすり抜ける未知のテクノロジーを持った『第三者』が介入し、幻獣たちを連れ去った(あるいは保護した)のだ。
「……厄介なことになったな。この次元宇宙に、我々管理局が全く把握していない、それも次元航行能力を有する未知の勢力が存在しているということか」
クロノの呟きに、艦橋にいるクルーたちも息を呑んだ。
「艦長、いかがなさいますか?」
「引き続き、周辺の空間に残された未知のエネルギー波長の追跡を試みてくれ。どんな些細なデータでも構わない。本局のデータベースと照合し、この『第三者』がどこへ向かったのか、その痕跡を辿るんだ」
「了解しました。空間軌跡のトラッキングを開始します」
(魔力を持たない未知の艦隊……彼らの目的が何であれ、これほどの力を持つ存在を放置しておくわけにはいかない)
時空管理局の若き提督は、『地球防衛軍・第一次次元世界探査艦隊』の影を追い、静かに追跡の牙を研ぎ澄ましていた。
次回 特務六課始動