さて、ボラーと地球の不安定化や地球連邦防衛宇宙海軍の第一次次元世界探査艦隊の痕跡をクロノが掴んだ頃、時空管理局本局では新たな部隊が創設されていた。
「いやはや…まさか私がまた部隊の指揮官になるとはなぁ~」
その部隊の指揮官となった八神はやては廊下でリィンフォースⅡ(ツヴァイ)と共に歩きながらそう愚痴っていた。
部隊名は特務六課。
旧機動六課のメンバーを中心としつつも、元ナンバーズのウェンディ、チンク、ディエチも参加している。
この部隊が創設された理由としては、エルトリアとの紛争以前から多発し、休戦が成った現在でも各地で被害件数が拡大しているエクリプスウイルスやフッケバインという犯罪者集団を筆頭とするエクリプスウイルス感染者による犯罪が拡大していることがあげられる。
エルトリアとの紛争前はそこまで問題視されていなかったが、エルトリアとの紛争後に再度確認を行ったところ、多数の世界で被害が発生していることが判明。
これに対し、時空管理局の“陸”は遊撃的かつ特権的に捜査できる部隊を要望。
“海”や“空”はエルトリアとの紛争の際に受けた大損害の復旧がまだ出来ていないために難色を示したが、三提督からの要望もあり、旧機動六課のメンバーを中心に再編成した部隊を創設することになったのだ。
その為、指揮官に任命されたはやてはかつての仲間たちを中心に各地の所属部隊からの移動を要請。
一部ではまだ現地の部隊の引き留めに合っている手こずっているが、なんとかなのはやフェイト、ヴォルケンリッターのメンバーといった主要メンバーの集合は完了していた。
「でもでも、新型艦も支給されるなんて本局も今回はやる気ですね!」
「せやけどな、リイン。それだけ今回の事件は厄介っちゅうことや」
そう。最新鋭の魔導理論やエルトリアとの紛争による戦訓を経て建造された最新鋭の次元航行艦、『アースラⅡ』も特務六課の専用艦として支給されるレベルなのだ。
・アースラⅡ
本局がこの事態をどれほど重く受け止めているかがよくわかる。
このエクリプスウイルス‥‥感染した者には破壊衝動の誘発や身体の肉体改造によって強靭な肉体を得る‥そして適合しない者には高すぎる致死率を発揮すると言うのが判明している。
用はBC兵器…生物・化学兵器に匹敵する代物なのだ。
地球側からしてもこんなウイルスの存在を知れば、即座に調査や原因を操作するので今回の管理局の動きは正しいと言えるだろう。
また、はやては無論、管理局上層部も知らないことであったが、エルトリアの勢力圏下においてもこのエクリプスウイルスの被害が発生しており、エルトリア共和国政府も国家防衛隊宇宙軍や国家防衛隊陸軍を動員してウイルス散布が確認された星の軌道封鎖や現地の隔離処置を行っているのだが、中々上手くいっておらず、
おまけに感染経路が不明な為、管理局もエルトリア共和国も双方共に頭を抱えているのだが、とある事実は判明している。
何者かが現地を襲撃、もしくは現地の調査の過程で謎の違法研究施設の存在が判明したことだ。
エルトリア共和国側は即座に生存者や感染せずに生き残った住民の情報にあった襲撃者の持ち物、黒い本と奇妙な形の銃の保持者を最重要指名手配犯に指定。
時空管理局にも休戦中とはいえ、この事態は次元世界全ての危険と判断し、エルトリア共和国から情報共有があった為、時空管理局側も把握していたことを共有し、紛争後、初の共同対応という形になった。
「まっ、なのはちゃん達と捜査を進めないとな?そういえばスバルの友人のトーマ君についてうちはまだ知らへんな?調査の時に暇があったら聞いてみるか?」
「はいなのです!」
リィンは返事をし、はやてと共にこれらか発足する特務六課の稼働準備を行うのだった。
港湾特別救助隊 防災拠点本部
特務六課の発足に向けた準備が急ピッチで進められる中、ポートフロントの港湾特別救助隊本部の控室では、一人の少女がデスクの上に置かれた一通の書面を見つめていた。
救助隊制服に身を包んだスバル・ナカジマである。
「特務六課か‥‥」
ポツリと呟いたスバルの指先が、本局からの出向要請書――事実上の召集令状をそっとなぞる。
港湾特別救助隊のレスキューレンジャーとして目の前の命を救う毎日は、非常にやりがいのあるものだった。
しかし、エクリプスウイルスの脅威が広がる今、はやてからの呼び出しに応じることに迷いはなかった。
書類を見つめるスバルの脳裏に、ふと懐かしい記憶が蘇る。
(あの頃……機動六課にいた時は、ずっとティアと一緒に走っていたな……)
訓練校を卒業してから、ずっと隣にいた最高の相棒、ティアナ・ランスター。
もしもティアナが「もう一つの地球」に残る選択をしていなければ、きっと彼女の元にもこの令状が届き、再び二人で「スターズ分隊」のコンビを組んでいたのだろう。
しかし、ティアナはもうこのミッドチルダにはいない。
そして……自分の自慢の姉であるギンガ・ナカジマもまた、ここにはいなかった。
(あの時は、本当にギン姉が死んじゃったと思って……世界が真っ暗になったっけ……)
かつて機動六課が発足する前、ギンガは管理局の“海”との合同事件の捜査中、突如発生した大規模な次元震に巻き込まれた。
どれほど捜索を行っても痕跡すら見つからず、最終的に管理局から出された判定は「殉職」だった。
絶望の淵に突き落とされたナカジマ家だったが、奇跡は思いもよらぬ形で訪れた。
ギンガは死んでいなかったのだ。
彼女は次元震の衝撃で、当時管理局すら存在を認識していなかった「もう一つの地球」へと次元漂流していた。
そこで「月村束」という名の人物に命を救われ、そのままその世界の軍隊へと入隊していたのである。
その真実を最初に知ったのは、後に同じくその地球へと次元漂流してしまったフェイトやティアナたちだった。
さまざまな困難と紆余曲折を経て、フェイトたちはミッドチルダへの帰還を果たしたが、ティアナをはじめとする一部の者はもう一つの地球に残る道を選んだ。
そしてミッドチルダへ戻ってきたフェイトは、時間を見つけるとすぐに、ミッドチルダ西部にあるナカジマ家を訪れたのだった。
「――ナカジマ三佐、スバル。大事なお話があります。絶対に、他の方には口外しないでください……」
真剣な表情のフェイトから手渡されたのは、一通の手紙と何枚かの写真。
そこには、ミッドチルダのそれとは異なるデザインの軍服を身に纏い、凛とした表情で、けれどどこか優しくカメラに向かって微笑むギンガの姿が写っていた。
「ギン姉が……生きている……!?」
「ギンガ……っ!」
死んだと諦めていた愛娘、そして大好きな姉の生存。
しかも異世界の軍人になっているという二重の衝撃に、父であるゲンヤもスバルも言葉を失い、ただただ激しく驚愕した。
だが、その衝撃が引いた後に胸を満たしたのは、溢れ出すほどの温かな感謝と安堵の涙だった。
その後、フェイトはゲンヤとスバルからもう一つの地球に居るギンガについて質問攻めされたが、一番の疑問は『どうしてギンガはミッドチルダに戻る選択をしなかったのか?』である。
フェイトはその点についてもギンガから聞いており、
「ギンガは私たちよりも先にあの世界に次元漂流して、向こうでの生活をし、更にはあの世界の軍隊に入隊しました‥‥そんな彼女がミッドチルダに戻ってきた時、管理局は彼女の存在を無視できますか?」
フェイトのその問いにゲンヤは納得がいった。
「確かに管理局‥特に”海“の連中が知れば黙っている訳がないな‥‥」
「えっ?どういう事?」
スバルはいまいち理解できていない様子だ。
「もう一つの地球の技術は管理局にとって喉から手が出る程、欲しい筈だ。だがもう一つの地球が何処に有るのか分からない、ギンガはその情報を知っている。いや、もう一つの地球の軍人なら軍事機密さえも知っている‥‥ギンガに拷問をしてでも情報を吐かせるだろうさ」
「そんなっ!?管理局がそんな事をする筈が‥‥」
スバルはゲンヤの予測を否定するが、
「ギンガもその点を危惧してミッドへの帰還を諦めました。『自分はこの世界に長く居すぎました。自分が戻れば三佐やスバルの身にも危険が及ぶかもしれない』って言って‥‥」
「そうか‥‥」
「‥‥」
ギンガはミッドチルダに戻りたくても戻れない理由があった。
その理由をゲンヤもスバルも理解した。
(ギン姉もティアも……遠く離れた別の空の下で、自分の信じた道を全力で生きているんだ)
写真は今でも、スバルの部屋の机の一番大切な場所に飾ってある。
離れ離れになってしまったけれど、彼女たちが生きているという事実は、スバルにとって何よりの勇気の源だった。
「ふぅ~……よしっ!」
スバルは両手で自分の頬をポンと叩き、気合いを入れるように立ち上がった。
デスクの上の召集令状を丁寧に折りたたみ、胸のポケットへと仕舞い込む。 胸の奥で、相棒のデバイス、マッハ・キャリバーが力強く共鳴するように小さく光を放った。
「みんながそれぞれの場所で頑張っているんだもん。私も負けていられないよね! 待っていてね、はやて隊長、なのはさん!」
かつての相棒と姉への想いを力に変えて、スバル・ナカジマは新たな戦場となる「特務六課」へ向けて、迷いのない一歩を踏み出すのだった。
さて、視点を第一次次元世界探査艦隊側に移そう。
資源惑星系での調査もひと段落し、各艦が集結していた頃。
ラボラトリー・アクエリアス 艦内展望室
「う~ん‥‥」
「ど、どうしたの?星奈ちゃん?」
星奈が展望室にて次元世界探査艦隊のとある艦艇をじっと眺めているのを見て、リンネが理由を聞いたら‥‥
「いえ、あの新型戦艦…なんというか、以前に見たことがあるアリゾナという艦やヤマトの面影があるように思えまして…」
星奈がそう指摘する船とは、長門型次期主力戦艦である。
この艦は設計段階の際にアリゾナ級護衛戦艦やアンドロメダ級戦艦、宇宙戦艦ヤマトといった名だたる艦の設計思想や構造、特徴を取り入れつつ、ドレッドノート級主力戦艦のような量産性を目指した艦だ。
その上、北米管区の設計陣が主導していたこともあり、アリゾナ級の面影が強くなったわけだ。
「これまでの防衛軍の主力艦艇とは違って防空兵装がたくさんあることは安心できますが、デカすぎるのではないかと思ってしまいます」
「装甲が厚いってことの裏返しじゃないの?」
リンネの意見に星奈は
「いえ、束姉さんから航続距離の拡大を狙って今後の防衛軍の艦艇は大型化するとは聞いていましたが、流石にデカいのではないかと思うのですよ。大きすぎる船は戦闘の際に被弾面積が大きくなりますから…」
「う~ん。私があの星で自然の中で暮らしていた時も大きな生物は威圧感があって私たちは結構怖く感じたから威圧感を狙っているんじゃない?」
リンネにそう返答する星奈に対し、星彩は自然界で暮らしていた時に感じたことを話す。
軍艦には威圧感による敵の戦意を削ぐことも大切な役割がある。
その観点からすれば、艦の大型化も決して悪いことではないのだ。
まぁ、防衛軍ではこの規模の大きさの戦艦はマゼラン級かアンドロメダ級くらいなので、操舵担当の航海長たちが四苦八苦しているようで、少しワタワタしているように見えるので、星奈やリンネ、愛里寿、星彩も少し不安に思ったのは言うまでもない。
「なるほどー! 相手を怖がらせて、戦わずに逃げてくれたらそれが一番安全だもんね!」
星彩の自然界ならではの素直な意見に、リンネがポンと手を打って感心する。
「うん……星彩ちゃんの言う通り、存在感(プレゼンス)で相手を牽制するのは戦術的にも重要なことだから」
腕の中で気持ちよさそうに丸まっているヴォイテクの背中を優しく撫でながら、愛里寿が静かに頷いた。
「それに、あの大きさなら長期間の航海に必要な物資や、強力なシールド発生器もたくさん積めるはずだよ。車体が大きければ被弾しやすくなるのは戦車も同じだけど、その分、装甲を厚くして防御力を高められるから」
「キュウッ」
愛里寿の落ち着いた解説に同意するように、ヴォイテクが小さく鳴いた。
「確かに、ギンガ姉さんも『これからの探査は長丁場になるから居住性と積載量が大事』って言っていました。防御力が高いなら安心ですね。……でも」
星奈は腕組みをして、窓の外に浮かぶ巨大な艦影をじっと見つめた。
長門型次期主力戦艦の周囲では、姿勢制御用のサブスラスターがプシュッ、プシュッと不規則に火を噴いている。
巨大な船体を指定された宙域の定位置につけようとしているのだろうが、少し進みすぎては慌てて逆噴射し、右へ左へと微妙にフラフラと揺れていた。
「あんなにワタワタと細かく動いている様子を見ると、威圧感というより……なんだかちょっと心配になってしまいますね」
星奈が苦笑いを浮かべると、リンネも窓ガラスにおでこをくっつけて笑い声を上げた。
「あはは、本当だ! ちょっとお尻が下がっているよ。航海長さん、頑張れー!」
「おー! おっきな船、がんばれー!」
リンネにつられて、星彩も小さな両手を振り回して元気いっぱいに声援を送る。
その無邪気な様子を見て、愛里寿の口元にも自然と柔らかな微笑みが浮かんだ。
「艦が新しすぎて、操舵手の人たちもまだあの巨大な質量のクセを掴みきれていないのかもね。でも、優秀な防衛軍のクルーたちなら、きっとすぐに慣れると思う」
「そうですね。私たちも、この『ラボラトリー・アクエリアス』での生活に少しずつ慣れてきたところですし」
星奈は、宙を舞う星彩と、愛里寿に抱かれているヴォイテクを愛おしそうに見つめた。
思いがけない密航から始まり、未知の世界での事件を経て、かけがえのないパートナーと出会った。
外の巨大な戦艦を操る大人たちも、彼女たち自身も、今はまだ手探りでこの未知の宇宙という新しい環境に適応しようとしている最中なのだ。
「さあ、あっちの船の応援はそれくらいにして、私たちもお茶にしませんか? ティアナさんが、食堂で新作のケーキをご馳走してくれるって言っていましたよ!」
星奈が提案すると、リンネと星彩の目がパァッと輝いた。
「わぁっ! 行く行く!」
「けーき! けーき、食べる!」
「ヴォイテクにも、美味しい果物があるかもしれないね。行こうか?」
愛里寿が立ち上がると、ヴォイテクも嬉しそうに尻尾を振った。
窓の外では、ようやく長門型戦艦がフラつきを収め、堂々たる威容を宇宙空間に安定させていた。
艦隊の陣形が整い、次なる未知の宙域へ向けての準備が着々と進んでいく。
頼もしい最新鋭の艦隊と、新たに家族となった小さな幻獣たち。
少女たちの賑やかで温かい探査の旅は、まだ始まったばかりである。
次元航行艦 クラウディア
次元の波を縫うように進む次元航行艦、クラウディアのブリッジで、クロノ・ハラオウンは手元のコンソールに表示され続けるデータから目を離せずにいた。
「対象の次元航跡、依然として追尾中。しかし……時折、センサーから完全にロストしそうになります。相手の航行システムが、我々の次元跳躍技術とは全く異なる位相空間を利用しているようです」
オペレーターの緊張を孕んだ報告にクロノは静かに指示を飛ばす。
「絶対に見失うな。魔力探知だけに頼るんじゃない。物理的な重力波の痕跡と、空間の歪みそのものをトレースして食らいつけ」
「了解!」
(それにしても……不可解だ)
クロノは腕を組み、メインスクリーンに流れる次元空間の光の帯を見つめながら思考を巡らせた。
解析が進むにつれ、追跡している「未知の艦隊」の異常さが浮き彫りになっていく。
魔法を一切使用していないにも関わらず、これほどの規模の質量群を安定して次元間移動させる技術力。
(これほどの戦力……もし彼らに侵略の意図があれば、エルトリアとの紛争以上の脅威になり得る。だが、彼らはエラトラ星系で密猟者を退け、結果的に幻獣を保護するような動きを見せた。軍事目的ではなく、純粋な『探査』や『調査』が目的なのか?)
現在、時空管理局はエルトリアとの外交問題の他にエクリプスウイルスやフッケバインといった犯罪者集団の暗躍により、かつてない不安定な状況下にある。
そのため、本局でははやてを部隊長とする『特務六課』が急遽発足し、事態の収拾に動こうとしている矢先だった。
(この絶妙なタイミングで現れた規格外の未知の勢力。単なる偶然か、それとも……この一連の混乱と何らかの繋がりがあるのか?)
分からないことだらけだった。
だからこそ、接触して見極める必要がある。
敵か?
味方か?
あるいは全く別の理念で動く者たちなのかを‥‥
「提督、間もなく対象が通常空間へディファクトしたポイントへ到達します!」
オペレーターの声が一段と高くなった。
「よし、総員対ショック防御! ディファクト直後、全センサーを最大出力へ回せ。相手の姿を捉えるぞ!」
「はっ!」
クロノの鋭い号令と共に、管理局の艦は未知なる巨大艦隊の背中を掴むべく、次元の波の出口へと突入していった。
太陽系 地球 海鳴市 月村邸
夜空に無数の星が瞬く、太陽系の地球。
その極東、日本の海鳴市にひっそりと、しかし広大な敷地を構える月村邸。
その中庭では、鋭い風切り音が何度も響いていた。
「……シッ!」
竹刀を力強く振るうのは、長いポニーテールを揺らす少女、月村箒だった。
彼女は額に汗を浮かべながら、無心になろうと一心不乱に素振りを繰り返していた。
だが、その太刀筋にはどこか迷いがあり、普段の彼女が持つ研ぎ澄まされた鋭さは鳴りを潜めている。
「箒姉、少し休んだらどう? そんなに根を詰めても仕方ないよ」
声をかけたのは、スポーツドリンクのボトルを手にした妹の昴だった。
箒は竹刀をゆっくりと下ろすと、大きく息を吐き出して肩を落とした。
「……昴。すまない、少し頭を冷やそうと思ったんだが……どうにも雑念が消えなくてな」
「無理もないよ。星姉たちのことを考えていたんでしょう?」
昴が手渡したボトルを受け取りながら、箒は重いため息をついた。
「愛里寿、リンネ、それに星奈……まさか、あの子たちが『第一次次元世界探査艦隊』の総旗艦に密航してしまうなんて……っ」
事の発端は、出航前のちょっとしたアクシデントだった。
第一次次元世界探査艦隊が出発する際の式典の直前、三人がかくれんぼの最中に誤って探査艦隊用の物資コンテナの中に閉じ込められてしまい、そのまま総旗艦『ラボラトリー・アクエリアス』に積み込まれてしまったのだ。
艦隊が地球を出発し、次元跳躍を終えてからその事実が判明した時には、既に地球へ引き返すことはできない状況だった。
「星奈たちはまだ子供だ。未知の次元世界には、どんな危険が潜んでいるか分からないというのに……私がもう少し注意して見ていれば、こんなことにはならなかったはずだ」
自責の念に駆られ、竹刀を握る手にギュッと力を込める箒。
そんな姉の背中を、昴は優しくポンと叩いた。
「箒姉が自分を責めることはないよ。あのアクシデントは誰にも予測できなかった。それに、あの子たちだってただ守られるだけの弱い子じゃない。星姉もリンネも、そして愛里寿だって、いざという時はすごく芯が強くてしっかりしている」
「それは……そうだが……」
「それにね」と、昴は夜空を見上げる。
「あの艦には、歴戦の藤堂艦長やギン姉、ティアナさんたちもいるんだよ。防衛軍が総力を挙げて建造した最新鋭の船と、最高のクルーたちが揃っている。星姉たちの生命の安全は、絶対に守ってくれるはずだよ」
「……そうだな。ギンガさんたちが一緒にいれば、三人を危険な目に遭わせるようなことは絶対にない」
妹の真っ直ぐな言葉に、箒も窓の外、宇宙へと続く暗い空を見上げた。
「束姉さんも、『大丈夫、大丈夫!あの艦が簡単に沈むわけないし、三人にとっては良い宇宙旅行になるよ!』なんて笑っていたが……あの人は少し楽観的すぎる」
箒が呆れたように言うと、昴もクスッと笑った。
「束姉さんらしいね。でも、その言葉には絶対の根拠がある。私たちにできるのは、あの子たちが無事に、そして元気に帰ってくるのを信じて待つことだよ。もしかしたら、向こうでとんでもない大冒険をして、新しい友達なんかを作っているかもしれないしね」
昴の冗談めかした慰めに、姉である箒の張り詰めていた表情がようやく少しだけ和らいだ。
ただ、昴が言った冗談は冗談で無かった事を彼女たちが後々に知る事になる。
(どうか無事でいてくれ……愛里寿、リンネ、星奈……)
果てしなく遠い次元の彼方へ旅立ってしまった三人の少女たち。
彼女たちが今、小さな幻獣たちと出会い、新たな「家族」としての絆を育んでいることなど、地球にいる箒たちには知る由もなかった。
しかし、距離がどれほど離れていようとも、彼女たちを案じ、帰りを待つ温かい想いは確かにそこにあった。
今はただ、夜空に輝く星に三人の無事と安全を祈りながら、彼女たちは再び自分たちの日常へと向き直るのだった。
次回 接触