なでしこ「はむ。ずずずず!」
しかし、この遭難少女は美味そうに食べる。そんな美味そうに食べているのを見ると余計に腹が減ってくるではないか。
蓮仁郎「はむ。ずずずず…もぐもぐ」
美味い。ただのインスタントのカレー麺な筈なのに美味い。これがアウトドア効果なのか。それとも単純に腹減ってるからか。あるいは両方か。いつも食べるより何倍も美味い。
なでしこ「うーん!ぷは!くちのなか火傷したぁ!」
やはりこの遭難少女おっちょこちょいである。だが先程の不安な様子が嘘みたいだ。これも俺の幼馴染のおかげか。
リン「ねぇ…あなたどこから来たの?」
なでしこ「え?わたし?ずーっと下の方。南部町ってとこ」
蓮仁郎「え、南部町?」
リン「よくチャリでここまで来たね」
なでしこ「本栖湖の富士山は千円札の絵にもなってるっておねえちゃんに聞いてながーい坂登ってきたのに曇ってて全然見えないんだもん!」
蓮仁郎「確かに今日曇ってるから一日中見張ってない限り、綺麗な富士山見るのは難しいかもな…」
この子、ものすごいアグレッシブルな子でもあるのか。元気があるのはよろしいことかな。なんだかんだで俺の幼馴染もアグレッシブルだからこの遭難少女とは似ているのかもしれない。だからきっと出会ったのは必然だったのだ。まぁわからないけど。
なでしこ「聞いてよおくさん!」
リン「…!」
蓮仁郎「どうした?リン」
リン「見えないって、あれが?」
なでしこ「あれ?」
そう言って遭難少女は俺の幼馴染の指差す方を向く。するとそこには…
雲に隠れていない綺麗な富士山がその姿を表していた。それは幻想的で、見るものを圧倒するような存在感もあって、とにかくそれは凄く良いものだった。先程1人で空を見上げた時に見えた富士山も良いものだったが、今俺たちが見上げている富士山は全く別の良さがあったように思えた。
なでしこ「見えた…富士山…」
遭難少女も嬉しそうだった。
もしかしたら本当にこの出会いは必然だったのかもしれないな。富士山も含めて。
なでしこ「あ」
蓮仁郎「うん?」
なでしこ「えへへへ…お姉ちゃんの電話番号知ってたよ…わたし」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
桜「家のバカ妹が本当にお世話になりました。これ、お詫びです」
リン「いや別に大したことは…」
なでしこ「おおおお…」
桜「アンタ持ち歩かなきゃ携帯電話とは言わないのよ!ほら!さっさと乗れ豚野郎!」
なでしこ「イテ!イテテテテ…!ヤメ!イテ!出る!カレーめん出る!」
桜「本当に邪魔しちゃってごめんなさいね」
リン「いや、別に邪魔ってほどじゃ…それに1人ってわけじゃないですけど…」
桜「え?でも…」
リン「ちょっと焚き火してて、燃え移ったら危ないって言って監視してもらってるんです…」
桜「じゃあ、ちょっと挨拶だけさせてもらっても大丈夫ですか?直接お世話になったお詫び言いたいので」
リン「あ、多分大丈夫だと思います…テント建ってるところにいると思うので…」
桜「ありがとうございます。じゃあ、私行ってくるか、大人しくしてなさいよ!バカ妹!」
なでしこ「ふぇええん」
リン「大丈夫か?」
なでしこ「カレー麺出るかと思った…」
リン「でも…優しそうなお姉さんだね」
なでしこ「うん!怒ると怖いけど、すっごく優しいよ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
蓮仁郎「遭難少女はちゃんと帰れたかな…」
俺の幼馴染に遭難少女を送るのを任せ、焚き火の番を買って出た。
当然だ。焚き火をつけたままじゃ普通に危ない。しかし焚き火がないと普通に寒い。
ギリギリまで暖かい状況でいたいと言うのが人間心理だろう。だから俺の幼馴染が帰ってくるまで焚き火の火を保ち温めておくのが今の役目だ。
そういえば…
俺たちは遭難少女の名前を聞いていなかった気がする。
別にこれから会うかもわからない人の名前を聞いておく必要があるかどうかというと疑問な話ではあるが、あの富士山を見た仲だ。名前や連絡先くらいは知っておいても良かったのかもしれない。
そんなタイミングはなかったと言えばなかったのだが…
まぁ多分またどこかで会えそうな気はするけども。もしかしたら既にどこかで知り合ってたりするのかもしれない。もしくは知り合いの知り合いとか、友達の友達だったみたいなことがあるかもしれなかったりなかったり。
桜「あの、すいません」
蓮仁郎「?」
桜「先程はお世話になりました。私あの子の姉です」
蓮仁郎「あぁ、どうもどうも。わざわざこちらに来てくださったんですね。すいません」
桜「いえ、本当にお世話になりま…し…た」
蓮仁郎「え?なんですか?」
桜「キミ…田上蓮仁郎くんだよね?ユウの弟の」
蓮仁郎「え…」
桜「一度挨拶しただけだったからね…」
蓮仁郎「え…あ、あの時の」
桜「改めまして、各務原桜です」
どうやら、遭難少女は知り合いの知り合いだったらしいです…