緋弾のアリア 雀蜂の二十六刻印   作:ドレスデン

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序章
雀蜂の踊る夜


深夜――――

 

 町を彩るネオンの光が届かない空の上を一機のヘリが静か移動していた。

 

「そういえば、伽耶(かや)は武偵って知ってる?」

 

 高速で移動する機内で間の抜けた声が聞こえた。

 薄暗い空間の中に二人、その言葉は向かいに座っている人物に駆けられたものだ。

 

 閃光や破片から目を保護するためのシューティングゴーグルを付け、通信機と一体になったヘッドフォン型の装備を耳につけているのが二人。

 顔も全てを黒い布で覆われているが、声の高さからして話しかけたのは女であることがわかる。

 

「報道や書籍からある程度は調べているけど、何か特別なことでも知っているの?」

 

 武偵とは近年において世界的に広まりつつある職種『武装探偵』のことである。

 表向きとしては増加する犯罪に対して警察に準ずる組織・個人として対応するのが仕事だ。

 分かりやすく言えば、民間軍事会社の職員が国家の資格を取り逮捕権を持っていると言えばいいだろう。

 性質的にも武偵の仕事は民間軍事会社のそれに近い。

 金銭さえ要求を呑むものであれば動くらしい。

 

 だが裏の意見では全面的な国家間の争いがなくなり、武器の供給が消費を上回りつつある現代で新たに銃の需要を生もうとした国と産業の思惑が作り上げた枠だとも言われている。

 日本も最初は受け入れを拒否していたが、他国からの圧力でやむなく銃の流通を許し、武偵の制度を国家の中に取り入れた。

 

 それ自身、良い悪いはあった。

 だが、簡単に人を殺せる道具が流れることは新た問題もはらんでいた。

 

「私も知っていることは普通ですよ。ただ、上の方が武偵に目を向けているらしいのですよ」

「そう・・・・・・まあ、確かに良くは思わないはず。

 海外からの圧力で導入されたような制度だからね」

「ですよね、私たちの部隊と衝突する可能性もありますし」

 

 言葉の文体や声の抑揚からして二人はそこまで年をとっているようには聞こえない。

 

 伽耶と呼ばれた少女は話している最中でも今から使う銃の点検を行う手を止めない。

 主兵装である騎兵銃(カービン)の動作を確認した後は、右の太股にある拳銃を抜いて遊底の動きを確かめる。

 

「今回の任務は銃の密輸業者の纖滅でしたね。予想される敵数は20人前後でしたっけ?」

「ブリーフィングではそう聞いたわ。装備も拳銃かそれくらいのはず」

「まあ、土曜の夜は警戒が弱まるからですねぇ」

 

 もう一人の少女は溜め息をつくと窓から遠くの景色に視線を移した。

 半分に欠けた月には薄い雲がかかっており、その明かりを隠すほどの光が眼下の町から空を照らしいる。

 

「そろそろ時間かな?」

 

 一瞬時計に目を落とした伽耶が呟く。

 ヘリは目標地点の上空に着き、そこで滞空する。

 

 真下には海沿いに建てられた4階立ての小さなビルがあった。

 町外れにあるので、点々と見える明かりは道を照らす古い街灯の明かりとビル室内からの照明だ。

 そこが今日、彼女らの『狩場』になる。

 

 海外からの電子品輸入が表向きの業務として登録されているが、そんな品物は取り引きされていない。

 かわりに船の底には隠された古い銃が商品になっている。

 

『ヴェスパ3、4降下用意』

 

 無線越しに、ヘリの機長が告げる。

 それが、作戦開始の合図だった。

 

「了解」「了解です」

 

 二人の言葉使い、周りの空気が戦闘員のそれへと移っていく。

 機内の暗さをも取り込むほどの静かな闇が二人を包む。

 

「ヴェスパ3、降下開始」「ヴェスパ4、降下開始」

 

 その言葉を合図に、機体側部のハッチが開く。

 そして落下傘も綱も付けずに、まっすぐに飛び降りる。

 数十メートルの距離を落下し、目的の建物に接地する。

 着地の瞬間に体全体を曲げて衝撃を吸収するが、それでも屋上に亀裂が走った。

 

 普通の人間なら無事ではないはずだが、彼らは何事もなかったのように曲げた体を起こし、銃を構えて室内への入り口へと静かに近づいていく。

 

「こちらヴェウパ3、降下完了」

「ヴェウパ4も同じく降下完了です」

 

 屋上の頑丈な鉄の扉を素手でこじ開けると、明かりもなく暗い闇の中に階段が現れる。

 

「行動開始」

 

 伽耶の声を合図に二人は別々に移動していく。

 作戦前の説明で教えられた建物の間取りを頭に描きつつ、迅速にそし静寂に移動する。

 目の前のドアを開けると、黒スーツ姿の厳つい男が数人いた。

 

「誰や。どこの奴や!?」

 

 こちらを向いて叫んだ男の体が穴だらけになる。

 そのまま有無を言わさず横なぎに5.56mm の弾頭が吐き出されいく。

 数秒後には後ろの壁まで穴だらけにして男が全員倒れていた。

 

「掃討完了、次の地点へ移動します」

『ヴェスパ4より3へ、下の階を制圧してください』

「了解」

 

 応答し進行方向を変え、突き進んでいく。

 次々と弾倉を取り換えて、銃撃の手を緩めない。

 隠れている敵は壁ごと撃ち抜いていく。

 4階建ての建物の3階まで進むと、高級な椅子に座り大きく腹を膨らませた男を見つける。

 

「ま、まってくれ! 命だけは取らないでくれ!」

 

 薄くなった頭皮に大量の脂汗を浮かべ狼狽しているのは会社の代表であり、今回の作戦目標ーーーー射殺すべき対象だ。

 

「話せばわかる! 金も幾らでも用意する!!」

 

 先ほどまで聞こえていた銃撃の音も止んでから久しい。

 だが、誰もこの部屋に来ないということは、建物の中に居た人間は全員排除されたと考えていいだろう。

 男は自分を守る者が誰も居ないことを直感で分かっているので、どうにかして伽耶の銃口を下ろさせようと懇願する。

 

「俺はただ、銃を運んでいただけだ! 誰も殺しちゃいない!」

「けれど、銃は人を殺す道具。あなたが運んでいた銃も、そして私が今持っている銃も例外ではないはず」

 

 伽耶の言葉は丁寧だが、確かな殺意と憎しみが込められている。

 それは男の心を深く睨み、決して逃がそうとはしない。

 

「ひっ」

 

 目の前に迫る驚異から逃れるように後ずさりする男は遂に壁に背を付けて動きを止める。

 最後の悪あがきに部屋の電気スイッチを叩き、暗くなった部屋から逃げようとした男は、その場で固まった。

 

「頼む! 殺さないで! お願いだ!」

 

 何も見えないはずの暗闇の中で男はただ叫ぶだけだった。

 その最後の言葉をかき消すように銃声が響いた。

 

「こちらヴェスパ3、目標を制圧」

 

 倒れた男の血を足下に、伽耶は本部へと連絡をとる。

 

『ヴェスパ4からヴェスパ3及び本部へ、目標階層を掃討完了。ヴェスパ3と合流します』

 

 下の階にいるヴェスパ4からも作戦完遂の報告があり、伽耶も小さく息を吐いた。

 

『本部からヴェスパ3・4へ、作戦終了。撤収を許可する』

『了解』「了解」

 

 ヘリの回収地点である屋上へ向かおうと部屋の出口へと足を向けたときだった。

 突然何かの倒れる音がして、伽耶を驚かせる。

 

 素早く銃を音源へと向けるが、それから動きがない。

 部屋の明かりをつけると、傷だらけの少女が倒れていた。

 足を向けていた出口以外にもう一つ扉があった。

 どうやら少女はそこから出てきたらしい、倒れ方からしてもそう判断できる。

 

「まだ生きてるけれど……」

 

 首に手を当てると、まだ動脈に動きがあった。

 傷だらけではあるが、どれも死に至る傷ではない。

 治療すれば大丈夫なはずだ。

 

『本部からヴェスパ3へ、何かあったのか?』

 

 伽耶の声を機器が拾ったのか、異変を感じた本部から通信が入る。

 

「本部へ、手当ての必要な少女を一人発見。指示を」

『敵ではないのか?』

「恐らくは、体中に出血口がありますが命に別状は無さそうです」

『回収し撤退しろ』

 

 短い確認で通信は切れた。

 傷だらけの少女を左肩に担ぐと伽耶は今度こそ屋上へと向かっていく。

 既にヘリは屋上に到着していた。

 伽耶が乗り込むとすぐにヘリは飛び立ち、辺りは再び静寂に包まれる。

 

「終わったみたいですね・・・・・・ところで、その子は誰?」

 

 伽耶たちの乗り込んだヘリが『狩り場』を離れた後、すぐに処理担当の部隊が車で到着し、護衛とともに建物を占領し死体を全て持ち去り撤収。

 任務の終わりを告げる本部からの連絡を聞いて伽耶はようやく緊張の糸を解いた。

 誰か、と聞かれても知らないものは知らない。

 

「・・・・・・私も知らない」

 

 答えたいのは山々だったが、伽耶に答えられるのもそこまでだった。

 

ーーーー二時間後 本部ーーーー

 

 本部に帰った伽耶は直ぐに部隊の指揮官である中尉の部屋に呼ばれた。

 

「ヴェスパ3、お前には長期の任務についてもらう」

 

 部屋に入った伽耶に、何の前置きもなく部隊の指揮官が書類を渡す。

 白髪を交えた40代くらいの男、彼女の上司であり部隊の指揮官でもある。

 

「期間は年単位、もちろん中隊からも直接・間接的な支援はする。詳しいことはここに書いてあるから読め」

 

 手渡された書類に目を向けると、小火器使用の有無や作戦の期間など雑多なことが書かれていたが、その中でも特に目を引くものがあった。

 

『行動地:武偵校、及び武偵に関する施設

 対象:武偵校、または武偵に関する情報』

 

 情報を目的とする任務、いうなれば諜報活動だろう。

 書いてある対象から見るに、武偵校を調べろという内容らしい。

 

「持っていく銃は短機関銃、拳銃の二種類だ。

 どちらとも既に公の場でも所持できるよう許可証を用意してある。

 単独での行動だが、場合によっては人員の増援と突撃銃や狙撃銃などの使用も考える。

 用意してほしい銃は、次の用紙に記入しろ」

 

 言われて紙をめくり、二枚目の紙面を表にするとそこには枠で囲まれたいくつかの欄があった。

 短機関銃に分類された欄には既にMPXの文字が書かれていた。

 

「中尉、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「構わん」

 

 書類に目を通し姿勢を正してから、目の前で机に座る中尉に一番の疑問を聞く。

 

「なぜ、自分が選ばれたのでしょうか?

 そして、自分が実行する目的です。我が中隊には諜報専門の部隊があるはずです。私の設計思想は戦闘です、諜報任務は出来ないとは言いませんが、専門の訓練を受けているとは言えません不適切だと考えます」

 

 本来なら命令された事項への理由は聞いてはいけない。

 だが、あまりにも自分には合わない任務なので、彼女は聞かないでいられなかった。

 

「選んだ理由は、お前の年齢と、もしも戦闘が起きたときの備えだ。

 勿論、諜報部隊は動かしている。だが、内側からのみ集められる、武偵校を中から見た情報が欲しいからお前を直接潜入させる」

 

 答えは納得しきれるものではないが、反論できるものでもなかった。

 そもそも答えて貰えたこと自体が珍しい、何も聞かされないことの方が遙かに多いからだ。

 これ以上質問することも、まして反論することは得策ではない。あとは任務を全うするのみ、それが彼女に残された選択だ。

 

「質問は以上か?」

 

 椅子に座る指揮官は他に取り出した書類にサインをして、目線を伽耶に向けてた。

 

「はい、これ以上の質問はありません」

「よろしい。準備にかかれ」

「了解。それでは、失礼します」

 

 渡された書類を小脇に抱え、きびすを返して部屋を退出しようと扉まで歩いていく。

 ちょうど扉のノブに手を掛けたときだった、不意に中尉に呼び止められる。

 

「ああそうだ、言い忘れていたが・・・・・・学ぶ事があるかもしれんな、お前には」

「はい?」

 

 かけられた言葉の意味が理解できず、つい伽耶は聞き返してしまった。

 

「学校で、だ。お前には初めてだからな」

「初めてですが・・・・・・学ぶ何かがあるのですか?」

「いずれ分かる」

 

 その、最後の言葉だけはどうしても理解できなかった。




どうも、ドレスデンです。

『にじファン』時代からお読みいただいている方々には申し訳ありません、少し主要キャラクターと使用火器を変更いたしました。
話の流れは大きくは変わりませんが、前のままでいて欲しいと思われる方もいらっしゃると思いますのでこの場にて謝罪させていただきます。

あと、この作品は少々知名度の低い銃が出てくる場合がございす。
銃火器の説明を入れる場合がありますが載せない場合が殆どですので、感想にお書きいただければ、私個人の乏しい知識で返答いたします。
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