さて、ヴァンテインコーポレーションの本社にて、クロノやフェイト、チンクはヴァンテインコーポレーションの専務取締役員兼第八企画室専務の『ハーディス・ヴァンテイン』氏から話を聞いていた。
「では?御社の施設が襲われたのは、御社が進めていたエクリプスウイルスの研究成果ではないかというのですか?」
「ええ、あれはこの世を混乱に導きかねない危険な代物ですからね‥‥エクリプスウイルスの研究に関してはわが社も独自のスタンスで続けていました」
ハーディスはそう話す。
「感染者の行動に関しては、我が社にも持ち込まれるこれまでの情報である程度分析できています。彼ら、『フッケバイン』とかいう連中は何らかの処置で殺人衝動を抑えているとしても、破壊欲求を果たさないとエクリプスウイルス感染者は生きていけません。それは…」
「殺人と破壊の禁断症状は、水に沈められた生物が呼吸をしたいと思うような物であり、壊し、殺さずには言われない…というわけですね?」
「フッ、That's Righut.その通りと言えるでしょう」
フェイトの言葉にハーディスは万年筆を持ちながらそう返した。
「極論、感染者たちは破壊し、殺していかねば生きていけない存在になっています。人の姿と判断能力を有しながら人間の扱う通常火器や魔導技術では対抗しえない存在。それはエクリプスウイルス感染者であるとわが社は認識しておりまして、その脅威を世の中から取り除くため、日夜様々な研究を行っております‥‥まぁ、他社とは若干異なるアプローチで、ですが」
とハーディスは万年筆で頭を掻きながらそう話す。
「しかし、いくら何でも行き過ぎではないですか?」
クロノはそう切り込む。
「感染サンプルの無断確保に無届、独断での培養、ディバイダーのレプリカ作成、それなりの処分は覚悟することだな?」
「ああ、部下を実行犯にしてトカゲのしっぽ斬り…とはいかなからな?覚悟しておいた方がいいぞ」
クロノとチンクがそう話すが、ハーディスは、
「我が社も今は大事な時期でして‥‥この様に本社内の調査を令状なしで受け入れるように説得するのにも苦労したのですよ‥‥?」
ハーディスは困り顔で万年筆をくるくるさせつつ、
「そうですね…感染者の行動予測データの提出あたりを条件にお手柔らかに願いませんか?」
そう言って彼は第14無人世界の移住調査地区の地図を出してきた。
さて、その頃‥ヴァンテイン社の本社研究施設に残っていた、感染サンプルの培養品についてなのだが‥‥。
「ヒャッハー!汚物は消毒だー!!」
と大声を出しながら晴風の応急長である和住媛萌が対応していた。
彼女は何処から引っ張り出してきたのか、火炎放射器を使用しており、艦隊の調査班が培養ポットを叩き割って回収して山にしていた感染サンプルの肉塊を焼却滅菌処理していたのだ。
晴風の技術班のトップ代行も兼任している彼女はどういう伝手と材料を集めてか、ナパーム燃料をガチで使用して焼却していたので、特務六課の一般職員達も流石に大慌てである。
「ちょ!?和住さん!いくら何でもやりすぎじゃないですか!?」
エリオはさすがに咎めるが、
「えぇ~?すみません!ちょっと、この火炎放射器、超旧型で燃料の投射時の音がすごくて聞こえません!処理の仕方云々はグラーフ・ツェッペリンの坂本艦長かミーナ副長にお願いします!!」
どうも、使っている火炎放射器が骨董品らしく、火炎を放射する際に異音が出ていると言う。
そんなものを使うなと言いたいが、隊員の私物の骨董品を即席でレストアして使用しているので仕方がないと言う。
シャマルが、ミーナにここまでやる必要があるのかと聞いたが、
「こういった感染源となりうるものは数個のサンプル程度で十分です。というか、なんだって200個以上も培養していたのか…正気を疑いますし、これでは襲ってくれと言っているか、疑われてもおかしくはありませんよ」
「ミーナ、お前の料理もいい勝負だと思うが…」
「バルクホルン大尉?何か??」
「な、何でもない!!」
ミーナは培養ポット内で培養液の中を漂っていたとはいえ、何で危険極まる感染サンプルの数が200以上なのかと頭を抱えていたが、バルクホルンやグラーフ・ツェッペリンの航空隊搭乗員の面々はミーナの手料理とどちらが危険かと裏でこそこそ話し合っており、バルクホルンはその関係でぼやいてしまったのだ。
※まぁ、ミーナがとんでもなくおっそろしい笑顔でにらんできたので、バルクホルンはすぐさま発言を撤回し、近くにいたハルトマンも明後日の方向を慌ててみたので、エリオや近くにいた特務六課の局員たちもミーナを怒らせたらヤバいと察した。
「まぁ、ともかくです。こういったエクリプスウイルスの研究を官民問わず行っていたのは感染症対策と言う面では大変結構なことですが、当局の管理下に無かった点はいただけません。というか、感染者の追跡情報すら上げていなかったとは…」
「えっと、この後はそいつら感染者二人の男の追跡が仕事なのかな?」
ミーナの言葉にハルトマンはそう聞くが、
「まぁ、そうなるだろう…。近くに開拓者たちの拠点、村落があるそうだからな?安否確認も含めて行かねばならんのだろう。実質、我々調査艦隊も出向くだろうが‥‥」
「ど、どうしたんですか?」
坂本はハルトマンにそう返すが、キャロは坂本の表情に不安を覚える。
「いやなに、この情報も数時間前。おまけにクロノ提督が先程から第十四無人世界とかいうところの移住調査地区との連絡がつかないと焦っていたからな?おそらく‥‥」
数時間後、現地の管理局部隊からの報告で移住調査地区が壊滅しているとの報告が上がって来た。
調査地区の村落の住民の生存者は無し。
しかし、生き残っていた監視カメラの映像が何故かヴァンテインコーポレーション社の第八企画室のPCに何故か自動転送されており、社内調査班に同行していた調査艦隊のエイラがくすねてきて、その映像から意外な事実が判明した。
最初に村落を襲った男性二名をフッケバインのヴェイロンとアルナージが交戦しており、内一名はヴェイロンが殺害。
もう一名のバンダナを着けていた青年はエクリプスウイルス散布実験を依頼されてやった下請けだと自白しており、依頼主を話そうとした直後に頭部の一部が破裂して死亡していた。
ヴェイロンは『特定の単語に関係する話を話そうとすると、破裂して死亡する自壊ユニット。七年前と同じ手口だな』
と話していたのだ。
これを見た藤堂はこの情報はまだ管理局側には渡さないように指示した。
なんせ、時空管理局の中ではクロノやリンディ、そして特務六課の面々に関してはある程度、信用は出来ると艦隊各艦の艦長たちは結論を出していたが、完全に信頼は出来ない。
また、時空管理局という組織そのものへの不信感は全くぬぐえていないのが現状なのだ。
下手に情報を流して、フッケバインファミリーを逃がすわけにもいかないし、そもそもヴァンテインコーポレーションすら信じられないのだ。
地球側としては慎重すぎるに越したことは無いし、万が一の交渉の際に使えるカードは多い方が良い。
さらに、通信を監視していた改ドレッドノート級多目的艦『おうみ』から、時空管理局でも地球艦隊のイリスシリーズのような人型自立機械の導入が検討されており、近日中に時空管理局の面々が視察に向かうとの情報なので、イリスシリーズとの違いを把握することで、地球と次元世界の技術の差を確認しておくことが必要と判断されたのだ。
この時空管理局側の人型機体の正式名称はカレドヴルフ・テクニクス社製次世代自立汎用端末CW-ADX「ラプター」と呼ばれている。
内燃バッテリー搭載で未充電で40時間は稼働。外部からの指示や命令を受けて行動する自立行動型の男性型アンドロイドである。
と言っても、目までお椀のような機械で覆われ、服装も防刃のスーツを着用しているので人工皮膚の部分は少なく、見た映像は本部に自動送信されるという代物であったが、地球側はまだ知らない。
移住調査地区の映像を食い入るように見つめていた藤堂は、暗転したモニターから目を離すと、深く息を吐き出した。
「頭部自壊ユニット、か……口封じの手口としては古典的だが、極めて確実だ。『7年前と同じ』という点も引っかかるな」
ラボラトリー・アクエリアスの艦橋内で、藤堂の隣に立つ坂本美緒が腕を組みながら厳しい表情で頷く。
「ええ。それだけの技術と隠蔽工作を行える組織が、管理局の監視の目をすり抜けて暗躍している……やはり、ヴァンテインコーポレーションを含め、この世界の組織をそのまま鵜呑みにするのは危険すぎますね」
「ああ。クロノ提督や特務六課の人間は話の通じる相手だ。だが、彼らが背負っている『時空管理局』という巨大組織そのものが一枚岩ではない。どこから情報が漏れるか分からん以上、この映像データは我々の手元で厳重に秘匿する」
そう告げる藤堂に、映像を回収してきたエイラが「へへん、こんなこともあろうかと、持ってきて正解だったな」と胸を張った。
「グッジョブよ、エイラ……でもね、次からはもう少し穏便にね?」
ミーナが少し呆れたようにため息をつく。
「まあまあ、ミーナ副長。結果オーライってことで!」
応急処置を終えて艦橋に顔を出した和住媛萌は、ナパームの煙の匂いをかすかに漂わせながらケラケラと笑った。
「和住さん……あなた、培養サンプルを焼却する時の笑顔、かなり危なかったですよ?」
エリオが引きつった笑みを浮かべながら差し入れの茶を渡すと、媛萌は「消毒は男のロマン……じゃなくて、徹底的にお掃除するのが応急班の仕事ですから!」と胸を叩いた。
「しかし……」
バルクホルンが手元の端末に表示された新しいデータを見つめながら眉をひそめる。
「管理局側が導入を検討しているというその『ラプター』とかいうアンドロイド……イリスシリーズの視察にかこつけて、我々の技術を探るつもりかもしれんな」
「カレドヴルフ・テクニクス社製の『CW-ADX ラプター』……か」
藤堂は『おうみ』の通信分析班から送られてきた仕様書に目を通した。
「未充電で40時間稼働、男性型アンドロイド、防刃スーツに視覚映像の本部自動送信機能……スペックだけ見れば堅実な警備用・作業用ドールだが、言い方を変えれば、感情を持たない完全な兵器だな」
「うちのイリスちゃんたちとは、根本的な思想が違いそうですね」
ハルトマンがあくびを噛み殺しながら言った。
実際に管理局でも、昔から似たような研究が行われていた。
それが『戦闘機人』の開発・研究だった。
優れた魔導師のクローンをベースに特殊な機械で体を強化した人造・魔導師‥‥
かつて戦力不足にあえぐ“陸”のトップ‥‥レジアスが密かに研究を推し進めており、『戦闘機人』理論の提言者であるスカリエッティも自らが所有するラボで十二人の戦闘機人たちを生み出していた。
そして、スカリエッティ以外の誰かが生み出したのがギンガとスバルであった。
しかし、その研究内容が倫理観に反すると言う理由から研究・開発は中止となり、レジアスがJS事件の際、暗殺された事でこの研究は完全に放棄されたのだが、常に人手不足な時空管理局は形を変えて今、再び研究・開発が行われていた。
「イリスシリーズは自立した感情と高い適応能力を持つ『対話と共生』を前提とした人型自立機械だ。対してラプターは、命令に従って淡々と任務をこなす『使い捨ての端末』……特務六課の面々がこれを見たら、どう思うか」
藤堂は椅子から立ち上がり、艦橋のメインスクリーンに映る地球艦隊の壮観なシルエットを見上げた。
「視察の場は、単なる技術披露ではない。時空管理局が我々をどう見ているか、そして我々が彼らとどう渡り合っていくかを見極める試金石となる。クロノ提督たちが到着するまでに、イリスシリーズとの明確な『格の違い』を整理しておけ」
「了解しました。……フッケバイン、エクリプスウイルス、そしてヴァンテイン社の黒い噂……きな臭くなってきましたね、藤堂司令」
坂本の言葉に、藤堂は静かに、しかし力強く頷いた。
「ああ。だが、どんな闇が潜んでいようと、我々の歩みを止めるわけにはいかん。準備を進めろ」
「各員、持ち場に着いてくれ。視察および今後の交渉に向けたデータ集積を開始する」
坂本が艦内放送を通して指示を出すと、各艦の艦橋は静かな緊張感に包まれた。
「藤堂艦長、ハラオウン提督の座乗する管理局艦より通信が入っています」
オペレーターの報告に、藤堂は短く「繋げ」と答えた。
メインモニターにクロノの姿が映し出される。
その表情には疲弊と、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。
『藤堂艦長、ハーディス専務との協議を終えた……正直に言って、食えない男だ。こちらの追究をのらりくらりとかわし、移住調査地区のデータ提出と引き換えにお手柔らかに、だとさ』
クロノは苦笑いを浮かべながら、手元の資料に目を落とした。
『……だが、その移住調査地区と連絡がつかない。現在、現地へ調査隊を向かわせているところだ。最悪の事態も想定しておかねばならん』
クロノの言葉を聞きながら、藤堂と坂本は密かに視線を交わした。
すでに現地で起きた惨劇の映像を確保している地球側としては、クロノの焦りが痛いほど理解できる。
しかし、ここで『映像を持っている』と明かすわけにはいかない。
「……承知しました、ハラオウン提督。我々地球艦隊も、要請があれば即座に支援へ向かえるよう待機状態を維持します」
藤堂は表情を一つ変えずに応じた。
『助かる。それから……本国より『ラプター』の試作機に関する技術視察の連絡が入った。時空管理局の方々と共に、近々貴艦隊へイリスシリーズの視察を兼ねて向かうことになると思う……あまり歓迎できる状況ではないが、よろしく頼む』
「心得ております。お気をつけて」
通信が切れると、藤堂は大きく息を吐き出し、腕を組んだ。
「ハラオウン提督も、組織の上層部と現場の挟み撃ちで苦労しているな……」
坂本がぽつりと呟く。
「ああ。だが、だからこそ甘さは捨てねばならん。彼は管理局の人間だ。組織の論理に縛られる時が必ず来る」
藤堂の目は、冷徹なまでに先を見据えていた。
その時、艦橋のドアが開き、イリスシリーズの調整を担当している技術班の責任者と、イリス本体が足音もなく入ってきた。
「艦長、お呼びでしょうか。イリスシリーズの稼働データおよび『ラプター』との比較仕様書の整理が完了いたしました」
人型自立機械『イリス』は、澄んだ瞳で藤堂を見つめ、静かに礼をした。
「藤堂艦長。私の機能および思考フレームワークについてのプレゼンテーション準備、いつでも可能です」
その立ち姿、滑らかな皮膚の質感、そしてデータの積み重ねの結果、感情を表現できるようになった表情と感情の機微を映し出す瞳——どこからどう見ても『人間と変わらぬ生命感』を纏っている。
「イリス」
藤堂は静かに問いかけた。
「管理局が導入を検討している『ラプター』……感情を持たず、視覚映像を本部に自動送信し、使い捨ての端末として機能する無人機だ。それについて、君はどう思う?」
イリスは少しだけ首をかしげ、数ミリ秒の思考時間を置いた後、穏やかな声で答えた。
「道具としての効率性を追求するのであれば、合理的な設計かと存じます。しかし……心を持たぬ機械は、不測の事態において『命令の解釈』はできても『命を守るための臨機応変な判断』はできません。私たちイリスシリーズが目指すのは、人間と共に悩み、傷つき、それでも守るために戦うパートナーです」
その言葉に、後ろで聞いていたバルクホルンが感心したように鼻を鳴らした。
「フン……言いたいことは分かっているじゃないか。どこぞの無機質な鉄くずとは大違いだ」
「ですね〜!うちのイリスちゃんは可愛いし、何より美味しいお茶も淹れてくれますから!」
ハルトマンが呑気に笑いながらイリスの肩に手を置く。
イリスもまた、嬉しそうに微笑んだ。
「……格の違い、か」
藤堂は口元に微かな笑みを浮かべた。
「技術の優劣ではない。思想の差だ。時空管理局が『力と管理』の象徴としてラプターを持ち込むなら、我々は『対話と絆』の象徴としてイリスを示す。……それが、我々地球艦隊の誇りであり、彼らに対する最高の牽制になる」
「艦長!管理局艦より追加情報です!移住調査地区に向かっていた先遣部隊より、集落の壊滅が確認されたとのこと!」
オペレーターが緊張した声を張り上げた。
艦橋の空気が一瞬にして凍りつく。
すでに知っていた事実とはいえ、正式な報告として上がってきたとなれば話は別だ。
「……そうか。クロノ提督へ打電。『おうみ』および調査艦隊の一部隊を即座に現地救援および二次被害防止のために派遣する、とな」
藤堂の目が鋭く光る。
「フッケバイン、そしてエクリプスウイルスの陰謀……管理局の闇も混ざり合って、いよいよ本格的に動き出したようだな。坂本、出撃準備だ!」
「了解!各員、第一種戦闘配置!」
坂本の号令が艦内に響き渡り、地球艦隊各艦のエンジンが重低音を上げて唸りを上げ始めた。黒い影が渦巻く次元世界の渦中へ、地球艦隊は静かに、しかし確かな意思を持って踏み出していくのだった。
「調査艦隊へ伝達!これより我が艦隊は第十四無人世界へと向かう。現地には生存者がいない可能性が高いが、フッケバインの残党、あるいはエクリプスウイルスの拡散源がまだ残されている危険性がある。警戒を厳にせよ!」
藤堂の凛とした号令が艦内に響き渡る中、各艦は続々と発進シークエンスへと移行していった
第十四無人世界・移住調査地区の上空に辿り着いた地球艦隊。
眼下に広がるのは、かつて開拓者たちがささやかな暮らしを営んでいたはずの村落だった。
しかし、そこに映るのは無残に破壊された家々の残骸と、不気味に静まり返った焦土のみであった。
「……ひどい有様ね」
ラボラトリー・アクエリアスの第一艦橋で、副長のギンガ・ナカジマはモニターに映し出された悲惨な光景に思わず息を呑んだ。
その隣では、艦長の藤堂早紀が冷徹かつ鋭い眼差しで地表のデータを分析している。
「生存者の反応は皆無……やはり、間に合わなかったか」
藤堂の声音には、怒りと悔しさが微かに混じっていた。
「艦長、地表の調査隊より入電です。現地に到着した特務六課の面々と合流し、現在、村落のスクラップおよびウイルス汚染の有無を調査中とのことです」
戦術長のティアナからの報告に、早紀は小さく頷いた。
「よし。私たちも『ラプター』の視察件を兼ねている管理局側の人間たちの動向に注意を払いつつ、地表の封鎖と証拠隠滅の防止を急ぎなさい。……それと、星奈たち子供の安全は徹底的に確保しておけ。あのような惨劇を見せるわけにはいかん」
「了解しました!」
その頃、地表の調査現場では。
「ん?……何だ?」
荒れ果てた村落の瓦礫の前に立ち尽くしながら、エリオ絶句していた。
背後では、キャロとフリードが不安そうにエリオの服の裾を引いている。
特務六課の局員たちも、目の当たりにした惨状に言葉を失っていた。
生き残りは一人もいない。
フッケバインという組織の狂気と、エクリプスウイルスがもたらす破壊の爪痕が、これでもかとばかりに刻まれていた。
「エリオくん、気をつけて。まだ近くに犯人や感染者が潜んでいるかもしれないわ」
シャマルが警戒を怠らないように注意を促す。
その時だった。
ザッ、ザッ……と、重く規則正しい足音が背後から響いてきた。
振り返ると、そこには時空管理局が新たに導入を検討しているとされる最新鋭の自立汎用端末――カレドヴルフ・テクニクス社製CW-ADX『ラプター』の姿があった。
無機質な男性型のシルエット。視覚センサーを覆う黒いお椀型のセンサーヘッド。防刃仕様の分厚いスーツに包まれたボディからは、感情の気配が一切感じられない。
「……あれが、本局が持ち込んできた新型のアンドロイド、『ラプター』か」
エリオが眉をひそめる。
ラプターは言葉を発することなく、淡々と首を巡らせて周辺の状況をスキャンし、得られた視覚データをリアルタイムで本部のサーバーへと自動送信していく。
その姿は、まるで意志を持たない冷徹な監視カメラのようだった。
「効率的……といえばそうかもしれないけれど……なんだか、すごく冷たい感じがするね」
キャロが小声で呟く。
「うん。人の形はしているけど、スカリエッティが使っていたガジェットと同じ気がする‥‥」
エリオもキャロの言葉を肯定する。
ちょうどその頃、『ラボラトリー・アクエリアス』の艦内では、時空管理局の面々を迎えての技術視察、すなわち「イリスシリーズ」と「ラプター」の比較検討会がまさに始まろうとしていた。
「皆様、ようこそ地球艦隊総旗艦『ラボラトリー・アクエリアス』へ。本日は我が軍の誇る人型自立機械『イリスシリーズ』の性能をご覧いただきます」
ギンガに案内され、時空管理局の局員たちが技術区画へと足を踏み入れる。
そこに立っていたのは、豊かな表情を浮かべ、人間と見紛うばかりの自然な仕草で微笑むイリスだった。
「はじめまして。イリスと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「……っ!?」
ラプターの無機質さに慣れていた管理局の面々は、あまりにも人間味にあふれたイリスの挨拶に、思わず目を見張り、言葉を失うのだった。
スカリエッティが生み出した戦闘機人とも違い、自分たちが採用しようとしているアンドロイドとも異なる存在‥‥
技術の差、そして「機械と人間の共生」にかける思想の差――。
未曾有の危機が迫る中、次元の壁を越えた二つの世界の邂逅は、新たな波乱の予感を孕みながら、静かに、しかし確実に動き始めていた。
次回 意識の違い