負傷したはやてに代わり、特務六課の面々を乗せたクラウディアと共にフッケバインの拠点と思われる星系に到着した第一次次元世界探査艦隊。
星系に到着したものの、第93管理外世界の放棄された資源採掘宙域は不気味なほど静かであった。
「各艦、索敵部隊を展開!船外服の着用を忘れるな!」
藤堂の指示を受け、第一次次元世界探査艦隊各艦より、コスモシーガルやコスモハウンドが発艦。周辺宙域の捜索活動に移行した。
現時点では地球人に感染は確認されていないが、念には念をというわけだ。
おまけに帰還時には除染用のシャワーまで浴びて血液検査まで義務付ける徹底ぶりである。
各艦艇から飛び立つ哨戒機や大型機にクラウディアの面々は圧倒されるしかなかった。
クラウディア 艦橋
「すごいね…」
「うん…管理局と全然違う…」
その光景にクラウディアの艦橋に居たなのはとフェイトは圧倒された。
管理局はこれまで次元航行艦だけで探索をしていたが、地球側は艦載機を多用しての広範囲の索敵と捜索を実施して見せていた。
その範囲は非常に広大で、これまでの方法で探索をしていたら、一日はかかっていた範囲を数十分程度で捜索して見せたのだ。
フェイトは第二の地球にいた経験からある程度は納得していたが、なのはをはじめとする特務六課の過半の面々は今回の共同捜査が初めてだ。
圧倒されるのも無理はない。
「これが管理局と軍との違いなのだろうな‥‥」
クラウディアの艦長であるクロノがポツリと呟いた。
それから数時間後、フッケバインの拠点と思われる採掘地帯を発見した。
ラボラトリー・アクエリアス及びその他の艦艇から陸戦隊が編成され、調査艦マーズからも探査衛星が多数放出され、フッケバインが拠点として使用していたと思われる旧採掘拠点施設に突入を開始した。
旧採掘拠点
「前進!各個に援護可能な体制を維持しつつ進め!」
ゆかりの指示の下、各艦の陸戦隊は採掘拠点内を探索するがすぐに違和感を覚える。
「おい、ちょっと待て。生活痕跡はあるが、かなり昔の痕跡じゃないか?」
「そうですね…。確かに拠点にしていたか、一時的に生活していたようですが、既に放棄された場所の様です」
陸戦隊の調査の結果、施設内にフッケバインの構成員は居なかった。
特務六課の面々も防護服を借りて調査をしたが生活ゴミやよくわからない書類のゴミしかなかった。
「ふむ、これは我が艦で調べてみますね?」
「え?出来るんですか!?」
「当り前です。そもそもシュレッダーで裁断された書類の復元なんか地球では2000年代でも出来たんですから、かな~り時間が掛かりますけども‥‥」
実際、中東にて米軍がシュレッダーで処理した書類を現地の学生が一枚一枚つなぎ合わせて復元しているので、時間さえかければ誰でも出来るのだ。
「ところで、スバルさん?」
「え?なんですか?」
ゆかりがふと、スバルに聞いた。
「この社章は、次元世界のどこの会社のですか?」
それを指さしたゆかりの指先を見たスバルだが、
「え?これってヴァンデイン・コーポレーションじゃない?」
スバル曰く、ヴァンデイン・コーポレーションは第16管理世界『リベルタ』を中心に活動するデバイス企業だそうだ。
民間向けに警備装備や装甲防弾車等の製造・販売を行っており、武装端末の評価が高く「兵器メーカー」として管理世界では有名なのだと言う。
「え~。兵器メーカーがウイルス関係に関与の可能性ありって、ご定番過ぎない?」
「バイオなハザードなゲームみたいですね~」
「それは製薬企業でしょ」
「「「「「????」」」」」
陸戦隊の面々の会話に特務六課の面々は頭を傾げたが、重要な手掛かりが得られたのは間違いなかった。
さて、何故ここにフッケバインの面々が居なかったのかというと、そもそも彼女たちもここを拠点にはしていなかったのだ。
ここは、ヴァンデイン・コーポレーションの極秘所有施設であり、採掘拠点跡を流用し、エクリプスウイルスの研究をしていたのだ。
エクリプスウイルスの感染源にして、制御端末でもあるリアクターは人の手で生み出されており、複数あるリアクターの内、『シュトロゼッタ』シリーズはヴァンデイン・コーポレーションの第八企画室という部局が主導して製造し、責任を持っていた。
それらの研究成果や実験用の器材をこの宙域でテストしていたのだ。
これをフッケバインは数か月前に襲撃し、一時的な仮拠点として借りつつ、ヴァンデイン・コーポレーションについて調べていたのだ。
そして、つい先日第一次次元世界探査艦隊と特務六課の二勢力と遭遇したフッケバインの面々は艦には乗っていなかった女性構成員…というか傘下に入るという形で庇護を受けている占い師のソニカ・リーリャンの能力の占い…『情報窃視』(じょうほうメモリースティール)という能力を持って偶々接触していた管理局の高官から次元世界探査艦隊と特務六課がこの方面に探査に来るとすっぱ抜いていたフッケバインの面々は悠々と一部の証拠を残して姿をくらませたのだった。
ちなみに、このソニアという女性についてフォルティスは難ありな点は極端なマイペースと遅刻癖、そして途方もなくお金にがめついことと明言しており、アルナージは以前に彼女の施術を見ていたのだが、その際に見学料として身内特科で八十万円請求されたので、えらい損をしたと愚痴るほどであったのだ。
とはいえ、相手の体に接触することで掌に浮かぶ生体データと対象の記憶を読み取ることが出来る『情報窃視』(じょうほうメモリースティール)は掌への接触と情報を読み取る時間さえあればその人物からあらゆる情報を引き出せるので、彼女は普段表社会では『占い師』、裏社会では『かけがえのない尋問者』と呼ばれており、フッケバインにとっても情報・交渉戦の万能札ということだそうだ。
兎も角、このソニアという女性のおかげでフッケバインの面々は逃亡し、頭領のカレンの思い付きでヴァンデイン・コーポレーションについての資料を大量に残しておいたのだ。
これには魔導関係の技術や資料に疎い地球防衛軍の兵士たちには見向きもされなかったが、特務六課の面々の目には留まったのだった。
第93管理外世界・旧採掘拠点内
復元作業用のポータブル端末を操作しながら、ゆかりはホログラムに映し出された社章のデータを保存した。
「ヴァンデイン・コーポレーション……。時空管理局の管理世界に存在する民間企業が、裏でエクリプスウイルスの研究に関与していた、か?」
ゆかりの呟きに、隣に立つフェイトは眉をひそめ、真剣な眼差しで画面を見つめた。
「ヴァンデイン社は、主に警備用デバイスや防護装備を供給している大企業です。もし彼らが本当にウイルスの兵器化や研究に関わっているとしたら……管理局内部にも、それを手引きした人物がいるのかもしれません」
「政治的な匂いがプンプンするわね。どこの世界でも、兵器メーカーと官僚の蜜月ってのはお決まりのパターンか」
呆れたように息を吐くゆかり。その横で、防護服越しに首を傾げていたスバルが、散らばった用紙の山から一枚の破片を拾い上げた。
「でも、変ですよね? フッケバインの人たちがここを使っていたなら、どうしてこんな大切な資料を残していったんだろう……?」
「うーん……ドジってうっかり忘れて逃げちゃった、とか?」
ティアナの素朴な疑問に、スバルは楽観的な予想を口にする。しかし、周囲の調査を続けていたエリオとキャロが戻ってくると、首を振った。
「いえ……生活痕跡は綺麗に片付けられていました。撤収作業自体はかなり計画的で素早かったみたいです」
「はい……まるで、私たちがここに来るのをあらかじめ知っていて、わざとこの資料だけを置いて行ったみたいで……」
キャロの言葉に、場に緊張が走る。
旧採掘施設からの通信を受け、艦長室のモニター越しに報告を聞いていたクロノと藤堂。
クラウディア 艦橋
「なるほど……フッケバインの捜索は空振りに終わったが、代わりに『ヴァンデイン社』という大きな尻尾を掴んだわけか」
藤堂は顎に手を当て、鋭い眼光で思案にふける。
「しかし、タイミングが良すぎるな。我が艦隊の広域捜索網を完全に回避し、なおかつ都合よく手掛かりを残して姿を消した……。まるで、こちらの動向が最初から筒抜けだったかのようだ」
「ええ……管理局内部の通信が漏れていた可能性も否定できません。ですが、それ以上に……」
クロノは一瞬言葉を切り、悔しそうに拳を握りしめた。
「我々がフッケバインという組織の『情報収集能力』を甘く見ていたのかもしれません。はやてが負傷したあの不意打ちと言い、彼女たちにはこちらの予測を超える手段がある……」
その時、艦橋のドアが開き、調査を終えたなのはたちが戻ってきた。
「クロノ君、藤堂提督」
「なのは、戻ったか。現場の状況は?」
「はい。陸戦隊の皆さんのご協力で、シュレッダーのゴミからいくつかの重要なデータシートが復元できそうです。それと……フッケバインがここを去ったのは、ほんの数時間前だと思います」
なのはは少し悲しそうな、それでいて毅然とした表情で言葉を続けた。
「彼女たちは、最初から戦う気なんてなかったんだと思います。この資料を私たちに見せるために……あえてここに誘い込んだのかもしれません」
「自分たちの手を汚さず、我々にヴァンデイン社を調べさせる……『敵の敵は利用する』ということか。食えない連中だ」
藤堂はフッと鼻で笑うと、艦橋の通信オペレーターに向かって振り返った。
「各艦に通達! 現場の証拠品回収を急がせろ。また、本国および時空管理局へ打電。『ヴァンデイン・コーポレーション』に関する極秘照会を開始する」
「了解!」
とは言え、フッケンバインが敢えて資料を残して行った事からヴァンデイン・コーポレーションには何かあるのだろうが、それがフッケンバインと関係があるのか?
エクリプスウイルスと関係があるのかはまだ不明だった。
一方、第一次次元世界探査艦隊の捜索網を遠く離れた暗黒の宙域。
一走の小型艇の室内で、フッケバインの頭領カレン・フッケバインは、優雅に紅茶を口に含んでいた。
「くしゅんっ! ……あら、誰かが私の噂でもしているかしら」
「そりゃあ、あの艦隊と管理局の連中も、今頃血眼になってアンタの残した『プレゼント』を解読している頃でしょうよ」
呆れたように肩をすくめるのは、アルナージだ。
彼女は操縦席のモニターに映る第93管理外世界の映像を見ながら、不満げに言った。
「にしてもカレン、本当にあの資料全部置いていっちゃって良かったの? ヴァンデインの奴らの弱みなら、アタシたちが直接脅して金を巻き上げたって良かったんじゃない?」
「いいのよ、アルナージ。私たちだけでヴァンデインの第八企画室を追い詰めるには、少々手が足りないわ。それに……あの『地球』とかいう世界の軍隊、想像以上に面倒な索敵能力を持っているみたいだしね」
カレンは満足そうに微笑むと、部屋の隅で高級そうな菓子をつまんでいる女性に視線を向けた。
「そうでしょう? ソニカ」
「ふあ〜ぁ……んぐ。まあねぇ〜。あの高官の頭から抜き取った情報通り、あのイカつい宇宙戦艦たち、ホントに容赦なかったでしょ〜?」
口の周りにクッキーのくずをつけたまま、マイペースに答えるのは占い師ソニカ・リーリャンだ。
「ソニカの『情報窃視(メモリースティール)』がなかったら、今頃あの大艦隊に囲まれて蜂の巣だったわよ。……まったく、見学料で八十万も取られたのは未だに納得いかないけどね!」
アルナージが恨めしそうに睨みつけるが、ソニカはどこ吹く風でひらひらと手を振った。
「あはは、ビジネスはビジネスだからね~。お金は裏切らないよ~? さてカレン、これからどうするの~? ヴァンデイン社のお偉いさんに、また突撃インタビューでもする~?」
「ええ。お掃除はあの艦隊と特務六課に任せて、私たちは一番美味しい『果実』をいただくわ。……シュトロゼッタの真の目的、じっくりと吐いてもらわなくちゃね」
カレンの瞳に、冷たい狩人の光が宿る。
地球防衛軍、時空管理局特務六課、そしてフッケバイン。
エクリプスウイルスと『ヴァンデイン・コーポレーション』を巡る三つ巴の追撃戦は、新たな局面へと動き出し始めていた。
クラウディア 艦長室
重々しいドアが閉まり、室内には対盗聴用のノイズキャンセラーが低く鳴り響いていた。
デスクの前に立つクラウディア艦長クロノ・ハラオウンに対し、ソファに腰掛けた第一次次元世界探査艦隊司令・藤堂は、手元の端末に表示されたヴァンデイン・コーポレーションの企業概要データを眺めながら静かに切り出した。
「さて、クロノ艦長。単刀直入に言おう。我が艦隊の索敵網をフッケバインが完璧に回避できた理由について、君はどう捉えている?」
クロノは一瞬表情を硬くし、腕を組みながら重い口を開いた。
「……ソニカ・リーリャンの『情報窃視(メモリースティール)』という特殊能力による情報漏洩。それが表面上の理由です。ですが……彼女が接触したとされる『管理局高官』の存在そのものが、最大の問題です」
「ほう。やはり気付いているか?」
藤堂は端末をデスクに置くと、組み合わされた指の上に顎を乗せた。
「フッケバインがこの宙域から逃走したタイミング、そしてヴァンデイン社の極秘資料だけを『うっかり』残していった手際の良さ。……あれは彼女たちの機転だけではない。管理局の内部から、意図的に『こちらの動き』と『不都合な証拠の処分』を誘導されたと見るのが自然だ」
「……裏切り者がいる、とお考えですか」
「裏切り、という言葉は組織の正当性を前提としたものだ」
藤堂の目が鋭く光る。
「時空管理局という組織そのものが、ヴァンデイン社のような民間兵器メーカーやエクリプスウイルスの研究に関し、組織的に『目を瞑ってきた』……あるいは、一部の上層部が自らその利権に深く噛んでいるとしたらどうだ?」
クロノは言葉を詰まらせた。
幼少期から時空管理局の正義を信じ、執務官として、そして艦長としてキャリアを積んできた彼にとって、それは最も認めたくない、しかし否定しきれない懸念だった。
「八神部隊長が襲撃された件もそうだ」
藤堂は容赦なく言葉を重ねる。
「特務六課という『管理局内部の改革派・異分子』を最前線に送り出し、フッケバインや感染源とぶつけさせる。共倒れになれば良し、生き残っても責任を擦り付けられる。……我々地球防衛軍から見れば、実にクラシカルで使い古された政治的プロパガンダの手法に見えるよ」
「……藤堂提督。では、地球側は……貴方方は最初からそこまで見越して、この共同捜査に応じたのですか?」
クロノの問いには、警戒と僅かな揺らぎが含まれていた。
地球側——第一次次元世界探査艦隊が提供してみせた圧巻の広域索敵能力や、厳密すぎるバイオハザード対策。
それらは単なる「念のための安全策」ではなく、管理局という未知の組織に対する牽制であり、自陣営を守るための冷徹な計算に基づいていたのではないか。
藤堂はフッと小さく口元を緩めたが、その瞳に笑みはなかった。
「我が地球防衛軍の第一優先事項は『地球人類の安全と利益の確保』だ。エクリプスウイルスという未知の生体兵器が我が宙域や脅威に及ぶ可能性を、芽のうちに摘み取らねばならない。そのためなら、時空管理局の内部政治がどれほど腐敗していようと知ったことではない」
藤堂は立ち上がり、ゆっくりと窓の外——暗黒の宙域にたたずむ巨大な地球艦艇群へ視線を向けた。
「だがな、クロノ艦長。我々は無用な紛争を望んでいるわけではない。だからこそ……若い君や高町なのは君たちのような『真摯な者たち』と手を組みたいのだ」
「……僕たちを?」
「ヴァンデイン社への本格的な調査が入れば、時空管理局本局からの圧力や妨害は必ず強まる。地球側が力ずくで踏み込めば『次元世界への侵略行動』と取られかねん。……だが、君たち特務六課が『合法的な捜査権限』を行使し、我々がその『後方支援と実力行使の盾』となる形をとればどうだ?」
クロノは目を見開いた。
地球側は単に事態を傍観する気も、管理局と全面対立する気もない。特務六課を「槍」とし、自らは「盾と裏の力」として、管理局内部の暗部とヴァンデイン社を白日の下に晒そうとしているのだ。
「……ハラオウン艦長。君の母上(リディ・ハラオウン提督)や、君自身が守ろうとしている時空管理局の『正義』が本物かどうか……このヴァンデイン社の件で試されることになるぞ」
藤堂の静かだが重みのある言葉が、艦長室に響く。
クロノは深く息を吐き出し、迷いを振り払うようにしっかりと藤堂の目を見返した。
「……了解しました、藤堂提督。特務六課、および本艦クラウディアは、ヴァンデイン・コーポレーションの追及および内部の不審な動きの解明に全力を尽くします。……地球側の『協力』、感謝して受領いたします」
「決まりだな」
藤堂は満足そうに頷き、手にしていた端末をクロノに差し向けた。
「では、早速だが……地球側の情報部が独自に掴んだ『ヴァンデイン社・第八企画室と本局高官との裏ルート』のリストだ。……特務六課の若者たちには少々毒が強いかもしれんが、覚悟を決めてもらうとしよう」
二人の視線が交差し、暗雲立ち込める裏の戦いへの決意が固まった。
クラウディア 作戦会議室
対外秘の暗号化が施された会議室のホログラムモニターに、第93管理外世界の旧採掘拠点から回収されたデータと、ヴァンデイン・コーポレーションの企業情報、そして時空管理局本局の組織図が投影されていた。
室内に集まったのは、クラウディア艦長であるクロノ、そして特務六課のエースたち——高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、スバル・ナカジマ、エリオ・モンデール、キャロ・ル・ルシエの面々だ。
「……みんな、集まってくれてありがとう。これから話す内容は、これからの特務六課のあり方、そして時空管理局の根幹に関わる重大な事実だ」
クロノの引き締まった声音に、なのはとフェイトは表情を引き締めた。スバルたち若手メンバーも、ただならぬ気配を察して固唾をのむ。
「ヴァンデイン・コーポレーション……第16管理世界『リベルタ』を拠点とする大手デバイス・兵器メーカー。表向きは警備装備の開発企業ですが、その実態は……エクリプスウイルスを兵器化し、裏で非人道的な研究を進めていた当事者です」
ホログラムのデータが切り替わり、とある書類の断片と送金記録が映し出された。
「シュレッダーのゴミから復元されたデータと、地球防衛軍の独自情報網を突き合わせた結果、ヴァンデイン社の『第八企画室』が主導するエクリプスウイルス研究には、時空管理局本局の一部高官が組織的に関与していたことが判明しました」
「……っ!?」
スバルが息を呑み、思わず声を漏らした。
「管理局の、高官が……? どうしてそんな……! ウイルスなんて、人々の命を脅かす危険なものなのに……っ!」
「兵器としての価値、そして莫大な利権さ」
静かに語るフェイトの表情には、深い悲しみと怒りが入り交じっていた。彼女は管理局執行官としての立場と、これまでの闇を見てきた経験から、その言葉の重みを誰よりも理解していた。
「管理世界の治安を守るはずの管理局が、裏で兵器開発や違法な生体研究に加担している……。もしそれが事実なら、私たちのこれまでの戦いは……」
「フェイト。だからこそ、ここで目を背けてはいけないんだと思う」
なのはが優しく、しかし揺るぎない強い眼差しでフェイトの手を取った。彼女はモニターに映し出されたヴァンデイン社の社章を見据え、まっすぐにクロノに向き直った。
「クロノ君。藤堂提督と、何か話をしたんだよね? 私たち特務六課に、どうしてこの真相が明かされたの?」
「ああ」
クロノは深く頷き、地球防衛軍側の思惑を包み隠さず告げた。
「地球側の第一次次元世界探査艦隊は、我が管理局内部の腐敗や圧力を警戒している。下手に管理局内部の人間だけで調査を進めれば、証拠隠滅や揉み消しに遭うのは確実だ。だからこそ、地球側は『盾』となり、管理局からの政治的圧力や妨害を抑え込む。そして——」
クロノはなのはとフェイト、そして六課の面々を真っ直ぐに見据えた。
「『法的な捜査権限』を持ち、組織の柵にとらわれず真実を追求できる『槍』として、君たち特務六課に動いてほしいと、そう提案されたんだ」
エリオとキャロも、不安そうな、しかし覚悟を決めたような表情で先輩たちを見守った。
「もちろん、これは危険な任務だ。管理局本局を敵に回す可能性すらある。命令拒否も、この場で辞退することも認める。……だが」
クロノ言葉を切り、苦渋の決断を滲ませた瞳で仲間たちを見渡した。
「僕自身、この腐敗を見過ごすわけにはいかない。はやてが命を賭けて守ろうとした管理局の正義を取り戻すために……皆の力を貸してほしい」
静まり返った会議室。
数秒の沈黙の後、スバルがガタッと椅子から立ち上がった。
「……あたしは、嫌です!」
「スバル?」
「管理局がどうとか、政治がどうとか、難しいことは正直よくわかりません! でも……こんなウイルスをばら撒いて、たくさんの人を苦しめて、それを隠そうとする奴らが許せないのは本当です。はやて隊長があんな目に遭ったのも、きっとこういう奴らの陰謀なんですよね……っ!」
スバルは拳を固く握りしめ、涙をこらえながら力強く言った。
「あたしは特務六課の一員です! どんなに危険でも、真実を暴いて、みんなを救うために戦います!」
「スバル……私も同じよ」
フェイトが優しく微笑みながらスバルの肩に手を置き、立ち上がった。
そして、なのはもゆっくりと席を立ち、クロノの目をしっかりと見つめた。
「うん、そうだね。苦しんでいる人がいて、その裏に隠された真実があるなら……私たちがやるべきことは一つだよ。クロノ君、私たちにできることを教えて。特務六課、全力で動くから!」
「なのは……みんな……」
仲間の揺るぎない覚悟と温かい笑顔に、クロノの胸が熱くなった。
管理局の闇、ヴァンデイン社の陰謀、そして地球防衛軍との共同作戦。
幾重もの思惑が絡み合う中、特務六課の面々は、真実を暴くための過酷な戦いへと踏み出す決意を固めたのだった。
クラウディアと第一次次元世界探査艦隊は、ヴァンデイン社がある第16管理世界『リベルタ』へと向かう事となった。
スバルは再び連絡員としてラボラトリー・アクエリアスへと向かうが、その最中で、
「あっ、そうだ」
思い出すかのように声を出し、
「ねぇ、キャロ」
「はい?何ですか?スバルさん」
キャロはバリアジャケットのグローブを整えながら首をかしげる。
「さっきも言ったけど……ラボラトリー・アクエリアスにね、キャロにすごく会いがっている子たちが居るんだよ」
「私に……ですか? 地球の子供たちが?」
「うん。キャロと同じ『召喚士』として、色々と聞いてみたいことがあるみたいなんだ。ドラゴンや幻獣を従える先輩として、アドバイスが欲しいって言われてさ。会ってくれるかな?」
キャロは驚いたように目をパチクリさせた後、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「もちろん、喜んで! 私と同じ召喚士のお友達なんて、なかなか居なかったから……すごく楽しみです」
自分たちが知る限り、他の召喚士魔導師はルーテシア・アルピーノくらいしか思いあたらない。
ラボラトリー・アクエリアスに自分と同じ召喚士がいると言う事に驚きつつもキャロはスバルの提案を受け入れる。
スバルはティアナに連絡をしてキャロと共にラボラトリー・アクエリアスに戻る事を伝える。
ティアナは艦長の藤堂にスバルの他にもう一名の乗艦許可を求める。
その人物は星奈たちが会いたがっている人物らしい。
子供たちの精神面の安定を含めて藤堂はそれを許可した。
こうして、スバルとキャロを乗せた連絡艇は、広大な宇宙空間を滑るようにして『ラボラトリー・アクエリアス』の艦内へ滑り込んだのだった。
ラボラトリー・アクエリアス・居住区画
アクエリアスの艦内にある広々としたラウンジに案内されたキャロは、そこで待っていた三人の子供たちの姿を見て、思わず足を止めた。
そこにいたのは、地球防衛軍の保護下にある三人の少女——星奈、愛里寿、そしてリンネだった。
「あ、スバルお姉ちゃんだ!」
「お疲れ様です!」
スバルの姿を見つけて駆け寄ってきた子供たちの後ろから、ふわり、と奇妙な気配が漂ってきた。
「……っ!?」
キャロは息を呑んだ。彼女の卓越した竜導士・召喚士としての感覚が、目の前にいる存在の異質さと、その途方もない格の高さを瞬時に察知したからだ。
星奈の肩のあたりには、手のひらに乗るほどの小さなサイズでありながら、気高い威厳と鮮烈な輝きを放つ人型の竜――『星彩(せいさい)』が静かに佇んでいた。
愛里寿の足元には、ふかふかとした毛並みに似合わず、背中に美しい翼を生やした小さな熊――『ショート・フェアリー・ベア』がパタパタと愛らしく耳を動かしている。
そしてリンネの頭上には、純白と黄金の炎を纏った、妖精サイズの小さなフェニックスが優雅に羽ばたいていた。
「す、すごい……っ!」
キャロは思わず一歩踏み出し、目を丸くした。
「管理世界でも、これほど高位で、しかも人型や特殊な進化を遂げた幻獣との契約なんて……めったに見られないのに……っ!」
キャロの驚きように、星奈たちは少し照れくさそうにはにかんだ。
「みんな、この子が、会いたがっていたキャロだよ」
スバルが三人にキャロを紹介する。
「初めまして、キャロ・ル・ルシエです」
「あの……お姉さんが、すごい召喚士の『キャロさん』だって、ティアナさんとスバルさんから聞いたのですが‥‥」
星奈がそっと手のひらを差し出すと、その上で星彩が小さく鳴き声をあげ、綺麗な星屑のような光の粒子を散らした。
「私は星奈。こっちは星彩です。キャロさん。私たちは、この子たちとどうやって心を通わせたらいいか?もっと知りたいんです。戦うためじゃなくて、本当の家族みたいに、一緒に歩いていくにはどうしたらいいのかを教えてもらえますか……?」
その真っ直ぐで、どこか切なさを孕んだ瞳を見た瞬間、キャロの胸の奥がキュッと締め付けられた。
かつて、孤独の中でドラゴンであるフリードリヒとの絆を探し求めていた自分自身の姿が、目の前の少女たちと重なったからだ。
「……うん」
キャロは優しく微笑むと、しゃがみ込んで星奈たちの目線に合わせた。
「怖くないよ。この子たちはね、言葉を話せなくても、ちゃんと私たちの心を感じ取っているから……。ね、フリードリヒもそう思うよね?」
キャロの言葉に呼応するように、彼女の魔力光が優しく揺らぎ、温かな絆の温もり空間に広がった。
ヴォイテクが愛里寿の頬をペロリと舐め、鳳仙がリンネの肩にとまって心地よい温もりを分かち合う。
ラウンジ全体が、優しい魔法の光に包まれていく。
スバルとティアナは、少し離れた場所からその様子を温かい目で見守っていた。
「……あの子たちも、少しは心が軽くなったみたいね」
ティアナが腕を組みながら、フッと柔らかな笑みをこぼす。
「うん! キャロ、すごくいいお姉ちゃんになっている!」
スバルが嬉しそうに頷いたその時、艦内のメインモニターが一斉に切り替わった。
『――全艦に通達。これより、第一次次元世界探査艦隊およびクラウディアは、第16管理世界『リベルタ』へ向けたワープ航法を開始する』
藤堂の厳かなどこか力強いアナウンスが、艦内に響き渡る。
ヴァンデイン・コーポレーションの本拠地であり、エクリプスウイルスの謎を解く鍵が眠る『リベルタ』へ――。
世界の運命を揺るがす真実を暴くため、艦隊は新たな次元の海へと進路を取ったのだった。